2016年12月17日

『世界遺産 ラスコー展』取材リポート!
「2万年前のクロマニョン人は芸術家だった!」

 今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、海部陽介さんです。

 今回は人類が、生きるための糧を全て自然からいただいていた太古の昔にタイムスリップ! 後期旧石器時代にヨーロッパに分布していたホモ・サピエンス“クロマニョン人”に迫りたいと思います。
 現在、上野の国立科学博物館で開催されている特別展『世界遺産 ラスコー展〜クロマニョン人が残した洞窟壁画』にフォーカス! この特別展を監修した人類進化学者、海部陽介さんに他では聴けない見所を熱く語っていただきます。

クロマニョン人のイメージが変わる!?

●私たちは今、特別展「世界遺産 ラスコー展〜クロマニョン人が残した洞窟壁画」が開催されている国立科学博物館に来ています。今回、この特別展を監修された人類進化学者、海部陽介さんにお話をうかがいます。よろしくお願いします。

「よろしくお願いします」

●海部さんといえば、この番組では日本人の祖先がどうやって日本にやってきたのかを検証する“3万年前の航海・徹底再現プロジェクト”で色々とお話をうかがいましたが、今回は「世界遺産 ラスコー展」について、そして2万年前のクロマニョン人が残した洞窟壁画の謎に迫っていきたいと思います。

「これは3万年前の航海と時代が重なっていて、ユーラシアの東の端で僕らの祖先が海を越えていた頃に、西の端で“クロマニョン人”と呼ばれる人たちが絵を描いていたんです」

●同じ時代に世界中でそんなことが起きていたのかと思うとワクワクします! 今回の特別展の名前にもなっている“ラスコー”ですが、フランスで発見された洞窟の名前なんですよね?

「そうです。ドルドーニュ県という場所にある洞窟です」

●その地域一帯には、こういった洞窟がたくさんあるんですか?

「そうですね。石灰岩地帯で、洞窟がたくさんあります。壁画が描かれた洞窟もたくさんありまして、その中でもラスコーは世界で最も有名なクロマニョン人の壁画の代名詞として扱われている洞窟です」

●なぜそのラスコーが有名になったんですか?

「保存状態がよくて、小さな洞窟なのに、そこら中に絵が描かれていて、中には壮大なものもあって、“洞窟壁画の最高傑作”といわれているものもあります」

●誰がその絵を描いたんでしょうか?

「僕らが今“クロマニョン人”と呼んでいる人たちですね。クロマニョン人は今から4万5000年前〜1万5000年前にヨーロッパにいた人たちなんですが、彼らは僕たちと同じ“ホモ・サピエンス”で、僕たちと変わらない人たちです。その前は“ネアンデルタール人”と呼ばれる人たちがヨーロッパにいたんですが、その後に入ってきたのがクロマニョン人になります」

●歴史の教科書にありました。そのクロマニョン人が描いたということですが、日本でいうと、いつの時代になるんですか?

「日本だと縄文時代が始まるが1万6000年ぐらい前なので、それよりも遥かに昔になります。なので、ちょうど“3万年前の航海・徹底再現プロジェクト”でフォーカスしている時代と同じ時代になります。いわゆる“旧石器時代”ですね」

●旧石器時代というと、毛皮の服を着て石斧で動物を捕まえるイメージがあるんですが、その時代に壁画が描かれていたんですね。

「なにしろこれが素晴らしい絵で、この展覧会に来ていただければ、多くの人が持っているクロマニョン人のイメージがガラッと変わると思います」

●そうですか、それは楽しみです! 展覧会を見せていただく前に、ラスコー展の見所を簡単に教えていただけますか?

「まずは“絵の素晴らしさ”ですね。岩肌の立体的なところに描いてある実物大の迫力ある絵を見ていただきたいです。彼らの絵は技術的な素晴らしさだけじゃなく、謎めいた要素もたくさんあります。そういった奥深さも感じていただきたいですね。
 それに加えて、今回特別にクロマニョン人が残した彫刻もたくさんありまして、その実物をフランスから借りています。これは大変貴重なもので、日本に来るのはもちろん初めてで、この先もそう簡単に持ってくることができないものです。本当に素晴らしいクロマニョン人の代表作がきていますので、それを見ていただいて、“クロマニョン人ワールド”ともいえる芸術世界に浸ってほしいですね」

クロマニョン人の芸術ワールド!

●展示会場にやってきました。目の前にクロマニョン人を復元したものがありますね! 原始的なイメージが強かったんですが、ヨーロッパに普通にいそうな感じですね。

「顔つきとか見ていただくと現代人そっくりだと思いますが、これはクロマニョン人の骨を見てみると、我々現代人と同じ形をしているので、こういう復元になります。あと、着ているものや身につけているものはどうですか?」

●一枚皮なのかと思っていたんですが、つなぎ合わせていてオシャレな感じがします。

「ビーズとかも身につけていますが、これらが大量に出てきているので、そういうものをつけていたことが分かっています」

●カチューシャのような可愛らしいビーズがたくさん付いた被り物も被っていますが、普通に下北沢あたりにいそうな感じがします!

「来たお客さんの中には“やりすぎじゃない?”っていう方もいらっしゃるんですが、これからお見せするものを見ていただければ、この復元でおかしくないことが分かっていただけると思います」

●そうなると、彼らがどんな生活をしていたのかが気になります。

「では、なぜあんな縫い合わせた服が復元されるのか、こちらを見ていただければ分かります」

●魚の骨みたいな細いものですが、これは何ですか?

「その下(の説明書き)を読んでください」

●“骨製の縫い針”と書いてありますね。なるほど!

「上に糸を通す穴が開いているのが見えると思いますが、これを見ると、私たちが今使っているものと変わりませんよね?」

●変わらないですね! この縫い針で、私たちと同じように服を縫い合わせていたということですね!

「この非常に繊細な縫い針を持っていたということなので、裁縫の技術はあったということになりますよね」

●そういうことですよね! クロマニョン人も裁縫をしていたんですね! すごいですね!

「これだけじゃありません。次はこちらです。これはクロマニョン人の女性のお墓なんですが、頭を見てください。貝殻に穴を開けて作ったビーズです。そのビーズが頭にたくさん付いているんです。先ほど復元で見ましたよね? その証拠です。しかも、これは海で獲れる貝を使っているんですね。内陸の遺跡から海で獲れる貝を使ったものが出てくるということは、そこまで運んでいるということになります。なので“ビーズにするための材料をわざわざ遠いところから持ってきて使ってオシャレをしている”ということになります」

●思いつきでやったのではなく、手間隙かけているんですね。

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「次は“クロマニョン人の繊細さとデザイン・センス”を感じてもらいます。こちらの彫刻をご覧ください」

●彫刻といえば、昔授業で彫刻刀を使って彫った思い出があります。これは、バイソンですか?

「そうです。トナカイの角を石器で掘り込んで作ったものです」

●トナカイの角なんですか!? ものすごく細かくて、毛の1本1本まで掘られているので、てっきり木だと思いました!

「これはバイソンが振り向いているシーンなんですが、近くでよく見ていただくと、長い毛と短い毛を分けていますし、顔の凹凸までしっかりと彫られていますよね。このデザインがたまらないんですよね!」

●細かいですね!

「口の先を見ていただくと、何か出てますよね?」

●舌のようなものが出てますね。

「多分舌だと思いますが、舌を出して体を舐めているように見えます。そこから“体を舐めるバイソン”と呼ばれていて、クロマニョン彫刻の代表作中の代表作です!」

●それがこの展示会にきているんですね。

「これを日本の方に見てもらうのが僕の夢でした」

●これはぜひ皆さんに見ていただきたいですね!

「これがあって、裁縫の技術があって、ビーズを持っていると思ったら、どうですか?」

●もしかしたら、今の私たちよりも繊細でアーティスティックかもしれないですね!

「他にも、こういう彫刻類がたくさんありますので、クロマニョン人の芸術の奥深さを体感していただきたいと思います」

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ラスコー洞窟最大の謎!

※フランス南西部にあるラスコー洞窟を発見したのは1940年、4人の少年と1匹の犬でした。彼らは宝探しのつもりで探検にでかけたとき、怪しげな洞窟を見つけて入り、ランプを付けたら、なんと巨大な洞窟壁画があったんです。そんなラスコー洞窟の洞窟壁画を忠実に再現したコーナーに案内していただきました。

●私たちは洞窟壁画の前にやってきました。

「ラスコー洞窟の壁画の一部を実物大で再現しています」

●まるで洞窟の中に入ったような感じがします。左右に大きな岩肌がありますが、そこに壁画が描いてあります!

「岩壁が真っ直ぐだけじゃなく、斜めになっていたり凹凸になっているところを、石器で削って描いている様子が分かりますよね」

●描かれているのは動物ですか?

「ほとんど動物ですね。バイソン、たくさんの馬、ヤギ、鹿といった動物たちが躍動感のある姿で描かれています。中にはバイソンや馬に槍が刺さったようなものもあります。これが狩猟のための儀式をやったのではないかという説の根拠です」

●そういう儀式的なのも描かれているんですね。そんな絵をどうやって描いたんでしょうか?

「初めに彫器で輪郭を先刻して色を塗っています。そこからもう一度輪郭を描いて強調させるという技法を使っています」

●絵の具は今だと画材屋さんに行けば売っていますが、この時代にはそういったものがないじゃないですか。どうやって色を塗っていたんですか?

「天然の岩料を使っています。酸化鉄が赤、黒はマンガン鋼や炭といった天然のものを調合して作っています。なので、彼らはそういった絵の具の材料を集めにいくところからスタートします。恐らく筆も作っているはずなんですが、そういったものを作って、洞窟の中は暗いので明かりを持ち込んで入らないといけないので、彼らはランプも持っていたはずなんです。皿のようなものに動物の脂をいれて火を灯して、この壮大な絵を描いていたんです」

●かなり大変な作業ですよね!

「なので、ただの絵じゃないんです。そういったことを想像しながら見ていただきたいですね」

●描くときは1人だったのでしょうか?

「明かりが必要なので、ランプも手元に多数ないと暗くて描けないので、サポートする人が必要だと思います。場所によっては高いところに描かれているものもありまして、この“泳ぐ鹿”という作品は高くて足場が悪いところに描かれているので、ハシゴみたいなものがあったんじゃないかといわれています。となると、そういうものを作る人、支える人が必要になりますので、サポートする人がいて、画家が描いたんじゃないかと思います」

●想像が膨らみますね!

「最後にお見せしたいものがあるんです。クロマニョン人の絵は躍動的な動物の絵が主なんですが、ひとつラスコーの謎の絵があるんですね。それがこちらです」

●「井戸の場面」と名付けられた絵ですね。

「これは一番深くて一番行きにくい場所にある絵なんですが、右側に傷ついたバイソンが描かれていて、お腹のところに腸が出ているのが分かりますか?」

●ちょっと黒っぽくなってますね。

「これは槍が刺さって傷ついたバイソンが怒り狂って、目の前にいる人間を突き飛ばしているように見えるシーンなんです。ただ、この絵をよく見てみると、普通の人じゃないんですよ」

●クチバシがあるように見えますね。

「これは人間というより、“鳥”ですよね」

●そうですね。“鳥人間”ですね。

「僕たちはまさに“鳥人間”と呼んでいるんですが、こういう不思議な人物の描写もあります。ラスコー洞窟には650以上の動物が描かれているといわれていますが、人間はこのひとりだけです」

●ということは、特別な人間ということですか?

「それが“鳥人間”ですから、よく分からないですよね(笑)。なぜこんな絵を描くのか非常に謎で、あれだけ動物の絵を描く技術を持っている人たちがやっていることなので、下手だったわけではないはずなんですね。洞窟の一番奥の一番行きにくい場所に描かれているこの絵は、ラスコー洞窟の最大の謎といってもいいと思います」

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クロマニョン・スタイル!?

※2万年前のクロマニョン人の生活様式はどんな感じだったのでしょうか?

「彼らは農耕や牧畜が始まる前の狩猟採集民です」

●どんな動物を獲っていたんですか?

「色々なものを獲っていたと思いますが、トナカイや馬、ヤギやバイソンといったものが主な対象だと思います。また、彼らは魚も獲っていました」

●そうやって自然と密接な分、自然に対する感謝や畏敬の念を持っていたんじゃないですか?

「あったんじゃないかと思います。一方で、そういう人たちがああいう芸術をやるわけですよ。本当はこういったことはやらなくていいことなはずなんです。生き物が生きていく上で必要のないことです。それでも絵を描き、彫刻をし、楽器も見つかっているので、音楽もあったことが分かっています」

●文化的な生活をしていたんですね!

「動物を狩って食べるだけじゃなく、芸術を楽しんだり、余暇を楽しむということをやっていたことになります」

●クロマニョン人は家族同士でコミュニケーションを取るときに、言葉みたいなものを使っていたのでしょうか?

「言葉は証拠が残らないのでハッキリしたことは言えませんが、あの様子を見ていたら、ないわけがないと思うんですね。あと、今の世界中の人間が、種類は違えど、言葉を使っていますよね。それはアフリカにいた共通の祖先たちが言葉を持っていたということなんですよね。そうじゃないと、世界に散らばった後にみんなが言語を話すという状況が生まれづらいんです。ということは、クロマニョン人にも言葉があったことが考えられます」

●文字はあったんですか?

「文字はないですね。ただ、クロマニョン人は不思議な記号をたくさん書いています。壁画の中にも、牛の足元にも記号があったんですが、それが文字かどうかは分かりません」

●最後に、最大の謎ですが、なぜこの洞窟壁画が描かれたと思いますか?

「これは難しくて分かりませんが、“たくさん動物が獲れますように!”という狩猟に関わる儀式をした場所だという説もあれば、精霊と通じ合う“シャーマン”が見た幻想を描いたものという説もあります。先ほど見ていただいた鳥人間も、鳥の被り物をしたシャーマンじゃないかという考え方もあるんです。
 結局のところ、そこはずっと謎で、クロマニョン人に聞いてみないと分かりませんが、彼らの生活の奥深さがひしひしと伝わってきますので、この展覧会でそういったところを体感していただきたいと思います。それがクロマニョン人を知ることだと思いますね」

●今回、クロマニョン人の生活を知って「ただ生きてるだけじゃダメだな」って思いました。絵を描いたり、音楽を聴いたりして、芸術に触れることで、人生はもっと豊かになるのかなって思いました。

「クロマニョン人たちもそうしていたんだろうなって見えてきますよね」

●最後に、リスナーの皆さんたちにメッセージをお願いします。

「今回のような展覧会はもうできないと思います。クロマニョン人たちを知るためにも、“ザ・クロマニョン・ワールド”を是非体感していただきたいと思います。皆様のご来場をお待ちしています!」

YUKI'S MONOLOGUE 〜ゆきちゃんのひと言〜

 暮らしの中に“遊び”を持って、文化的に暮らすことの大切さを私たちの祖先は2万年も前から気づいていたんですね。今回の特別展に行けば、皆さんもきっとクロマニョン人のイメージが変わると思いますよ。

INFORMATION

特別展『世界遺産 ラスコー展〜クロマニョン人が残した洞窟壁画』

 上野の国立科学博物館で現在開催中の特別展。精密に再現された実物大の壁画や海部さんが惚れこんだバイソンの彫刻の他、あかりを灯すためのランプも日本初公開! さらに、世界初公開の洞窟に残された絵を描くための画材や道具なども展示、見所満載です。

◎開催:2017年2月19日(日)まで
◎開館時間:午前9時〜午後5時まで
◎入場料:一般・大学生1,600円、小・中・高校生600円
◎詳しい情報:国立科学博物館のホームページ

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今週のオンエア・ソング

オープニング・テーマ曲
「GRACIAS / LARRY CARLTON」

M1. (MEET) THE FLINTSTONES / BC-52'S

M2. CLOCKS / COLDPLAY

M3. ORINOCO FLOW / ENYA

M4. 狩りから稲作へ feat. 足軽先生・東インド貿易会社マン / レキシ

M5. SNOW / RED HOT CHILI PEPPERS

M6. やつらの足音のバラード / スガシカオ

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」