2002.2.24放送
女優・中嶋朋子さんを迎えて
ドラマ『北の国から』の蛍ちゃん役でおなじみの女優、中嶋朋子さん。今では1児の母となり、昨年『雑草の生活』(新潮社)というタイトルで、エッセイ集を出版されました。その本の中にも登場するんですが、中嶋さんは大の散歩好き。ということで、会話は散歩のことからスタートしました。
「都会に住んでいるので、町の細い路地とかに入っていくと未知の世界がいっぱいあるし、東京って意外と自然が豊かだったりするんですよね。家に帰ってから見つけた花を図鑑で調べたりしているうちにはまっていって、散歩というものが自分の中で豊かになってきたんです。」

この本『雑草の生活』にも、夜の散歩はストレス解消に最高、と書かれていますが。
「夜ってすごく豊かで、ちょっと静かになると葉っぱの音や風の音、いろんな音に気がつくんです。そうすると、今日聞こえてきたいろいろな音、自分の発した音とかがクリアーになっていくという感じがするんで、特に夜は好き。自分のテンションが低いところできれいに整っていくんです。だからストレス解消にはお薦めです。」

旅も大好きなんですよね。
「好きですねぇ。北海道で育ったようなものなので、大きい空とか、土の匂いとかが凄い好きで、自分の大事な一本の線に触れるものなんです。だから、大きな空が見れるアメリカとかに行くのが好きだし、建物を楽しむというよりはネイチャー派なんです。」

大きい空、大きい大地といえば、アフリカ。中嶋さんはチーターとも散歩したとか?
「面白かったですよ。ある番組で行かせてもらったんですけど、ちょうど発情期の頃行ったので、オスはメスにだけ集中している。メスはオスにだけ集中しているんですね。人間がそばにいても平気なんですよ。興味ないから。もちろん、サバンナのど真ん中だったらわからないけど、そこは保護地区だったので、横にチーターが5〜6頭、雑魚寝状態でお見合いしてるんでよ。だからそこに私がいても、メスがいれば私なんかお構いなしで、メスの方をジーッと見てるんです。で、ふられたなと思ったら、悲しそうな顔してこっちを見たりするんですよ。」

あっ、やっぱり寂しそうになったりするんだ。
「いるんですよ。いろんな性格のやつがいて、押しの弱いやつがいたり、気の強い女の子がいたり、面白くて見てたんですけどね。チーターの散歩なんか凄くて、ナマ肉をトラックにぶら下げて、何キロと走るんですよ。」

やっぱり運動させなきゃいけないから?
「ケガのリハビリも兼ねてたり、ハンターの気持ちをずっと、高めておいてあげなければいけないから、ナマ肉ぶら下げて何キロと走破するんですよ。もう、凄い野生って感じで。」

でも、その時はチーターはナマ肉に集中してるんですよね。
「そう。追いかけるという楽しさと、食べたいっていうのと、もうそれだけ。シンプルですね。嬉々としてるというか、楽しそうだなというのがわかるんです。大事にしなくちゃいけないというのもあるんですけど、食べて食べられて生きているという凄いシンプルな感じが、その旅ではわかったんですね。」

私もアフリカには行ったことがあるんですけど、今でも残っているのは星空のきれいさ。
「ねぇーっ!!凄かったです、私も。星と星との距離感がわかるっていうのは初めてだった。あの星はあの星の後ろにあるんだぁとか。だから大きい自然のところに行くと、本当にシンプルな形がクリアーに見えてくるというか。例えば、自然を守らなきゃぁとか、よくいうけど、ちょっとおごってたかなと思ったことがあって、グランド・キャニオンに行ったときに、グランド・キャニオンの影は、キャニオンに出てるんだけど、自分の影がどこにも出ないんですよ。キャニオンのてっぺんにいて、飛び跳ねたり、手を振ったり、一生懸命にやるんだけど、私の影が探せなくて、“なんて、ちっぽけなんだろう。影ひとつ落とすことが出来ない”っていうのにがく然として。それと同時に気が楽にもなったの。私って、まだまだちっちゃいし、自然に守ってもらってるじゃん、って思ったら、ヒステリックなぐらいゴミの分別をしてた時期があったんだけど、少しゆったりと自分のペースに立ち返ることが出来たんですよね。」

北海道の富良野で育ったような中嶋さんなんですが、今の中嶋さんにとって富良野で育ったことというのは、大きいものですか?

「ものすごく大きいですね。ごくごく自然と大きい空を見ていたり、ふっと脇を見ると、熊笹にクモが這っていたり、そういうものに囲まれながら、ちょっと歩くと山葡萄がなっていて、それをほお張ったり、そういう経験を同世代でしている人はあんまりいないから、ものすごく豊かだったと思うし、ものすごい寒い、ものすごい暑い、一歩奥に入ったら帰ってこれないという厳しさも知ったので、それが根底にありますね。」

リスナーの方の多くは蛍ちゃんのイメージを持っていると思うんですけど、お仕事で行っていたとはいえ、子供の頃はあんな感じ?

「あんな感じ。あんなに泣いたりしなくて良かったし、悲しいことなんて何もなかったけど。あの一家、大変なんでね。でも、吉岡君をお兄ちゃんって呼んでるし、田中さんのことも、今は邦さんていうけど、お父さんって呼んでたし。普通に遊んでるところをVTRにとられたこともあったし。ドラマの時は待ち時間が長いんです。そういうときに、その辺の棒切れを使ってチャンバラとかしたり、屋根から落ちてきた氷の塊をお兄ちゃんと彫って、大きな魚とかを作る彫刻ごっこをしたり。本当にいろいろなことをしてましたよ。だけど、住まうということは、本当に厳しいことに直面しますけど、そういうところははしょっているから、どんなに厳しいといっても、特殊な状況の中での厳しさだから、アトラクションにも近いものだったと思いますね。だからやっぱり、旅人であって住人ではない。その両極にいた自分が自然を見つめたり、都会を見つめたりすることによって、都会の中で自然を探すっていう妙なことがあって、不思議なフィルター、いろんなファインダーを持つことが出来たと思いますね。」

何でも中嶋さんは虫が大好きということなんですが、それも幼いときの自然体験のせい?
「だって、山道で30分とか待たされることがあるんですよ。しかも、ケモノ道のようなところに立っていて、そこから動くと、雪のシーンだとすれば、雪を壊しちゃうから動いちゃいけないんですよ。熊笹が覆っているところでもじっとしてて身動きできない。そうすると、自分が立っているところから360度、見渡して遊ぶしかない。空を見たり、鳥が来たり。そんな中で一番身近だったのが虫達だったんです。足下に来るクモとか、熊笹にいる赤いダニちゃんとか。すべてが友達でしたね。」

動けない状況だからね。
「そう、普通だったら見ないような、足の運びとかを10分とか見てると愛着も湧くし、新しい発見もあるんですよ。“その足から動いて、次は後ろなんだ”とか見てると、“スター・ウォーズのあれはここから来てるんだ”とか、いろいろな空想が入り交じって楽しくて、クモがいると“おっ”と見ちゃう。」

珍しいですよね。
「好きなんですよ。アリの行列とかを見てると、そこに石をわざと置いて“これは君の山だ。登れ!”とかやってるんです。“じゃぁ、川を作ろう”とかいって、川を勝手に作っちゃったりして。大迷惑、アリにとっては。」

中嶋さん、お子さんが出来てから生活も変わったと思いますが、それでもお子さんと一緒に散歩には出るんですか?
「子供は散歩が大好きなので、寒い日にも越冬隊のような格好をして行ってますね。」

本を拝見してると、独身時代よりも優れた感性のもとで、ものを見られるようになっているのかもしれないって思うんですけど。
「子供が見て探してくれるものは、低い目線で素直な感性で凄いものを見てるんですよ。そんなもの見ないよっていう奥の奥に、素敵っていうものを見つけたり。」

独身時代に見つけて、今お子さんと楽しんでいるもので、バライチゴがありますね。
「はい。雑草なんですけど、前に住んでいたあたりに生えてて、四季で変わる姿を見てたんです。白いお花が咲いてかわいいんだけど、凄いトゲがあって。で、赤い実がなって、おいしそうで、食べられるということがわかって、食べたらおいしかったんです。どうやって育つかなんて知らなかったから、その実をまた取ってきて、そのまま土に植えたんです。でも全然芽が出ないままダメだなと思ってたら、2年ぐらいたった時に、見たことある葉っぱが出てる植木鉢があって、“バライチゴじゃない。育ってたんだ”って。その頃にはもう子供がいたんで、これは子供と楽しめると思って。雑草なんで、あっという間に他のものを押しのけて成長して、たわわに実っていただきました。」

本読んでるだけで、おいしそうだなと思ってたんですが、今、都会のおかぁさんたちって、子供が見つけた宝物を“ばっちぃからダメ”っていうことが多いじゃないですか。もちろんダメなものもあるんだろうけど、それがおいしいと味わえる中嶋さんとこのお子さんは、逆に幸せだなぁって。
「何でも口に入れる時期があったんですよ。だからまず教えてねって。それで二人で観察して、わからなかったらウチに持って帰って野草図鑑を調べて、食べられるとわかれば食べるし、食べられなかったら、“これは他に誰が食べるでしょう。虫かなぁ、鳥かなぁ”といって、また違う世界に旅立っていくんですよ。そういう遊びをするようになったら、これなぁにって聞いてくれるようになったから、全然安全ですね。」

お母さんとしては、どういうふうに育って欲しいですか?
「全然わからないんです。凄い個人だなってことばかり実感するんですよ。決して所有物じゃないし、付属でもないし。確かに保護してあげなければいけないけど、尊重してあげなければいけない個人だと感じる。子供から教わることも多いし。何になりたいのって聞くと、ナントカ・レンジャーとか言ってますし、この間までは救急車とか言ってたから、頑張ってねって言っといたんですけどね。自分で自分のものをすべて見つけて、手にして、全部自分で耕していって欲しい。それだけ。彼が一番大事にするべきものを取り除かないように、変な除草剤を使わないように、それだけ気をつけてるって感じですね。」

21年同じスタッフでやってる『北の国から』も、今回これで最後ということで、また厳しい寒さの中、蛍さんをやるわけですが、やはり長い間行っていると慣れるもんですか?

「慣れない!ハハハ。寒い!でも、本当に防寒具が20年前より良くなったから、それだけ楽ですよ。前はチビっ子だったからよかったんです。テンションも高いし、体温も高いみたいな。で、また今度はウチのちびのすけと一緒に行くんですよ。倉本先生から出てくれって言っていただいて。その時も凄い悩んだんです。そんなこと勝手に決めていいんだろうかって。だけど、北海道に触れた自分が、私にとって一番の宝物だったから、それをもっとちっちゃいときから味わえる幸せの方にチャンネルを合わせてみて、彼に北海道を体験させようと思って、連れていっているんですけど、冬はどうなんでしょうか。」

いまのところの反応は?
「凄い楽しいみたい。全然違う遊びをしてるから。だから私は小さいころの自分を見せてもらってる。ホントにいろんなお勉強をプレゼントしてくれてますね、ウチのちびのすけは。」

『北の国から2002』、楽しみにしてます。

中嶋朋子さんの本の紹介
エッセイ集「雑草の生活」

新潮社/本体価格1,200円
このエッセイ集「雑草の生活」は、雑誌に2年半ほど連載していた記事をまとめたもの。番組の中で出てきたお話もたくさん掲載されています。この「雑草の生活」には「東京という大都会で自然を感じるということはとても大事なことだと思う」という中嶋さんの気持ちが込められています。文章だけでなく写真や絵も全部、中嶋さんの手によるもの。人柄の良さが表われているし、息子さんとの写真もあって、幸せ感が伝わってきます。

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