2003年8月31日
小説家・石黒耀さんの大噴火シミュレーション『死都日本』今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは石黒耀さんです。
今週は、明日(9月1日)の防災の日を前に、火山による大災害を描いたベストセラー小説『死都日本』の著者、石黒 耀さんをお迎えしました。
●この小説「死都日本」、火山学者の方からみても大評判と伺ったんですが。 「おかげさまで、すごい誉めていただきました」 ●石黒さんにとってはこれが処女作になるわけですよね。しかし何で小説を、しかも大災害を題材にしたものをお書きになろうと思ったんですか? 「これはよく聞かれるんですけど(笑)。以前、宮崎県・清武市に住んでいて、そこには清武石という特産物があったんです。鹿児島湾の桜島から北の湾入が、姶良火山という海底火山なんですが、その大噴火でできた石なんですね。距離は80キロくらいになる大規模の火砕流がそこを通り過ぎて、ものすごい厚みの堆積物を置いていったという、そういう街に暮らしていたんです。その後、大阪に行きまして、阪神・淡路大震災や雲仙普賢岳の噴火があって、その頃にウチの家内が、ボソッと一言『噴火に比べたら、地震の方が怖いよね』と。逆に言えば、噴火なんて怖くないよねというようなことを言ったんです。でも実際の噴火のエネルギーというのは、地震よりはるかに大きくて、先ほどの姶良火山の噴火と比べると、阪神・淡路大震災の4万倍のエネルギーなんですよ」 ●えっ、阪神・淡路大震災の4万倍のエネルギー? 「ええ、エネルギー値で換算すると、4万倍。そのくらいの規模なんですよ」 ●御本を読まれていない方で、あまりにも規模が大きすぎてピンと来ない方もかなりいらっしゃると思いますが。この起こりうる災害というのを少し説明していただきたいんですが、まず噴火がありますよね。でも、この小説で出てくる霧島とかの大噴火というのは、山の形が変わってしまうという規模なんですよね。 「はい、霧島火山をご覧になった方はお分かりになると思うんですが、かなり大きい山です。箱根火山とかと同じレべルですね。それが根っこの10キロくらいから無くなってしまって、吹き飛んで、大体直径16キロくらいの霧島火口よりはるかに大きい輪のカルデラというへこみになるんですね。そして山体地帯が無くなってしまうということです」 ●仮に、日本を代表する富士山で例えると、どういう感じですか? 「富士山がさっきまであったのに、3時間後には箱根から甲府くらいまでの大きなへこみができて、全く山体がなくなってしまうというようなタイプの噴火です」 ●その後に、超大規模火砕流というのがありますね。
「ええ、まず大爆発が起こるわけです。その大爆発で霧島の山体がバラバラに砕けまして、その隙間からカクテル型といって放射状に内部のマグマが噴き出すんですが、その吹き出すときに発泡して、マグマの中の水分がミクロ単位の小さな泡、ちょうどポン菓子(米を入れて圧力でポンって膨れる菓子)のはるかに大きな規模の状態になるんです。そのポン菓子をちぎってみると、空気の穴がたくさんあるのがわかると思うんですが、あの泡があまりにも急激にできると米の形を保てなくなるんです。細かいミクロ単位の破片になってしまうんですよ。
●基本的にはそれが1番の災害のもとで、それから逃げられないというのも大きい原因なんですか? 「いや、そうでもないんです。その場合の死者は南九州全般なんで、せいぜい300万人程度。次の話で広がった火砕流は600度〜700度というガスですから、上に向かって上昇気流を起こすわけです。その上昇気流がものすごい勢いで上がりますので、さっきの泡になってちぎれた20〜30ミクロンとかの小さな破片、そういうものが気体に乗って舞うんですね。それが偏西風に流されて、東の方に行くんです。東は太平洋だからいいかと思うかも知れませんが、実際は灰の雲が広がりながら行くものですから、東京とか、北海道はすっぽり埋まってしまうんですね」 ●九州の霧島で起こった火山の噴火が、その影響で東京も、北海道にも影響が出てしまうんですか? 「それだけでは治まらなくて、太平洋を越えてアメリカ、大西洋を越えてヨーロッパ、そしてアジアまでグルッと1週して、北半球全部を覆ってしまうんですよ」 ●地球儀で見ると、とても小さい国である島国の日本の、さらにそのほんの一部である地域の火山が噴火しただけなのに! 「そうなんです。結構、科学が発達してからもそういう現象はよく知られていまして、フィリピンのピナツボ火山の噴火って憶えていらっしゃいますか。あれもそんなに大した噴火じゃなくて、『死都日本』で出てくる霧島火山の想定の28分の1の噴火だったのに、それでもどれだけ酷かったかというと、日本では米がとれなくなって大変でしたよね」 ●ありましたね。でも人間の記憶って忘れていっちゃうんですね。本当に、こんなことは絶対に起きて欲しくないけど、起こりうる事なんですよね? 「それはもう、必ずいつか起こります」 ●本の中では「火山神伝説」という架空の連載をしていますね。いわゆる古事記のいろいろな解釈を、通常の解釈ではなく、火山の噴火とかの出来事にもじられて書かれているものではないかと。実はこれ、目茶苦茶、面白いんです(笑)。ぜひ、この「火山神伝説」を、石黒さんでなくていいですから、黒木さんの名前で出版して欲しいと思うくらい面白いんですが(笑)。 「ありがとうございます(笑)。実は、書いた当初の『死都日本』は今の倍くらいの量があったんですが、新人デビューとしてはあまりにもそれは長すぎるだろうということで半分に減らしまして、『火山神伝説』の部分がバッサリ削られたんです」 ●そこに、“目から鱗”の部分があるんですよ。例えば、イザナミが火の神様を産んだときに死んでしまって黄泉の国に行くというエピソードも、火山の噴火でイザナミが山の母体と考えたら、噴火したことによって母体である山が無くなってしまう=死という解釈であったり、その黄泉の国に迎えに行ったイザナキが逃げてイザナミが追っかけて来た時というのが火砕流だったりとか、そのように考えていくと、つじつまが合うんですね。改めて古事記を読み直してみたりしているんですが、やはり日本の大昔にも、この小説に描かれているほどの災害があったんですね? 「面白いでしょ? 実際にこの小説に描かれているほどの災害が何遍もあったみたいですね。それも7300年前に鬼界カルデラという、これも霧島火山帯にある火山がこの 規模の噴火を起こして、南九州が全滅していて、その伝説が伝わった可能性が一つ。それから、『火山神伝説』を出版していないんで非常に分かりにくいかも知れませんが、天孫族というのは筑紫族、筑紫の国の一部の部族の名前だったと思うんですね。どういう理由かはハッキリ分からないんですが、筑紫から独立して今の宮崎県の方に逃げてくる契機となった事件が、火山噴火だと思うんです。その火山噴火は破局的な噴火だと部族が全滅しているはずなので、もっと小さなものだったはずなんですが、鬼界火山の噴火と合わせてレジェンドに残しておかないといけないような事情があったと僕は思っているんです。その辺の話が『火山神伝説』なんです」 ●そういう古事記しかり昔の事実で、日本の太古の日本人の人達の自然観って、どうも火山や自然に対する気持ちが、今の私達と全然違うと感じるんですが。 「それはものすごく違います。今の我々が雲仙普賢岳の火砕流を見たとき、足がすくんで動けないくらい動揺があったと思います。ハリウッド映画、テレビ、ゲームなんかを見させられても驚きますよね。だからそういう物を全く見ない人間があのレベルの災害に遭うと、大変なショックだと思いますよ」 ●絶対に自然災害というような言葉としては解決できないですね。 「もちろんアミニズムの時代ですから、神様のやることだと考えていたと思います」 ●それで伝説や物語として、それを語り継いでいっているということですよね? 「間違いないと思います。世界中でそうなんです。有名なハワイのペレという神様をはじめ、火山神は世界中にいるんです。旧約聖書の神様も最初はエルシャダイって言いまして、山の神なんですよ。コレブっていう神の山に登って初めて会える神様で、昼は煙を吹いて夜は火を吐くんです。そんな山って火山以外に考えられない(笑)。つまりユダヤ教、キリスト教の神様は火山神ということなんです」 ●世界中で同じようなストーリーがあるっていうことは、世界中で同じような体験をして、それを子孫に警告の意味で残していっているということ? 「そうですね。まず、畏れですね。今の日本人は畏れを知らないと思うんですが、実際の地球や宇宙のことっていうのは、とんでもない畏れ多いものなんです。それを科学的に実証できる時代ですから、もう1回思い返したほうがいいと思います」 ●実は明日が防災の日ということで、この「死都日本」を読んだ後で、みんな自分が住んでいる地域や日本を、ちゃんと知っているのかなっていうのを、改めて気になり始めているんです。実際には知らなさすぎますよね。
「そうなんですよ。はじめにウチの家内が、『噴火に比べたら、地震の方が怖いよね』と言ったという話をしましたけれど、例えば僕が住んでいた清武市の人も、姶良火山の火砕流でできているということは、気を付けて見てみると新聞なんかに時々書いてあったりして知っているわけです。でも、知ってはいるけど、想像できないんですね。
●読みながら、自分がさもそこにいるように、もしも自分の身に起こった場合、自分だったらどうするだろうっていうところまで考えられる。何か起きたときのための、防災っていう意味では、シミュレーション訓練のできる本だなって思いました。
「そうですね、リセットの鍵になる何かがいりますよね。小手先の表面だけを取り繕うっていうのは、もう誰が考えても限界ですよね。なのに、東海地震のプレートの上に原発ができて、さらに新しく造るという話まである。この国の科学教育はどうなっているんだっていう(笑)。何かがおかしいと思いますね」 ●本来だったら、この本に描かれているほどの大災害が起きる前に、みんなが改めて考えて、少しづつでも直していければベストですよね? 「特にこの本の中でも、原発の被害だけはなんとか食い止めなければいけないということで苦労したんですけど(笑)、そういう事が起こってしまうと1万年間は汚染され続けるわけですから、そのやり直しが効かなくなってしまう。リセットどころか、ゲームオーバーになってしまう。特に原発、エネルギー政策など、そういうものに関しては、2年以内くらいに考えて方向を転換しないと、本当にゲームオーバーになってしまう可能性がありますね」
さて、石黒さんの小説『死都日本』を読んでいくと、破局的噴火と呼ばれる火山の噴火による被害は、私たちが想像する以上に広範で甚大であることがわかるんですが、ここでもう一度、被害の推移をごく簡単にまとめてみましょう。
●ある種、いろんな事を考えさせられる小説「死都日本」ですけど、実はこの小説の最後で大きなハプニングがあって、それを続編みたいな形で執筆中ということなんですよね。ここで、それが何かというのを言いたいんだけど、私が最初に読んだときの驚きを思い出すと、きっとここでは言わない方がいいのかな(笑)。関東地方に住んでいる私達にとっても直接的に関わってくる内容とだけ言っておきましょうか。 「(笑)。そうですね、本当に最悪の場合は東京を捨てて逃げなければいけませんという」 ●その本はいつくらいに完成の予定なんですか? 「急ごうとは思っているんですが、諸般の事情でいろいろ遅れておりまして、来年、なんとかゴールデンウィークあたりには間に合わせたいなと思っているんですが、どうなることやら(笑)」 ●(笑)。では、それまでは「死都日本」を読んでいただいて、自分たちの足元を再認識して、把握をしてもらって、具体的に想像できるようになった頃に、次のさらに怖い本が来るということですね。また「死都日本」を題材にした火山学者のシンポジウムも5月に行なわれたそうですけど、そのメンバーがいわゆる本当の学者さんですよね、どんな感じだったんですか? 「日本の一線級の火山学者さん達、防災担当の内閣府の方、気象庁の方などが集まって下さって、日本のその分野では最高の叡知だったと思います」 ●そのシンポジウム、来年には第2回が行なわれる予定もあるとのことで、私もそのシンポジウムに行ってみたいなと思いますが。その頃にはまた「死都日本」第2弾と、ぜひ「火山神伝説」も期待しておりますので、ぜひ、出してくださいね(笑)。 「頑張ります(笑)」 ●今日はどうもありがとうございました。 ■このほかの石黒耀さんのインタビューもご覧ください。
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■小説家「石黒 耀」さんの本の紹介
・『死都日本』 ・また、お話にもあったように『死都日本』の最後に出てくる“あるもの”について現在執筆中だそうです。また予定が分かり次第、番組やこのホームページでもお伝えします。お楽しみに! |
オープニング・テーマ曲
「ACOUSTIC HIGHWAY / CRAIG CHAQUICO」
M1. EARTH MOVING / MIKE OLDFIELD
M2. ACCIDENTS WILL HAPPEN / ELVIS COSTELLO
M3. DANGER ZONE / KENNY LOGGINS
油井昌由樹アウトドアライフ・コラム・テーマ曲
「FLASHES / RY COODER」
M4. DEEPER UNDERGROUND / JAMIROQUAI
M5. CLOSER TO THE EDGE / ROBERT PALMER
M6. I FEEL THE EARTH MOVE / CAROLE KING
エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
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