2017年8月12日

知らないものは守れない。好きなものは守りたい。
〜筑波実験植物園『水草展』

 今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、国立科学博物館の研究者、田中法生(たなか・のりお)さんです。

 1970年、東京生まれの田中さんは、理学博士。水草の進化や分布などを研究され、進化の歴史の中でも特別な存在「水草」をこよなく愛し、水草の保全にも取り組む、日本では数少ない水草の研究者です。以前出された『水草を科学する』という本は、水草をわかりやすく解説した本として大変注目されました。
 そんな田中さんがプロデュースした「水草展」が現在、筑波の国立科学博物館で開催されています。今回は、まだまだ知らない水草の世界に迫ります!

ひとつの体に2種類の葉っぱ!?

※まずは、水槽の中にある緑色の水草について、教えてもらいました。

●この水草は、何という名前ですか?

「これは“ナガレコウホネ”という水草なんですけれど、葉っぱに注目をしてほしいんですね。よく見ると、ほとんどの葉っぱは水の中にありますよね。この葉っぱに触ってみてください」

●葉っぱに触っていいですか。あ、なんかヌルヌルしてますね、柔らかい!

「薄さはどうですか?」

●薄いですね。ワカメみたいな感じです。

「海藻みたいですよね。その一方で、すぐ隣にある、同じ個体から出ている葉っぱも触ってください」

●あ、形も全然違いますね。実際に触ってみると、硬いですね。普通の葉っぱと同じような感触です。

「まさにおっしゃる通りです。実はですね、水草の大きな特徴として、“ひとつの体の中に違うタイプの葉っぱをつける”というのがあるんです」

●水中にある葉っぱが上にあがってきて形が変わったんじゃなくて、もともとふたつのタイプの葉っぱを持っているんですね!

「そうなんですよ」

●何のためなんですか?

「いい質問ですね。これ(水面に浮かんでいる葉っぱ)は、乾燥に非常に強いんですね。この葉っぱは水をはじくんですよ」

●本当だ。撥水加工みたいになってますね。

「そうですね。これ(水中にいる葉っぱ)は完全に水に濡れていますよね。だから、水の中にあるワカメみたいな葉っぱは、水の中でしか生きられないんですよ。けれど、水面に浮かんでいる葉っぱは、仮に水の水位が下がってしまって、水がなくなってしまっても、そこそこ生きられるんです。当然、自然の湖や川などでは、水位はすごく変わりますよね。そういった変化にも対応できるように、こういう性質を持っているんです」

●なるほど、すごいですね! 他にも、陸上と水中で違う種類の葉っぱを持っている水草はありますか?

「ありますよ! では、隣の水草を見てみましょうか。これはですね、“ホザキキカシグサ”っていう水草なんですけれど、どんな違いがありそうですか?」

●まず、葉っぱの形が、小指の爪ぐらいの小ささなんですけれど、陸上にある葉っぱは丸くて、水の中に入っていくと細長くなっていますね!

「まったくその通りです。水中にある葉っぱは、水の中から空気を取り込むんですね。なので、細く長くなって表面積を増やすことで、水の中から空気を取り込みやすくなるんです。つまり、“水の上”“水の中”という、非常に違う環境に対して、形を変えて適応しているということになります」

●すごいですね! この“キワキワ”の部分といいますか、境界線の部分は、どうやって判断しているんですかね? 何でこの部分で変われるんでしょうか?

「これについては、種類によっては明らかになりつつあるものもあるんですね。全ての種類はまだわかっていないんですけど、おそらく、水の中に入っていることと入っていないことを、植物は感知していて、それによって出す葉っぱを変えている、ということがわかっています。何で水草が、こういうことができるのかということを、ぜひ考えてみてほしいんです」

●何でこんなことをできるようになったんですか?

「これはすごく大事なことなんですが、水草っていうのは、はるか昔からずっと水の中にいたわけではないんですね。水草の祖先は陸上の植物なんです。陸上の植物は当然、陸上に適応していたわけですから、乾燥に強い葉っぱを持っていたわけですよね。そこから水の中に入ることによって、水の中に適した葉っぱを持てるようになったわけですけど、そうなってもなお、陸上で適した葉っぱを作る能力をそのまま持ち続けているわけです。ですから、このような、“陸上と水の狭間”みたいな所で生きていても、その両方をまかなうことができるんです。それが水草の強みというか、すごさですね」

●なるほど!

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貴重な水草、ここにあり!

●今回、私たちは特別に、植物園のバックヤードに入らせていただいているんですけれど、ここには貴重な水草がいるんですよね!

「正直、このバックヤード自体が、私からすると“宝の山”なんですけど(笑)、その中でも今回、水草展で展示するもので、本当に貴重なものを紹介したいと思います。この水の中を見ていただきたいんですが、これは“ムジナモ”という水草です。葉っぱのところをよく見てほしいんですけれど、葉っぱの先端がちょっと変な形をしていますよね」

●そうですね。空気が入っているんですかね?

「よく観察できていますね! そうなんです。スプーンがふたつに重なったような形をしていますが、実はこれ、食虫植物なんですよ」

●ええ、そうなんですか!?

「このふたつのスプーン状のところが開いている状態で待ち構えていて、この間にミジンコなどが来ると、スプーン状の部分を閉じて消化しながら生きているという、すごく変わった水草です」

●こんなにちっちゃいのに、そんなに高度なことをしているんですね!

「しかもこれ、本当に貴重でして、今、日本でこのムジナモが自生している場所っていうのが、一箇所だけなんですね。しかもその一箇所は、埼玉県の羽生市というところにあるんですけど、そこは毎年のように地元の方が活動して、ようやく維持できている場所なんですよ。なので実質的には、本当の野生の種はいない状態だったんですね。
 でも、地元の方々のすごい行動力のおかげで、この数年はムジナモが野生の集団として復活しつつあるんです。つまり、増殖したものを投入しなくても、自分たちだけで増えていける状態になりつつあるという、非常に貴重な事例だと思っています。本当に感服するんですけれど、何十年もの間、地元の方々がその活動をやってらっしゃるので、そういった気持ちが日本の野生植物の保全をすごく支えていると言ってもいいと思います」

※私たちは、違うバックヤードに移動します。

●これは、何ていう水草ですか?

「“ネジリカワツルモ”という水草で、本当に地味な水草なんですけれど、よく見ると花の柄のところがグルグルねじれるんですよ」

●何重にもねじれていますね!

「これがすごい大きな特徴なんですが、以前は佐渡島にだけいる水草だと思っていたんですね。ところがDNAを使って研究してみると、実はこの水草、オーストラリアの方にいる種類と全く同じだということがわかったんですよ。逆に言ったら、そんなに離れたところに同じ種類がいるということは、どちらかからどちらかに、おそらく鳥だと思うんですが、鳥が8000キロぐらい飛んでどちらかの場所に移動したということが、一番確からしい考えとなっています。これは実際に論文でも認められているので、事実だと思うんですけれど、そういうことがわかったということが、非常におもしろいですね。
 それで、日本中を確認してみると、やっぱり佐渡島にしかいないということがわかったんですよ。つまり、貴重なわけじゃないですか。ところが最近、佐渡島の自生地の環境がすごく悪化してしまって、今ではほぼ野生が絶滅状態になっています。なので、栽培下のものだけが残っているという、極めて貴重な水草になっています。この水草も、水草展で展示しますが、進化の道筋もおもしろいですし、希少性という意味でも、ぜひ保存して、ゆくゆくは野生に戻したいなという風に考えています」

※ここで長澤が、ひときわ存在感のある水草を発見しました!

●田中さん、ものすごく強そうな子がいるんですけど(笑)、これは何ていう水草ですか?

「これは“ボタンウキクサ”という水草ですが、もう容器いっぱいに生えちゃってますね」

●キャベツみたいにモリモリしていますね!

「下がどうなっているかわからないと思うんで、一度ボタンウキクサを持ち上げてみますね」

●根も太っ(笑)!

「もう、ものすごいことになっています。完全に水の上に浮いているので、根がすごく発達していて、根からすごく吸収するんですよ。実はこれ、非常におもしろい水草ではあるんですけど、特に西日本より南の水域でものすごく繁茂してしまって、もともとも日本在来の水草の生育地を奪ってしまうという、残念な状況に今はなっています」

●何でこの子たちが来てしまったんですか?

「入ってきた原因については、あまりよくわかっていないのですが、少なくとも人為的な、つまり人が移動させたということは間違いないと思います。なんだろうね、水草自体には罪はないのに、すごい悪者扱いになってしまっているんで、可哀想だなと思いますね」

●住む場所を間違えてしまっただけなんですよね。

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アクアリウムを作ろう!

※「水草展」でとっても綺麗な水槽を見つけました!

●なんか、水の中に潜って見ているみたいですね。

「そうですね。僕はこういうのを作る能力はないんですけれど、野生の水域をたくさん見ている自分としても、非常に野生の姿をうまく取り入れて作られているなぁと、いつも感心しています」

●今、アクアリウムが流行っているじゃないですか。普通に熱帯魚とかを飼う水槽との違いはあるんですか?

「もちろん、水草がなくても水槽は成立すると思うんですけど、水草があることによって、その水域の生態系がよりリアルに再現できるんじゃないかと思いますね」

●実は私、いつか自分の家にこんな水槽やアクアリウムを置きたいなっていう、密かな夢があるんです(笑)。

「ですよね〜!」

●アクアリウムの作り方って、教えてもらうことはできるんですか?

「もちろんです! 今、私たちが見ている水槽のような、立派なものを作るのは、いきなりは難しいので、まずは小さいガラス水槽でやってみましょうか!」

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※それでは、いざ、アクアリウム作りに挑戦です!

●田中さんがアクアリウムの作り方を教えてくださるんですか?

「私は水草には詳しいんですが、こういうのを作るのはあまり得意ではないので(笑)、アクアリウム制作の専門家として、H2(エイチツー)という会社の内村祐斗(うちむら・ゆうと)さんに紹介していただこうと思います」

●わかりました。では内村さん、よろしくお願いします!

内村さん「よろしくお願いします」

●私、ちょっと不器用で、こういうの作るの初めてなんですけれど、大丈夫ですかね?

内村さん「大丈夫だと思います!」

●では、早速作っていきたいと思います。水槽として使うのは、花瓶みたいなものですか?

内村さん「花瓶とか、あとはお花を生けたりして使うようなガラスの容器になります。今回はこれに砂を引きまして、水草を植えてちっちゃなアクアリウムを作っていただきます」

●どうやってやればいいか、教えてください!

「今回はあらかじめ、砂と水をすでに入れておきましたので、水草を植えていただこうと思います。今回は4種類の水草をご用意させていただいたんですが、ワークショップ期間中はだいたい15種類前後、ご用意させていただいております。こちらのハサミを使っていただきまして、水草を好きな長さに切ってからピンセットで植えてください」

●綺麗に見せるコツはありますか?

「実際に作っていただいたアクアリウムは持ち帰っていただいて、ご自宅でもお世話していただくことになります。なので、ご自身で好きなものを作っていただいた方が、このあと愛着がすごく湧くかと思いますので、自由にやっていただくのがいいかと思います」

●わかりました! なんか、“自由に”と言われると、本当にめちゃくちゃになってしまいそう(笑)。大丈夫かな。じゃあ、私のセンスを信じてやってみようと思います!

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まもろう! 野生の水草

※さあ、それでは実際に“野生”の水草には、どんなものがいるのでしょうか。身近なところとして、水田の水草についてうかがっていきます。

「実は結構、水田は多様です。いろんなタイプのものがいます。それこそ、水の上に浮いているものや、水の中に根を伸ばしているもの、水の中から葉っぱを水上にあげて生育しているものなど、いろいろいます。正直、水草のすべてのパターンが水田の中にあると思います」

●じゃあ、全部のパターンを一気に見られるかもしれないんですね!

「そうですね!」

●例えばルーペを使ったり、写真を撮ったりと、観察するときのポイントはいろいろあると思うんですが、水草に関してはどうですか?

「特にルーペが必要になってくると思います。水草の場合は、例えば小さな浮き草や水の中にいるものにしても、とにかく花が小さいものが多いんですよ。例えば象徴的なものに、世界一小さい花を持つ“ミジンコウキクサ”がありますが、普通の浮き草であっても非常に小さいですし、ほかのものについても、小さいのが多いですね。さらにいうと、水草を見分けるポイントについても、例えば葉っぱの先端の、ほんのちょっとの違いから見分けることも多いので、ぜひルーペか虫眼鏡を持参して水草を見ていただいた方がいいと思います」

●夏休みの自由研究とかにも良さそうですね!

「ぴったりだと思いますよ!」

●ただ、水田の場合は私有地が多いので、そこは注意が必要かもしれないですね。

「そうですね。私はいつも、周辺の人にまずは“少し観察させていただきます”と断りを入れます。これを言って“いや、ダメだ”と言われたことは一度もないので、皆さんもそれは快く対応してくださいます。ただ、注意していただきたいのは、初めて歩く方は畔(あぜ)を壊してしまう可能性があるんですね。それはすごく農家の方は嫌がるので、崩れやすい畔は歩かないで、しっかりした畔だけを歩くようにした方がいいと思います」

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●水草にとっても、環境を壊すような観察はダメですからね。では最後に、改めて今回の水草展の見どころを教えてください。

「今回の水草展のサブタイトルは、“まもろう! 野生の水草”となっています。もちろん、守ることは重要なんですけれど、基本的には多くの人に野生の水草を知ってもらいたいんですね。最近は、水草やグラスアクアリウムなどで、水草を楽しんでいる人が多いんですけれども、野生の水草の魅力を知ればもっと楽しむことができると思うんですね。
 それは、今日色々とお話をしましたが、例えばいろんな形の葉をつけたり、いろんな場所に棲んでいる、ちょっと変わった花を咲かせるなどといったことは、野生の中にいてこそ進化してきたし、野生の中でこそ見ることができるんですね。ですから、野生の魅力をまずは知っていただきたい。そして、ぜひ野外で見ていただきたい。そうすれば、これは私が水草を好きだからかも知れませんが(笑)、おそらく皆さんも水草を好きになっていただけるんじゃないかと思います。
 これは持論なんですが、知らないものは守れないと思いますし、好きなものは守りたいと思うんですね。ですから、まずは水草を知っていただく。そして好きになってもらう。それによって、最終的には水草を守る力になっていただければな、と思っているんですね。それが、今回の水草展の大きな目的というか、伝えたいことですね」

※この他の田中法生さんのトークもご覧下さい

YUKI'S MONOLOGUE 〜ゆきちゃんのひと言〜

 実は前回水草のお話を伺ってから水草が気になってしまって、水辺に行くとたまに観察をしていたんですが、何でこんな形になったのか、何でこんなところにいるのか、不思議に思う事が多かったんです。
 でも今回田中さんにお話を伺って、それは水草の進化の歴史と創意工夫なんだという事がわかりました。ますます水草にはまっちゃいそうです。

INFORMATION

『水草展』

 田中さんがプロデュースされている『水草展』は現在、国立科学博物館・筑波実験植物園で開催中です! ここでしか見られない水草の展示ほか、野生の水草の見つけ方、さらに「自分だけのアクアリウムをつくろう」など、体験コーナーも充実。世界一小さな「ミジンコウキクサ」の花を顕微鏡で拡大して見られますよ。咲いていたらラッキー!? 日本を代表するプロのレイアウターによるアクアリウムの水槽もお見逃しなく!
 開催は8月20日(日)まで。入園料は大人310円です。
 詳しくは国立科学博物館のホームページ内詳細ページをご覧ください。

今週のオンエア・ソング

オープニング・テーマ曲
「(MEET) THE FLINTSTONES / THE B-52's」

M1. IRRESISTIBLEMENT / SYLVIE VARTAN

M2. MYSTERIOUS WAYS / U2

M3. ENDANGERED SPECIES / DIANNE REEVES

M4. 夏の少年 / NILO

M5. UNDER THE SEA / LITTLE MERMAID ORIGINAL BROADWAY

M6. 小さな生き物 / スピッツ

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」