2016年9月3日

アフリカ南部の多様な自然〜野生動物の輝く命

 今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、山形豪さんです。

 アフリカで育った写真家・山形豪さんは、南アフリカやナミビア、ボツワナの、アフリカ南部の自然に魅せられ、長年、撮影活動を続けてらっしゃいます。そんな山形さんが先日、『FROM THE LAND OF GOOD HOPE〜喜望の地より〜』という写真集を出されました。今回は、アフリカ南部の自然や野生動物のお話をうかがいます。

日本にいることが嫌だった!?

●今回のゲストは、写真家の山形豪さんです。よろしくお願いします。

「よろしくお願いします」

●山形さんは先日、アフリカ南部で撮った野生動物や大自然の写真集『FROM THE LAND OF GOOD HOPE〜喜望の地より〜』を出されました。この写真集は、今までのアフリカの概念が変わってしまうような写真集ですよね。

「そう言っていただけるとすごく嬉しいです! 日本で“アフリカの自然・動物”と聞くと、どうしても東アフリカの草原サバンナを連想される人が多いので、“アフリカって、そんなに小さいところじゃないよ”っていう意味も込めて、アフリカ南部の自然にこだわって撮影しました」

●「アフリカに色々な種類の生き物がこんなにたくさんいるんだ!」と思ってビックリしましたし、自然も豊かですよね!

「南部の風景だけ見ても、砂漠から湿地帯、標高の高い山、波の荒い海など色々な風景があるんですが、それぞれの環境に適応した動物が暮らしているんですね」

●広いから、色々な場所があるんですね。

「そうですね。アフリカ大陸全体の面積は、日本の約80倍あるといわれていますので、一括りに言ってしまうのはどうかなって思いますね」

●今回はその中から南アフリカ、ナミビア、ボツワナの三ヶ国を選んで撮影をされたんですね。

「この16年間、この3ヶ国にこだわって撮影を続けてきました。毎年2〜3ヶ月ぐらい滞在しています」

●なぜそこにこだわったんですか?

「理由は色々あるんですが、自然写真を撮るようになったのは、父親の仕事の関係で、小学5年から中学3年まで西アフリカで生活していたんです。住んでいたところが自然の豊かな地域で、庭には色々な鳥が来たり、近くの川には面白い魚がたくさんいたりして、自然に囲まれて過ごしていました。高校のときに日本に帰ってきて、3年間東京で過ごしたんですが、アフリカと東京では暮らしがあまりにも違いすぎて、日本の生活に馴染めなかったんです。
 高校3年になると、どうしても大学受験の話になるんですが、それどころか勉強もろくにしなかったですし、日本にいることが嫌で仕方なかったんですね。高校を卒業する間際に父親が東アフリカにあるタンザニアに赴任することが決まったんです。それが決まった1993年当時、『野生の王国』や『わくわく動物ランド』という番組があって、それを毎週のように見ていて、まさに草原をチーターがガゼルを追いかけて駆け抜けるというシーン、その場所がタンザニアだったんです。“これは一緒に行くしかない!”と思って、父親に付いていって、そこで動物の写真を撮り始めたんです」

満天の星空、幸せをかみ締める

※南アフリカといえば、2010年のFIFAワールドカップが思い出されます。あのとき、「意外と都会だな」と思った方もいるかと思いますが、自然と都会はどのように共存しているのでしょうか?

「都会を出た瞬間にライオンやゾウがいるかと言われるとさすがにそこまではいきませんが、南アフリカの人たちはそれを理解した上で国立公園などを保護区として法律で守りつつ、観光開発をして収入を得るという形をかなり前に作ったんですね。クルーガー国立公園は設立されて100年を超えている歴史のある場所なんですが、そのぐらい自然保護に対する意識が国として高いんですね。同時に、野生動物を見たり写真を撮ったりして楽しむという“サファリ”という文化も完成しているんですよ」

●だから、人間と野生動物がいい形で共存できているんですね。

「そこまで言ってしまうと少し違うと思いますが、そのように“区切る”ことで、自然の生態系を保護することにある程度成功しているといえますね」

●実際の撮影活動はどのように行なっているんですか?

「色々なスタイルがありますが、基本的なものは、私の場合は一人で車を借りて、テント暮らしをしながら動物や風景を撮っています」

●そこではどんな風に過ごしているんですか?

「日の出前に起きて、地平線に太陽が姿を現した瞬間の真横からくる光が一番ダイナミックなので、そういった瞬間に撮る被写体を見つけておきたいんですよ。なので、日の出30分前ぐらいから活動を始めて、日の出前ぐらいから撮影を開始するんですが、アフリカの南部で雲の少ないエリアは太陽が昇るにしたがって、光が強くなっていくんですよ。そうすると、仮に日の出が朝6時だとしたら、朝8時ぐらいになると日が強すぎて写真にならないんですよね。動物たちも暑くなると木陰に入ってしまうので、木陰で涼んでゴロゴロしている動物しか撮れなくなるんですね。  
 そのときは僕もキャンプに戻って、彼らと同じようにごろ寝したり、本を読んだり、ご飯を作ったりして、のんびり過ごします。午後3時ぐらいを過ぎると、陽が沈みだして、動物が活発になってきます。そして光は“午後の光”になります。その光は午前の光に比べて、色が赤みが増していく感じになって、その光もまたいいんですよ。日没まで撮影をして、夕飯を作って酒を飲んでいると、頭上の空は満点の星空になっているんですよ。それを眺めながら遠くで鳴いているライオンの声を聞きながら、“今日も幸せだったなぁ”ってかみ締めるんですね」

●それを想像しただけで、最高ですね!

動物に会いたいなら、学ぶ!?

※動物たちに出会うために、山形さんはどんなことをしているのでしょうか?

「動物園とは違うので、行けば見られるという保証はありませんし、行ったときの気候によって、動物の移動パターンや個体数も変動するので、実は見つけること自体が大変なんです」

●見つけるコツは何ですか?

「生態を理解しておくというのは大前提なので、動物行動学の教科書は買い漁って、昔から読んでますね。例えば、ライオンであれば、ライオンの群れのことを“プライド”というんですが、そのプライドは特定の縄張りを持っているんですね。ライオンの群れはメスが主導権を持っています。オスはメスに認められたときのみ、群れに加わることができるわけです。群れに加わっていないオスは“放浪オス”といわれていて、縄張りを持たないで色々なところをウロウロしながら、自分が乗っ取れそうな群れを探すんですね。
 一頭だけオスがウロウロしていたら、大体が放浪オスなので、その個体に出会えたからといって、そこは彼の縄張りではないので、次の日にはその辺りにはライオンが全くいない可能性があるんですね。ところが、縄張りに属してるライオンは縄張りを守らないといけないので、そのエリアから動くことはないんですよね。そうすると、オスやメスが何頭かいたとなれば、次の日に行っても同じメンバーに会える確率が高いわけですよ。
 そして、どうやって見つけるかというと、自然界には色々なサインがあるんですよ。ライオンであれば、“自分の縄張りはここだ!”“自分はここにいるぞ!”ということで吠えたりするんですね。その声は何の声なのかを理解したり、地面に付いた足あとを読み取ったりと、色々なサインを読み取る必要がありますね。また、臭いもそうで、アフリカゾウは藪の濃いところでも、風上にゾウがいて、風下に自分がいたら、臭いで分かるんですよね」

●五感を張り巡らせている感じなんですね!

「そうですね。アフリカのフィールドに戻ると、鼻が敏感になったり、聴覚が戻ってきたりと、自分の感覚が戻る感じがするんですね。視力も結構戻ってくるんですよね。僕は右目が割と近視気味なんですが、それが戻ってくるんですよ。人間はこういうものなんだなというのが、フィールドに出ると分かりますね」

●私たちも現地に行って、ある程度の時間を過ごせば、戻ってくるんですか?

「そういうことはありますよ。僕はサファリツアーの撮影ガイドとしても活動していますので、日本からお客さんと一緒に行くこともあるんですが、その人たちの中にはキャンピングツアーに行っている人たちもいるので、そういう人たちといると、数日経つと“感覚が戻ってきた!”っていう人がいるんですよ」

●割と皆さん実感しているんですね!

全身全霊で生きる

●今回の写真集ですが、動物たちが狩りをしているところや子育てをしているところなど、“動物たちの生き様”を感じられるシーンがたくさんありますね。中でも、ネズミが子供にお乳を与えながら立ち上がっている写真が気になりました。

「あれは極めて珍しい場面なんです。このネズミはカラハリ砂漠などに生息している、穴を掘って暮らすネズミの一種なんですが、車が近づくと、その振動で驚いて、穴の中に逃げ込んでしまうぐらい臆病な生き物なので、こんな風に表に出てくることがないんですよ。この写真は、子供2匹にお乳をあげながら、自分も葉っぱを食べているんです。16年間、かなりの頻度でカラハリ砂漠に通ってきましたが、こんな場面は初めて見ました。これを見ると“子育ても楽じゃないな”って思いますね(笑)」

●(笑)。すごくかわいい1枚なので、皆さんに是非チェックしていただきたいです。ライオンやゾウといった大きい生き物だけじゃなく、小さい生き物もアフリカで一生懸命生きているんですね!

「全ての生き物が“生きる”ためだけに全身全霊を傾けているんですよ。それが、あの世界にいると分かるんですよね。ただ単にそこにライオンやゾウがいるっていうだけじゃなく、“生きること”がどういうことなのかを考えさせられるんですね。突き詰めてみれば、“生きること”って、実に単純明快なんですよ。要は自分の生命を維持するためにいかに必要な栄養を取り込んで、エサを見つけて水を飲んで、同時にいかに捕食者に捕らえられないようにするかということにすごいエネルギーを注ぐし、捕食者も獲物を捕らえることに必死なんですよ。“生きるか死ぬか”というギリギリのところで闘っていて、その中で輝きながら生きているんですよね。そういうところが、あそこにいると見えてきますね。もし、それがこの写真から伝わっていたら、嬉しいです」

●最後に、アフリカ南部で撮影活動を始めて16年になりますが、その間に環境の変化を感じることってありますか?

「地球温暖化が原因となる気候変動は、地球上に大きな影響を与えていることは疑いようのないことですね。南アフリカやナミビアは元々水が少ない国なので、干ばつの頻度がどんどん上がっているんですよね。去年も南アフリカの一部では非常事態宣言が出されるぐらいだったんです。一方で、少し東の方に行けばモザンビークという国がありますが、過去に例がないぐらいの頻度で大洪水が起きているわけですよ。これは人や動物だけじゃなく、ありとあらゆる場所にものすごい影響を与えてますね。人間も動物も四季や雨季といった、季節の緩やかな変化に適応して長年生きてきましたよね。その流れが変わってしまうと、“どうやって生きていけばいいのか?”ということになりますよね。実際に、大量絶滅ということが起きていて、それが加速しているわけですが、その速度は増していく気がしてなりませんね」

●そうなると、私たちにできることってなんですか?

「まずは“意識”ですよね。資源のリサイクルだったり、燃費の悪い車をハイブリッド車や電気自動車に変えていったりすることが大事だと思います。“自分だけ変えても仕方ないよね”と思ってしまうと、みんなそう思ってしまったら破滅の道を突き進むことになってしまうので、やっぱりそうなってほしくないですよね」

YUKI'S MONOLOGUE 〜ゆきちゃんのひと言〜

「“生きることってどんなことなのか”。それをアフリカの動物達に教えられた」とおっしゃっていた山形さん。私も今回山形さんの写真を拝見して、シンプルに生きることの大切さを改めて教えられた気がします。ただひたむきに生きるアフリカの動物たちの“美しさ”。皆さんもぜひ山形さんの写真集でご覧下さい。

INFORMATION

『FROM THE LAND OF GOOD HOPE〜喜望の地より〜』

写真集『FROM THE LAND OF GOOD HOPE〜喜望の地より〜

 風景写真出版/定価3,500円

 山形さんの写真集をぜひ見てください。弱肉強食の世界は当然ありますが、アフリカ南部の多様性に富んだ自然に驚くと思います。きっとあなたのアフリカのイメージが変わると思います。

◎詳しい情報:風景写真出版のホームページ

 そしてこの写真集の発売を記念したトークイベントがあります。開催は9月10日(土)の午後3時から。会場は下北沢の本屋B&Bです。

◎詳しい情報:本屋B&Bのホームページ

『ライオンはとてつもなく不味い』

 また山形さんは『ライオンはとてつもなく不味い』という新書を集英社から出しています。こちらもぜひ読んでください。

◎詳しい情報:集英社のホームページ

 山形さんと行くアフリカ撮影ツアーもあります。詳しくは道祖神のホームページをご覧ください。

 その他、山形さんの情報は、オフィシャルサイトをご覧ください。

今週のオンエア・ソング

オープニング・テーマ曲
「GRACIAS / LARRY CARLTON」

M1. AFRICA / TOTO

M2. WAKA WAKA(THIS TIME FOR AFRICA)/ SHAKIRA feat.FRESHLYGROUND

M3. THE LION SLEEPS TONIGHT / THE TOKENS

M4. ANIMALS / MAROON 5

M5. RETURN TO INNOCENCE / ENIGMA

M6. CIRCLE OF LIFE / CARMEN TWILLIE

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」