2017年3月25日

本川達雄の「歌う生物学」
〜生き物は“すごい!"〜

 今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、本川達雄さんです。

 東京工業大学の名誉教授、本川達雄さんが1992年に出版した本『ゾウの時間 ネズミの時間』は、今なお売れ続けているロングセラーになっています。難しい生物学を歌にして、大学の講義を行なう“歌う生物学"が代名詞となり、今では小学校へのボランディア出前授業も人気で、出向いた学校はまもなく100校になるそうです!
 そんな本川さんが新刊『ウニはすごい バッタもすごい』を出されたということで、今回はいろいろな生き物の“すごい!"をたっぷりとうかがいます。

昆虫はキューティクル!?

※まずは昆虫についてお話をうかがいます。シャンプーのCMなどでよく耳にする「キューティクル」、このキューティクルが昆虫の体を覆っているそうです。どういうことなんでしょうか。

「昆虫は“クチクラ"、英語でいうと“キューティクル"で体を覆って自身を守っています。何かにぶつかったときに、体に傷がつかないようにするためでもあるのですが、覆っている一番の理由は、体から水分が出ていかないようにするためなんです。生物の体の6割から7割は、水でできているのですが、特に小さな生物は体から水が抜けやすいんです。なので体を乾燥させないように守ることが、クチクラの役目の一つです。

 また、昆虫の“足"もクチクラで作られています。クチクラは非常に軽くて丈夫な、いい材料なんです。例えばハエや蚊は、足がとても細いですよね。でも、しっかり足を動かせてます。蚊の口にある“針"は、さらに細いじゃないですか。あれほど細くしたら、たとえ金属であっても曲がってしまいますよね。でも、しっかり刺さるんですよ。注射針で刺されたら痛いですよね。でも蚊に刺されても、私たちは血を吸われた後に痒くなりますよね。なので、本当は蚊のような細い針を作ることができればいいのですが、そういうことはまだ私たちにはできません。しかし、昆虫のクチクラはそれができてしまうんです。
 さらには、昆虫の“羽"もクチクラの威力が発揮されてます。飛行機は、ごっつい羽じゃないと飛べないのに、昆虫はあんなに薄い羽で空を飛べてしまうんです。また、蚊は、羽を1秒間に1000回動かしているんです」

●1秒間に1000回も動かしているんですか!?

「もし、金属を1秒間に1000回も動かしたら、すぐに劣化して折れてしまいますが、昆虫の羽は壊れません。昆虫は、乾燥しないように体をクチクラで覆って、陸上に進出し、そして陸上を制覇していきました。動物のうち、4分の3が昆虫なんです。なので、総数で考えれば、昆虫が最も成功しているんです。陸の次に、空も制覇していきました。
 空に初めて進出したのは昆虫なんです。鳥は、昆虫が空に進出して2億年ぐらい経ってからやっと進出してきたんです。飛んでしまえば、エサを探すことも敵から逃げることも容易にできます。だから昆虫は大繁栄しているんです。ですから、昆虫はすごい! そして、それを可能にしているのはクチクラなので、クチクラはすごい!」

●本当にクチクラはすごいですね!

「私は『ウニはすごい バッタもすごい』という本を数ヶ月前に出しまして、この本ではいろいろな生物をとにかく褒めていますが、やはり昆虫を観ていると褒めたくなってきますね!」

昆虫はバネで飛ぶ!?

※クチクラによって見事に繁栄をしている昆虫の特徴のひとつが「飛ぶ」こと。彼らはなぜあんなに飛べるのでしょうか。

「“飛ぶ"という行為には、ものすごくエネルギーを使います。昆虫は、幼虫の時には葉っぱを食べて体に溜め込み、長い時間をかけて消化していくことで、だんだんと成長していきます。ところが、重い体では飛び回ることができません。なので、成虫になったら花の蜜を吸っているんです。チョウやハチにとって花の蜜は、栄養ドリンクみたいなものです。しかし体に取り込んだ蜜は、酸素を使って燃やさないといけません。そこで昆虫は、酸素を筋肉細胞があるところまで運ぶ、特別な“管"を開発しました。これにより、効率よく蜜を燃やして飛ぶことができるようになったんです」

●昆虫の体は、効率を重視した構造になっているんですね!

「そうです。あんなに小さくても、しっかりと飛ぶことができるんです。酸素の供給だけではなく、エネルギーを使わなくても飛べるように、飛ぶための筋肉にも工夫があります」

●どんな工夫をしているんですか?

「例えば、バネを引き伸ばしてから離すと、バネは勢いよく動きますよね。あの仕組みを、羽を動かす筋肉に応用することで、羽が動いているんです。なので、一度筋肉を引き伸ばしてしまえば、その後はずっと筋肉は動き続けます。その間は、エネルギーを使うことは全くありません。」

●自分で羽を動かさなくても、バネのような筋肉の反動で、羽は勝手に動くんですね!

「羽は昆虫の胸の部分にあり、その胸にもクチクラがあります。クチクラにはバネのような働きもあります。バネのような“箱"が胸にあって、その内側にさらに、バネのような働きをする筋肉が十文字のように張ってあり、それが“共鳴箱"のように振動するんです。これが、1秒間に1000回も羽を動かすことができる仕組みです」

●だからあれほど速く、羽を動かすことができるんですね!

「私たちが1秒間に1000回も筋肉を伸ばしたり縮めたりすることは、できるはずがありません。しかしこれだけ速く動かせれば、小さな羽でも飛ぶことができるんです。蚊などは、あれほど小さい羽で飛べるから敵に気付かれないんです」

●すごいですね!

「ハチも、とても小さい羽なのに飛んでいますね。人間の耳に聞こえるくらい、火薬振動させているからなんです。なので、小さい体で、しかもそれほど体にエネルギーを溜めなくても飛ぶことができるんです」

貝は軟体動物!?

※潮干狩りが楽しみな季節になってきましたが、アサリなどの貝は実はイカやタコと同じ仲間なんです。続いて、貝の進化のお話です。

「貝には、“軟体動物"という名前が付いています。殻を持っていて、体そのものは柔らかい生き物が、貝の仲間の特徴です」

●代表的な貝には、二枚貝と巻貝がありますが、どちらの方が多いんですか?

「巻き貝の方が多いですね。もともと、軟体動物の祖先は岩の上にいて、背中に一枚の硬く平たい殻を背負っていました。そして最初は、数センチの小さな体でした。しかし、動物の特徴として、体が大きくなれば敵に食べられにくくなったり、いろいろなことができるので、動物は皆、進化の過程で大きくなりたがります。軟体動物もそうでした。
 しかし大きくなっていくと、背中を一枚の平たい殻で覆っているだけでは、次第に体を曲げられなくなり、広い岩場でしか住めなくなってしまいます。なので、普段は体を広げて活動をし、危ないときは体を引っ込めることができるように、殻を3次元的に盛り上げていくようになっていったんです。とんがり帽子のように、殻の形が変わっていったんですね。
 ただ、そのような形になると、上のとんがった部分に何かが少しでもぶつかると簡単に倒れてしまうので、殻をグルグルと巻くようにしていったんです。そうすれば、体が大きくてもそれほど殻が高くならずに済むからです。こうして巻き貝が誕生しました」

●だから殻を巻いているんですね!

「しかし、そうは考えずに、“岩の上での生活はもうやめよう!"と、とんがり帽子の形のまま海で泳ぐようになった軟体動物もいました。それが現在の“イカ"や“タコ"の仲間に分類されます。これらの生物の中にも、その後、アンモナイトのように殻をグルグル巻く生物も出てきました。あるいは、泳ぐ力が強く発達した生物は、殻を必要としなくなり、殻を捨ててしまいました。それが、イカの祖先にあたります。今やイカは、“ジェット推進"をするほど速くなっていますね」

●私もイカが泳いでいるところを一度だけ見たことがあるのですが、とてつもなく速いですよね!

「勢いがあり過ぎて、空に飛び上がってしまうほどの速さですね。八丈島に行く船に乗ると、よくイカが飛んできますよ」

●そうなんですよ(笑)。何かが飛んできたなと思って、後で確かめてみたらイカだったんですよ!

「さらに、岩の上から砂や泥の中に潜り込んだ軟体動物もいます。それまでの貝は、上には殻を背負っていましたが、下は裸のような状態だったので、体の下は危なかったんです。なので、上に一枚背負っていた殻を真ん中で二つに折って、二枚にして体を包むようになりました。二つに折ることで、斧の刃のように細くなるので、それで地面を掘って進んでいくことができるんです」

●そうだったんですね! いつも潮干狩りに行くと、“土の中をアサリはどうやって移動しているんだろう?"と不思議に思っていたんですが、アサリもそのような方法で潜っているんですか?

「アサリは殻の中に、斧のような形をしている足があるので、その足を砂の中に入れて潜っているんです。アサリはとても速く砂に潜りますよ! また、二枚貝は砂の中に潜っているので、もともとは酸素を取り込むために、“入水管"や“出水管"と呼ばれる管を伸ばして海水を吸っていました。ところが、海水には食物の粒子も含まれているので、それらも一緒に吸ってしまうんです。そこで、海水をエラでこし取ることで、呼吸をするだけでなく、同時に栄養も取れるようになったんです」

●すごく効率的ですね!

「だからこそ、貝も大繁栄したんですね。殻があったからこそ、貝の仲間は繁栄したんだと思います」

●なるほど! ところで先生が作った曲の中で、貝に関する曲はありますか?

「ありますよ!」

●曲名は何でしょうか?

「『マイマイまきまき』という曲です。巻き貝の殻は“対数螺旋"という、特別な巻き方をしているんです。そしてこの巻き方であれば、成長しても体型が変わることはないんです。そのことを説明した曲になります」

●この曲なら、私でも歌えるかもしれません!

「私の曲は誰でも歌えますよ(笑)」

●先生と一緒に歌いたいのですが、いいでしょうか?

「おお、いいですよ!」

※ここで、『マイマイまきまき』を一緒に歌わせていただきました。

●ありがとうございます!

「“子守唄"のような曲となっています」

●自分で歌うと、歌詞の内容も頭に入ってくるので忘れないですね!

なぜ、ヒトデの腕は5本!?

※では最後に、ヒトデについてお話をうかがいます。ヒトデはどうやってエサを食べているのでしょうか? ここにも、驚くべき秘密がありました!

「ヒトデの口は、体の真ん中にあるんです。腕の部分に小さな足が生えていて、それで小さな粒子を捕まえ、真ん中にある口にまで送って食べているんです。このように、海水の流れの中で腕を伸ばして食べている時に、腕が何本あったら効率よくエサを捕まえられるのかを考えたとき、“5"という数はとても効率的なんです。
 5角形の角ごとに腕があると、どの腕も重なることがないため、全ての腕でエサを捕まえることができます。例えば6角形や4角形のような体型だと、海水の流れる方向と辺が平行になってしまうことがあります。すると、その辺よりも内側にある腕はエサを捕まえられなくなってしまいます。そのため、割り切れない“3"や“5"といった数字のほうが、流れに乗ってくるエサを捕まえやすいんです。なので、ヒトデなどは5角形であると言われています。
 そしてこの説を使うと、桜や梅、原種のバラなどの花びらが5枚である理由もわかってくるんです。花は、真ん中に花粉と蜜があるので、昆虫に“真ん中まで来て!"と宣伝するために、5弁の花びらがあるんです。ヒトデの腕が5本である理由も、5弁の花が多い理由も、いずれもこの説を使えば、すっきりと理解できるんです。“5"っていい数字ですよね」

●なるほど、いいですね!

「これが進化なんですよ。全く違う種類の生き物が、同じ解決策にたどり着くんです」

●ヒトデについて気になることがもう一つあるのですが、ヒトデは人間の“親戚"という話は、本当なんですか?

「ヒトデなどの棘皮(きょくひ)動物やホヤは、私たちと同じ“仲間"ですね。ヒトデやウニやナマコが私たちと体の形が違うのは、動かないからなんです。私たち人間はよく動きますが、動く動物は体が自然と細長くなっていくんです。細長いほうが、進んでいくときに少ない抵抗で済むからです。
 一方、動かない動物の場合は、環境のほうが動いてくるんです。例えば、ヒトデであれば海水が流れて来たり、花であれば虫が飛んで来たりしますよね。こういった生き物は、どのような環境でも同じように対応していけるように進化していきました。最近流行りの“ロボット掃除機"は、丸い形をしているものが多いじゃないですか。それは、丸ければ方向転換しなくてもゴミを掃除できるからなんです。一方、私たちがいつも使う掃除機は、細長いですよね。それは、私たちが掃除機を引っ張って掃除をするからなんです」

●進化の方向性によって、全く違う姿になっていったんですね。

「動くかどうかによって、形はいくらでも変わるんです」

●極端な話ですが、私たち現代人は、あまり動かなくてもいい生活を送ってきていますよね。これが続いていくと、人間がヒトデのような体型になっていってしまう可能性もあるのでしょうか?

「進化には長い時間がかかりますし、それまでには紆余曲折があるので、私にもどうなるのかはわかりません。ただ、そのような生活を続けていれば、ヒトデのような形になる前に人間は滅びますよ(笑)」

●そうですね(笑)。では先生、最後にヒトデの曲があればお聴きしたいのですが、何かありますか?

「ヒトデといえば“5"なので、5拍子の曲を作らなければいけないと思いました。そこで、5拍子の曲と言えばDAVE BRUBECK(デイヴ・ブルーベック)の『TAKE FIVE』なので、『棘皮のTake Five』という曲を作りました」

※実際に、『棘皮のTake Five』を歌っていただきました。

「この曲は、5番まで歌があるんです」

●いいですね! この曲、すごい好きです(笑)。“なんてこった"という歌詞が“なんで5だ"に変わるところとか、とてもおもしろいいですね!

「5拍子なので、歌いにくいんですけどね(笑)」

●確かにちょっと難しそうですね(笑)。

※この他の本川達雄さんのトークもご覧下さい

YUKI'S MONOLOGUE 〜ゆきちゃんのひと言〜

 同じ貝の仲間でも、巻貝や二枚貝などまったく違う形に進化したものもいれば、 ヒトデと桜のようにまったく違う種類でも同じように5角形に進化したものあって、 進化の過程は本当に奥深くて面白くて、そして「すごい!」ですね。

INFORMATION

『ウニはすごい バッタもすごい〜デザインの生物学』

新刊『ウニはすごい バッタもすごい〜デザインの生物学

 中公新書/税込価格907円

 副題が「デザインの生物学」ということで、生き物の体のつくりを解き明かしていて、大変面白い一冊となっています! 巻末には、生物について歌った8曲の楽譜も掲載されていますよ!

オフィシャルサイト

 本川さんの研究について、詳しくは「東京工業大学」のホームページ内にある、本川さんのサイトをご覧ください。

今週のオンエア・ソング

オープニング・テーマ曲
「(MEET) THE FLINTSTONES / THE B-52's」

M1. 生きものは円柱形 / 本川達雄

M2. 飛べないモスキート(MOSQUITO) / 桑田佳祐

M3. THE BIRDS AND THE BEES / JEWEL AKENS

M4. 桜の時 / aiko

M5. SHAPE OF YOU / ED SHEERAN

M6. Take Five / JUJU

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」