2016年7月30日

長野県・信濃町「アファンの森」取材ロケ第1弾!
〜C.W.ニコルさんと、頼もしい仲間たち〜
ついに始動した“アファン・ホースプロジェクト”の全貌に迫る!

 今週から2週にわたって、長野県・信濃町にある“アファンの森”の取材ロケの模様をお送りします。ご登場いただくのは作家C.W.ニコルさんと頼もしい仲間たち。
 ニコルさんは、荒れた里山に手を入れ、森の再生活動を約30年にわたって続けてらっしゃいます。2002年には“C.W.ニコル・アファンの森財団”を設立し、その活動は森作りのみならず、子供たちの自然体験、復興支援へと発展していきました。

 そんなニコルさんが今一番力をいれてらっしゃるのが、“アファン・ホースプロジェクト”。“馬”を活用した素晴らしいプロジェクトなんです。その拠点となる“ホースロッジ”がついに完成し、新しい仲間“雪丸”と“茶々丸”の2頭の馬のお披露目も含めたイベントが先日、開催されました。
 今回はニコルさんに、このプロジェクトへの熱い想いをうかがうほか、ホースプロジェクト・マネージャーの今井修之さん、アドバイザーの八丸健さんに馬と人のコミュニケーションについてもお話をうかがいます。

馬は人のパートナー

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※まずはC.W.ニコルさんにお話をうかがいます。

●C.W.ニコル・アファンの森財団の理事長で、作家のC.W.ニコルさんです。お久しぶりです。

ニコルさん「お久しぶりです」

●ニコルさんの長年の夢だったホースロッジがついに完成しましたね! 今の気持ちはどうですか?

ニコルさん「“これから大変だな”という気持ちです」

●ニコルさんがこの“アファン・ホースプロジェクト”を始めようと思ったキッカケを改めて教えていただけますか?

ニコルさん「僕は英国のウェールズで生まれたんですね。僕の子供のころには景色の中に、文化の中に馬がありましたね。乗馬だけじゃなく、馬車など、色々な仕事をしていましたね。なので、子供のころには馬の世話もやってました。その後、エチオピアの山の中に国立公園を作りましたが、そこには車が入らないので、馬、ラバ、ときどきロバを使っていました。昭和37年に日本に来たとき、東京にはもう馬はいませんでした。でも、田舎にはどこにでもいましたよ。それが何度も日本に来ているうちに、馬が消えてしまったんですね。
 英国で例えば、1980年頃に馬搬(ばはん)=ホースロギング、馬の力で森から丸太を出す、人間の専門家が20人いたんですね。今、英国には(馬搬の会社が)70社あります。英国では、ビクトリア時代よりも馬の数が増えました。その様子を見ていると懐かしいな〜と。特にダグ・ジョイナーという英国のホールロギング協会の会長さんが馬を田舎の文化と景色の中に返して、人とのパートナーシップを一生懸命推進していました。そこの馬搬協会のパトロンはチャールズ皇太子です」

●“馬は癒しの動物”と言われていますよね。

ニコルさん「そうですよ。人間との古いパートナーは犬で、その次は猫で、そして馬です。私たちの遺伝子の中にも犬・猫・馬はパートナーとして必要としています。それを戻そうとしています。何百年も馬との歴史があります。侍が乗った馬は日本の馬でしたよね。サラブレッドじゃないですね。海から塩を持って厳しい山を越えて塩のない村に塩を運んだのは馬ですね。色々なものを馬が運んでくれていたし、田んぼの仕事も馬でしたね。これはたった50年前までよ。それを戻したら、もっと心が豊かになって、心優しい日本、見たいですね」


アファンの森の中にあるサウンドシェルターでニコルさんと記念写真。

懐かしくて新しい未来

※アファンの森のすぐそばに、このプロジェクトの拠点であり、“雪丸”と”茶々丸”の2頭の馬が暮らすホースロッジがあります。馬小屋とは全く違う、ウッディーでオシャレな建物。一見するとコテージやカフェのようなたたずまいなんです。そんな素敵なホースロッジですが、モデルにした建物などはあるんでしょうか? ロッジのリヴィング・ルームで、ホースプロジェクト・マネージャーの今井修之さんにうかがいました。

今井さん「早稲田大学の古谷誠章先生に設計していただきました。岩手県遠野市に馬と暮らしていた文化を継承している方々がいて、馬と一緒に暮らすためにL字型の建物に住んでいるんですが、その建物を“曲り屋”というんですね。それが元になっていて、“現代風曲り屋”といった造りになっています」

●今後このホースロッジを中心に、色々なプログラムを考えているとのことですが、どんなプログラムがあるんですか?

今井さん「まだまだスタートしたばかりで構想段階ですが、アファンの森でもこれまで展開してきた、馬と関わることで健康的な生活を送っていくという“ホースセラピー”や、観光面として、新しいホースツーリズムを作っていく気持ちがあります。
 特にニコルの中には“マウンテン・サファリ”と仮で呼んでいるんですが、山の中にバックパックを背負っていくということを日本人でも数多くやってきていますが、ニコルが今、膝を悪くしているので、馬に手伝ってもらって山を登っていって、環境のいい住環境を山の中に作って過ごして、色々なことを感じて帰ってくるという旅をやっていきたいと思っています。それは、彼がエチオピアで国立公園を初めて作った体験だったりと色々な彼の体験がある中で、恐らく日本や世界で形として実現していないということなので、試験的に色々なことを始めていくつもりでいるみたいです。
 このロッジはただの馬小屋ではなく、働く馬として田畑を耕したり、間伐した木を馬で引き出したりすることを安定させてから、先ほど話したことを構築していこうと描いています」

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●今井さんは実際に馬たちと暮らしていますよね?

今井さん「そうですね。実は、馬の経験がほぼゼロでこのプロジェクトをスタートしているんです。馬と暮らすというのは初めての経験なのですが、時間が経てば経つほど馴染んでいく感じがしています」

●このホースロッジが拠点となって、色々な展開がどんどんとされていくんですね?

今井さん「私もこの馬に触れてから初めて知ったことなんですが、馬に興味がある方は世界各国にいて、ヨーロッパだとドイツやフランス、アメリカだと北米、アジアだとモンゴルなどたくさん興味がある方がいるんですね。日本において在来馬で色々な活動に触れられるという場所はまだまだ少ないので、ニコルがいるというのも大いにあると思いますが、ここが世界中から注目されるような場所になっていくんじゃないかと思っています。その余波をニコルは既に感じているようですので、それに合わせてここも運営できるように状況を早く整えていかないといけないと思っています」

●最後に、今井さんはこのホースロッジをどういう風にしていきたいのか、馬たちとどんな風に過ごしていきたいのか教えてください。

今井さん「これはニコルの夢でもありますが、まずは“働く馬のいる美しい風景を取り戻していきたい”と思っています。私もそれに共感していますし、もう一方で“ライフスタイルの提案”ということも言っています。馬房が5つあって、今2頭いますので、3馬房空いています。これから馬と一緒に学びあったり、関わっていきたいという方を募って、馬を通じて懐かしくて新しい未来を提供できたらいいなと思っています」


アファン・ホースプロジェクトのマネージャー、今井修之さんと。

働く馬のデモンストレーション!

※ホースロッジと馬たちのお披露目イベントでは、雪丸と茶々丸に荷物を背負わせて、障害物の間を歩いたり、丸太を運ぶなど、働く馬のデモンストレーションが行なわれました。解説は、馬のアドバイザーで、岩手県盛岡市にある八丸牧場の代表、八丸健さんです。

八丸さん「この黄金色の馬が“雪丸”といいます。“センバ”といって、虚勢されたオスの馬で7歳です。向こう側にいる茶色い馬が“茶々丸”という、同じくセンバの7歳となります。この2頭をニコルさんはどういう風に仲間に入れようとしているかというと、日本の森の素晴らしさを馬の力を借りて紹介していきたいというところです。森の中にある素晴らしい宿営地に案内して、そこでキャンプをして、色々なお話をしてもらうために、より快適で安全を求めるために、馬たちに荷物を運んでもらいます。そのデモンストレーションをこれから行ないます。
 それから帰ってきたら、馬搬という丸太を森の中から搬出する仕事をこの子たちにトレーニングさせてできるようになっています。そして、向こうに置いてあるカートを付けて馬車として働いてもらうこともできますし、将来的に彼らがもっと力が付いてくると、畑も耕すこともできるようになります。
 また、これは物理的なことになってしまいますが、人の心のケアも馬がいるだけでできるようになるんですね。馬はマルチな力を持っていて、パートナーとなる動物なんですね。普段、放牧場で見ると、のほほんとしているので癒しをくれますが、働いている姿を見ると、見方が変わると思いますよ」

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“働く馬”と“癒しの馬”のネットワーク

※アドバイザーの八丸健さんは、なぜこのプロジェクトに参加することになったのでしょうか?

八丸さん「僕としては自然な成り行きかなと思っていて、お話をお受けしました。というのも、5年ぐらい前に初めてアファンの森にワーキング・ホースを連れてきて、馬搬のデモンストレーションをやったとき、ニコルさん自身が働く馬と育ってきた英国での幼少期があったのと、ニコルさんの人生の節目に馬と仕事をしているということをうかがっていたので、“ニコルさんはまた馬に引き寄せられるんだろうな”と感じていたので、この流れは自然だなと感じました」

●私たちも定期的にニコルさんにお話をうかがっているんですが、馬にどんどんハマっていく様子が感じられたんですね。それだけ、馬との暮らしが魅力的なんですね。

八丸さん「“馬との生活”ということが、今の日本では競馬や乗馬といったようなことに限られているように感じていたんです。僕が馬との関わりによって得たものというのは、日常の成果というところではなくて、それにたどり着くまでの過程を馬に教えてもらうことが多かったですね」

●どんなことを教えられたんですか?

八丸さん「たくさんあるんですが、馬が原っぱで草を食べていたりしますが、その姿を見るだけでも和んだり癒されますね。それ以外でも、私がニコルさんたちとのご縁をいただいたように、人と人とを繋げる力があるんですね。違うもの同士が繋がることによって、新しい関わり方や物事の取り組み方が発想できて、実践できるので、たくさんの気づきをいただけますね」


雪丸に挨拶をしようとしている長澤。

※馬と長年接している八丸さんに、“かわいい”からさらに一歩先にいく馬との関わりについてお話いただきました。

八丸さん「“かわいい”という馬との関わりの入り口があって、そこから人々の関心を引き寄せて、実際にどうやって一緒に活動していくのかを考えながら一緒に働いていると、だんだんと“ありがとう”という気持ちが出てくるんですね。そういった“かわいいを超えたプロセス” を共有できればいいなと思って活動しています」

●どういう風に活動すれば、そういう気持ちになれるぐらい密な関係になれますか?

八丸さん「例えば、森の中にニコルさんが知っているステキな場所があって、そこに到着したら豊かな時間を過ごしたいといった、一緒の目標となる事柄を決めたとして、荷物を運んでもらうときに、一人で行くよりは馬と一緒に歩いた方がいいときがあったりするんですよね。そういうときに馬と一緒に歩いていくと、馬は草食動物で人は肉食動物と相反する生き物なんですよね。その相反する生き物が一緒に活動するということは、相手がどのような感じ方をしているのかを感じ取る力が必要になってくるんですね。馬たちが気にしていることを感じてあげて上手に慣らさせてあげる関わり方が大事になってきて、それをやっていくうちに、馬たちが主体的に力を発揮してくれるようになってきて、我々ができないことをしてくれるようになってくるんですね。そうなると“あれは無理だな”と思っていたことができるようになるんですね。そうなると感動をいただくことになって“ありがとう”っていう気持ちが芽生えると思います」

●馬が主体的に動いてくれるようになるんですね。

八丸さん「関わり方に間違いがなければそうなります。もし間違っていたとしても、馬からのフィードバックとして受け取って、私たちの態度を改めて再出発すれば、馬は“許しの生き物”なので、許して再スタートさせてくれる生き物なので、馬は私たちを成長させてくれる究極のパートナーになると思います」

●馬の感情はどのようにすれば分かりますか?

八丸さん「体全体を見てください。目や耳の動きはもちろん、頭の高さ、足や尻尾の動き、筋肉の緊張具合いなど、あらゆる側面を照らし合わせて、今ゆったりしているのか、恐がっているのかを感じ取ることによって、馬からの信頼を勝ち取ることができるんですね。そういう風にやっていけばいいかと思います」

●例えば、嬉しいときはどんな感じになるんですか?

八丸さん「嬉しかったり心地よかったりすると、鼻の下を伸ばすんですね。馬の場合は上唇なんですが、それがもっと気持ちよくなると、上と下の歯をカツカツ鳴らします」

●鼻の下を伸ばすのって、人間らしいですね(笑)。

八丸さん「そうですね(笑)。僕はその表現は、馬からきたんじゃないかと思っています。他にもありますよ。“道草を食う”っていう言葉があると思いますが、これも馬の世界からきていると思います」

●そう考えると、馬と人は密接ですね!


(左から)雪丸、長澤、八丸健さん、茶々丸。みんなカメラ目線!?

※最後に、C.W.ニコルさんに、“ホースプロジェクト”の今後の夢を語っていただきました。

ニコルさん「この黒姫に、馬の文化が復活して、36年前に地元の猟師と一緒に歩いたあの道をまた歩けるようになって、馬が荷物を背負って、人間が歩いて楽しいピクニックやキャンプができるようになればいいなと思っています。それから、“働く馬”と“癒しの馬”のネットワークが日本の中に戻ってきてほしいですね」

YUKI'S MONOLOGUE 〜ゆきちゃんのひと言〜

 “もしみなさんの住む街に馬がいたら?”ちょっと想像してみて下さい。なんだかワクワクしませんか? 馬にはそんな不思議な力があることを今回再認識しました。ニコルさんがおっしゃっていた“馬がいる風景”。これからもっと増えていくといいですね。


長澤が撮った雪丸。自信作だそうです。

INFORMATION

『C.W.ニコル・アファンの森財団』

 現在ニコルさんが進めている“アファン・ホースプロジェクト”のことなど、詳しくは“C.W.ニコル・アファンの森財団”のオフィシャル・サイトをご覧ください。

『八丸牧場』

 馬のアドバイザー・八丸さんの活動については、八丸さんが代表を務める“八丸牧場”のサイトを見てください。

今週のオンエア・ソング

オープニング・テーマ曲
「GRACIAS / LARRY CARLTON」

M1. WILD HORSES / GARTH BROOKS

M2. YOU'VE GOT A FRIEND IN ME / RANDY NEWMAN

M3. HELLO, YOU BEAUTIFUL THING / JASON MRAZ

M4. SALLY MACLENNANE / THE POGUES

M5. A HORSE WITH NO NAME / AMERICA

M6. ホースロギングのうた / D.W.ニコルズ

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」