2004.11.14放送

軽井沢・ピッキオのカモシカ・ウォッチングに参加



 今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは金田泰江さんと田中純平さんです。
 軽井沢の星野リゾートにある「ピッキオ」。「ピッキオ」には優秀なインタープリターが多く在籍、様々なネイチャー・イベントやツアーを行なっています。今回はインタープリターの金田泰江(かねた・やすえ)さんと晩秋の軽井沢の森を歩きながら、カモシカ・ウォッチングにチャレンジ。合わせて、「ピッキオ」のツキノワグマの保護管理対策スタッフで、研究員の田中純平(たなか・じゅんぺい)さんにクマの保護管理と対策についてうかがいます。


◎牛の仲間だけど“カモシカ”
●今日はピッキオで行なっているネイチャー・ツアーの1つ、カモシカ・ウォッチングにチャレンジということで山の方までやってきたんですけど、ここは場所的にはどの辺になるんですか?
金田さん「長野県と群馬県の県境から群馬県寄りに北上しているんですけど、軽井沢北部の見晴らし台というところから、群馬県の霧積温泉まで抜けるハイキング・コースの途中に来ています。ちょっとあちら側を見てみましょうか」

●崖の向こう側ですね?
金田さん「はい。あちらに大きく屏風のように見えますけれども、大分落葉が進んで山肌が見えてきていますよね。望遠鏡であちらの方を見てみて下さい。もしかしたら何か動物が見つかるかも知れませんよ。
 落葉広葉樹の森なので、ほとんど葉っぱが落ちていて、茶色く残っているのがクリとかドングリがなるミズナラの木なんですけど、あの山一帯に今年はドングリがたくさん落ちていると思いますので、ツキノワグマなんかも秋になると落ちたドングリを食べに山肌を歩いている姿を見たこともあるんです。今日は何か動く気配がないかお持ちの双眼鏡で見てみて下さい。
 山の稜線、空との境のところに黒っぽく陰になっている小さな点があるのをご覧になれます?」

●あれはクマの寝床ですか?
金田さん「(笑)。ちょっとそんな風に見えますよね。棚のような感じになっていますよね」

●クマ棚(だな)ってやつですか?
金田さん「そうなんです。クマ棚なんです」

●前回(6月13日放送)、「ピッキオ」のインタープリター/桑田(慎也)さんに教えていただきました。
金田さん「あ、そうなんですか。クマ棚のかなり大きなものが見えます。立派なクマ棚ですね」

●かなり大きいですね。
金田さん「まだ葉っぱのある頃に、(木の実が)木の上になっている時期にクマが作ったものですね」

●じゃあ、まだあの辺にいるとは限らないんですね?
金田さん「そうですね。今、いるかもしれませんけど、木の上になっている木の実はほとんど落ちてしまって今はないので、拾っている時期になります」

●「いるのかも!?」と思うと、見ただけでワクワクしますね!
金田さん「私達が今立っている道沿いにも、クマが歩いてやってきていることもあるので、クマの糞が落ちていることもありますし、そのほかの色々な野生動物の糞や食べ跡などの痕跡が見られますので、そういったところからどんな生き物たちがどんな生活をしているか、見つけていきたいと思います」
★    ★    ★


●クマ見ポイントから私達は痕跡を探して奥へ奥へと、カモシカの姿を追っているのですが、この時期、一番見つけやすいものとか注意すべき点を教えていただけますか?
金田さん「カモシカの食べ跡ですね。食痕といいますけど、そういったものが道のすぐそばにたくさんあるんです」

●この両端に?
金田さん「両端に。今もう既にいっぱいあるんですけど、カモシカが食べた部分というのが、かじられていてなくなっているんですね。よく見てみて下さい」

●はいはい。これは何の植物かと聞かれても困りますが、ちょうど一番上だけ摘まれたという感じになっています。
金田さん「見事にないですよね。それぞれ先端部分がなくなっていますよね。これはイヌトウバナっていうシソの仲間なんですけど、なくなっている先端の方に少し繊維が残ってますね。カモシカが食べた跡の特長になります」

●これはカサついているから、食べてから大分経っていますね。
金田さん「そうですね」

●探偵気分ですね(笑)。
金田さん「(笑)。カモシカが食べたときというのは、切れ味が悪いんです。ハサミでチョンと切ったようにはならないっていう特長があるので覚えておいて下さい。そうやって見ていくと、周りを『そんな食べ跡がないかなぁ』というふうに見られるかもしれません」

●例えば、人間が前歯で『グーッ』ってやってとったという感じですね。
金田さん「ちょうどそんな感じですね」

●すごく素朴な質問なんですけど、カモシカってウシ科じゃないですか。
金田さん「はい。牛の仲間ですね」

●なぜ、“カモシカ”なんですか?
金田さん「シカかも(笑)。カモというのが、昔、お尻に敷く敷物のことをカモといったんですね。そのカモシカの毛皮で敷物のカモを作っていたというのと、イノシシとかいいますよね。シシというのは、狩猟していた動物のことをシシといったりするんですが、そのシシがカモシシというところから、カモシシ、カモシカという風に訛っていったんじゃないかといわれています」

●崖の方からカモシカの幅くらいに草が分かれています。もしかしたらカモシカが通ったのかなぁと思ったのですがどうですか?
金田さん「見えますね。その視点がとても大切なんですよ。これで、だんだんカモシカの気分になってきましたね(笑)」

●私はカモシカ?(笑) 楽しいー。

◎ポッキーを探せ!
金田さん「ここからは、ピッキオで調査をしたときに、ある1頭に出会った場所でもあるんです。ここは、私達がポッキーと名前を付けたカモシカに出会った場所なんですけど、そのポッキーがどんな場所で生活をしているのかというのを見ていきたいと思います。
 山の地面をよく見ていくと、なんとなく道のように細く続いているところがありますね。これが、カモシカのポッキーも使っている獣道になります」

●林道から何歩か下へ降りたところですね。
金田さん「ええ。すぐそこなんですけど、その道をつたいながら、カモシカならではの痕跡がないかどうか探していきましょう」

●ポッキーの気分になって「ポッキーの跡を追え!」
金田さん「ここはカモシカも通ると思われる獣道なんですが、直径2cmほどの木の地面から約40cmのところに削ったような跡がありますね」

●はい。皮を削ったような・・・。
金田さん「これはカモシカの仕業なんです」

●食べた跡?
金田さん「実は、ここで頭を擦っていたんです」

●角が当たってこういう傷になったんですか?
金田さん「はい、そうなんです。これだけハッキリした跡になるには時間が必要なんですが、角研ぎ跡になります。カモシカには鬼の角みたいな角が2本ついていますが、あれを研ぐときにこういう木を使うんですね。で、高さはいつもだいたいこれくらいになるので、この30cm〜40cmくらいの高さのラインに注目して獣道伝いに行ってみると、また同じような角研ぎの跡が見られるんじゃないでしょうか。ご自分で歩きながら見つけてみて下さい」

●私が、探しに行ってきまーす!

〜数分後〜

●これ、そうですかね?
金田さん「そうですね。これも角研ぎによって出来た傷です。同じような高さにありますよね」

●彫刻刀のように深く削られていますね。
金田さん「そうですね。尖った角が頭に2つ付いていて、それを研いだ傷なのでグイッと幹に食い込んだのが傷になって残っているんですね」

●カモシカの角はシカの角みたいに、生え変わったりしないんですよね?
金田さん「そうなんです。一生ちょっとずつ伸び続けるもので、オスにもメスにもあるものなんです。角を研ぐことはカモシカたちの社会の中では、角を研いだ跡がある傾向を見ると、自分の縄張りの境界線によくあるというふうに研究されて分かっているようですが、もしかしたら他にも意味があるかもしれないというふうにいわれています。さらに今、偶然下のところに新鮮な痕跡を見つけました(笑)。ちょっと見てみましょう」

●はーい(笑)。獣道からちょっと降りたところで、角研ぎをやったすぐ下で、ちょうどここで休憩できるくらいの平らなスペースがあり、黒豆くらいの大きさのツヤがなくなってまいりましたけれども・・・(笑)。
金田さん「でも、かなり新しいですね。まだ落ち葉もほとんどかぶっていないので、1日くらいしか経っていないかもしれませんね。本当に新しいカモシカのウンチです(笑)」

●カモシカって草食?
金田さん「はい」
●と、いうことは割ったりすると、ウサギの糞のように食べられちゃうくらい香ばしい香りがするんですか?(笑)
金田さん「(笑)。これも、彼らは草食なので同じように。ちょっと割ってみましょうか」

●本当にコロンコロンなんですね。
金田さん「中は緑っぽいですね」

●ウサギとかに比べると、牛の仲間であるカモシカさんたちは相当長い間反すうしているじゃないですか。その辺で糞の違いが出てくるんですか?
金田さん「ウサギの糞と比較すると、カモシカの糞の断面の方がより繊維がキメ細かいですね。もう本当に消化し尽くしたというようなものが糞となって出てくるんですが、なぜかというと反すうするというのは、彼らはお腹の中で胃袋が4つに分かれているんですが、一番最初の胃袋がとても大きくて、食べたものは一度、一番最初の胃袋に入るんですが、そのときに胃袋の中に微生物を飼っているんですね。その微生物が消化しにくい植物の繊維なんかを分解して吸収しやすくしてくれるという仕組みを持っているんです。だから、これだけ細かく消化できるんですね」

●割った糞の中を見ると、本当に真空パックでギュッとしたみたいに詰まっています。私達はカモシカさんの食べた跡、角研ぎ、糞を発見しましたけど、大体この3つがアニマル・ウォッチングや野生動物を探索するときにチェックするポイントなんですね?
金田さん「そうですね。食べ跡や糞の跡、足跡なんかは本当にアニマル・ウォッチングの時の、直接姿を見るものに繋がる1歩手前ですね。彼らが本当にそこにいるかどうかという証拠になる大事なポイントですね」

◎ピッキオのクマ対策
●カモシカ・ウォッチングを終了し、現在私達はピッキオのビジターセンターに戻ってまいりました。ここ、ピッキオではネイチャー・ツアーや環境教育のほかに野生動物の調査や研究、保護や捕獲などの活動も行なっているんですが、特に軽井沢町でのツキノワグマの保護管理活動についてよく知られています。そこで、保護管理対策スタッフ/研究員の田中純平さんにお話をうかがいたいと思います。田中さん、よろしくお願いいたします。
田中さん「よろしくお願いします」

●ツキノワグマの保護管理というと、どういうことをなさっているんですか?
田中さん「ツキノワグマの保護管理といいますと、私達自身保護ではなくて、ツキノワグマ状況によると。人的被害も含めて農作物に対する被害というと、ものすごいものがあります。私達は人とクマとの共生を考えていますので、人もクマも安心して住める環境を私達自身が作り出せるような対策、そして取り組みをやっている状況です。
 軽井沢の場合は山の中に別荘がたくさん建っていて、そこの中では人だけではなくて、別荘地の森って割と広葉樹林が中心で豊かな森が続いているんですけど、クマだけではなくてカモシカ、サルやイノシシなど色々な動物が棲んでいます。
 クマというのは本来、なかなか人の前には出てこない臆病な動物であると、実際に私達、対策をしていて思うんですけど、そういった中で人自らがクマに出会わないような配慮、あるいは引き寄せないような配慮をここに住んでいる皆様方にお願いしながら、私達自身もクマに対して人里近くに出て来ないような追い払いをしたり、そういった活動を主にしているんですね」

●実は、ここピッキオではベア・ドッグを導入して、クマ対策やクマの管理に努めようという試みが今年から始められたそうなんですが、田中さんも関わっていらっしゃるんですよね?
田中さん「はい。日本で初めてだと思うんですけど、クマ対策犬の育成プログラムを今年からピッキオで始めまして、私自身が飼育係兼トレーナーということで(犬と)四六時中24時間生活を共にしながら訓練をして、野外でクマを追い払ったりとか、クマの気配、歩いた道、そしてクマを誘引している色々なものを探したりするようなことに、これから利用していけるように一生懸命トレーニングをしているところです」

●このベア・ドッグというのは、北欧とかヨーロッパのほうが多いんですか?
田中さん「ベア・ドッグといいますか、私達自身が使用しているのがカレリアン・ベア・ドッグという犬種の名前なんですけど、カレリアンというのはフィンランドのカレリアン地方というところでヒグマの猟犬として、その血筋が保たれてきた犬なんですね。それを、アメリカで同じようにクマ問題で困っているような地域がたくさんあるんですけど、そちらのほうで活動されているクマ問題の専門家のキャリー・ハントという方が初めて『あ、このカレリアン・ベア・ドッグを使ってクマ対策が出来るかもしれない』と考えついて、そこで育成プログラムが開始されたんです。そこで今、私達ピッキオではその方のサポートを得ながら、そのカレリアン・ベア・ドッグをクマ対策犬として育て上げる、そして使用するというプロジェクトをやっているところです」

●犬って難しいのは、海外でもキャンパー達がクマ除けにってボディー・ガード代わりに連れて森の中に入られる方も多いと思うんですけど、以前、野田知佑さんが飼っていたガクちゃんが、アラスカとかへ行くと森の中をさまよって、クマを見つけると連れて帰ってきちゃうそうなんですね(笑)。逆に興奮させちゃって引き寄せてしまうっていうケースもあるそうなんですけど、その辺のトレーニングっていうのは行なわれているんですか?
田中さん「それはトレーニングではなくてですね、1つ、軽井沢の街の中でも言っているんですけど、クマのいる地域で、クマを追うような犬じゃなかったり、訓練がされていない犬を放すっていうのは非常に危険なことなんです。普通のペットの飼い犬でも、手綱に繋いで一緒に歩いていて、ちょっと異変を感じるような鳴き方をするようなことはあるんですね。そういったときはすぐに来た道を戻るというふうにすると、逆に良いパートナーとして普通の犬でももちろん、そういうことを察してくれる犬がいますから使えるんですけど、それを放すということが問題なんですね。でも、手綱を放さないでしっかり一緒に歩いていると、良いパートナーになって色々なことを教えてくれますから、そういう意味では十分使えると思います」

●今回、ピッキオで導入しているベア・ドッグは2頭。名前覚えました。ブレットちゃんとルナちゃん。今、いくつくらいなんですか?
田中さん「まだ9カ月なんです」

●じゃあ、今がまさにトレーニング時期だし、遊びたい時期ですね。
田中さん「最も遊びたい時期でもありますし、トレーニングも生まれて数日後から簡単なものでしたら始まっているので、今後ずっとトレーニングは継続してやっていくつもりです」

●結果が出るのはまだまだ先になると思うんですけど、いい結果が出ることを祈っております。これからも活動頑張って下さい。
田中さん「ありがとうございます」

◎冬のピッキオの楽しみ方
●今回は、金田さんと一緒にカモシカ・ウォッチングを楽しんだんですが、これから冬のピッキオのお薦めネイチャー・ツアーにはどんなものがありますか?
金田さん「冬はネイチャー・スキー・ツアーがありますね」

●私達は、かんじきやスノーシューでアニマル・トラッキングに行ったことがあるんですが、ネイチャー・スキーだともっともっと奥まで入っていけたりするんですか?
金田さん「同じように、ゲレンデではない部分、森の新雪の上をネイチャー・スキーで行くことは出来ます。多少、スノーシューに比べるとスピード感も味わえますし、同じくアニマル・トラッキングも楽しめます」

●そのときもインタープリターの方が付いて下さるんですよね?
金田さん「はい」

●その場合は足跡以外にどんなものを探したりとか、どんな生き物に出会える可能性があるんですか?
金田さん「この冬には標高がちょっと高い場所、2000mくらいのところでネイチャー・スキーをするんですが、やはりそこでも野生動物は生活していますので、ウサギやキツネの足跡は見つけられると思います。それと、冬ならではの景色もご覧になれます。これは抜群です。あとは、冬の木々の様子ですね。また表情が違って、冬芽を1つ1つ見ていくと本当によく出来ているし面白いです。そういうものを観察しながら、冬の森の様子が一段と楽しく、スキーを使いながらお楽しみいただけるツアーだと思います。時期が2月から3月になります」

●年内、クリスマスからお正月にかけての冬休みはどうなんでしょうか?
金田さん「その時期はピッキオのビジターセンターから出発する野鳥の森ネイチャー・ウォッチングは開催しておりますので、その中でも寒いんですけど鳥達を観察するにはいい時期ですし、見通しの利く森の中ですので、野鳥の姿やもしかしたら朝方から午前中の間は走っていくリスの姿にも会えるかもしれませんよ」

●じゃあ、冬休みは是非そちらに参加していただいて、年明け2月からはネイチャー・スキーで楽しんでいただければと思います。今日はとても楽しかったです。ありがとうございました。また連れていってくださいね。
金田さん「はい、お待ちしております。ありがとうございました」


■ I N F O R M A T I O N ■
■「ピッキオ」情報
 1992年に本格的なエコ・リゾートを目指す「星野リゾート」の中に誕生した「ピッキオ」は、2003年に「星野リゾート」から独立し、株式会社としてエコ・ツアーや環境教育プログラムを行なう一方、NP0法人として地域の生態系の保全のために動植物の調査や研究、保護なども行なっています。
 そんな「ピッキオ」のビジターセンターでは、室内からのバード・ウォッチングや色々な生き物の展示、ネイチャー・グッズの販売なども行なっている他、以前、私たちが参加した「野鳥の森ネイチャー・ウォッチング」の受け付けも行なっています。
 更に、「ピッキオ」では毎月様々なネイチャー・イベントを開催。これからのシーズンは冬のネイチャー・スキーや雪の上に残された動物の足跡などを探す「あなたも1日調査員」がオススメ。尚、詳しいプログラム内容などについてはお問い合わせ下さい。

・「ピッキオ」資金援助サポーター募集中
 「ピッキオ」では野生の動植物の調査・研究・保護などの活動を資金援助してくださるサポーターを募集中。
年会費:賛助会員、一口1万円、準会員、一口5,000円
・問い合わせ:ピッキオ
 TEL   :0267-45-7777
 WEBSITE:http://www.picchio.co.jp/index.html

最初に戻る ON AIR曲目へ
ゲストトークのリストへ
ザ・フリントストーンのホームへ

photos Copyright (C) 1992-2004 Kenji Kurihara All Rights Reserved.