2017年7月15日

日本人の祖先はどうやって海を渡ったのか!?
〜「3万年前の航海 徹底再現プロジェクト」

 今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、国立科学博物館の人類進化学者、海部陽介(かいふ・ようすけ)さんです。

 海部さんは、1969年、東京生まれ。東京大学・理学部卒業後、1995年から国立科学博物館に勤務され、現在は人類史研究グループ長として、主に約200万年にわたるアジアの人類史を研究。2016年からは、私たち日本人の祖先がどうやって日本列島に渡って来たのか、その謎を当時の航海方法などを再現し、検証するプロジェクトを進めてらっしゃいます。
 そんな海部さんに、先月台湾で行なった「竹舟」による実験航海についてうかがいます。今回の航海はうまくいったのか、そして謎の解明につながる発見はあったのか・・・

祖先は航海者だった!

※まずは、改めて「3万年前の航海 徹底再現プロジェクト」とはどんなプロジェクトなのか、お聞きしました。

「今から約3万年前に、沖縄の島々に突然、人が現れるんですね。大陸からは離れていますが、これは“海を渡って人が島に来た”ということになります。考えてみて欲しいんですが、舟を造って沖縄の島まで行くというのは、大変なことですよね。それをやり遂げた人たちがいるということについて、僕らは追究したいんです。彼らがどうやって沖縄までたどり着いたのか、これを研究して再現したい、というのが、僕らがやっているプロジェクトです」

※“舟で海を渡ってやってきた”ということですが、他にも彼らが日本列島にやってきたルートはあるんですか?

「はい、まずは朝鮮半島から津島海峡を通って九州に至る、というルートがありますね。ですが、ここにもやっぱり海があるわけです。それから、北海道は当時、半島の一部として大陸とつながっていましたが、北海道の先にある津軽海峡も海ですので、要はどこから来るのにも、日本は海を越えないと入れないんですよね。ですから、最初に日本列島にやってきた人たちは、海を越えてきた“航海者”だった、ということになるわけです。今、このことにゾクゾクしています(笑)。どうやって昔の技術で海を越えてきたのか。海への挑戦ですよね。海に出ようとした“誰か”がいて、彼らはどう問題を解決していったのか、ということを掘り起こしたいんです」

●それをやったのは、私たちの祖先ですもんね。

「最初に日本列島の土を踏んだ人たちですね。どうやって来たのか、ものすごく気になるんですよ」

●その人たちがどうやって来たのかがわかれば、私たちの人生に勇気をくれそうな気がしますよね!

「はっきり言って、そうです(笑)」

●どのルートも、時期としては3万年前になるんですか?

「正確には3万8000年前に、九州と本州に遺跡が現れ始めます。少なくとも6つの島から遺跡が発見されているので、3万年前にはどの島にも人がいる状態ですね」

●3万年前というのがどんな時代なのかイメージしづらいのですが、“○○時代”でいうと、どのあたりなんですか?

「縄文時代が始まるのが、今からだいたい1万6000年前とされています。その倍ぐらい昔の時代、と言ってもわからないかもしれませんが、つまり“旧石器時代”と呼ばれる時代ですね。当時、日本にはナウマン象やオオツノジカ、トラみたいな動物がいた時代ですね。今となってはそれらの動物はいませんけど、そんな絶滅動物が闊歩していた時代ですね」

●実は、この番組の名前でもある“フリントストーン”という原始時代のアニメがあったんですが、そのキャラクターたちのように、本当に人類の原点となるような時代だったんですね。

「そうですね。それに、アニメのフリントストーンはほのぼのとした、家族のイメージがありましたが、そうじゃない一面、つまり新しいことに挑戦して海を越えた祖先たちがいる、ということにフォーカスしたプロジェクトを僕らはやっています」

漕ぎ手に注目すべき!?

※海部さんによると、私たちの祖先は日本列島に3つのルートから渡ってきたのではないか、ということでしたね。そのひとつ、台湾から琉球列島にやってくる「沖縄ルート」を解明する、それがこのプロジェクトです。
 去年の夏、与那国島から西表島までの75キロを、ヒメガマという植物を束ねて編んで作った「草舟」で、男女7人の漕ぎ手による実験航海を行ないましたが、強い海流に流され、途中で断念せざるを得ませんでした。
 そして、先月行なった実験航海は、台湾の南部にある「大武(だいぶ)」から30キロ離れた緑島(りょくとう)までの航海。一体、どんな航海になったんでしょうか。

「なんで台湾に行くかといいますと、僕らの最終目標というのが明確にありまして、今から2年後の2019年を目指して、台湾から一番日本に近い“与那国島”を目指す航海を最後にやりたいからなんです。これは黒潮を超える大航海になります。2、3日はかかりますね。島が見えないんですよ。それぐらい遠いんです。もともと与那国島は小さいですしね。
 しかし、これを突破しないと琉球列島には入って行けなんです。その“最初の関門”にチャレンジしたいんですね。そのために今、いろんなテストをして“どういうモデルでやるべきか”というのを探っています。3月から舟づくりを始めたんですが、去年は草を試したので、今回は竹を試すことにしました。台湾には舟づくりに適した竹もありますからね」

●竹で舟をつくる、と言っても、私たちはなかなか想像ができないんですけど、どうやってつくったんですか?

「たまたまなんですが、もともと台湾で暮らしていた原住民で、“アミ族”という集団がいるんですけど、彼らは昔から竹のイカダを作って、トビウオを獲るために海に出る、という伝統を持っていたんですね。そのアミ族の伝統知識をお借りして、僕らが舟の設計をし、アミ族の方に作業をしてもらって、舟をつくりました」

●どれくらいの大きさの、どんな形の舟になったんですか?

「去年からの課題で、スピードが出ないと黒潮を乗り超えることができないので、竹でスピードの出る形を追求してみたんですね。ただ、結果的に想定とはちょっと違った舟ができてしまいました(笑)。
 これは、竹という素材の扱いにくさの問題で、草はいくらでも曲げられるし、いらないところは切っちゃえばいいんですが、竹だとそうはいかないんですね。今回は浮力のある、太い竹を使いましたので、余計に竹を曲げる作業は大変でした。思ったように曲がってくれないんですね。そのせいで、思ったよりも舟が長くなってしまったりと、想定外のこともありました。“竹ってこういうものなんだな”ということを、僕らは今、学んでいるところですね」

●舟の全長はどれくらいだったんですか?

「10メートルを越えていましたね(笑)」

●おお〜(笑)。結構大きい舟になりましたね。

「非常に細長い舟になりましたね」

●漕ぎ手の方はどうでしたか?

「前回参加してくれた方も何名かいましたが、今回違ったのは、台湾の方にも参加してもらったことです。これからも日本と台湾の共同でやっていきますので、台東市にある“国立台湾史前文化博物館”と、僕らの国立科学博物館が協定を結びました」

この番組でもおなじみの、海洋冒険家の内田正洋さんの娘さん、沙希ちゃんも今回参加されたんですよね。

「はい、参加してくれました。沙希ちゃんは本当に頼りになります。僕らのプロジェクトの大事なポイントとして、女性にも参加していただきたいんですね。島に男だけでたどり着いても、移住にはならないんです。冒険家が行った、ということを示したいんじゃなくて、祖先たちが移住してきた、ということを僕らは示したいんです。なので、男女混合チームで行ってもらいたいので、沙希ちゃんはその中の貴重な漕ぎ手です」

●女性ですけど、航海には全然問題なかったですか?

「そこがおもしろいところで、普通の感覚だとやっぱり“漕ぐ人は、力のある人じゃないとできないんじゃないか”と思うかもしれないんですが、内田沙希ちゃんはそんなに体も大きくないですが、それでも今回の航海で14時間半を漕ぎ切ってしまうんですね」

●すごいですよね!

「ですから、このプロジェクトのちょっとおもしろいところは、どうしても舟が主役になってしまうんですけど、実は漕ぎ手にも注目をすべきなんですね。要するに、それを扱っていた人たちが、どんな人だったら海を越えられるか、ということが少し見えてくるんですよね。これは僕らが遺跡を掘っているだけでは見えてこない部分です。ですからやっぱり、海を渡るっていうのは、“人がこうあらねばならない”というか、そういうのがぼんやりとでも見えてくるところが、すごくワクワクしますね」

黒潮の虜!?

※今回の台湾での実験航海は、漕ぎ手が5人でした。一体、どうしてその人数だったのでしょうか?

「何人が正しいかはわからないんですが、ある意味、5人は適切なんじゃないかなと僕は思っています。長時間漕ぎますので、少しずつ休まないといけないですよね。しかし、全員が一度に休むとどんどん流されていってしまいます。なので、なるべく漕ぎは止めたくないんです。そうすると、ひとりずつ休むとした場合、2人乗りだと厳しいですよね。5人乗りだと、4人は漕いでいるわけですから、そういう意味で、5人はいたほうがいいんじゃないかな、という気がしています」

●今後、もっと長い距離になった時、どのタイミングで休むか、どれくらいの人数が同時に休むかなども重要になってきますよね。

「そうですね。そこについては漕ぎ手たちが相談しながら漕いでいるんですが、やっぱり漕いでいる彼らが一番そのことはわかっていますから、その部分も含めて、全部が実験の要素ですね。作戦を練っているんですよ、僕らは。“舟をつくる”という作業もありますが、“航海戦略”ですね。“あの島を攻略するには、どうしなければいけないか”という作戦を立てているわけです」

●それを聞くと、なんだかおもしろそうですね! 今回、キーワードとして結構出てきているのが、“黒潮”ですけど、黒潮の攻略法についてはどうですか?

「黒潮というのは、太平洋をぐるぐる回っている大きな海流の一部なんですね。そして特に、日本列島の西側周辺でスピードが速くなるんです。なので、世界最速・最大の海流のひとつなんですね。なにしろ速い。そして幅も大きく、広いところでは数十キロから百キロにも及ぶんですね。これを越えなければいけないんですよ。また今回は、漕ぎ手のほとんどが黒潮初体験だったんです。そもそも黒潮を漕いで渡った人はそんなにいないと思うんですけど(笑)。なので、みんなちょっと興奮していました」

●黒潮って、言葉自体はよく聞くんですけど、この目で見たことがないので、実際にどんなものなのか、すごい気になります。

「僕もそう思っていて(笑)。ですが、わからないんです。深いところに行くと流れがだんだん北に変わってくるので、深さから、黒潮の海域に入ったというのはわかるんです。だんだん本流に入っていくに従って、流れが速くなっていくんですね。ただ、“流されている”というのは舟の上からでは全然わからないんです。なので、結局何で理解するかというと、陸地を見て、自分の位置取りを見ることで初めてわかるんです」

●私のイメージでは、名前に“黒”と付くので、黒い巨大な波にがぁーっと持ってかれちゃうのかなと思っていたんですが、そうじゃないんですね。

「黒潮と呼ばれているのには理由があって、黒潮には生物が少ないんですね。そして非常に透明度が高いために、黒っぽく見えるから、黒潮と呼ばれている、と聞いています。漕ぎ手たちも“すごく美しかった”と言っていましたね」

●その美しさは、透明度が高かったからでしょうか?

「いろんな感じ方はあると思うんですが、みんな“黒潮の虜”になって帰ってきましたね(笑)。終わった後も、“もう一回あそこに戻りたい”って言っていました」

●3万年前の人もそうだったのかな(笑)。しかしその美しい黒潮を越えなければいけないんですよね。それは今後、どうしていこうと作戦を立てているんですか?

「まず、今回の一番大事な点は、漕ぎ手たちが初めて黒潮や、台湾の海を体験した、ということですね。なので、土地勘をつかんで、慣れていくことですね。それからもうひとつ大事なのは、僕らはGPSを使わないんですね。現在地をスマホとかで調べちゃいけないんですよ。3万年前の人は持っていませんから。そのやり方に慣れる、ということですね。
 そのためには、陸地を常に振り返って見て、自分がどこの位置にいるかを把握することです。そして、今回はそれがだんだんできてきた、という実感があるんですね。漕ぎ手たちが実験を終えた後に、そういうことを口々に言っていましたので、それを聞いて僕はすごく安心しました。そこは上手くいったのかなぁ、と思っています」

●私たちも、そういう環境になれば、ある程度は感覚が戻ってくるものなんですかね?

「僕はそうじゃないかなと思いますね。やっぱり昔の人は電気もない、テレビもない、そういった時代で生活しているわけですから、自然との距離がとても近いですよね。常に自然に接して、常に自然を見ながら暮らしている。そういう生活をしていれば、多分そういった感覚も身についていくんじゃないかな、と思います。今、僕らはそういう生き方をしていないので、そこを再発見するおもしろさもあるんですよね。“人間ってこんなことできちゃうんだ”、“GPSがなくても、やろうと思えばやれるんだ”というところが、僕としてはおもしろいですね」

同じ人間なら、僕らにもできる!

※最後に、今回の実験航海で得たもの、そして今後のプロジェクトについて、海部さんにうかがっていきます。

「それはやっぱり、みんなで“最初の体験”をした、ということじゃないでしょうか。3万年前の航海を再現するなんてこと、今までやったことないですからね。それを陸上でサポートしているスタッフも含めて、みんなでそれを共有することができました。そして、次にどうつなげていくか、ということをみんなで考えられる“下地”ができてきた気がしますね」

●その経験を活かして、今後はどういった修正を加えて次の実験に向かっていくんでしょうか?

「舟のことで言えば、竹舟はもう少し改良したいと思っています。それから、木の舟は、まだ僕らは試していませんので、それを試したいと思っています。あとは、“与那国を目指すためにどうすべきか”という航海戦略がだんだんできているので、それをまた練っていきます。また、それに向けたトレーニングをしながら準備していきます。あと1年間、準備期間がありますので、これを有効に使って、2019年の本番に備えていきたいです」

●航海戦略は、具体的にどんな戦略を練っているんでしょうか?

「なにしろ初めは島が見えません。しかし一番大事なのは、台湾からでも“島があることを認識している”ということですね。なので現在、台湾から与那国島が見える場所を探しています。ちゃんとあるんですよ。今はその情報を整理しているところです。“昔の人がどうやって島の存在を理解して、そこから島にたどり着くためにどういうふうに考えたのか”というのをシミュレーションしているんです」

●“見えている”と“見えていない”とでは、全然違いますよね。

「意味が変わりますよね。“見えていない島に行く”というのは、博打というかギャンブルというか、妄想で行っていることになりますよね。そうじゃなくて、“台湾から与那国島が見えていて、プランがあって目指した”というシナリオで僕らは動いています」

●“現代であってもこれだけ大変なんだ”ということが海部さんの実験航海でわかったわけですが、そうすると3万年前の人は一体どれだけ大変で、それをどう乗り越えていったのか、というのはますます気になってきますよね!

「本当に、やればやるほど、そこまで理解しないとどうしてもやめられないですね」

一同「(笑)」

「でも、同じ人間ですから、僕らもきっとできるだろうと思っているんですけどね」

●ぜひ、今後もこの実験航海を続けていって、その謎を解き明かして欲しいなと思います! では、来年の実験航海、そして2019年の本番に向けて、改めて意気込みをお願いします。

「何としても成功させたいなと思っています。祖先たちができた、ということはわかっているので、僕らも島にたどり着くためにいろいろ考えていきたいですね。プロジェクトに興味がある方はぜひ、僕らのホームページがありますので、そこからいろいろとフォローしていただけるとうれしいです」

※この他の海部陽介さんのトークもご覧下さい

YUKI'S MONOLOGUE 〜ゆきちゃんのひと言〜

 立派な舟も、GPSもない、そういった状況でどうやって私たちの祖先は海を渡って日本にやってきたのか。海部さんがおっしゃるように道具や航海方法はもちろんですが、「漕ぎ手がどうあるべきか」を知ることが出来れば、私達の祖先がどんな人だったのかをより深く知ることができますよね。今後の実験航海の行方がますます楽しみになりました。

INFORMATION

「3万年前の航海 徹底再現プロジェクト」

 このプロジェクトでは随時、寄付を募っています。また今後、クラウドファンディングの予定もあります。ぜひご支援ください。プロジェクトの内容や寄付の方法、そして沖縄や台湾での実験航海について、詳しくはオフィシャル・サイトをご覧ください。

日本人はどこから来たのか?

日本人はどこから来たのか?

 文藝春秋/税込価格1,404円

 今回のプロジェクトの背景にある、地球規模の人類の歴史や海部さんの想いなども記された一冊。今回のプロジェクトに興味を持った方は、ぜひ読んでみてください。

今週のオンエア・ソング

オープニング・テーマ曲
「(MEET) THE FLINTSTONES / THE B-52's」

M1. LIFE IS A JOURNEY / GACK-MC

M2. ADVENTURE OF A LIFETIME / COLDPLAY

M3. LET IT GO, LET IT FLOW / DAVE MASON

M4. 海の声 / 浦島太郎(桐谷健太)

M5. 歓楽飲酒歌 / SUMING

M6. THE GREAT JOURNEY / KIRINJI feat.RHYMESTER

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」