2006年7月16日
海の日スペシャル
今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは古谷千佳子さんです。 |
7月17日の海の日にちなみ、沖縄の海に魅せられ、移り住んでしまった写真家、古谷千佳子(ふるや・ちかこ)さんを都内の写真展会場に訪ね、石垣島の自然と調和し、海とともに生きる人たちの技や魅力についてうかがいます。
●私達は今、モンベル渋谷店5階のサロンで行なわれている「WWFジャパン写真展〜海と共に生きる〜石垣島・白保」の写真展会場にお邪魔をして、古谷さんのお写真が並ぶ中でお話をうかがっていきたいと思います。古谷さんは現在、沖縄本島に住まれているそうですが、ご出身は東京なんですよね?
「はい。そうです」
●そもそも、沖縄に行かれたきっかけってなんだったんですか?
「最初は家族旅行です。15歳の頃に行った家族旅行をきっかけに沖縄に憧れてしまって、ダイビングを始めたんですね。で、たまたま知り合った漁師さんを通して、海人(ウミンチュ)や、漁師さんの生活を知ったんですね。でも、ダイビングよりも海辺の暮らしに興味がわいて、移住したときには海の仕事をしたいという思いで行きました。ただ、海の仕事をしたいって言っても、遊びでやるよりも魚を獲って暮らすっていう暮らしに憧れて、全然知らないまま、憧れだけで行ってしまいました(笑)」
●(笑)。若い女の子がそういう方向へ行くっていうのも結構珍しいですよね?
「うーん(笑)」
●沖縄でも皆さんから言われませんでした?
「多分、『変わっているねぇ』って思われていたと思うんですけど(笑)、当時、一番憧れていたのが灰谷健次郎さんだったんです。半分、教員をやって、半分、漁業をやるとか、教員って言っても、例えば美術の先生をやって、そういったアトリエで空いた時間に自分の絵を描いて、あとは漁業の手伝いをしたいっていう甘っちょろい考えだったんです(笑)。行けば何とかなるだろうってことで、教員も資格だけ取って、海の勉強をして、向こう(沖縄)に飛んでいっちゃったんですね」
●実際、そうは甘くなかったんですか?(笑)
「そうですね(笑)。海の仕事は片手間にできるものはなくて。自分の記憶を引き出す糸口として、当時、写真を撮っていたんですけど、実際、海に行ってカメラを持っていたら『何しているのかー!』って叱られるので(笑)、それは置いておいてってやっているうちに、いつの間にか海の仕事しかしなくなっていたんです」
●一番カルチャー・ショックだったことって何ですか?
「私、東京にいた頃はあまり時間を守る方ではなかったんですけど、それに輪をかけてすごいというか(笑)、沖縄タイムっていうのが存在するんですけど、私はここの時間帯に慣れたらどこにもいけなくなるなって(笑)、恐怖心みたいなものがありましたね。いつの間にかすっかり慣れてしまって、居心地がよくなっているんですけど、待たされても怒らないし、待たせても怒られないんですね。ただ、海人は時間の約束をしても守らないんですけど、潮の満ち引きに合わせてがっちり動いているので、それを読んで動くとピッタリ合うんですね。だから、沖縄の人全員ということではなくて、自然の仕事をしているときは、自然に合った動きをしているので、その辺はしっかりしていましたね」
●時計の24時間ではなくて、海の潮を見たりの、自然の時間で動いているんですね。
「そうですね。今日が大潮か小潮かとか、そういうことを常に知っているし、沖縄のカレンダーって大潮小潮とか、満潮干潮の時間も書いてあるんですね。海人はそういうのをいちいち見なくても、感覚的に『こんなだろう』っていうのを分かっているんですけど、普通の丘の仕事をしている人もそういうのがインプットされていて、暦、時間軸が2つあるというか、旧暦と今の暦のどちらも同じウェイトで流れていますね」
●この番組では、石垣島出身のBEGINのみなさんにも出ていただいて、そのときに「おじぃ、おばぁから本当にいろいろなことを学ぶ」っていう話とか、「年上の人たちからの知恵を小さい頃からいっぱい学んでいくんだよ」っていうお話を「ぬちぐすい(命の薬)」っていう言葉も教えていただいて、すごく印象に残っているんですけど、古谷さんも近所のおじいちゃんやおばあちゃんから学ぶことってありましたか?
「ありましたね。仕事もそうだし、食事もそうだし、あらゆるところで『人間は自然の一部なんだ』っていうことを教わってきたと思います。特に付き合いが多かった海人さんってあまり喋らないんですね。喋らないけれど、そういうのを行動で教えてもらっていたかなぁと思いますね」
●明日(7月17日)は、海の日ということで、海と共に暮らす沖縄の人たちにとっては1年365日が海の日ではないのかなって感じがするんですけど(笑)、古谷さんみたいに実際に移り住んでしまうまではできないという方もたくさんいらっしゃると思うんですが、そういう方たちに海の日に向けてメッセージはありますか?
「海はキレイな場所とか遊ぶ場所とかではなくて、私達が食べるものがある、おかずが獲れる海なんだよっていうことをちょっとでも知っていただけると、沖縄とか色々な海に行ったときに感じ方とか変わると思うんですね。おかずが獲れる健康な海っていうのが、私にとってのキレイな海だと思っています。海に限らず景観、自然環境が人の暮らしとか人間を作っていくっていうことを意識できなくなっていますよね。多分、私もそうだったんですね。で、何か分からないけど息苦しさを感じていて、たまたま出会った海に惹かれて飛んでいっちゃったってだけで、自分の存在を理解したかったっていう深層心理があったのではないかなと感じますね」
●古谷さんのホームページのプロフィールのところに、「細部にこそ真実がある」というフレーズが書かれていて、「深いなぁ」って思ったんですけど、この言葉についてもう少し詳しく聞かせていただけますか?
「私もそういった極端な世界にバッと飛んでいってしまって、そういう比較の中から色々なものを感じ取っていたんですけど、多分、そうじゃなくて、東京の日常の生活の中でも、家族の付き合いとか、庭にある花でもなんでもいいんですけど、そういうものをじっくり観察して、きちっと付き合っていくことによって、結局、同じことが分かっていくんじゃないかなぁって、漠然と思ったんですね。『もう都会が嫌い!』っていう極端な気持ちで飛んでいってしまったんですけど、家族が東京にいて親もいるし、そういった人たちは何気ない日常からきちっと感じ取っていると思うんですね。私も東京にもいいところがいっぱいあると思うんです。便利なだけではなくて、家族の絆もないわけではないですよね。だから、そういった意味では極端な世界に身をおいて、きちんとした感性が戻ってきて、こういう場所(東京)に来ても少しは感じ取れるようになってきているのではないかなぁと思います」
●今回の写真展は「WWFジャパン写真展〜海と共に生きる〜石垣島・白保」というタイトルなんですが、一般的に白保というと珊瑚のイメージだと思うんですね。そして、その珊瑚は危機的状態っていう連想をしてしまって、「大丈夫なのかな?」って遠い東京の空から考えるんですけど、実際に写真を撮られたり、触れていて、現状はどうですか?
「石垣島に限らず、沖縄もそうだし、海外もそうなんですけど、私が潜り始めたのは15年から20年前なんですけど、その頃と比べたら全然違っちゃっているんですね」
●古谷さんが潜り始めた頃から比べても、全然違うんですね。
「全然違いますね。5年前、10年前、15年前といったら全く違うので、それをおじぃやおばぁたちは『いやぁ、昔はキレイだったよ』って、私が行った時から言っているので、よっぽどキレイだったんだと思います。私が知っている範囲で比較しても、全然変わっちゃっていますね」
●それはどうしたらいいんでしょうか?
「どうすればいいんですかねぇ。難しいですね。みんな、それぞれができることは違うと思うので、私はたまたま海が好きで海をやってきて、カメラマンになって写真を撮るようになって、それに気がつくきっかけを与えることができる立場にいるのかなぁっていうことで、写真展をやったり、雑誌に寄稿したり、そういった手段をとっているんですけど、うーん、どうしたらいいんだろうなぁ。使い捨てのものをやめるとか、そういったちょっとしたことでもいいから、できることからやるしかないんじゃないですかね」
●何よりも都会の人たちはリラックスする意味でも、海に行って、海風を浴びて、海タイムでゆったりとした気分になるだけでも、気持ちが変わっていくのかもしれないですね。
「そうですね。だから、旅行で沖縄に来てバスに乗ってあちこちを忙しくガーッと廻るのではなくて、ゆっくり海辺で時間を過ごすとか、そこの地元の人と交流を持ってみるとか、そういったゆっくりした時間の中で、『気がつこう』っていう意識を持つことからでいいんじゃないんですか」
●この番組では夕陽評論家の油井昌由樹さんという方がコラムをやってらっしゃって、いろいろなところで見られる夕陽のお話をたくさんしてくださるんですけど、古谷さんは沖縄にいて、「沖縄のこの時間帯のこの雰囲気が最高なんだ」っていうのってありますか?
「陽が上がるときと、陽が落ちるギリギリの光の感じの空気感が好きですね」
●では、沖縄では早起きをして見ていただきたいですね。
「朝陽と共に目覚め、夕陽と共に休むと(笑)」
●分かりました!(笑) 次回、沖縄に行くときは私もそれを心がけたいと思います。まだまだ、これからも色々な写真を撮られると思うんですけど、「こういう写真を撮ってみたい」とか「まだ撮れていないもので、撮りたいもの」とかってありますか?
「やっぱりまだまだ一番のメイン・テーマである自然崇拝っていうか、自然と共に生きるっていうことを、色々な人たちから吸収したいと思っているんですね。ただ、その発信方法として、今までモノクロであったり、渋い世界を渋く表現していたんですけど、それだとなかなか一般の人に伝わりにくいというか、意識を持っている人しか見てもらえないので、子供でも分かるレベルで見せていく、表現方法の方を工夫してみたいなと思っています」
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●その表現方法のひとつというのでしょうか、ちょっとしたチラシを見つけてしまいました! そこには古谷さんの色々な写真も載っているんですが、その中に「海にくるくるシーサーマン」というキャラクターが載っていて、マジックペンで書いたような字が書いてあって、海をバックに黄色いトラのようなライオンのようなキャラクターが載っています(笑)。
「これがシーサーです(笑)」
●あ、シーサーなんですね!(笑)。ミカンにお絵かきをするとこういう感じになりますよね(笑)。これは写真と何でできているんですか?
「これは漆喰でできているものなんです。もともとこういった山の赤瓦と珊瑚でできた漆喰だけで組み合わせたシーサーなんです。これを宮城光男さんというアーティストの方が作っているんですけど、これをもっと単純化してキャラクター化したものがこれなんです」
●すごくかわいいキャラクターになっていますね。これ、後ろが古谷さんのお写真になっていて、その写真にマジックペンでいたずら書きしたかのように(笑)、ヤシの木が書かれていたり、ヨットが書かれていたり、ミカンに顔が書いてあったりと(笑)、コラボレーション作品なんですね。
「そうです。絵画の画に写真の真で『画真(がしん)』ということでやっています(笑)」
●画真(がしん)ね!(笑)
「こうやって、『なんだか分からないけど、面白い』って思ってもらえるところから、海に引っ張っていけるんですね。実は沖縄人の彼も、私と出会うまでは海に入ったことがなかったんですよ。サーフィンはやるけれど、海に入ったことがなかったんですね。ただ、『やっていることは面白そう』って興味は持っていたみたいなんですけどね。興味のきっかけって単純なことなので、これを見て『海に入ってみたいなぁ』とか、『これ、何だろう?』とか、思ってもらえるだけでもいいなと思いますね。この珊瑚だけを撮っても、ダイバーだったり、環境に意識がいっている人じゃないとなかなか反応してくれないんですね。これが、分かりやすくっていうことです」
●なるほどね。これからも、どんどんこういう楽しくて不思議な世界が繰り広げられるんですね。
「そうですね。一見、対極にあるような世界を融合させるという意味では、今までの渋いモノクロとか、暮らしのありようを淡々と撮るものと、かわいいものと、やっていったら調和が取れるかなと思ってやっています」
●このかわいい写真の中にこそ、細部にこそ、真実があるというのがうかがいとれるような作品ですね(笑)。
「(笑)。説明がなければ単純に『かわいいー!』で終わっちゃうんですけど、実はそういった意図があるんですね」
●こういう不思議なこととか、かわいいものを出されるときは、是非、番組でも紹介させていただければと思います。私達、ザ・フリントストーンも昔に1回だけ沖縄に行ったことがあるんですけど、駆け足だったので、今度、もしもじっくり行ける機会があったら、そのときは古谷さんからおじぃおばぁたちに紹介していただいて、ゆったりとした過ごし方を伝授してもらいたいと思います(笑)。
「沖縄タイムで待っています(笑)」
●今日はどうもありがとうございました。
■写真家「古谷千佳子」さん情報
『WWFジャパン写真展〜海とともに生きる〜石垣島・白保』
・WWFジャパン サンゴ礁保護研究センター ・「古谷千佳子」さんのHP:http://www.chikakofuruya.com/ |
オープニング・テーマ曲
「ACOUSTIC HIGHWAY / CRAIG CHAQUICO」
M1. 涙そうそう / 夏川りみ
M2. 島人ぬ宝 / BEGIN
M3. 海風 / TINGARA
油井昌由樹アウトドアライフ・コラム・テーマ曲
「FLASHES / RY COODER」
M4. 僕らのメッセージ / KIRORO
M5. 幸い住む島 / 永山尚太
ザ・フリントストーン・インフォメーション・テーマ曲
「THE CARRIAGE ROAD / JIM CHAPPELL」
M6. ひかる・かいがら / 元ちとせ
エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
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