2003.06.08放送

噺家・林家彦いちさんのアウトドア・ライフ
 去年"真打ち"に昇進した落語家「林家彦いち」さんは、落語協会アウトドア・クラブ「ビッグ・マンタ・クラブ」の隊長として仲間を集め、ミクロネシアの島々や国内の川で遊ぶ野外遊び人。雑誌「BE-PAL」に連載を持ち“アウトドア落語家”としてその道(?)にもとおっています。またカメやトカゲをペットに持ち、空手の有段者でもあるんです。
 今週はそんな幅広い活動をされていらっしゃる彦いちさんに、“アウトドア落語家”の活動の様子や、「ビッグ・マンタ・クラブ」宮古島合宿のこと、そして急遽、ザ・フリントストーン大喜利ということで、謎掛けにも挑戦していただきました。


●今日はよろしくお願いします。
「楽しみにしてきました。ホームページ見ましたよ。これに出るために、噺家をやっているようなもんです。そして、アウトドアをやっているようなもんです(笑)」

●(笑)。以前、BayFMの環境特番にも出演していただき、リンさん(野外料理の達人・林政明さん)からもお話を伺っていたんですが。
「この間初めて会ったんですけど、リンさんって、電話の時『リンさんです』って"さん"まで言うんですよね(笑)」

●"リンさん"っていう、名前なんですよ(笑)
「だから、ひょっとしたら"リンさんさん"なのかも知れないですね(笑)。まさか江戸落語が好きだとは思わなかった。で、本当は林(はやし)さんという人だとも思わなくて、この間、客席にいたんですよ、夢枕漠さんと。今度、一緒に落語会をやろうなんて話もしているんですよ」

●そんなリンさんからお話を伺って楽しみにしていたんですが、ちょっと遅くなりましたけど、真打ち昇進、おめでとうございます。
「あー、なってしまいんしたね、ついに」

●落語家さんの中でも、彦いちさんの場合、"アウトドア落語家"でもあるという?
「ええ、"アウトドア落語家"なんですよ。ウチの師匠は木久蔵なんですけど、全然アウトドアって知らなくて、僕の真打ち昇進のパーティーの時の挨拶で『彦いち君は、アウトドアという、野っ原に寝たり、滝つぼにもぐったり、どこの虫がうまいとか、そういういうことをやっている、よく分からない子なんです』というような挨拶をしていて、それくらいの理解なんですね(笑)」

●(笑)。その中でアウトドア落語と、落語協会アウトドア・クラブもやってらっしゃるんですよね?
「アウトドア落語という程のものでもないですけど、アウトドア・クラブは好きな人は潜在的にいるわけで、ちょうど落語協会で色々なサークルが出来始めた時に横から入り込んだわけです。なので、大きな活動もないし得体の知れないというのが現状なんですけど」

●その名前が「ビッグ・マンタ・クラブ」。隊長をされているということですが、この名前に「ビッグ」が付いているのはなぜなんですか?
「なんでしょう、勢いですかね、"マンタ・クラブ・特盛り"みたいなもんですよ(笑)。『隊長だ!』とは言っても、落語はみんな個人芸じゃないですか、だからチームワークがまるで無いんですよ(笑)。先日も宮古島に行ったんですけど、現地集合で、宿泊場所はバラバラ、食事もバラバラなんですよ。みんな個人だから、僕も海辺で一人でやっていたんですよ。島のどこかにクラブ員がいるという。夕飯もバラバラ、そんな事ってあるのか、という感じで」

●みんなで一緒に食べようとか、何かしようというのはないんですか?
「みんな勝手なんですね。でも月明かりと共に、明かりのある港とかに、虫のようにゾロゾロと誰が合図するわけでもなく集まってくるというのはあるんですけどね」

●やっぱり、アウトドアが好きなもの同士ではあるんですね。
「そうですね。でもビッグ・マンタ・クラブ、ナントカ隊長とか言って現場で色々やるよりも、空論ですよ(笑)。本当にテーブルの上で、『お前は隊長だ、こうだ、こうしよう、いつ何日に旅に行こう!』っていう話になっても、大体集まるのが3〜4人くらいで、どうするっていう。
 そこではマンタゲームというのがあるんですよ。都内のミーティングではみんな集まって色々話をするんだけど、実際に行くとなると、三遊亭白鳥さん、あとライターさんの3人が多いんですね。3人だと、一人エキストラ・ベッドの人がいますよね。そして、飛行機だと3列シートで挟まれる人がいますよね。エキストラ・ベッドも、シートの真ん中も嫌じゃないですか。それを決めるのが、マンタゲームなんですよ」

●それは大切なゲームですね(笑)。どんなゲームなんですか?
「ものすごい大切なゲームですよ。相当、大事ですよ。元々、市販のカードゲームがあってそれをアレンジしたものなんですが、手書きのマンタカードっていうのがあって、数字をどんどん足していって、マンタガードで0に戻って、いくつになったら負けっていう、よくあるようなゲームです。最近では裏・ドラなんかも作っちゃって、腕組みしながら、熱くなってやるわけですよ。カードは絶対に見せないようにしてるんですけど、大体どこの空港でやっていてもギャラリーができて、トラック島では、白鳥さんの横の地元の人が『オー、ビッグマンター!』って叫んじゃったんですよ。ルールは分からなくても、マンタは分かるというね」

●そんなマンタゲームの時が、ビッグ・マンタ・クラブのクラブ員が1番盛り上がる時でもあるんですね。彦いちさんは、現地では何をされているんですか?
「ぼんやりしていますよ。大体、素潜りが多いんですけど、それ以外は本を読んだり、コーヒー豆を挽いて飲んだり、のんびり、今回は宮古島の前浜だったんですけど、梅雨入り前で、芝生があって、テントとタープを張って、寝るのは僕だけっていう(笑)。それも変な話ですよね」

●単独でキャンプやっているようなもんですね?
「そうそう。そんで島のどこかの民宿に他のメンバーがいるんですよ。僕は一人の時間をストイックな感じで。テーブルと、高さが20〜30センチくらいの座イスを持っていって、それに座ってコーヒー飲んで、夕方にはオリオンビール、そして水着のおねーちゃん達がキャーキャー言っているわけですよ。相当、時間の流れ、雰囲気がいいですね。そして夜になって、いよいよご飯食べて、本でも読んで、一人の時間を堪能しようとしていたんです。
 でも、メンバーも島のどこかの民宿にいるわけじゃないですか。そうすると、その民宿のおばちゃんが気を使ったらしいんですよ。『あんた達、友達を一人で海に置いてきて、何を考えてるの?』って言われて、白鳥さん達が『いや、あいつはいいんです』って話をしたら、おばちゃんは『駄目よ、これからみんなで海でご飯にしましょう!』って言って、宮古島の浜でみんなでご飯を食べることになったらしいんです。そして他の民宿の人達はご飯お預けの状態で待たせてるのに、ご飯を車に積んで浜の僕の所に来たんですね。
 そしたら、その民宿のおばちゃんは、近くの海の家的な、他人のお店からテーブルをガラガラ引っ張ってきて『これで食べましょう!』って話になって、その木でできた机の上にコンロ乗っけて、焼いて食べていたんですね。その後、おばちゃんは『わたしは眠い、帰る!』って帰っちゃったんですよ。コンロも、ガスと豆炭があって、豆炭までテーブルに乗っけてていいのかなと思いつつも、暗かったし、何か敷いてあるのかなと思ってたんですね。そして夜11時くらいまで『あのおばちゃん、勝手だねー』なんて言いながら、3人で飲んでたんですけど、コンロをどけたら豆炭が燃えてて、テーブルが炭になってたんですよ、パチパチいって。そのテーブルは、おばちゃんの物でもなくて、他人のお店の物じゃないですか。大変でしたよ。結局、翌朝みんなであやまりに行ったんです(笑)」

●(笑)。彦いちさん、カヌーにも凝っていらっしゃるんですよね?
「カヌーはいい乗り物ですね。水辺がたまらないですね。水との境目が好きなんですね。マングローブだろうが、岩だろうが、砂浜であろうが、境目がたまらないんですね。僕、地理学専攻科の出身なんですが、地図の境目とか、異常に好きなんですね。それに1番近くいられるのがカヌーだということで『これだ!』って思いましたね。そんなにパフォーマンス重視じゃないんです。少し教わって、自分で手に入れて漕ぐくらいです。そうだ、野田知佑さんに誘われてて、今年8月下旬に、ユーコンに行きますよ。前から行きたかったんですが、野田さんと、夢枕漠さんと行く予定なんですよ」

●そうなんですか。じゃあ、ユーコンから戻られたら、ユーコン話を聞かせてくださいね。
「ユーコン話、裏・野田話とかね(笑)」

●裏・野田話、ぜひ聞かせてください!

★      ★      ★
ザ・フリントストーン大喜利
 ここで突然ではあったんですが、ザ・フリントストーン大喜利ということで、謎掛けにも挑戦していただきました。彦いちさん曰く「嫌ですねー(笑)。例えば『お坊さんと掛けて、新聞と説きます。その心は、けさ来てキョウ読む』という、こういう美しいものには及ばないわけですよ」とおっしゃっていましたが、素晴らしいお答えを披露してくださいました。

●まず最初のお題。ザ・フリントストーンの意味である「火打ち石」

火打ち石 と掛けて、

松井選手 と解きます

その心は

打って打って、打ちまくると、皆が明るくなります


●2つ目のお題は「テント」

防水テント と掛けて

ファミリーキャンプ と解きます

その心は

水入らずでございます


●3つ目のお題は 「カヌー」

カヌー と掛けまして

私、彦いちの落語 と解きます

その心は

落ちて楽しみが倍増します


●そして最後のお題は 「焚き火」

最近のキャンプ場の焚き火 と掛けまして

海外で盗まれるもの と解きます

その心は

ゲンキンが多いですね


 全くかけ離れているかに思えるものから「意外や意外、つながっている!」というおもしろさ。突然のお願いで、珍しい内容のお題(?)にも関わらず、素晴らしいお答えでした。彦いちさん、ありがとうございました。

★      ★      ★
●実は彦いちさん、木久蔵師匠から亀をもらってから、亀やトカゲがペットになったんですよね?
「そう、亀をもらったんですよ、陸ガメを。そしたら非常に面白くて、ハマってしまいましてね」

●亀の飼育って、難しいんですか?
「変温動物なので、必ず暖かい場所は作ってあげなければいけないんですね。あと、紫外線ですね、くる病にかかってしまうので。ビタミンDを吸収して、表に出して、シェルターがあるというのが1番いいんですけど、それを人工的に作ってあげなきゃいけないですね」

●亀って、私は飼ったことが無いんですが、最近よく耳にする、究極のスローライフを実践している生き物だなって感じがするんですが。
「あー、奴等は相当、長生きですし、スローライフなのかな。時々、公園で散歩をさせるんですが、犬とか猫よりは全然スローライフ、ゆっくり歩いて、葉っぱ食べて、チワワとかよりは相当いいと思いますね(笑)」

●(笑)。亀と一緒だと、気持ちが競ってもしょうがないという気持ちになるのかなって思うんですけど。亀さんから感じるものってありますか?
「無いですね(笑)。まるで無いです。ただ、動物全般に言えるんでしょうけど、和むとか、そういうことでしょうね。あと、葉っぱの食べ方が上手い(笑)。小松菜、チンゲンサイとモロヘイヤ、ニンジンとかを食べるんですけど、あまり高タンパクではないもの、完全に草食なんですね。肉食なのもいますけどね。
 あえて言うなら、普段は都会にいる我々はガツガツしているわけですけど、田舎に行くと焼き肉を食わなかったのに、都会で打ち上げって言ったら焼き肉で、本当に肉、明日も肉、働いた御褒美に肉。そういうガツガツしている所で彼らを見ると、その欲の無さというか、肉を欲しないという所は、個人的にいいですね」

●そんなペットの亀ちゃんの飼育にも追われ、色々なアウトドアにお出掛けになりつつ、本業の御予定とかは?
「本業、やってますよ。下北沢の劇・小劇場で、年4回定期的にやっている『喋り倒し』というのがありますね。横浜のにぎわい座・小ホール「のげシャーレ」でも『横浜で彦いちの噺をきく。』というタイトルでやっています」

●そこでも、アウトドア・ネタをされるんですか?
「最近はやってませんね、またやろうと思っていますけど。以前、やったんですよ、自然派をテーマにした時に。諌早湾の水門が閉まって、ペルーの人質の事件もあった時で、ムツゴロウを救いに穴を掘って助けよう、穴を掘って行くぞって沼を抜けていくという大スペクタクルな落語を作ったんですよ。最後は、ようやくムツゴロウを捕まえて『ようやく捕まえましたね、これで環境を守ったんですね』、『違うんだ、俺はこれを食いてーんだ!』という終わり方なんですけど。あと"仁侠・環境伝"というのも作りましたね。『空き缶捨てちゃあ、いけねぇぜ!』っていう、ちょっと怖いお兄さんなんですけど(笑)。色々、環境にも力を入れていきたいですね」

●そして「BE-PAL」の方にも連載をされていますよね?
「はい、『彦いち道場』というのをやっています。ぜひ投稿してみてください。ホームページからも投稿できるので」

●投稿すると何かもらえたりするんですか?
「そうそう、何かあげますよ」

●今度は、ぜひ本業の方にも御邪魔をして、リンさんと一緒に(笑)。
「(笑)。アウトドアからインドアまで、何でも喋りつくしますよ」

●お話を聞きに伺いたいと思います。その時を楽しみにしています。
「お待ちしてまーす」

●今日はありがとうございました。

■ I N F O R M A T I O N ■
 今週は、落語家の林家彦いちさんをお迎えしてお話をうかがいました。

■ここで、彦いちさんの活動の一部を御紹介します。
・明日、6月9日(月) 「なかの芸能小劇場」にて『作家のいる落語会』
・6月13日(金)
 14日(土)
「黒門町」の「落語協会2階」にて『落語れんせい道場“黒門亭”』
・6月22日(日) 「さいたま芸術劇場」にて『若手落語家競演会』
・6月23日(月) 「下北沢・劇・小劇場」にて、恒例の『彦いち/喋り倒し』
・6月27日(金) 「池袋演芸場」にて『木久蔵一門会』
・更に、雑誌「BE-PAL」で『彦いち道場』も連載中なので、こちらもぜひ読んでみて下さいね。

■その他、上記の日程の詳細、彦いちさんのスケジュールや日記、プロフィール、飼っているペットのことなど、詳しくは彦いちさんの公式ホームページをご覧ください。
http://www.hikoichi.com/

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