2003.04.27放送

市毛良枝さんの“やっぱり山が好き”

 女優として活躍中の市毛良枝さんは“登山”に出会い、それまでの人生が一変しました。今では山に登ること、歩くことが何より楽しみになっているそうです。今週は、そんな市毛さんを初めてゲストにお迎えし、登山を始めたきっかけや魅力、市毛さんをアウトドア派&アクティヴ派に導いた人々との出会いや印象、そして山に駆り立てるものとは?など、じっくりとお話をうかがいしました。

●今週のゲストは市毛良枝さんです。"女優の"というより、"アウトドアズ・ウーマンの市毛良枝さん"とご紹介させていただいた方がいいのではないかという(笑)。
「そうですか? 私はうれしいですけど、マネージャーが怒るかもしれません(笑)」

●市毛さんの御本『山なんて嫌いだった』を読ませていただくと、"努力、根性、汗かく"というのが嫌いだった市毛さん、今では"努力、根性、汗かき"くらいの活動ですよね。
「そうなんですよ、今はすごい汗かきです(笑)。筋肉を作ると汗になるらしく、かなり大量に汗をかいてしまうんですね。あと、自然の中で暑ければ自分で汗をかいて放出して体温を下げるということで、すごく野性に返っちゃったというか、汗かくのが大好きで気持ちいいんですよ。真夏なんてクーラーも使わずにとにかくひたすらダラダラに汗をかいて「あー、気持ちいい」なんて言っているんです(笑)」

●私も音楽の番組とかをずっとやらせていただいてて、こういったアウトドアとか自然の中に入って行くというのは、この番組からなんですよ。うちの母なんかは「山でキャンプがしたい」って言うと、いまだに「虫がいるじゃない、平気なの?」って聞いてくるくらいなんですよ。
「私も虫が嫌いだったんですよ。虫が嫌いだから、田舎が嫌いで、故郷は静岡の自然豊かな場所なんですが、静岡が全然好きじゃなかったんです。でも今や山に行くと帰り際に虫に話しかけちゃったりして、ちょっと危ないぞ、みたいな(笑)」

●(笑)。この、人間の変化っていうのは何なんでしょうね?
「所詮、人間も動物なんだっていう気がするんです。動物というよりか地球の一部、自然の一部、宇宙の一部で、そのサイクルの中の一つでしかないということを、山に行ったりすると素直にそう思えるんですね。まさにそのサイクルの一つなんだ、と思うと「虫が嫌い」って言っても「同じじゃないの、私とあなたは一緒ね」っていう感じなんですね。
 すごい極論すると、人間って細かくしていけば分子だ、原子だの世界でみんな同じもので構成されているわけじゃないですか。だから突き詰めて考えて、みんな同じだと考えると、もう動物でも「ヘビやカエルが嫌いだ」と言っても、同じものを嫌ってもしょうがないという感じなんですね。そう思うと人間も「あの人嫌い、苦手だな」と思っていたのも、あまり関係なくなってきたって、全部一緒、所詮地球の一部ねっていう感じになっちゃったからなのかなと思うんです。自然も、風や嵐も同じだなって思うんです。もちろん、自然は怖いですけどね」

●そういうのを理解できる歳というのがあるんですかね?
「年齢っていうのはありますよね。私も遅く始めたんですが、自然の細かい機微が分かるようになってた時に始めたから、こんだけハマッたかなと思うんですね。それなりに人生の辛さや、浮き沈みを体験して、それなりに生きるって結構大変だぞって思った時に山に登ったんで、山のあの辛さが、山は人生に例えられるとか言いますけど、そこまでキザじゃなくても、自分がすごく辛いときでフッと休んだときに、岩場に張り付いて咲いている小さいカワイイ花なんかを見ちゃうと「いやーん、頑張ってるね、えらいね、私も辛いけど頑張るわ」っていう、妙に哲学になっちゃって(笑)。
 それはやっぱり若いときには体力があってそんなに辛いとも思わないし、ガーって行っちゃって小さな花なんて見過ごしていると思うんですよね。都会にいてもその辺にポッと咲いている花なんかも忘れてると思うんですが、ある程度の年齢にいってくるとそういうものに目が行くようになるって思うんで「年取るって悪くないな」って最近すごく好きなんですよ。
 私は20代が辛かったんですね。日本で20代の女の子って可愛くなきゃいけないみたいなのがありますよね。その強制的な空気を感じて、そんな気もないのにブリッコしちゃって「アタシ、わかりません」みたいな感じで言って(笑)本音をちょっと言ったら「キミ、そんな顔してよくそんなこと言うね」って言われると、ドキーンとしてこういうこと言っちゃいけないんだというプレッシャーの中にいたので、20代は疲れてたんですね。30代になってからそういう呪縛から少しずつ離れて、だんだん「30過ぎたらオバンで用はない」みたいな言い方されることで楽になり「あっ、無視されていくって、いいな」って思っていったんですね。
 そのうちにそれを過ぎていくと、自分は女じゃなくなるわけじゃなくて、どんどん内面は豊かになっていくわけで、それが40くらいで、私も見たこともない、未知の世界に飛び込んだために、本当に次々開いていったものですから、毎日ワクワクしてたんですね。『山なんて嫌いだった』って本の後書きにも書きましたけど、今からでもどんな人間にもなれるなって、やろうとすればなんだって出来るな、やろうとするかしないかの違いだぞって、低いレベルですけど偉そうに思っちゃったんですね。それはもう本当に楽しくて」

●以前、この番組に出演していただいた方が「自然はリベラルだ」っておっしゃった方がいらしたんですね。年齢も、肩書きも全く通用しない自然というのが人間にとって楽な、帰っていけるお家のようなところなのかなと思うんですが。
「とっても厳しいから試されるし、だからリベラルでもあると思うんですね。本当に人生のすべての答えを自然が教えてくれたなって思うんで。それと、山に行ったって、私がこういう仕事をしていることを知っている人もいらっしゃいますけど、同じ登山者として扱ってくれる人が多いから、それに違和感を感じないんですね。私の姿を見ても、テレビに出てる人だけど同じことをやっているなって受け止めて下さって、私も匿名の人間になれるんですね。みんなと繋がっている、みんな打ち解けて仲間になれる、その輪がどんどん広がっていく、それが私にとっては心地良いんですね。それは自然という中に自分が包み込まれるということと、その中で人と人が繋がっていけるという両方の意味で、私は一人で生きているんじゃなくてみんなと繋がって生きているんだと思えてしまったんです。その辺も自然に救われた部分ですね」

●山だけじゃなく、カヤックやロッククライミングの写真も拝見しましたし、本当にいろいろなアウトドア体験を自ら積極的にやってらっしゃいますよね?
「一応、ちょこちょこと、全部がビギナーなんですけど(笑)とりあえずザーッと広げてみちゃったんですね」

●いいアウトドア仲間と巡り会えたっていうのも大きいんじゃないですか?
「それは大きいですね、本当に恵まれています。たまたま知り合った人がみんなすごい人だったり、その人がまたすごい人を連れてきてくれるから、みんなレベルの高い人ばっかりだったんですよ。私はどこに行っても初心者ですけど、すごい人達から教えられることっていっぱいあるので、贅沢なことだなと思いますね」

●本を読んでいると、すごく楽しそうだな、私もこんな素敵な仲間と体験をいっぱいしたいなって、思えちゃいますね。
「この本を読んでくださった方が、「大変なこともすごく楽しめる人なんですね」って言ってくれて、どうも私はそういうタイプみたいで、大変であればあるほど面白いって思っちゃうんです。「この土砂降り、やってらんないよねー!」って言って楽しんでいるみたいな。晴れて欲しいけど、これはこれで楽しいねっていうように思えちゃうようになりましたね。否定的に物事を考えて落ち込んでしまったこともありましたが、今は良くないことも、逆に面白がれる、これがあるからもっと楽しいことを味わえるというように考えるようになりました。これも山のおかげかな?」

●山を通じて、1番今でもズンと胸に残る教訓というか教えみたいなのって何かありますか?
「いやいやいや、山のようにあるので(笑)一つっていうのは・・・・・・「自分って信じていいよ」ていう感じですかね。自分って面白いし、その自分というものさえアンテナを張り巡らせていれば何でも楽しく生きていけるっていうのは、自然の中から教わったような気がしますね。こんな財産はないし、こんな面白い道具はないって思うんで。教訓というのはちょっと違いますけどね(笑)」

●そして市毛さんは最近、『市毛良枝の里に発見伝〜関東近郊の里山21コースを徹底ガイド』というガイドブックを出されましたね(笑)
「(笑)。本の題名がオヤジギャグだと誰かに言われちゃったんですが」

●エッ?って思いましたけど、いいじゃん、これって(笑)。私もオヤジギャグに染まりかけているかもしれませんが。関東近郊にこんなすてきな里山がいっぱいあるんですね。
「これは私も意外だったんです。雑誌の連載だったので、私が選んだというよりは編集者が選んでくれたところに行ったんですが、もう疑心暗鬼で「んなわけないでしょー」みたいに思いながら行ったんですが、あるんですよ。
 連載だったので、本にする時どういう形になるのかなと思ってたら、ガイドブックっぽくするということで「ガイドブックじゃつまらないよなー」って思っていたんですね。でも、歩いたときに感じたことも盛り込んで、出来上がったら「あら、これ持って行けちゃうよね」っていう(笑)。
 とりあえず私が行ったこの21のコース、それを追っかけて行って欲しいと思うし、嘘偽りなく面白かったんです。実はこれ持って、自分で訪ねたところがあるんですね、「あっ、ここ!この道!」とか言って。でも、その時は2週間くらい取材のお花の時期とはずれちゃってて、実は数日後にもう一回これ持って、また訪ねたりしたんですよ。すごいでしょー? 変なヤツですよねー(笑)?」

●(笑)。自分で楽しめちゃう?
「楽しめちゃいます。最初は「えー、ガイドブックー?」って思っていて、人様に差し上げる時も「ガイドブックみたいで、自然とかアウトドアを好きじゃない人とか歩きたくない人には何の役に立たないけど」とか言ってあげたんですけど、貰って下さった方が「これ持ってどこかに行けたらいいなって思いますね」って言って下さって、そんなに自然が好きじゃない方でも「今度、娘を連れて歩いてみます」とか言ってくれたんで、そうか、そういう使い方もあるのねって。
 書いちゃって不安に思うのは、本当にこれを持って行って下さる方がいるのは嬉しいですけど、深田百名山じゃないですけど、深田さんの本も読まずに、本当に百名山だけ登りたいって行ってらっしゃる方がいらして、それを非難するつもりはないんですけど、そういうスタンプラリーみたいな登り方は止めませんか?って思っているんですね。私の本でそこまでやってくださる方がいると思っているわけじゃないですけど、もしこれを私が書いたことで、そこの場所が人が訪れることでどんどん整備されていって、ある日行ってみたら素晴らしいお花の横に茶店が建っていたら、しかも東屋風だったらいいですけど(笑)、近代的だったら悲しいなって思いますね。すでに行政が道を整備して下さったりして、コンクリートの道が見えちゃったりするところもあるんです。でも、行政の方はお花を守るために「ここの中だけを歩いて下さい」っていうように、どうしてもお花の中に人が入って行かないように整備したり道を作ったりして、リードしなくちゃいけないと思うんですけどね。
 実際に行って分かったことが、小さな自然はすごく心ある一人の方かグループが必死になって守っているんですね。それで開発が止まっていたりするんですが、ちょっと変わり者なんですね。極端に思えるかもしれないくらいの方なんですが、本当に自然を深く愛していて、その自然のありようを1番分かっている人達なんで、その人達が「これは止めましょうよ」ということは、止めたほうが正解なんじゃないかなと思うんですね。もちろん人が生活していく場と隣り合っているということは、そこまで行ききれないこともあると思うんですが、なるべくその折衷案を見付けて出来るだけ自然のままにしましょうよっていうのがあるんですよ(笑)。
 というのは何でかって言うと、蛍や小魚が棲めない川にしちゃったりすることは全部私達に返ってくるんですね。魚が棲めない環境は私達も住めないんですよ。もし便利を追求して全部の山をコンクリートで固めたら人間は生きていけないんですね。でも便利なことを追求している方から見たら私達は変わり者だと思うんですね。「人間が生きていくことが先だろ?」って言う人もいっぱいいると思うんですけど、それは本末転倒で「小動物や小さな花が生きていけない環境を作ってしまったら、私達が生きていけないんですよっていうのを、早く気付いてくださーい!」って言う感じなんですよね(笑)」

●なるほど。そんな市毛さん、実は環境カウンセラーでもあるんですよね?
「たまたま、そういう登録資格があるって聞いたんで、逃げ道を無くそうって思ったんですね。楽をしたい気分もあるんですよ。ゴミだって分けずに捨てたほうが楽じゃないですか。でもそれは結局自分に関わってくることだと思えば、寝る間も惜しんで資源にするものは資源にして、捨てるものはダメージのない捨て方をしなくちゃっていう。ちょっと面倒くさい生活を自分に課すために、看板掲げて人に言っちゃえば逃げられないじゃないですか(笑)。自分自身が生きていくうえの逃げ場を断とうかなという感じで、看板を掲げたみたいな感じなんですよ。
 でも、学校の時からの友達は「宗教みたいねー」って言うんですよね。それを嫌だと思う人もいるわけじゃないですか。宗教がいけないとは言えないですけど、やっぱりちょっと入り込めないって感じる方もいっぱいいると思うんですね。そうすると、あまり極端に言っちゃいけないかなって。
 所詮、人間って欠点だらけの動物じゃないですか。そこをあまりストイックに「あらねばならぬ」ってするのは止めようかな、自然が大好きな人だけで孤立してしまうのもどうかなって思うので、さっきもお話した行政がやるのはどうかな?って言える範囲でチョコチョコ、チクチク言えるんですけど、環境省の方にも「あまり余計なことしないでね」ってチクチク言うんですけど(笑)それを「反対運動!」みたいな感じで肩ひじ張ると反発されちゃうかなと思うので、ヌルヌルッと、なんとなーく隙間のところでチョッチョッと言うみたいな(笑)そういう作戦でやっています」

●これからもヌルヌルッとその合間を縫いながら(笑)。
「ちょっとキツイことを言うみたいな(笑)」

●『市毛良枝の里に発見伝〜関東近郊の里山21コースを徹底ガイド』を持って、また同じ箇所に行ったりして、そして今度は外で、風を感じながらお話が出来ればと思います。
「そうですね。やっぱり箱の中(スタジオ)より、外の方がいいですよね」

●今日はありがとうございました。
■ I N F O R M A T I O N ■
 今週は、女優の市毛良枝さんにお話をうかがいました。

◎『市毛良枝の里に発見伝〜関東近郊の里山21コースを徹底ガイド
 東京や千葉、神奈川などのお勧めの21コースが、「春」「夏」そして「秋から冬」と3章に分けて紹介されているんですが、コースの地図やアクセス情報なども載っているので、皆さんもぜひ里山歩きの参考になさってはいかがでしょうか。
講談社/本体価格1,600円

◎『山なんて嫌いだった
 市毛さんが山にハマってしまったきっかけなどを綴ったというこの本。まだ読んでいらっしゃらない方は、ぜひ読んでみて下さいね。
山と渓谷社/本体価格1,400円


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