2016年11月12日

猫と暮らす 〜命を見つめて〜

 今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、野澤延行さんです。

 獣医師の野澤延行さんは、東京の西日暮里で「動物・野澤クリニック」を営む傍ら、地元・谷中周辺の野良猫を増やさないための活動もされています。12年前にもこの番組に出ていただいていますが、その後は活動の幅が広がり、小笠原でも野猫の保護活動を行なってらっしゃるということで、再びこの番組にお迎えすることになりました。今回はそんな野澤さんに、保護活動のことや猫と暮らす知恵などうかがいます。

始まりは谷中の猫たち

※東京の西日暮里で「動物・野澤クリニック」を営む傍ら、地元・谷中周辺の野良猫を増やさないための活動もされている野澤さんですが、どうしてその活動をするようになったのでしょうか?

「僕が学生のころから、近所で野猫にエサをあげることでトラブルが起きていたんですね。それまではそれでトラブルが起きるなんてことはあり得なかったんです。そのときはその場所だけかなと思っていたんですが、働き始めるようになってからも、その界隈でそういうことがあって、“これは僕が解決していかないといけないな”と思ったのが始まりです。僕が子供のころは、そういうトラブルはあまりなかったと思うんですね。どうしてかというと、外にいる猫が増えてきたんだと思います。そういったことで、色々な弊害が生まれてきたんだと思います」

●増やさないための活動は、具体的にはどういう風にされてきたんですか?

「色々と試行錯誤をしてきました。もちろん、避妊手術はしてきました。当時は日本で野良猫に手術をする人がいなかったので、やらないといけないとはずっと思っていたんですが、アメリカの例を見ると、アメリカはそういう治療や保護をしてくれる団体や先生もいたんですね。それなら自分でやってみようと思ったんです。どこかの自治体からお金を出してもらえばよかったんですが、そんなの出るわけがないと思って、自分で開業してからやり始めました。最初は近所の谷中霊園だけに絞って、まずはここの猫の治療と避妊手術だけでもと思って始めました。
 その後、20年ぐらい前に横浜の磯子区に“地域猫”という言葉ができましたが、近所のみんなで野良猫を見るという活動が始まって、今では全国的にそういう動きができているんです。当時は“野良猫の寿命は5〜6年だから、その間だけ保護すれば解決するだろう”と思っていて、今や20年かかっているわけですよ。僕の近所だけでも30年以上経っていますが、まだ解決されていないんですよ。それどころか、増えていっているんじゃないかと思います。これは、日本人の生活が豊かになってきているのと同じじゃないかと思います。

 後で改めて話しますが、20年以上前までは100万頭近くが殺処分されていました。今ではかなり減って10万頭を切りました。こういう風に変わってきてはいて、保護施設から引き取られる猫も2万頭近くいて、やがてこれが交差するときがくると思います。そうなると、画期的なことだと思います。その現象をさらに進めるには、避妊手術だけじゃなく、各自の“一生面倒を見たい”という、飼い主の気持ちの持ち方が変わらないといけないと思います。それをすることで、殺処分がゼロに近くなるんじゃないかと思いますね」

どうして小笠原で猫が増えたの?

※野澤さんは、小笠原の野猫の保護活動も行なっていますが、どうして小笠原で保護活動をすることになったのでしょうか?

「小笠原は世界遺産にも登録されている国立公園ですが、そこには猫の天敵がいないので、食物連鎖の頂点に立っちゃっているので、絶滅危惧種のアカガシラカラスバトやハハジマメグロなどの貴重な動物を捕食しているんですよね。このままだとそれらが絶滅してしまうので、それを防ぐために環境省と東京都と獣医師会が協力して、避妊手術をするために、島から猫を全て持ち出すことにしました。島から持ち出して、都内の病院で手術をしてから里親をもらうということをして、うちでも5、6頭受け入れています。2008年から始めて今日現在、トータルで656頭になりました。最初は父島だけだったんですが、4年ほど前から母島も始めました。
 最初は100〜200頭ぐらいだろうといわれていたんですが、先ほども言いましたが、今では656頭です。なぜこうなっているのかというと、姿も見えない“捕まらない猫”がいるんですね。これがカウントされないから、いつの間にか猫が増えているんですよ。基本的にいえることは、1人1人が命に対してもっと重く見ていかないと、解決に近づいていかないんじゃないかと思うんですね」

●そもそも、どうして小笠原に猫がそんなに増えたんですか?

「江戸時代、捕鯨をするために、アメリカが給水基地を作っていたんですね。アメリカの人たちは猫を連れてきたので、そのときに逃げて、そのままいるんじゃないかと思います。あるいは、そこで生まれてしまって、置いていったのかもしれません。そのころの日本には、猫がそんなにいなかったみたいなんですね。
 猫の食べ物はどうしていたのかというと、ハハジマメグロやアカガシラカラスバトなどが簡単に捕まってしまうので、それらを食べていたんですね。アカガシラカラスバトは地上に巣を作りますし、ハハジマメグロは目の前に猫がいてものん気なんです。鳥は天敵がいないとのん気になってしまうんですね。それが野猫が増えた要因だと思います。
 不思議なことに、黒猫もいるんです。普通はそれほど多くないんですが、小笠原の猫の3分の1が黒猫なんです。次が白黒の猫です。不思議なことなんですが、考えてみれば、(捕鯨船に乗せられて)島の外から来たので、そうなったんだと思います。猫は生命力と身体能力が高いと思いますね。ダックスフントみたいな犬は、ジャングルとかでは生きていけないと思いますよ」

●それに、猫は順応性が高くて、どんな環境でも生きていけるんでしょうね。

「そうはいいながら、アカガシラカラスバトが当時40羽ぐらいまで減ってしまったのが、今では200羽ぐらいまで回復しましたし、アホウドリもヒナを孵すようになりました。なので、その運動の効果はあったといわれています」

ネコハトキメク!?

※野澤さん曰く「猫は、赤ちゃんと同じように言語にはなっていないが、喃語(なんご)という形でコミュニケーションをとっている」そうです。このパートはそんな猫の生態について。

●猫って、よく「ゴロゴロ」っていうじゃないですか。あれはどういった心境なんですか?

「まず、あれは意識してやっています。気持ちをある程度落ち着かせたいときや、逆に高揚させたいとき、気持ちがいいときなど、人間では考えにくい特殊な機能なんです。これはネコ科ならするみたいなので、ライオンもするらしいです」

●そうなんですね! あと気になるのは、たまに窓の外をじっと見ていることがありますよね。

「あれは高齢になっても見ているんですよね。僕は“自分の縄張りを見ている”と思っています。子猫のときは“そこは自分の縄張りだから、見張っている”ということで、他の猫が来ると、いてもたってもいられなくなって興奮して威嚇したりします。
 あと、猫に必要なのは“空間”なんです。狭いところにいるのも猫は好きなんですが、ある程度の空間が必要なんですね。人間もそうですが、外の景色を見ることで、気持ちが落ち着くんですよ。
 また、猫の気持ちで大事なこととして“ネコハトキメク”という言葉があります。“ネ=寝る”、“コ=コミュニケーション”、“ハ=話しかける”、“ト=トイレ”、“キ=キレイ”、“メ=目出し窓”、“ク=空間”です。こうやって覚えると覚えやすいんですよね。受験生みたいで、新鮮でいいかもしれないですね!」

長生きすることってなんだろう?

●先日、野澤さんが監修された『ご長寿猫に聞いたこと〜君と一緒/18歳以上の猫103匹と家族の物語〜』という本が出版されました。これはどういった本なのでしょうか?

「“動物の長寿”ということがたまにあるんですね。中には20年ぐらい生きるすごい猫がいたりするんですが、そういう猫の飼い主さんに“どういう暮らし方をしているのか?”“どういう食べ物を食べているのか?”という風にコツを聞き出そうとしているんですが、特にないんですね。ごく普通なんですよ。とはいえ、どこかあるだろうと思って、アンケート集計をしたんです。“ご長寿猫研究会”というものを立ち上げて、イラストと一緒に送ったんですね。今回の本の表紙の猫は、そのイラストを描いた人の猫なんです。その集計を文章化しているのと、こちらで分析して、それを皆さんと共有したら、すごく楽しいペットライフになるんじゃないかと思います」

●本の表紙の話が出ましたが、この表紙の猫ちゃん、25歳なんですよね。毛並みがツヤツヤじゃないですか!

「こういう写真はなかなか撮れないですよ。猫の25歳って、人間でいうと140歳ぐらいですよ。奇跡的ですよね」

●猫もそうですが、ペットが長生きする時代になりましたよね。

「まさにそうですよね。やっぱり、食料事情が大きいと思います。日本人も長生きしていますが、これは医療だけじゃないと思います。人間も100歳以上の人はしっかりと食べてますよね。
 犬もそうですが、知恵が違いますね。だから、うっかりした態度はとっちゃいけないと思います。“どうせ犬だから”とか“どうせ猫だから”と、子供みたいな扱いをしてしまうと、ペットが傷ついちゃいます。だから、ちゃんと話しかけるとか、話しかけられたら答えるなど“気持ちのコミュニケーション”を、一緒に暮らしているときに磨いていくことが、これからのペットとの接し方じゃないかと思います。
 僕もこの本で“長生きすることってなんだろう?”と・・・勉強になりました。それを考えることって殺処分について考えることと共通してくると思います。要は“命を大切にしよう”ということですよね。1つ1つの命を最後まで見ることを考えることで、“命を絶つ”ことができなくなると思うんです。今、殺処分数が減ってきているのはその表れで、だんだん変わってきていると思います。なので、この“長寿を大事にする”ということは、新しい見方だと思います」

YUKI'S MONOLOGUE 〜ゆきちゃんのひと言〜

「身近なペットの命を大切にし、長く愛することが殺処分ゼロに繋がる」と野澤さんはおっしゃっていましたが、本当にその通りだと思いました。そういった気持ちを持つことが、動物保護などの行動にも繋がっていくのかもしれませんね。

INFORMATION

『ご長寿猫に聞いたこと』

新刊『ご長寿猫に聞いたこと

 日貿出版社/本体価格1,300円

 野澤さんが監修されたこの本は、副題に“君と一緒/18歳以上の猫103匹と家族の物語”とあるように、飼い主さんにアンケートを取って一冊の本にまとめたもの。ご長寿猫の長生きの秘訣などが満載です。野澤さんの獣医さんとしてのアドバイスも載っています。

動物・野澤クリニック

 野澤さんのクリニックの情報はオフィシャル・サイトをご覧ください。

今週のオンエア・ソング

オープニング・テーマ曲
「GRACIAS / LARRY CARLTON」

M1. 猫になりたい / スピッツ

M2. ネコに風船 / 大塚愛

M3. HEY HO! / SEKAI NO OWARI

M4. オーライ!/ D.W.ニコルズ

M5. BLACK CAT / JANET JACKSON

M6. NEKO / androp

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」