2002.11.10放送

遠藤秀一さんの"ツバルを救え"プロジェクト


  地球温暖化に伴なう海面の上昇で、サンゴで出来た島が危機に直面しています。このまま温暖化が進めば、南太平洋にある島国「ツバル」と隣りの「キリバス共和国」は確実に海に没し、そこに住む人たちは地球初の環境難民になるといわれています。今週は、そんな状況をひとりでも多くの日本人に知ってもらうために、キリバス共和国にある「クリスマス島」からクリスマス・カードが届くというユニークなシステムを考え、活動を行なっている「未分離デザイン研究所」の代表「遠藤秀一」さんを迎え、始めたきっかけや活動内容などを伺いました。

●油井さんから遠藤さんの話は伺っていて、クリスマス島からクリスマスカードを送っている方っていうことですけど(笑)、まず何がキッカケだったんですか。
「28歳くらいの時、ダイビングにハマって南の島の色々なところの海に潜りに行って楽しい思いをしていたのですが、その時にタンクを背負って海の中に入ることは非日常的なことで、かなり苦しい事なんですよ。で、上がってきた時に外の空気を吸うと、「空気っていいなーっ」て思うわけです。そう思った時に、空気のことなんていつも意識しないじゃないですか。だから空気を意識する瞬間というのがそこで生まれるんですね。その時、世界中を空気が取り巻いているというイメージを初めて馳せることが出来たんです。そして今潜っていた海というのも地球を取り巻いている、というようなことまで意識できるようになってきて、そのくらいにまでなると、南の島の事にまで頭の中に入ってくる。その頃、ツバルという所に僕はクリスマス島より先に行ったのですが、ツバルは平均海抜90センチくらいと言われ、今お話をしているこの机よりちょっと高いくらいですね。そういうところに1万人くらいの人が住んでいるんですが、その島に、温暖化という環境問題から起こる海面上昇で、どんどん沈んでいってしまい人が住めなくなってしまう、国が1つ無くなるという問題が起きているわけですよ。結局、地球が1つだからそういう問題が起きているわけですよね。僕ら日本も含めてですけど、先進国が贅沢な事をしたり、わがままな事をしたりしている一方で、そういう島にしわ寄せが行っているという構図がものすごいよく見えてきたんです。ところが先進国の人達は、ほとんどそれを意識して生活していないじゃないか、そういうことをもっと意識できるようなツールを作ろうということで、このクリスマスカードを思いついたんですね」

●でも、本当にクリスマス島という島があって、そこからクリスマスカードが届くという形を遠藤さんは演出をするわけですよね。クリスマスカードをゲットして(http://xmas.site.ne.jp/)、それに誰々に送りたいということやアドレスも全部書いてもらってそれを遠藤さんの所に送ると、遠藤さんがそれを全部集めてからクリスマス島まで行って、そこからポストに入れると。そうすると先方にはクリスマス島で貼った切手とポストマークが付いたクリスマスカードが届くという・・・。
「まさしくクリスマス島から届くわけです!」

●すごく素敵なことですけど、なんか面倒くさいことやってますね(笑)
「面倒くさいというか、力技ですよね(笑)。クリスマスというのは夢の固まりみたいなもんじゃないですか。そういうところに嘘を入れたくないんですよね」

●やるなら徹底的にやろうと・・・。
「ええ、徹底的にやってですね、これがクリスマス島から来たんだということを感じて欲しいんです。そして温暖化の問題とか海面上昇とか、そんな問題があって大変なんだ、というメッセージも感じて欲しいんですね。でもこれが嘘だったら、伝わるものも少ないと思うんです。これが本物であるからこそ、イマジネーションが湧いてダイレクトに伝わるんじゃないかなと思うんですよ。僕らのこの消費社会で生活しているこのスタイルから見たら、ツバルには何も無いんです。でも「人間」というより「動物」だという視点から見ると全部揃っていて、むしろツバルの方が東京なんかよりも全然豊かなんですよ」

●なるほど。豊かさというより、価値観も全然違いますよね。
「ええ、全然違いますね。身近に自然があってその自然のおかげで人間が生きているんだというのを日々実感しながら生きるというスタイルですね。簡単に一日のライフスタイルを説明すると・・・朝は早いんです。4時か5時くらいにモソモソ起き始めて、そのまま船に乗って漁に行きます。環礁の島ですから内側の海はサンゴが波をブロックしているので静かなんですよ。小さい手漕ぎのカヌーなんかで出ていっても全然大丈夫なんですけど、漁に出て行って一日分の魚しか取ってこないんです。冷蔵庫も持っていないですし、そんなに捕ったって買ってくれる人もいないですし、みんな自分で魚を捕りに行くんです」

●自分や家族の、その日の分だけを各自が捕りに行く・・・
「そうです。あとは、ココナツやサツマイモを大きくした感じのタルイモ等が大事な食べ物で、そういうのは朝のうちに全部取ってくる。それもやっぱり一日分くらいしか取って来ないんです。そのようにご飯を食べて、太陽が昇ってくると暑くなってきますから外に出るのが嫌なんですね(笑)だから家の中でゴロゴロして、昼になったら昼飯を食べて、夕方になるとまたモソモソ動き出してなんか人とおしゃべりしながら一日分の食べ物を食べて、それで寝ちゃう(笑)」

●(笑)えっ、仕事は・・・?
「仕事はですね、自給自足なので基本的にしなくてもいいんです」

●もしかしてお金を使わない・・・?
「お金は、ここ最近の10年くらいでアメリカとかオーストラリアからビールとかコーラとかそういうものが入ってきたのでお金を使う場面が多くなってきたようなんですが、基本的には無くても大丈夫なんです」

●ちょっと心配になったんですが、一日分の食料しか用意しないということは、例えば台風が来たとかで次の日に獲物をゲット出来なかった時って、その日の食事はどうなっちゃうんですか。保存しておこうとかそういう対策は考えないんですか。
「その日の魚は抜きでしょうね。保存も暑いから腐っちゃうし。そもそも工夫しない文化というか才能なんですね。一方の日本人は工夫しすぎる文化なんですよ。だから逆に言えば彼らは温暖化に結びつくような要素というのは一切出していないんです。魚を焼くにしても石油やガスを燃やすことはしないですし。ところが、そんなところが沈んでしまうんです・・・」

●ツバルが沈むっていう話、具体的に「沈む」ということをイメージしにくい人も多いと思うんですが・・・。
「ツバルという島は、もともとサンゴ礁で出来ているんです。そのサンゴ礁というのは一年で1.5センチくらい成長するんですが、それだけを考えると通常では海面の上昇よりはるかに高くなっていけるはずなんですね。ところが、温暖化によって海面が上がるという現象の原因の1番が氷が溶けることと思っている人が多いと思いますが、そうではないんです」

●えっ、実際にイメージしていたのは北極とか南極の氷が溶け出しているという事だったのですが・・・。
「それは全体の2割〜3割くらいなんです。実は、海水が熱くなって勝手に膨張するというのが1番大きな原因なんですよ。半分以上の水かさが上がる原因が、水が膨らんでしまうことなんです。海の水が温まるということで海水は膨らんで、一方ではサンゴが死んでしまうんです。それでいつの間にか周りの水の方が高くなってきてしまうんですね。また10月〜4月の大潮の時は洪水が起こってしまうんです。サンゴ礁だけで出来ている島というのをイメージするのは難しいのですが、断面がスポンジみたいなんですね。固い軽石みたいなものが断面になっていて、そうするとその内部を海水が行ったり来たりすることができるわけです。外側の海の水がその島の内部を通って行き来しているのですが、そういうことは周りの海が上がってきてしまうとその島の中を行き来している海水も上がってしまいますよね、それが島の中にそのまま吹き出してしまうんです。ちょっと窪んでいるような所に急に噴き出してくるんですね」

●ツバルの人達は、そういう所で生活しているんですよね・・・。
「1番困るのは、タルイモを作っている畑の中に水が噴き出してきてしまうことなんです。そうするとサンゴ礁で出来ている島ですから、そこにはもともと土なんて無いんですね。落ち葉とか残飯とかで長い時間をかけて作った腐葉土なんです。その土に海水が入ってしまうと作物が育たないんですね。そうなった時点で人は住めない・・・」

●地球温暖化というのは他人事では済まされない、ましてその原因を作っている一部が私達で、もう放ってはおけない所まで来てますよね。その中で、私達は出来ることというのは・・・。
「僕が考えているイメージは、まずこういうクリスマスカードみたいなツールでもいいし、今回のこの放送でも、なるべく多くの人達にそういう問題があって深刻なんだよということをまずわかっていただくのが大事だと思うんです。そのあとに、「もったいない」というキーワードを思い起こして欲しいんですね。それで少しでも節約に心がける。誰もいない部屋の電気や、ラジオを聴くならテレビは消す、無駄に電気を使って石油を無駄に消費しないとか、それだけでも地球のみんながやればすごい効果がありますよね。で、ここからが難しいのですが、その「もったいない」という気持ちを職場でも生かして欲しい、どうしても職場だと出来ないんですよね、忙しくて。上司である方がこの放送を聴いて下さっているなら、自分の課だけは、こういうふうにしてみようとか、そこから会社全体がそういうような動きをし始めると大きいですからね。政府が主導で何かをやるより早いし、効果が大きい。これがいま僕が考えているイメージですね」

●遠藤さんは南アフリカのヨハネスブルクで開催された「環境開発サミット」にも参加されていますけど、そういう場に参加して見聞きしても個人から動いていった方が早いし、効果があるというように実感されるんですね。
「そう思いますね。ヨハネスブルクサミットは政治と政治の闘いですから。例えば飲み水の問題があるんですが、実はキレイな水を飲めない人が世界には12億人います」

●えっ、12億人・・・。
「ええ、その中でも水の病原菌などが原因で死んでしまうのが300万人。そういう事態になっているのに、それでも他国にキレイな水はあげられない、譲れない、というのが政治なんですよ。でも、1人1人が変われば政治も動かすことが出来ると思いますね」

●何よりも「もったいない」というキーワードをこれからは意識していきたいですね。また、クリスマスも近いですしクリスマス島からのクリスマスカードをあなたの大切な人にプレゼントすることで、その人に少しでも意識してもらって、そこからまた何か始まるかもしれないですね。

『クリスマスカード・プロジェクト』
 誰もが優しい気持ちになれるクリスマス。そんなクリスマスに、その収益の一部が「キリバス共和国」に寄付されるという、遠藤さんの『クリスマスカード・プロジェクト』に皆さんもぜひ参加していただきたいと思います。
 今年のクリスマス・カードは、現在、8種類あるそうです。まず、その中から好きなカードを選んで購入していただくと、クリスマス・カードとエアメール封筒、そしてそれらを遠藤さんのところに郵送するための封筒の、「3点セット」が送られてくるので、それらを、11月20日、水曜日頃までに遠藤さんのところに届くように送り返すことになっています。
料金:ワンセット、特別価格で1,000円〜700円。まとめて買うと割引もあるそうです。
お申し込み:http://xmas.site.ne.jp
遠藤さんの『ツバル』のホーム・ページ
http://tuvalu.site.ne.jp
今回このページで掲載したツバルの写真はこちらからお借りしました。このほかにも、遠藤さんのコメント付きでたくさんの写真が掲載されています。ツバルの現状をもっと知りたい方、是非訪れてみてください。

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