2005年3月13日

星野直子さんの「星野道夫と見た風景」

今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは星野直子さんです。
星野直子さん

 96年にカムチャツカ半島でヒグマに襲われ、亡くなった写真家「星野道夫」さんの奥様「直子」さんをお迎えし、アラスカを愛した「星野」さんとの想い出などうかがいます。「直子」さんは先頃「星野道夫と見た風景」という追想録を出版されました。

オーロラを見て感じたこと

●今日は、旦那様の星野道夫さんの話が多くなると思いますので、旦那様のことは星野さん。奥様のことは直子さんとお呼びしてもよろしいでしょうか?

「はい。よろしくお願いします」

●直子さんはこの度、「星野道夫と見た風景」という写真とエッセイで綴られた本を出版されました。本当に素晴らしい写真とともに、私たちが星野さんの本で感じてきたことの裏話的なものも、直子さんのエッセイを通じて知ることができました。星野さんと直子さんは星野さんのお姉さまによる、お見合いでお知り合いになったんですよね?

「はい、そうです」

●初めてお会いしたときの星野さんの印象ってどうでした?

「年齢が17歳違うっていうのは聞いていたんですけど、実際に会ってみたら年がそこまで違うっていう感じはしなかったんですね。アラスカの話を色々してくれて、その様子が少年のように目をキラキラさせながらだったので、すごく素朴で温かい人だなという印象を受けました」

●結婚する前にアラスカに行かれたそうですが、アラスカに着いて、星野さんが最初に連れていってくれた場所はどこだったんですか?

「アラスカに着いて、デナリの国立公園に行こうかとか、色々計画はあったんですけど、一番最初に連れていってくれた場所っていうのが、フェアバンクスの中にある一番大きなスーパー(・マーケット)に連れていってくれまして、私も海外が初めてだったので、スーパーというと日本にあるようなスーパーしか知らなかったんですが、行ってみたらとても大きくてデパートのようなスーパーだったんです。で、そこのあるコーナーに連れていってくれて、『ここに来ればお醤油もお米も買えるからね』って、私が心配しているだろうと思って連れていってくれたんだと思うんですよね」

●男性がそういうところに気付くというのは感心なことだと思います。そのときは、星野さんは直子さんにプロポーズをしたあとで、返事待ちだったのでなるベくその不安を取り除こうということだったんでしょうね(笑)。初めての海外旅行でのアラスカの夜はどうでしたか?

「夜っていうと、私は都会でしか暮らしたことがなかったので、何も聞こえない夜っていうのは初めての経験だったんです。なので、『こんなに静かなんだなぁ』っていうのを実感したのは驚きでしたね。夜に関すればですけどね」

●結婚したら暮らすことになるであろうアラスカの印象はどうでしたか?

「初めて海外に出たのがアラスカだったので、出発前はどんなに日本と違う場所なんだろうっていう思いがいっぱいだったんですけど、アラスカに着いてみて、言葉はもちろん英語なんですけど、人々の温かさを感じてすごく安心するような、行ったこともないところなのでおかしいんですけど、懐かしいような感じを受けましたね。安心してホッとしていられる場所という印象を受けました」

●エッセイの中では、初めてのアラスカで初めてのオーロラをご覧になって、そのオーロラを見て直子さんの中で結婚への決意が固まったそうですね?

「決意というような大袈裟な感じではなかったですね。オーロラが出始めたんですけど、みんな疲れて予兆を見ているだけで寝てしまったんですね。でも、私はどうしても見てみたくて、夜中までずっとひとりで寝袋をかぶりながらベランダで見ていたんです。そうしたらどんどん動き始めて激しくなってくるとピンク掛かってきたり、緑色掛かったりして、それを見ていたら口をポカーンと開けたまま動けなくて、そんな感じで空を見上げていたら、今まで自分が何をそんなに色々考えることがあったんだろうと思えてきたんです。大事なことさえ自分の中でしっかりしていれば、何も迷うことはないんだなぁって感じて、『大丈夫だよ』って言われたような感じがありました。それは後から気持ちがくっついてきたのかもしれないですけど、オーロラを見ながらそんな思いがありました」

ワスレナグサ

●星野さんは、「結婚したら出来るだけ一緒にあちこち行こうね」っておっしゃっていたそうですが、日本で結婚式を挙げられて日本国内にハネムーンに行かれて、そのハネムーンのパート2がカナダ領のクイーンシャーロットでの、星野さんの撮影旅行だったんですよね?

「はい。日本でずっと会っていたので、仕事をどういうふうにしているかっていう姿を見たのはそのときが初めてだったんですね。で、撮影をし始めるまでは普段通り他愛もない話をしながら散策して、『あんなのがあるね』とか『こんなのがあるね』って話をしながら歩いているんですけど、撮り始めると一言も話さなくなって、被写体に集中して撮っていたので、本当に息もしていないんじゃないかというくらいに見えたんですよね。それで、私も言葉をかけることも出来ずにそばで見守っているという感じでした。で、そんな姿を見て、『こうやって写真を1枚1枚撮ってきたんだなぁ』っていうのを初めて知りました」

●星野さんが撮ってらっしゃるときって、直子さんはそばでジーッとしているんですか?

「色々あったんですけど、そばで見ていたり、長引きそうだなぁというときには、邪魔をしないように違うところを見ていたりとかそういう感じです」

●野生動物にも遭遇されていますよね?

「ええ。色々な動物と出会うことができました」

●初めての遭遇はどんな動物だったんですか?

「最初にクロクマを見たのはクイーンシャーロットだったんですけど、移動の車の途中だったので、黒い影が走っていって『あ、クマだ!』という感じだったんです。フィールドで過ごしているときに最初に出会ったのはシカでした。クイーンシャーロット島のトーテムポールの写真を撮りに行っていて、色々散策をしているときに、トーテムポールは長い年月が経っているので、朽ちて傾いているところがあったり、当時、ハイダ族の人達が住んでいた住居跡があったりしました。そんなところをシカが草を食べながらゆっくりのんびり歩いている姿を見たりしました。あと、夫と一緒に歩いているときに、茂みがなんとなく膨らんで見えるところがあって、『あれ、なんだろうねぇ』って言いながらかき分けたら、生まれて間もないであろうシカの赤ちゃんがうずくまって・・・」

●コジカのバンビのように?

「そうですね。起こさないように夫は何枚か撮影をして、また元通りに戻してっていう出会いもありました」

●数々の撮影旅行に同行した中で、直子さん御自身が新たに発見したものや、強く惹かれたものってありますか?

「ひとつに絞るのは難しいんですけど、まずひとつ目は花の撮影のためにアリューシャン列島に同行できたんですね。そこのアリューシャンの花っていうのは、同じ花でもアラスカ本土とは種類が違ったりするんです。
 一番印象に残っているのは、そのときにちょうど島の人が、『ワスレナグサがとってもキレイに咲いているから、そこに行けばたくさん咲いているよ』って教えてもらった場所に行ったんです。でも、ふたりで歩けども、探しても全く見つからなくて、『おかしいねぇ』って言ってフッと足下を見たら、そこは岩場のように見るからに花が咲きそうもない痩せた土地に見えたんですけど、そこに這いつくばるようにお花が咲いていたんです。よく見たら、私たちの知っている淡いブルーではなくて、濃いブルーのワスレナグサが一生懸命咲いていたんです。
 そのアリューシャンの島は気候の厳しいところなので、背丈が伸びずに這いつくばるように花を咲かせていた姿を見て、誰も見ていなくても、こんなに厳しい状況の中で命を繋げている、咲いている姿を見て、私は少しだけお花の勉強をして、その時には切り花しか知らなかったんですが、逞しく生きている姿を見てとても心を動かされました」

クマと過ごした豊かな時間

星野直子さん

●本の中にも出てきたんですけど、撮影旅行の途中で衝撃的な出来事もあったそうですね?

「そうですね。いくつもの動物との出会いがあった中で、一番緊張したのはクマの生息地の中で撮影があって、そこにテントを張って1週間から10日くらいキャンプをしたときですね。
 そこは南西アラスカでカトマイ国立公園というところなんですけど、そこは通常はキャンプ地になっていて、キャビンがあってレンジャーの人がいてというところなんです。クマは遠慮して近くまで出て来ないので、そのキャンプ場が閉まってレンジャーもいなくなって、自分たちの責任でその場所に入るっていう時期を選んで行ったんですね。そこは水上セスナでしかアクセスできないところで、その水上セスナが湖に着水して外に出てビックリしたんですけど、湖岸に小山のように大きなクマがゴロゴロと10頭くらい、ポツンポツンと気持ち良さそうに昼寝しているんですね。『確かここでキャンプをするんだよなぁ』と思って、その時はさすがに緊張しましたね。
 でも、何日か夫と一緒に行動していて、自分達人間が食料を持っていることで、匂いによって向こうから来てしまったりとか、見通しの悪いところでパッタリ出会ってしまったりとか、そういうことに気を付けていれば、クマのほうから突然向かってくることはないということが分かったので、少しずつ緊張がほぐれながら過ごしました」

●その中でクマさんのいびきを聞いたそうですね?

「はい。夜だったので、多分、私たちで勝手にいびきかなと言っているだけなのですが、夜は本当に静かなので何も音が聞こえないんですよ。秋だったので、テントの廻りに落ち葉があって、クマが歩いていって大地を踏みしめる音で『クマが歩いているなぁ』とか、そういう音は聞こえてくるんですけど、ある夜に今まであまり聞いたことのないような低い音が聞こえてきて、『なんだろうねぇ』って言ってテントの入り口を開けて、ふたりで耳を澄ませていたんです。外は真っ暗で何も見えないんですけど、音が聞こえたり止んだりというのを繰り返していて、『あれ、もしかしてクマが近くで寝ていて、いびきかなぁ』っていう話をしていたんです(笑)。
 確かめる術は何もなかったので、私たちの想像でしかないんですけど、そんなこともあって、きっと私ひとりだったら怖かったと思うんですけど、夫が一緒にいたので、姿は見えないけど近くにクマが寝ていて、クマと同じ時間を過ごしているんだなぁって豊かな時間を過ごせました」

直子さんの「星野道夫と見た風景」とは!?

●星野さんとの撮影旅行に同行するばかりではなく、フェアバンクスの御自宅での留守番も多かったと思うんですけど、私たちのイメージではアラスカといえば寒いところという感じがあるんですが、気温って平均して何℃くらいなんですか?

「夏の7月くらいで、一番暑くなると30℃を超える日が何日かあったりします。なので、半袖で過ごしているという感じです」

●逆に冬はどうですか?

「私は真冬の一番寒い時期っていうのを体験していないんですよ。夫が日本で出版社との打ち合わせとか、日本での仕事を12月の終わりくらいから2月の初めくらいまでの一番寒い時期に日本でするよう戻っていたので、合わせて一緒に帰っていたんです。なので、−40℃、−50℃っていうのは体験したことがないんです。私が覚えているのは12月の中旬くらいで−33℃ということがありました(笑)」

●(笑)。でも、そういう時は家の中にいますもんね。

「そうですね。日本のように歩いてどこかへ行くという距離に色々なものがないので、車で移動をするんです。なので、移動と移動の間を歩くくらいですね」

●自然が豊かで、厳しさも優しさもある中で暮らしたからこそ、いま、日本に戻られてきて生活していて、懐かしく思ったり、ギャップを感じたり、逆に日本が見えてくることってありますか?

「あります。それは夫も言っていたんですけど、アラスカに行って日本を離れてから、逆に日本の良さっていうのがよく分かった部分はありますね。アラスカの自然はとても大きくて、日本の自然と比べると大きい小さいという話になってしまうんですけど、日本の自然の繊細さというか、季節が移り変わっていくゆるやかな様子とか、そういうのをとても感じるようになったということを言っていたんです。
 私は3年くらいしか、アラスカに1年中いるという生活が出来なかったんですけど、離れてみて日本の良さとか、アラスカでのことを思い出したりというのはたくさんあります」

●直子さんの今後の夢を教えていただけますか?

「これはひとりでは決められないので、子供と相談しながらなんですけど、子供がもう少し大きくなって、アラスカの学校に短期間行ってもいいという気持ちになれば、1年を通して過ごしてみて、アラスカの自然の移り変わりを子供にも見せてあげたいですね。あと、自然の中のキャンプとか釣りなど、自然の中で過ごせる時間を増やして体験させてあげたいなという思いはずっとあるんですけど、なかなかそれが実現できずにいるんです」

●今回、直子さんがお出しになった本が「星野道夫と見た風景」というタイトルですが、直子さんにとって「星野道夫と見た風景」とはどういうものですか?

「当時、見ていた風景っていうのは、初めて体験することばかりで『うわぁ、すごい』とか『うわぁ、キレイ』って、表面的なことしか見てこられなかったんです。でも、こうやって少し月日が経って、見てきた色々な風景を思い起こしながら、当時のことを思い出したりしていると、本当にかけがいのない時間を一緒に過ごさせてもらったんだなぁっていう思いが大きいです。日本で色々息詰まったこととか、『どうしようかなぁ』なんて考えているときに、フッと一緒に見た風景とかが蘇ってきて、そうすると『頑張れるかな』っていう気になるような風景があるので、生きていける元気になるというか、そんな風景を一緒に見てきました」

●私たちもいずれはアラスカに行きたいと思います。今日はどうもありがとうございました。


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■自然写真家「星野道夫」さん、及び、奥様「星野直子」さん情報

星野道夫と見た風景

・「星野直子」さんの本『星野道夫と見た風景』
新潮社/定価1,365円
 1996年にカムチャツカ半島でヒグマに襲われ、亡くなられた夫である自然写真家「星野道夫」さんとの想い出話はもちろん、「星野道夫」さんの素晴らしい写真や「直子」さんが撮られたスナップ写真なども掲載。まさに星野夫妻が共に見た風景が文字と写真によって綴られている本。

・写真展『星野道夫の宇宙展』
 仙台と長崎で『星野道夫の宇宙展』と題された写真展が開催される。

◎仙台展
日時:3月25日(金)〜4月6日(水)
   午前10時〜午後7時30分
   金曜・土曜は午後8時まで、最終日は午後5時まで(入場は閉場の30分前まで)
会場:仙台藤崎・本館7階催事場
入場料:大人800円、高校・大学生500円、小中学生以下無料
問い合わせ:仙台市交通局
   TEL:022-224-5111
◎長崎展
日時:7月16日(土)〜31日(日)午前10時〜午後8時
   ただし7月25日(月)は休館
会場:長崎県美術館県民ギャラリー(4月23日開館予定)
入場料:大人700円、中高校生500円、小学生300円

・愛・地球博での催し
 愛・地球博では「星野道夫」さんの写真展や「直子」さんによるスライド&トーク・イベントなど、市民プロジェクトによる「星野」さん関連のイベントがいくつか行なわれる。

◎写真展『心のアラスカ展』
日時:7月4日(月)〜10日(日)午前9時〜午後6時
   8月8日(月)〜14日(日)午前10時〜午後6時
会場:愛・地球博・瀬戸会場 市民パビリオン2階
   対話ギャラリー「地球の授業スペース」
◎『星野直子さんのスライドとお話』
日時:7月10日(日)午後の部(予定)
会場:愛・地球博・瀬戸会場 市民パビリオン1階 ホール「対話劇場」

「星野道夫」さんのホームページ
 http://www.michio-hoshino.com/

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オープニング・テーマ曲
「ACOUSTIC HIGHWAY / CRAIG CHAQUICO」

M1. PHOTOGRAPHS AND MEMORIES / JIM CROCE

M2. WHAT AM I TO YOU ? / NORAH JONES

M3. THE FLOWER THAT SHATTERED THE STONE / JOHN DENVER

ザ・フリントストーン・インフォメーション・テーマ曲
「THE CARRIAGE ROAD / JIM CHAPPELL」

M4. 春の風 / KIRORO

油井昌由樹アウトドアライフ・コラム・テーマ曲
「FLASHES / RY COODER」

M5. YOU CAN DO ANYTHING / CAROLE KING

M6. GOLDEN MOMENTS / JAMES TAYLOR

M7. EVERYTIME I CLOSE MY EYES / KENNY G. feat. BABYFACE

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
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