2004.11.21放送
作家、鷹匠の波多野鷹さんを軽井沢に訪ねて


今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは波多野鷹さんです。

 作家で鷹匠(たかじょう)の「波多野 鷹(はたの・よう)」さんを軽井沢のご自宅に訪ねて、子供のころから生き物が大好きだという「波多野」さんに、軽井沢の自然、生き物、そして鷹匠についてうかがいました。

◎鷹にとって人はトラクター!?
●犬とか猫とかある程度の動物だとなんとなくイメージが湧くんですけど、鷹と暮らす生活だったり、鷹匠というといまいちイメージが湧かないので、どういう感じなのか説明していただけますか?
「仕事になりませんので道楽ですね(笑)。あまり世話に手間がかかりませんので、1日1回餌をやるだけと、掃除もそうしょっちゅうやるわけではない。年に何回か、せいぜい月に1回とか、これは飼育している人間の側がどれくらい潔癖症であるかによっても違うんですけどね。なので、1日1回顔を見せて餌をやってというのが普段です。もちろん、狩りのシーズンになると、これはスポーツ選手がオフ・シーズンからオン・シーズンになったようなものですから、この時にはちゃんと毎日、1日何時間か付き合ってトレーニングをしてやるということになります」

●じゃあ、そのシーズン以外はトレーニングも何もしないんですか?
「ええ。何もしていないです」

●普通の鳥を飼っているような感じなんですね。例えば、狼ってリーダーがいて群れでの生活になるじゃないですか。鷹の場合っていうのはどうなんですか?
「そういうのはないです。結局ペアしかない。例えば、狼ですと親が餌を持ってきたり、食べたものを吐き出したりしますよね。それを子供がもらうと。この時に親が『ウーッ』といって唸ると、子供は近づいてこないわけです。だけど、鷹は全然そうではなくて、母ちゃん父ちゃんが持ってきても、子供達がワッと襲いかかって奪い取ると、親の方がビビって逃げていくという感じです。だから、そういう欲望がモロに出ない、制限があるのはペアの間だけと言っていいと思います」

●鷹達にとって波多野さんの存在というのは、どういう風に見えているのでしょうか?
「人間が育てて、人間が擦り込んだ鳥に関してはペア相手ですね。鷹がオスなら私はメス。その逆なら逆ということになります。この場合には一様のコミュニケーションがあります。そうでない場合には、自動餌出し装置ぐらいにしか思っていないわけです。日本でもありますけど、例えば東南アジアで田んぼや何かを田起こしをする時に、トラクターや水牛が引く鋤(すき)とかが行ったり来たりすると、その後ろにアマサギがついて歩いて、掘り起こされた虫を食べていたりしますよね。だから、鷹にとっての鷹匠というのは、ある意味トラクターであるとか鋤であるとか、そういう感じだと思います」

●そもそも、波多野さんが鷹匠になられたキッカケってなんだったんですか?
「昔、『野生のエルザ』という映画がありましたよね。狩猟監視官とかに憧れていたわけです。ところが日本にはああいう仕事がなかなかない。でも、私が子供の頃、外国に行くというのは今ほど気楽な感じではなかったわけですね。で、日本で何かないかなと思っていたら、ある雑誌に今所属している会の先輩鷹匠が出ていまして、リハビリテーションをすると書いてあったんです。つまり、獣医さんが傷付いた鳥を治療して治してやると。だけど、そのままだとなかなか飛べないわけです。筋肉が鈍っていますし、勘も衰えている。これは、例えばスポーツ選手が靭帯を怪我しちゃって、退院したらすぐに1軍で出られるかといったら難しいのと一緒ですね。日本でも『野生のエルザ』のアダムソン夫妻なんかに近い、どこか共通する仕事ではそういうのがあることが分かったんです。ただ、そのためには自分の鷹をもって、獲物を捕らせて見せないと話にならないわけです。公式なリハビリの制度ってまだ日本にはありませんし、そうするとただの一般の民間人です。野生動物というのは公共の財産ですから、ただやらせてくれと言っても説得力が薄いですよね。『自分の鷹をもって、それが獲物を捕ってますよ。だから、僕が訓練すれば野生に返すときにもある程度見込めますよ』というのを言いたくてそもそも始めたわけです」

「物姫(ものひめ)」。キリッとして美しい。
●野生動物と関わりたくて「いきなり鷹ですか!?」という感じがしなくもないんですけど・・・(笑)。
「なぜ鷹かというと、好きだからということなんでしょうけどね。やはり伝統的な言い回しが多いんですけど、理にかなっているものが多いんですよ。理にかなっていない言い回しは廃れてきちゃったんだろうと思うんです。伝統にも色々種類があると思うんですけど、鷹狩りの場合は獲物を捕るか捕らないかというのがハッキリしています。例えば、武道でもはっきり勝負がつくものと、素人が見ているとよく分からないものと色々ありますよね。勝負がつくタイプの武道というのは、勝ち負けの淘汰圧がかかってきますから、そっちの方向へ洗練されていきますよね。それと似たようなことがあるんだろうなと思っています。だからといって、実理と関係のない伝統はいけないというわけじゃないんですけどね」

●波多野さんはイギリスの鷹匠クラブにも入っていらっしゃいますけど、イギリスと日本の違いはありますか?
「主として使う種類が違います。イギリスはどうしてもハヤブサの仲間が多くなっています。これは、イギリスというのは昔森林だったものを1回、全部切ってしまって、木は後から植えたものばっかりみたいなところですので、見晴らしが良いんですね。ハヤブサというのは千葉の辺りをいっぱい飛んでいますけど、要するに開けたところにいる鳥です。特に、日本でハヤブサをやろうとすると、出来る場所が非常に限られてしまいます。木が多いものですから。ハヤブサはスピードがあってものを遠くまで追いかけていけるんですけど、木の中へ飛び込んだり、薮の中でものを押さえたりというのはあまり得意じゃないわけです。ですので、日本では鷹の仲間のオオタカがメインになっています。これはハヤブサよりも遅いですけれども、薮の中を器用に飛んだりできるという鳥です」

◎フクロウの生存率は2割か3割
●波多野さんは犬関係の本も含めて、色々な本を書かれていらっしゃるんですけど、今年、『ザ・フクロウ 飼い方&世界のフクロウ カタログ』という本を共著という形が出されました。私が読んだ本には、フクロウもリハビリなさったことがあると書いてありました。フクロウというとハリー・ポッターなどでかなり流行ってしまい、最近はフクロウを飼う人、飼い始めるけど結局お手上げしちゃう人がたくさんいるそうですね。
「それは善し悪しなんですけどね。どうせ飼っちゃう人が多いのであればなるべくうまく飼ってほしいですし、うまく飼えるのであれば先程のリハビリまでいってくれれば一番いいんですけど、そこまでいかずとも、例えば翼が折れちゃって治らなかった個体とかの里親になってもらうというのでもいいと思うんです。あるいは、ペットとしてフクロウを飼う人が増えますと、獣医さんがそれでお金になるわけです。すると、猛禽類医学書を買おうという気になったりするわけですよ。そうすると、日本で希少種が保護された場合、各地方に猛禽類を診察することの出来る獣医さんが何人かいれば、全然違うわけですね」

●今、日本では少ないんですか?
「私が知っている限り、国内の開業獣医師で猛禽類を診察できる人というのは多分ゼロだと思います。これは無理もない話で、そういう方向を一生懸命やっていたって、年間に10例とか20例しか診ないわけです。これは、種類も違えば怪我や病気の内容も違います。例えば、犬猫であるタイプの病気を1回しか診たことがありませんという先生は普通、『診察できる』とは言ってもらえないわけですよね。それは、獣医さんが悪いわけではないんですけど、そういう現状があります」

●フクロウを飼おうとしている方や、里親になろうとしている方の難しい点や、気を付けなくちゃいけない点ってなんですか?
「先程、犬猫と関連して申しましたように、論理が違うということですね。こっちがかわいいかわいいと思っていても、むこうはかわいがられて全然嬉しくないわけです。その誤解が非常に激しいんですね。犬や猫はある意味、その誤解をうまく受け止めてくれる種類なわけです。犬は群れを作りますし、猫は家の中で可愛がっている限りずっと子猫気分なので、母親と猫という関係になりますから。フクロウはなかなかそうはいきません。なので、『かわいがりたい』『好きである』からといって、かわいいかわいいと言ったり頭を撫でたりするのではなくて、もうちょっと間接的な勉強に使うと」

●「可愛がりたいんだったらぬいぐるみを」ということですね(笑)
「フクロウも肉食の鳥ですから、ヒヨコやハツカネズミを飼い主がバラしてやる必要があるわけです。人によってはそういうのを、人間用の食品と同じ冷凍庫に入れるのが嫌だという人がいますが、それではなかなかうまくいかないですよね。ま、冷凍庫を新しく買えばいいんですけどね」

●本の中で、フクロウをリハビリで波多野さんが預かって、いずれは自然に戻すから名前もつけず、最終的には自然に戻したという話が書いてあったんですけど、自分で育てた生き物達が自然に戻っていくのを見るのってやはり嬉しいですか?
「普通に想像していただければ分かるように、嬉しさ半分悲しさ半分です。ことにその時健康でよく飛べる状態で自然に放したとしても、多分生存率2割か3割いくかいかないかだと思います。これは親が育てた子供達だってそんなもんですから、親でもない人間が育ててそれ以上というのはなかなか難しいですよね。放すのは、自然に帰ってよかったなぁと思う一方で、4分の3は死刑宣告みたいなところはありますから、その辺りが複雑ですね」

◎環境破壊は人間ばかりが悪いわけじゃない
●波多野さんは東京から軽井沢に移り住まれたわけですが、こちらに長年住んでいて軽井沢の自然環境は変わりましたか?
「変わりました。ただ、必ずしも人による破壊だけではないと思っています。今、非常に狭量な教条主義的な自然保護というムードが強いんですけど、それは必ずしも悪いことではないんですね。巨大な開発に立ち向かっていくには必要ではあるんですけど、ただ一方で人間ばかりが悪いわけではないと。例えば、私が(軽井沢に)来た10何年か前はリスが多かったんです。今、リスは減りました。これは自然破壊かといったらそうではなくて、ムササビが増えたからだと思われます。ちょうど、僕の知っている10何年かが木が育っていく過程で、リスが棲みやすい森からムササビが棲みやすい森へと変わっていく境目だったんですね。そういう自然の食遷(しょくせん)、移り変わりを遷移(せんい)といいますけど、遷移は思ったより早いんですよ。だから、よく自然を破壊すると何百年経っても戻りませんといいますよね。厳しいところは確かにそうなんですけど、日本のように雨が多いところ、例えば駐車場の更地なんかが所有者の関係で使われなくなったりしますよね。で、翌年草が生え始める。それがだんだん丈が伸びていく。そのうちにいつの間にか木が生えて、10年、15年経つとけっこうこんもりとした森になっちゃったりするわけです。そうすると、更地だったときに使っていた動物達はそこを使えていないわけですよね。だから、移り変わりが早いなぁというのが実感ですね」

●自然環境や野生動物の問題に直面すると、いつも「人間さえいなけりゃ」という考えに行き着いてしまうのですが、本の中で波多野さんは「人間ばかりが悪いわけじゃない」という書かれ方をされていますよね?
「そうですね。環境破壊をする動物って人間だけじゃないんですね。例えば、島に棲んでいて穴を掘って育てる、オオミズナギドリという鳥がいますよね。そういうのが営巣する地域は植生だって変わってくるわけですよ。自分達が使いやすいように環境を変えるというのは、色々な生物がやっているんです。これは例えば、森に木がワーッと生えていて幸せそうに見えますけど、みんな隣の木の成長阻害物質を出したり、小さな意地悪運動をしているわけですよ(笑)。人間が問題になるのは、人間の力が強いからであって、特に人間が非倫理的であるからではないだろうと思います」

●「人と自然の共生」についてはどう思われますか?
「身も蓋もないことって見たくない方が多いんだろうなって思います。結局、自然環境問題っていうのは人口問題ですし、最終的にはエネルギー配分の問題であると。要するに地球と太陽の距離は変わらない。で、地球の大きさも変わらない。と、降り注ぐエネルギーの量も変わらない。これを温度として使うか、あるいは大気や海洋を動かす力として使うか、食べ物として使うかは別として、この配分ですから、パイはもう決まっているわけです。その決まった中で何割どう分配するかであると。『自然との共生』とかっていうと、なんとなくうまく使えばパイが大きくなるような、ちょっと楽観的な甘さを感じないでもないです」

●対野生動物に関してはどうなんでしょうか? どこで折り合いをつければいいのかというのも微妙ですよね。
「折り合いって、もともと一時的なものじゃないでしょうかしら。結局、野生動物の保護であろうと管理であろうと、どちらの側面が強くてもいいんですが、お互い変わっていくもの同士だし、人間対野生動物というのも変でして、野生動物同士もありますから、とりあえず今の手当て、とりあえずの手当てで、あとは何もしなくてもこれでOKというのはないんだと思います。一時的なものの積み重ねでいくしかないんだというのが、身も蓋もないところだと思います。例えば、電気はこまめに消しましょうとか、そういうのがいけないわけでは全然ないわけですよ。そういう小さいことはもちろん大切なんですね。ただ、最終的な解決策ではないというのを踏まえた上で『しょうがないな』といってやればいいものだと思います」

◎自然は食育次第
●波多野さんが軽井沢に移り住んで動物達と暮らし始めて、何か変わったことや学んだことってありますか?
「やはり、その身も蓋もなさだろうと思います。都会から遠くにあるものとして見る自然と、例えばこの辺り最近イノシシが出るんですけど、犬の散歩をしていて向こう(イノシシ)から寄ってきたりするわけです。犬を怖がらないイノシシが。ひどいときは犬の引き綱の範囲内に、フゴフゴいいながら鼻を突っ込んできたりするわけです(笑)。こういうのを殺しても仕方がないというか、どうにもならないわけですよね。この辺りですと別荘地なので、せいぜい被害があるといってもユリをほじられるくらいですけど、穴をほじくり返すパワーを見ていますと、農業をやっている方が『イノシシの被害を何とかしてくれ!』と言いたくなるのは非常によく分かるわけです。例えば、お勤めの方で銀行預金がどんどん減っていくようなものですから、これは『何とかしてくれ!』ってことになりますよね」

●都会にいて自然を遠くに感じていると、自分の生活に密着していないものだから「殺したらかわいそう」とか、つい言ってしまいがちじゃないですか。
「だからといって、都会で『ニワトリ絞めろ』『豚を潰せ』というわけにはいかないので仕方がないんですけど、例えば、食生活。これから流行っていくであろう食育(しょくいく)。食べる教育。生き物を殺して食べるということ。逆な言い方をしますと、我々が食べる食べ物ってお塩を除くとみんな生き物の死骸ですよね。その辺りを、どう実感するかにかかっている気がしますね」

●鷹の訓練シーズンとか、狩りのシーズンっていつくらいなんですか?
「11月15日から2月15日までの3カ月が猟期です。これは地方によってもズレがあります」

●今度、是非・・・。
「一緒にいらっしゃいますか? 歩きますよ(笑)。寒いですよ(笑)」

●(笑)。息切れしないように、一生懸命トレーニングを積んで、いずれ、いつになるかは断言はしませんが(笑)、楽しみにしています。今日はどうもありがとうございました。


■ I N F O R M A T I O N ■
■作家/鷹匠「波多野 鷹」さん情報
○『ザ・フクロウ 飼い方&世界のフクロウ カタログ』(共著)誠文堂新光社/定価3,780円
 フクロウと幸せな生活を送るために、その入手、飼育の準備、エサ、訓練、行動、健康などの情報が満載。

○『フクロウとタヌキ〜里の自然に生きる』(共著)岩波書店/定価1,995円
 現代日本生物誌の一巻として発売されているこの本では、フクロウとタヌキにスポットをあて、その生態や暮らしなどについて解説。「波多野」さんはフクロウ部分を担当。

○「波多野 鷹」さんのホームページ『放鷹道楽(ほうようどうらく)』
 NPO法人 日本放鷹協会の事務局次長/保護部部長を務める「波多野」さんのホームページは猛禽、鷹狩り、鷹狩り猟犬、鷹匠、アニマルトレーニング、リハビリテーション(野生復帰)に関する情報満載。写真も見ごたえ十分。
WEBSITE:http://www.astur.jp/

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