2017年7月22日

未知の世界“深海DEEP OCEAN”
〜特別展「深海2017〜最深研究でせまる“生命”と“地球”〜」

 今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、海洋研究開発機構(JAMSTEC)の藤倉克則(ふじくら・かつのり)さんです。

 藤倉さんは、1964年、栃木県生まれ。東京水産大学(現・東京海洋大学)大学院を経て、現在は「海洋研究開発機構(JAMSTEC)」の上席研究員で、海洋生物多様性研究分野長。専門は深海生物の生態学で、まさに深海生物研究のスペシャリストです。
 そんな藤倉さんは現在、上野の国立科学博物館で開催中の特別展「深海2017〜最深研究でせまる“生命”と“地球”〜」の総合監修をされました。そこで今回は、謎だらけの深海のお話をたっぷりうかがいます!

スライドショーインデックス>>  1  2  3  4

長生きの秘訣は深海にある!?

※深海生物といえば、“暗い海の中で光っている”イメージがありますが、一体、何割くらいの深海生物が光るのでしょうか?

「深海にいる生物の9割ぐらいが、実は光るんですよ」

●9割も!?

「はい、暗い中で“光”っていうのは、非常に有効な手段になるんですね。例えばチョウチンアンコウなんかはよく言われるんですが、エサを見つけるときや、おびき寄せるときに光を使いますね。あるいは、敵に襲われたときに光を出して、その間に逃げたり、自分の繁殖相手などを見つけるときに、同じような光り方のパターンをして自分の仲間を見つけたりというように、いろんな手段として光は使われています」

●“光る”と一口に言っても、光の使い方はさまざまなんですね。光る方法にはどういうものがあるんですか?

「大きく分けると2つのタイプがあるんですよ。ひとつめは自分で光る物質を作る、というタイプです。これはホタルと同じようなものですね。もうひとつは光るバクテリアを自分の体に共生させて、その光を使うというパターンです。この2つのパターンが多いですね」

●光り方も違ってきたりするんですか?

「そうなんですよ。例えば、光がクルクル回るように光るクラゲとか、体から光の粉を出すように、液体みたいなものを出す生き物とか、いろんなパターンを見せてくれますよ!」

●そうなんですね! あともうひとつ、深海生物といえばやっぱり、ダイオウイカのイメージがあるので、“大きい”というのも、深海生物のひとつの特徴なのかなと思うんですが、それについてはどうでしょうか?

「今回の展示も、かなり“巨大化”をハイライトにしているんですが、正直に言って、なんで大きくなるのかはわからないんですよ」

●そうなんですか!?

「ただ、仮説というか想像のように思っているのは、深海って基本的に水が冷たいので、そうすると生き物の代謝が遅くなるんですね。代謝が遅くなると長生きできるので、大きくなれるのではないか、という説はありますね」

●なるほど。最近話題になっている深海生物“オンデンザメ”が長生きなのも、深海の環境がそうさせている、ということなんでしょうか?

「よくご存知ですね! 特に話題になったのは“ニシオンデンザメ”といって、北極のほうにいるんですが、より冷たいところにいるので、代謝は遅いはずですね。なので、長生きなんだと思います」

●なんだか、私たちの長生きの秘訣がそこにあるような気がしますね(笑)。それも研究してみると、何か見つかるかもしれませんね。

「私だけ長生きしているかもしれませんね」

一同「(笑)」

●大きいということは、生き物にとっては捕食者に見つかってしまいやすく、不利なんじゃないかなとも思うんですが、それについてはどうですか?

「おそらく見つかりやすくなるとは思いますが、大きければ大きいほど、襲われにくくなりますよね」

●あ〜、そういう一面もありますね!

「早く大きくなるのはなかなか難しいかもしれませんが、大きくなれる生き物ほど、深海では生き残れたのかもしれませんね」

●それが生き残るための戦略だった、ということですね!

日本は海洋生物の宝庫!

※深海は特殊で過酷な環境ですが、一体どれくらいの深さから“深海”なのでしょうか?

「生物学的にいうと、だいたい200メートルです。太陽の光は海の中にも入っていきますね。最初に食べ物を生産するのは植物なんですが、その植物が元気よく活発に育つことができる光の強さが届くのが、だいたい200メートルまでなんです。なので、200メートルを境にして、それよりも深いところを“深海”と私たちは呼んでいます」

●一番深いのはマリアナ海溝ですが、だいたいどれくらいの深さがあるんですか?

「1万920メートルですね。また、海の平均水深って3800メートルなんですよ。富士山を逆さにしたぐらいの深さなんです」

●海の平均水深ってそんなに深いんですね!

「地球の表面の7割は海ですよね? そして、海の平均水深が3800メートルで、200メートルより深いところが深海だとすると、地球上で生き物が生きている領域やエリアで、一番広いところが深海なんですよ」

●ほとんど深海なんですね!

「そこにいろんな生き物がいるわけなので、その生き様を知らないことには、“私たちが地球の生き物を理解したことにはならないでしょ?”ということですね」

●私たちはまだ、ほとんど地球のことを知らないということが改めてわかりました。ちなみに、日本の近海はだいたいどれくらいの深さがあるんですか?

「一番深いところで9000メートルをちょっと超えるぐらいですね」

●日本の近くでもそんなに深いところがあるんですね。

「みなさんも、もし機会があったら日本の周りの海底地形図をご覧になっていただくとわかりますが、日本の周りの海ってすごくバランスがいいんですよ。例えば水深を1000メートルごとに区切ったときに、どのくらいの容積があるかというと、いい具合にほとんど同じくらいの比率があるんです。いろんな深さがバランスよくあるので、日本の周りの海の環境はバラエティに富んでいるんですよ。なので、最も海洋生物の種類が多いのって、日本の周りなんですよ」

●そうだったんですか! なんかちょっとうれしいですね!

「世界一ですよ!」

●豊かなんですね! では、レアメタルなどの深海に眠る資源は豊かなんでしょうか?

「一言でいうと、相当豊か“らしい”ということですね。“排他的経済水域”と言いますが、それが世界で6位ぐらいの、非常に広大な容積があるわけなんですが、そこを見てみると結構な資源があるんですよ。例えばエネルギー資源としては、最近よく名前が出るようになりましたが、メタンハイドレートなどがかなりあります。鉱物資源としては、マンガンノジュールとかレアアース、レアメタルと呼ばれる、今の私たちには欠かせない、いろんな電子機器を作る際に必要なものが、どうも日本の周りにはたくさんありそうだ、というのがわかってきましたね」

●それは今後、私たちが有効活用できそうなものなんでしょうか?

「そこを有効活用できるかどうかというのを、今まさに日本が国をあげて研究しているところです。まず、活用するためには、何千メートルという深いところから取ってきた場合に、採算が合うのかどうか。あと、そういった場所はユニークな生き物がいっぱいいることが多いので、そういう深海特有の生き物をどう保全しながら開発するか、というバランスなどを考えつつ、何とか使えないかということを調べています」

●なかなか難しそうですが、もし上手くいったら、かなり日本にとってはプラスになりそうですよね!

「かなりの資源大国になる可能性というのはありますね」

●そういう意味でも、やっぱり深海の研究はすごく大事ですね。

「そう思いますね」

スライドショーインデックス>>  1  2  3  4

深海生物の食物連鎖!?

※私たち地上の生き物には食物連鎖があって、生態系は肉食動物から植物まで、いわゆるピラミッドのような形になっていますが、深海ではどうなっているんでしょうか?

「生態系、エコシステムというものを考えた時に、“どんな生き物が、どれだけいるか”ということをコントロールするような仕組みがあると思うんです。有名なのは、陸上の例なんですけど、アメリカに“イエローストーン国立公園”という有名な公園があるんですが、実はそこで大きな問題が起きました。
 その公園はとても綺麗なところなんですけど、かなり前にオオカミを人間が駆逐してしまったんですよ。オオカミはその国立公園の森林の中で、生態系ピラミッドの一番上の捕食者“トッププレデター”だったんですね。それがいなくなったために、シカの仲間がいっぱい増えてしまいました。ご存知の通り、シカは草食動物なので、シカがたくさん増えてしまうと森林や草木を食べ荒らしてしまうんですね。すると他の草食動物がいられなくなってしまい、もともとあった生態系のバランスがめちゃくちゃに壊れてしまったんです。
 生態系のトップにいる生き物が、その生態系の多様性や構造を決めているという、“トップダウン・コントロール”という仕組みがあるんですが、それがなくなってしまうと困ってしまいますよね。そこで、イエローストーン国立公園では、オオカミをもう一度戻したんです。それによって、従来の自然の姿に回復しつつあります。

 そういう“トップダウン・コントロール”って、浅い海にもあるということはわかっているんですが、“じゃあ深海にはあるの?”と考えた時に、私たちはそれも知らない間に、実は深海の魚をたくさん獲って食べちゃっているんですね。例えばタラの仲間とか、または深海にいるサメなど、私たちが獲っている深海の魚はしばしば大型魚なんです。
 海の場合、“体が大きいほど生態系の上位捕食者である”というセオリーがあるので、もしかしたら深海のトップにいる連中を、私たちは知らず知らずのうちに食べちゃっているのかもしれません。となると、それによって、もともとある深海の生態系というものを壊しているんじゃないのかな、ということを最近思い始めたんですね。そこで、これまでどんな研究がされてきたか、ということをずっと調べていくと、意外にもどんな生き物が深海のトップにいるのかがわかった例というのは、ないんです。

 なので私たちは今、深海のトップにいる生き物は何なのか、ということを研究しているんですが、この研究はのんびりやっている場合ではないんですね。実は年々、世界中の漁業って、水深が深くなっているんですよ。今はだいたい、平均すると500メートルぐらいの深さから獲っています。ですから、早く深海にトップダウン・コントロールがあるのかどうかを明確にしなければいけません。そして、もしあるとすれば、どんな生き物がトップにいるのか。そして生態系を保全するのであれば、トップにいる生き物はちゃんと考えて獲らないといけない、ということまで考えながら研究を行なっています」

スライドショーインデックス>>  1  2  3  4  5  6

深海研究スゲーよ!

※それでは最後に、藤倉さんが感じている深海の魅力について、うかがってみましょう。

「最初は“海は広いな、大きいな”の世界でした。しかし今では、深海生物を研究していて、“なんでお前たちはそこで生きていられるの?”ということを知りたいわけですよ。少しずつはわかってきていますが、まだまだ本当の姿は見せてくれませんね。常に難しい問題というものを目の前にぶら下げられて、それを追いかけもなかなか捕まえることができないような場所、それが深海ですね」

●研究するにしても、すぐにできるものでもないですし、大変ですよね。

「そうなんですけど、逆にいうと“深海に行った私たちにしかわからないでしょ?”というのは、少しウフウフ言えるところです(笑)」

●なるほど(笑)。深海って、潜られた方はみんな“本当に美しい!”とおっしゃいますね。

「美しいですよ〜!」

●一度、見てみたいなぁ。

「ぜひ!」

●ちなみに、藤倉さんが一番好きな海洋生物は何でしょうか?

「今回の展示にも出しているんですが、私が少し目をかけているというか、ウフウフしながら見ているのが、“ホネクイハナムシ”です」

●どんな生き物なんでしょうか?

「死んだクジラの骨から出てくるムシですね」

●えー!?

「そのムシには、植物のように根っこがあるんですよ。そして、その根っこをクジラの骨の中に張りめぐらせるんです。大きさは、大きくても1センチぐらいです。そのムシには茎が1本あって、その先には花びらのようにエラが4本あるんですよ。一番想像しやすいのは、“マンジュシャゲ”ですかね。“彼岸花”とも呼ばれていますが、そんな形の小さなムシがクジラの骨にいーっぱい生えるんです。それはある意味、たくましさというか、“すげぇな”と思いますよ」

●そういうたくましさに魅力を感じてらっしゃるんですね。今回の展示でも見ることができるんですよね。

「ぜひ、見てみてください! ただ、すっごくちっちゃいので、今回の展示の中で見つけるのは困難です(笑)」

●ぜひbayfmのリスナーの方は、ホネクイハナムシに注目していただきたいと思います! では最後に「深海2017」の見どころを教えてください。

「2013年にも、ここ上野にある国立科学博物館で深海の特別展をやったのですが、前回はダイオウイカとか“深海生物スゲーよ!”“深海スゲーよ!”というイメージで展示しました。今回は“深海研究スゲーよ!”というイメージで展示しています。
 例えば、深海生物研究をやると、生命の起源や地球外生命、深海でどうやって進化に適応しているか、といった生物学の根源的なものがわかってきます。また、東日本大震災がどういうメカニズムで起こって、どんなことが起きて、なぜあんなに津波が高くなったのか、ということを如実に解明しています。
 さらに、日本の周りはどうやら、いろんな資源が豊からしく、そういったものをちゃんと利用できると、ある意味で人類を救えるということも考えられます。そして、そう言っている一方で、地球温暖化など、いろんな地球上の問題があるわけですが、実はその問題は深海にも及んでいる、という警鐘も鳴らしています。
 深海を研究するということは、“生き物や地球を理解するとともに、人間の持続的な発展を支えますよ”ということを強く訴えた展示になっていますので、ぜひご覧ください」

YUKI'S MONOLOGUE 〜ゆきちゃんのひと言〜

 生命の起源から、地球の資源まで、私たちの今抱えている大きな問題の解決に、必要不可欠な「深海」。
 でもそれだけではなく、どんなに過酷な環境でも、自らの姿や特徴を変えて、たくましく生きる深海生物達の生き様を見ると、なんだか明日からの勇気をもらえそうな気がしました。

INFORMATION

特別展「深海2017〜最深研究でせまる“生命”と“地球”〜」

 藤倉さんが総合監修された特別展では、光るクラゲの映像や、透明の頭の中に大きな緑色の目を持つ深海魚の展示、貴重な映像と多くの生物標本による「生物発光シアター」、そして、ダイオウイカよりもさらに大きいといわれているイカの標本の一部、深海の巨大なサメ「オンデンザメ」の標本展示など、見所満載!
 上野の国立科学博物館で、10月1日まで開催しています。
入場料は一般と大学生は1600円、小・中・高校生は600円です。
詳しくは国立科学博物館のホームページをご覧ください。

 藤倉さんの研究については以下のサイトを見てください。

今週のオンエア・ソング

オープニング・テーマ曲
「(MEET) THE FLINTSTONES / THE B-52's」

M1. UNDER THE SEA / LITTLE MERMAID ORIGINAL BROADWAY

M2. Deep Blue / Leyona

M3. BITTER SWEET SYMPHONY / THE VERVE

M4. My Way / Def Tech

M5. IT'S A VERY DEEP SEA / THE STYLE COUNCIL

M6. まあるいいのち / イルカ

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」