2006年2月19日

人と自然の研究所・代表、野口理佐子さんの「ケニア紀行」

今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは野口理佐子さんです。
野口理佐子さん

 「人と自然の研究所」の代表「野口理佐子」さんをお迎えし、今年、視察で訪れたケニアの現状や、研究所が行なっている様々な活動についてうかがいます。

生態系の知識は地球で生きるためのルール

●今日は、野口さんが2000年に設立された「人と自然の研究所」の事務所にお邪魔をしているんですが、この「人と自然の研究所」というのはどういう団体なんですか?

「ネーミング的にはとても偉そうな感じになってしまって恐縮なんですけど(笑)、研究の大先生がいるっていう組織ではなくて、人と自然をつないでいくためには、どういうことが必要なんだろうっていうことで、色々な研究者の方もいらっしゃいますし、市民活動をしてらっしゃる方もいるし、一般の市民の方にも入っていただいている団体なんです。要は、学者先生達がすごい研究などをなさっているんですけど、それは学会の中だけの話になってしまって、一般の市民の人達には全然伝わっていないじゃないですか。でも、それじゃ何のための研究か分からないなっていうところから、そういう先生方の新しい研究をいかに一般市民の人達の生活に役立てるか、環境保全に役立てていくかを、この事務所が原宿にあるんですけど、歩いているお兄ちゃんやお姉ちゃん達でも分かるように通訳をしたり、その橋渡しをする役割が出来たらいいなということで、2000年に仲間達とで作ったような感じです」

●私たちは野口さんとはC.W.ニコルさんのアファンの森でお会いすることが多いんですけど、あちこちでお見かけするのはそういう理由からなんですね。「人と自然の研究所」の主な活動の中にビオトープ管理者の養成というのが入っていますが、これについて詳しく教えていただけますか?

「ウチの一番の主力の活動になっているんですけど、もともと樹木環境ネットワーク協会自体にグリーンセイバーという資格試験を作ったりしていたんですね。というのも、自然生態系に対する正しい知識を普及しないと、間違った環境保護活動っていうのも一方ではあるんですね。例えば、間違った植林とか、野生動物に餌をあげちゃったりっていう何気ない人の行為が、ともするとものすごい環境破壊につながるっていうケースがあるっていうことを、活動をしていてすごく感じていたので、これではいけないということで、生態系に対する正しい知識を1人でも多くの人にっていうことを目的に始めたんです。
 ビオトープっていうと、『ビオ』は生物、『トープ』は場所っていうことで、生物の生息空間という意味なんですね。グリーンセイバーだと植物から生態系を見る感じなんですけど、植物だけじゃなくて他の生き物のことも全部考えて、生態系のことを知ろうっていうような講座の内容になっているんです」

野口理佐子さん

●講師の方にも色々な方がいらっしゃるんですね。

「そうですね。実務経験が豊富な方や、生態学者の先生もいらっしゃいますし、実際にお仕事でそういった活動をされている実務部隊の方や、NGOで活躍されている方も先生に入っていただいています。それで、ビオトープ管理士っていう資格試験を日本生態系協会っていうところが毎年1回試験をしているんですけど、その試験が結構難しいんですよ。目標があると勉強をするきっかけ作りになるので、まずは試験合格に向けての教材を作成して、資格を取る取らないに関わらず、生態系の知識っていうのは本当に多くの人に持っていてもらわないと、地球で生きるためのルールみたいなものなので、それをどうやって幅広い人達に理解してもらおうかなぁっていうのが活動のメインになっています」

●2000年に設立ということは、今年で6年目ということになるんですけど、野口さん御自身、「人と自然の研究所」を設立した頃と今とでは、どう変わりましたか?

「私は最初はゼロだったので、『私でも分かるテキストを作って下さい』とか、そういう段階から始めたんです。私は素人で、今でもなるべく一般の人と同じっていうスタンスは変えたくないなって思っているんです。分からないことをどんどん『教えて下さい』って大人になってからはなかなか言いにくいじゃないですか。でも、私は結構平気で(笑)、大学の先生とかにも『えっ? 分かんない。教えて教えて!』って言えちゃうので(笑)、それで誰にでも分かりやすい教科書作りとか、テキスト作りをやってきたところがよかったのかなと思いますね。研究を無駄にせず、色々な生き物達と一緒に暮らせるより良い社会をこれから作っていかないとダメだなと思ってやっています」

人と自然が共存する場所、ケニア

神戸さんはスラムの子供たちを援助する活動も行なっている。
神戸俊平さんと子供たち

●この番組に1月に出演していただいたケニア在住の獣医さん、神戸俊平さんも野口さんに紹介していただいたいて、本当に一筋で職人気質なタイプの先生でしたが、そんな神戸さんがいらっしゃるケニアに野口さんも行ってきたそうですね?

「そうなんですよ」

●今回、ケニアに行かれた目的っていうのは何だったんですか?

「神戸先生も今年で60歳をお迎えになって、そろそろ活動の集大成みたいなのをつくっていきたいというので、スタディー・ツアーやエコ・ツアーみたいなものを企画しましょうかということで、神戸先生の視線で36年間生きてきたケニアでの神戸先生の日常を、どう日本の人達に伝えられるかなぁというのを考えるために行ってきました。全部で3週間、色々と視察をしに行ってきたんですけど、色々と本当にビックリしました」

●ケニアには初めて行かれたんですか?

「初めてです。アフリカ自体が初めて。途上国初めてかも知れません(笑)。なので、インパクトが本当に大きかったですね。やはり、聞くのと見るのとでは大違いでしたね」

●何がどう違ったんですか?

「まず、神戸先生という人が別人でした(笑)。日本にいる神戸先生とケニアにいる神戸先生は全くの別人でして(笑)、それがまずすごくビックリしましたね。日本にいると『かわいらしいおじさん』みたいな感じの印象を受けるんですけど、ケニアでは野生児そのもので、『私は騙されていました』っていう感じでしたね(笑)。本当に野性味溢れていたり、向こうではすっごく怖い顔をしているんですよ。厳しい顔をしていて、向こうの情勢的にも決して治安がいい場所ではないですし、市内でも色々なことから身の危険から守らなきゃいけないし、サバンナに行く道中も盗賊に襲われる危険があるかも知れないので、刃渡り40センチくらいのマサイ・ナイフを磨いて、常に運転席の下に入れて、盗賊が来たらこれで戦うんだっていう、それが日常なんですよね。彼にとってみたら」

●危機感が日本にいるときとは全然違うでしょうね。

「違いますね。サバンナに行っても、野生動物に襲われる危険っていうのが常にあるので、最初に行ったナクル公立公園では、『ここにテントを張ろうかなぁ』と思ったら、向こうのレンジャーに『ここ去年、レンジャーがライオンに食べられたからここに張らないで』って本当に言われて(笑)、『ええ〜っ!!』みたいな(笑)。『食べられちゃったんですか、ここで!?』みたいな(笑)。そんな衝撃で『本当なのかな!?』って思うようなことが、現実に目の前で起きているっていうのがケニアでした」

●サバンナの中での野生動物との触れ合いっていうのも、日本では経験できないと思うんですけど、どうでしたか?

朝日に親子のアフリカゾウのシルエット。
野口さんはこれを見て涙を流したのでした。
朝日に親子のアフリカゾウのシルエット
ライオンはマサイの言葉で“シンバ”。シンバの朝食風景。
シンバの朝食風景

「涙モノでした。ガタガタの道を神戸先生の運転で6時間くらいかけて移動して、最初に見たのが朝陽を背負ったアフリカゾウの親子だったんです。その親子が出迎えてくれたときには、本当に黙っていても涙が頬をつーっとつたっていましたね。それくらい感激しました。もともとアフリカゾウが好きで『死ぬ前に1度くらい野生のアフリカゾウに逢えればいい』くらいに思っていたんですけど、こんなに早く会えるとは思わなかったですね。もちろん、キリンやサイ、シマウマを食べているライオンとかにも偶然遭遇して見学することが出来て、これだけ短時間に見られるのは珍しいよって言われたんですけど、でも、それぞれの動物達が本当に一緒に暮らしているんだっていうのを感じることが出来ましたね。
 『人と自然の研究所』はどうしたら人と自然が一緒に暮らせるんだろうっていうのがテーマなんです。日本だと人間の生活が優先されて、道路が出来たり、ダムを造ったり、他の生き物のことを全然考えないような開発が進んでいますよね。ケニアも開発ラッシュで進んではいるんですが、キリンは首を伸ばして究極のリスクと究極のメリットを選んで、水を飲むときとかは逆に彼らは大変じゃないですか。木は食べられるけど、水を飲むときにはものすごいリスクを背負って、それでもあの形を選んでいったとか、それぞれの動物達が最大限の自分達で出来る進化を遂げて、それで同じ場所で共存しているっていうっていうのは絶対に1度は見ておいたほうがいいと思います」

ケニアは情報化社会!?

●野口さんはケニアに3週間行ってらっしゃったということで、日本では見ることや触れることの出来ない大自然がアフリカにはあると思うんですけど、そんな中での動物と人との関わりっていうのはどういうふうにご覧になりましたか?

「国立公園といわれているところは国が管理しているんですね。で、地域の人達は入っちゃいけませんというルールで、ナイロビのナショナル・パークとかそういうところは柵で囲われていて、その隣で何百万人という人達がスラムでゴチャっと生きているんです。『ここから先は動物の為だから入るな!』っていう感じで、ともすると、人よりも野生動物の方が守られているのかなぁっていう気に一見、なっちゃう場所もあるんですね。ただ、神戸先生がフィールドとしているマサイマラ動物保護区っていうところは、本当は国立公園にして『地域の人達は出ていきなさい』としたかったらしいんですけど、マサイの人達は出ていかなかったんですね。マサイは野生動物達と一緒に暮らしているというのがすごかったですね。要は、ゾウとかライオンがいる中で、彼らは家畜を守っているわけですよ。牛を守りながら伝統的にそこで生活しているっていうのが、彼らのすごいところだなぁと思いましたね」

●本当の意味での野生との共存を人が出来ているんですね。

シマウマの死体を見ながら、
若いマサイ族からレクチャーを受けているところ。
マサイ族からレクチャー

「そうなんです。だからマサイの戦士はライオン狩りが出来るくらい強くなきゃいけないし、家畜を守るだけのノウハウや技術を持っているんですね。ケニアにいるときに彼らと一緒に歩いていて、シマウマが食べられた跡があったんですね。そしたら、彼らがパッと来て『これは昨日の朝、1頭の若いライオン(シンバ)がこれを食べたんだ』って言うんですよ。それには『ここの、この歯形がシンバの歯形だよ。で、ここでこうやって食べるのが若いシンバの証拠だ』とか、『そのあとに、ハイエナが3頭来て食べた』ってところまで分かるんですね。それを、マサイの若い戦士はみんな分かっているんですよ。逆に言えば、それが分からないと野性生物とマサイの生活は維持できないんだなぁって感じましたね。また、マサイの戦士がかっこいいんですよ(笑)。それはそれですごく感動で、彼らにはこれから長い、地球と生物が共存していく中での知識がいっぱい詰まっているなぁっていうのが、本当に実感しました。
 ただやはり、生活はもちろん水道がないですし、電気もないところで彼らは暮らしていて、でも携帯電話は持っているみたいな感じなんです(笑)。草原にいると、神戸先生のところにもマサイの人から電話がかかってきて、『今、そっちの方でアフリカゾウの群れが動いているから、気を付けて帰ってこい!』みたいな情報化社会ではあるんですけど(笑)、何かちょっと不思議でしょ? でも、彼らは別に『水道が欲しい』とか、『何が欲しい』というふうには思わないんですね。水を汲みに行くのが彼らの当たり前のライフ・スタイルだし、『いい家に住みたい』とかも全然思わないで、牛の糞で作られた家が最高に心地よいし、価値観が違うんですよね。所有するっていう価値観ではなくて、牛と家族が一緒に暮らしていければそれで幸せだっていう価値観なんですね」

●人間が生きていくために、文明の利器で色々なものが開発されていますけど、何が本当に便利で、あるといいのかなっていうものを見極めることが大切ですよね。

「そうですね。それが今回のアフリカで私自身が直面したことで、電気も水道もないところで何日間か過ごさなくちゃいけなくて、水不足だったんですね。アフリカでは干ばつがすごくて、みんな水を求めて家畜も野生動物も人も動いているのがよく分かって、私たちもテントとかマサイの人達の村では、洗面器1杯の水でどうやって体を拭くかっていうようなことを考える生活をしていると、水がなくてすごく不便だけど、でも、それよりももっと大事な人としてとか、生き物として大事なものをこの人達はいっぱい持っているんだなっていう実感は日本では出来ないなと思いましたね」

子供たちの目が美しいですね! 笑顔も素晴らしい!
野口さんの顔も輝いてます!
野口理佐子さんと子供たち

●3週間、ケニアでのスリル溢れる生活をされてきたわけですが・・・。

「って言うと、非常に危険なところだと思って『ツアーに行くのは嫌だ!』って思われちゃうとすごく困るんですけど(笑)、私はそのツアーというより、神戸先生と同行して色々なところを見て回ったので、どちらかといったら生活者の視点で見てきました。かなり危険なところにも行かせていただいて、でも、向こうの人達のル−ルにキチッと乗っ取ったスタイルとか、スタンスでキチッと入っていけば『ウェルカム!』っていう対応なんですよ。なので、そういうことを生の目で見させていただきました」

●日本に戻られてから、何か変化ってありますか?

「私自身も『ここまで変わったかな!?』って思えるくらい、根底のものは変わりましたね。で、長い期間でしたし、あまり体の強いほうじゃないので、体調も途中で崩しちゃうかなとか、お腹悪くなっちゃうかなとか、色々な病気の心配をして行ったのですが、向こうにいる間に不思議とどんどん元気になってしまって、帰ってきてからも元気一杯で、まだその元気が持続できるくらいな感じなんです。行った人はみんな言うんですけど、やっぱりすごいエネルギーが土地にあるんですかね。本当にエネルギーをいただいて帰ってきたという感じです」

年末にはサバンナ・ツアー!

「アフリカと神戸俊平友の会」のメンバーとマサイ族。
前列右から2人目が神戸さん、その隣りが野口さん。
「アフリカと神戸俊平友の会」のメンバーとマサイ族

●最後に、神戸さんのエコ・ツアーのスケジュールなども含め、「人と自然の研究所」のこれからの予定を教えていただけますか?

「前回、神戸先生を登場させていただいたときには、今年の夏くらいにはやりたいというふうにおっしゃっていたんですけど、今回、色々見せていただいて、みなさんに安全に旅をしていただかないと意味が無いので、その辺の確保作業とかでちょっと時間がかかりそうです。でも今年の年末、冬休みくらいには『神戸的なアフリカ・ワイルド生活を楽しむツアー』を、雄大な自然と、遠くにバッファローが歩いていたり、ゾウもライオンもいるようなところで、テントを張って、サバンナの話をしようというようなツアーを実現できそうです」

●その他には何かありますか?

「『人と自然の研究所』としてはビオトープの管理士養成通信講座というのを主力でやっています。毎年9月に試験があるんですけど、それに向けての通信講座は1年中やっていて、もうちょっと多く、ビオトープ管理士の人が増えていただきたいなということでやっています。もうひとつやっているのが、通信講座で試験に受かりましたとか、知識を持った人が今、4000人くらいいらっしゃるんですけど、逆にその人達が資格を取ったからすぐ活躍できるかっていったら、そうじゃない現実が一方であるので、昨年からフィールド講座というのをたくさんやるようになっていて、それで、少しでも活躍できるビオトープ管理士を育てていきたいなと思っています。月に1回、神奈川県の座間谷戸山公園というところでフィールド研修をやったり、アファンの森でも植生調査の研修会をやったり、実際に和光市の小学校とかにも招かれて、学校ビオトープをどうやって活用するかというところの講師で行ったりしています。本当に学校ビオトープも今、作ったはいいけど、そのままでほったらかしになって、草ボーボーになっちゃってるケースがすごく増えているんです。それをどうやって子供達と一緒に教育の場にしていくのかとか、地域の自然再生の拠点にしていくのかっていうノウハウも集めているので、そういうことの出来る人材をどんどん育成していきたいなというふうに思っています」

●野口さんとはまた、あちこちでお会いするかと思います(笑)。

「(笑)。本当にいいお仕事をさせていただいて感謝しています。夏はアファンの森で子供達と一緒に過ごせる時間も持てて、冬は冬でサバンナに行くことが実現できればこんなに素敵なことはないなと(笑)、自分で幸せを実感しております」

●どんどん幸せにエネルギーをいっぱい蓄えて、元気に他の人達とも分かち合うような場を作っていただければと思います。今日はどうもありがとうございました。


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■「人と自然の研究所」情報

 「野口理佐子」さんが代表を務める「人と自然の研究所」が行なっている事業のひとつ、ビオトープ管理者養成のための通信講座とフィールド講座。特に、通信講座で勉強することは「(財)日本生態系協会」認定の資格「ビオトープ管理士」の取得の近道といえるので、興味のある方はぜひ受講してみて下さい。
 「通信講座」の受講料は、教材費、添削指導料などを含み、3万1,500円。
 一方、「フィールド講座」は定期的に開催されています。

通信講座/フィールド講座に関する問い合わせ:人と自然の研究所
  TEL:03-5485-6778
  HP:http://www.bio-inste.com/

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オープニング・テーマ曲
「ACOUSTIC HIGHWAY / CRAIG CHAQUICO」

M1. ALL NIGHT LONG / LIONEL RICHIE

M2. STORMS IN AFRICA / ENYA

M3. TOURISTA / YOUSSOU N'DOUR

ザ・フリントストーン・インフォメーション・テーマ曲
「THE CARRIAGE ROAD / JIM CHAPPELL」

油井昌由樹アウトドアライフ・コラム・テーマ曲
「FLASHES / RY COODER」

M4. RETURN TO INNOCENCE / ENIGMA

M5. MAMA UDONGO〜まぶたの中に〜 / 久保田利伸

M6. WALK ON / U2

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
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