2007年6月3日

小説家・石黒耀さんの富士山噴火シミュレーション『昼は雲の柱』

今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは石黒耀さんです。
石黒耀さん

 クライシス・ノベルの気鋭の小説家、石黒耀(いしぐろ・あきら)さんをゲストに、富士山の噴火をテーマにした最新の小説についてうかがいつつ、災害対策や防災意識について考えます。

富士山の噴火をテーマにした小説『昼は雲の柱』

●石黒さんは2002年にじょうご型カルデラ火山、霧島火山の破局的大噴火をシミュレートした地学小説『死都日本』、2004年には東海地震をテーマにした『震災列島』、そして去年の11月に富士山をテーマにした『昼は雲の柱』という小説を発表されているんですけど、地理的には霧島、東海、富士とだんだんと東京に住んでいる私達に近づいてきているなっていう感じがするんですけど、この順番っていうのはどういった理由からこうなったんですか?

「特別、意識は何もしていませんでした。最初はとにかく宮崎に暮らしていましたので、霧島のことは書きたいということでまず九州の話を書いて、そのあとに次は何を書くかって話のときに編集部の人の希望なんかもあったりして、東海地震を書いて、その『震災列島』を書いてすぐに漫画関係の出版社の人から、漫画の原作となるような火山冒険小説を書いてほしいという依頼があったので、そのときに持っていた3つくらいのストーリーを見てもらって、富士山に決まったんです。なので、偶然東へ寄っているという感じなんです」

●テーマとして、破局的大噴火があって、大地震があって、富士山の噴火に伴う地震があってという、地震列島に住んでいる私達にとっては切っても切れないテーマが続いているので、何か意図があるのかなと思ったんですね。で、『震災列島』についてお話をうかがったときに、石黒さんが「東海地震のあと、何年かすると、富士山が噴火するんじゃないかと思っているんだ」っておっしゃっていたので、その繋がりからいっても「次は富士に来たか!」と思ったんですよね(笑)。

「(笑)。東海地震と富士山ってある程度の関連があるんですね。もう1つ、関東地震と富士山もある程度、関係があるんですね。ちょうど、南関東のプレートと東海地震を起こす南海トラフのところに富士山がありますので、どちらの影響も受けるわけなんですね」

●おっしゃっていたように、最新の小説の『昼は雲の柱』の主人公に高校生の若いカップルが登場して、過去の二作品に比べると・・・。

「オジン臭さが抜けたというか・・・(笑)」

●(笑)。青春冒険小説になった感じがするんですが、これは漫画の原作になるようにそういう設定にしたんですか?

「ええ。最初から高校生を主人公にしてくれという依頼があったので、そういうふうにしました」

●とはいえ、出てくる高校生のお父さんたちやおじいちゃんが、昔からの伝説や神話を大事にしながら伝えていくっていうのは、石黒さんのスタイルの1つですよね。

「そうかもしれませんね。理屈っぽい人が多いです(笑)」

●いえいえ(笑)。タイトルなんですけど、最初の『死都日本』、2作目の『震災列島』はタイトルからも内容はなんとなく伝わってくるんですけど、『昼は雲の柱』という3作目のタイトルを見た瞬間、「んっ!?」って思ってしまったんですが、このタイトルに隠された意味を教えていただけますか?

「これは、ユダヤ教徒の方ならすぐに分かるんですけど、旧約聖書に出てくる一説なんですね。出エジプト記っていう、モーゼがイスラエル人を連れてエジプトを脱出するときに目標にしたのが、『昼は雲の柱、夜は火の柱』のシナイ山なんですね。実は、ほとんど同じ内容の話が日本書紀にも載っているんです」

●石黒さんは過去の小説でも、日本書紀とか古事記といった記紀に載っている物語っていうのは、海外の神話にすごく近いものがあって、どちらかが真似たかのような近さがあり、それが全て火山に関係しているんじゃないかって書かれていましたよね。

「全てではないんですけど、ほとんど関係しているんじゃないかって考えています。特に、記紀神話といわれる最初の部分は明らかに火山神というものを意識して書かれているんですね」

●なので、各小説の中では火山神伝説というものが、石黒さんの小説の裏テーマのようになっていて、3作の間ずっと続いて、まだ終わっていないんじゃないかなと思うんですが、そういう意味では今回、『昼は雲の柱』というのを持ってきたのは、シナイ山と富士山の繋がりというのもなんらかの関係があるのかなと思ったのですが、どうなんでしょうか?

「やっぱりあるんですね」

●あとは是非、『昼は雲の柱』を読んでいただくと、「なるほどな」と分かっていただけるんじゃないかなと思います。

富士山は活火山

『昼は雲の柱』

●去年、富士山の噴火をテーマにした最新のご本『昼は雲の柱』という小説を出された石黒さんなんですけど、富士山ってちょっと汚いからって世界遺産に登録されなかったり、寂しいポジショニングにありながら、やはり日本人からしても海外の人にとっても、日本を象徴する山であることに違いはないんですけど、そんな富士山がそう遠くない将来、本当に噴火しちゃうんですか?

「あと何年生きるかによりますけど(笑)、長生きすれば多分、見られると思います」

●それはスパン的にはどれくらいなんですか?

「平均すると百数十年に一回は噴火しています」

●最後に噴火してから何年くらい経つんですか?

「今年が300年目にあたります」

●前は休火山という言い方をしていましたよね?

「ええ。僕らの子供の頃はそうです」

●今は休火山という言い方はしないんですか?

「そういう定義はなくなってしまって、一応、活火山に入っています」

●ということは、活火山ですから噴火しても当たり前なんですね。

「そうですね」

●ぼちぼち長生きすれば、噴火が見られるという根拠はどういうところにあるんですか?

「自然科学の常識では過去、平均100年ごとに何百回か起こったことは、そこで打ち止めになるということは考えにくくて、次の101回目もあるという考え方をします。で、終わったという兆候は何もなくて、逆に富士の奥の方では火山性の地震が続いているとか、むしろ生きているという証拠の方がたくさんあるわけですから、次も続けて同じ様に起こると考えるのが当然だと思いますね」

●私、火山には色々な噴火の種類があるって、石黒さんの『死都日本』を読んで知りまして、あのご本では破局的大噴火というすごい噴火だったんですが、富士山の噴火って、あの小説で描かれているような噴火とはまた違うんですか?

「全く逆のタイプなんです」

●どういう噴火なんですか?

「『死都日本』で書いたのは、粘っこい硬い溶岩がいきなりドカッと爆発するタイプだったんですけど、富士山はトロトロっとした溶岩なんですね。ハワイのキラウエア火山の噴火の映像でよく出てくる、シャワー状に吹き上げてドロドロ流れていくっていうタイプの噴火がほとんどなんですね。で、たまたま300年前の宝永噴火がドカンと爆発する不思議なタイプで、あれは富士山の20万年の歴史上、宝永型噴火ってたった1回しかないんですね」

●ドカンという噴火は富士山としてはまれだったんですね。

「非常にイレギュラーなので、僕はあまり考えなくてもいいかなという気がします」

●でも、サラサラとした溶岩が流れていくと、スピードも速いでしょうし、規模も大きくなるんじゃないですか?

「サラサラといいましても、火口から出た直後はサラサラしているんですけど、流れていくうちにどんどん固まっていくので、小説中にも書いているんですけど、少し離れると人が歩くよりも遅くなるんですね。ですから、溶岩の流れを見ながら、ほんの数十メートル逃げればそれで十分安心という程度の噴火がほとんどなんです」

●でも、富士山と一口に言っても、私達が描いているようなきれいな形の、てっぺんにある火口から噴火するとは限らないんですよね?

「山頂火口から噴火することは意外に多くなくて、むしろ山頂以外の麓とか山腹から噴火する方が多いんですね」

●ということは、次に噴火するときも噴火する場所によって影響の出方も変わってきますよね?

「ええ。麓の平らなところから噴火する場合があるんですね。そうすると、すぐそばに旅館街があったりする場合があるかもしれないです。ですから、噴火する場所によって急いで逃げなくちゃいけないということはありうるかと思うんですが、ただ、富士山の周囲って幸いなことに自衛隊の演習地がグルっと取り巻いているんですね。ですから、他の火山に比べると実は安全なんですね。例えば、箱根とかですと、山頂で噴火したらいきなり旅館街があるとか、遊園地がやられちゃうとか、そういうことは富士山ではかなり少ないですね。ただ、登山期だけが問題で、登山している人達のところでいきなり噴火が起こるとか、地震で山崩れが起こるとか、そういうことが起こるといきなり何百人が死んでしまうっていうことが絶対に起こらないとは言えないですね」

●今、地震の予知っていうのはどれくらい可能なんですか?

「最初の1発目が分からないんですよね。起こり始めたら当然、登山中止になりますので、立ち入り禁止になって予知はすると思います。ところが、マグマが岩盤を破り始める一撃目がなかなか予想つかないんですね」

●一撃目が起きてからの対策はできるけれど、その一撃目の予知は今の科学をもってしても無理なんですね。

「かなり難しいですね」

安全を考えると日本はほとんど住めない!?

『震災列島』

●前作の『震災列島』で石黒さんが危惧なさっていたのが、原子力発電所についてで、特に東海地震をテーマにしていたので、浜岡原発にスポットを当てていらっしゃって、小説的にはその災害がなく終わっていますが、火山が噴火してそれに伴う地震となると、原子力発電所ってかなりヤバイんじゃないですか?

「富士山に関していえば、あまり浜岡原発は問題ないんです。ただし、例えば九州に川内原発というのがあるんですけど、ああいうところは姶良火山にしても、阿蘇火山にしても、非常に大きな噴火を起こすと、何十メートルという火砕流で埋まってしまうんですね。そうすると、原子炉の炉自体は意外に大丈夫かもしれないんですけど、使用済み燃料貯蔵プールというのがあるんですね。実は、そこが危ないんですね。で、そこは体育館みたいなところの地下に大きなプールを作って、死の灰でいっぱいの使い終わった燃料を水の中につけて冷やしておく大きなプールなんですね。そういうところに火砕流がなだれ込むと、まず建物の屋根の部分はもたないですね。そうすると、温度が600℃とか700℃という火災流堆積物がプールの上に何十メートルも積もっちゃうわけですね。すると、水は沸騰しようとします。でも、上からものすごい圧力がかかっているので沸騰できないわけですね。で、140℃とか150℃とか温度がどんどん上がっていって、ある一線を越えたところでドカンと一気に大爆発するんですね。ちょうどボイラーが爆発するとどれくらいひどいことになるかご存知だと思うんですけど、それの何億倍という爆発です」

●相当大変なことですよね。

「ものすごく大変なことです。伊豆大島に波浮港(はぶのみなと)というのがあります。あれを見られた方は分かるかもしれないんですけど、あれが水蒸気爆発の跡なんですね。で、きれいに1つの港ができるくらいの湾ですね。そのくらいの規模のものが吹っ飛んでしまうんですね」

●ということは、富士山が噴火した場合はあまりそういう害はないけれども、日本という場所では・・・。

「原発の炉が壊れるよりもっと大変な、炉の中に入っている燃料も何十倍も多いですし、何十倍も汚いですね。そういうところが爆発を起こす可能性があります」

●そういうところが活火山の近くにあるということですね?

「あります」

●それに対する対策っていうのはあるんですか?

「いえ、全く立てられませんね。あの規模の噴火には人間の力は全く無力です」

●ということは、そういう位置に・・・。

「原発を立地したというのがものすごい科学オンチですね」

●ちょっと安易ですよね。

「ちょっとどころか、ヨーロッパだったらまず無理ですね。住民運動も起こるでしょうし、行政自体が常識を持っていますから、そんなところにまず、建てさせませんね」

●今、石黒さんがご存知なだけでそういう危険なところってどのくらいあるんですか?

「火山だけに限定すると、それほど多くはないんですけど、地震まで入れれば多いですね」

●地震ということでいったら、日本国中どこにいても地震は起こるわけですから、日本に原発があること自体問題なわけですよね?

「まず、ヨーロッパの常識なんかでは、大きな地震が起こる震源域の上に原発を建てたりっていうのは、住民が許さないですね」

●前回のご本でも、日本を知ることが災害対策に繋がるとおっしゃっていたんですけど、私達は火山列島に住んでいるっていうことを忘れがちで、建物にしても何にしても、あまりそこまで気にせず近場まで攻めていっちゃってるじゃないですか。でも、これは決して安全なことではないんですよね?

「安全ではないですね。安全を考えたら、実は日本列島ってほとんど住めないんです(笑)」

●(笑)。そういう意味でいったら、地震列島の日本では火山の噴火も地震も・・・。

「当然来ると思って生活していて当たり前で、ひとつの環境だと思えばいいわけで、特殊なことだと思っているから、変なことになってくるんですね。例えば予算の分配なんかにしても、特殊なことだと思っているから、そのときだけ臨時予算を組むということになるので、毎年組んでおけばいいんですよね」

『昼は雲の柱』には続編、続々編がある

石黒耀さん

●青春冒険小説『昼は雲の柱』では若い世代が主人公として高校生が登場し、最後にはその高校生達に未来を託すような形で、その親とおじいちゃんが見守って終わっていて、続きを予感させるんですが、石黒さんのあとがきには既に続編の構想がちょっと書かれているので、これは確実に続編があるんですね?

「ええ。元気があって長生きすれば必ず(笑)。実はこの話ってもともと3冊の話からなる予定の話で、この『昼は雲の柱』が3作の1冊目で、そのあとが『夜は火の柱』で、そのもう1つ先の話では主人公の真紀ちゃんと亮輔君が大人になって世界を救う話が最初の構想としてはあって、なぜその2人は似ているのかとか、ちょうど伊邪那岐と伊邪那美をイメージしていたんですけど、それがどうして世界を救えたのかという幼年期の体験を書いてみようかということで、書いたのが今回の『昼は雲の柱』なんです」

●この作品が新たな3部作の1作目なんですね。ということは、続編、続々編の構想があるんですね?

「ええ。頭の中ではできています」

●前作の『震災列島』が漫画にもなりましたが、最新の小説の『昼は雲の柱』も、テレビドラマでも映画でも出てほしいなと思うんですけど、漫画の発売の予定は決まっているんですか?

「ええ。本当はこの本と同時発売の予定だったんですけど、ちょっと遅れまして今年の秋くらいには出る予定です」

●楽しみです! 漫画が出たらこの番組でもご紹介したいと思います。

「小説が難しかったという人は是非、漫画のほうで読んでいただければと思います」

●石黒さんとしては、『昼は雲の柱』をどういうふうに読んでほしい、またはどんなことを感じ取ってもらいたいですか?

「直接的には、日本の象徴といわれていて、みんながよく知っているはずの富士山って実はこうなんだよというのが1つと、それからもう1つ、みなさんが気になっている日本という国の成り立ち、どうして大和という勢力ができて、日本という国ができたか、意外に分かっていないんですよね。その成り立ちにはおそらく戦争よりも、神話や物語が関係していたというのが僕の説なんです。それが、実は火山神伝説なんですけど、そう思って古事記とか日本書紀を読んでみると、全く別の世界が広がるんですね。その辺の前半分の前置きを入れたという感じですね」

●今、お話にあった火山神伝説に関しては、最初の小説『死都日本』から次の『震災列島』、次の『昼は雲の柱』へと続いてくるので、その3冊を順を追って読んでいくとさらに理解が深まるので、是非、併せて読んでいただきたいと思います。

「世界的なスケールがお分かりいただけると思います」

●『昼は雲の柱』の次の作品ができるまでに、過去の作品も読んでいくとさらに面白い神話の見方ができると思います。私個人としても非常に楽しみにしています。この次の作品の発表の予定はまだ決まっていないんですか?

「次の話の忠臣蔵を書かなければ、来年の秋のつもりだったんですけど、途中で1作入りましたので、おそらく再来年になるんじゃないかと思います」

●フリントストーンもそれまで続けられるように頑張るので、次回作でも是非お話をうかがえればと思います。

「是非、また呼んでください」

●今日はどうもありがとうございました。

■このほかの石黒耀さんのインタビューもご覧ください。

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■小説家・石黒 耀さんの本の紹介

『死都日本』

昼は雲の柱
講談社/定価2,100円
 石黒さんの最新作。御殿場市を舞台に、富士山の大噴火を想定したリアルなシミュレーション小説。
 

震災列島
講談社/定価1,890円
 近い将来起こるであろうといわれている東海地震をモチーフに、科学的なデータをもとに書き下ろした大作。
 

死都日本
講談社/定価2,415円
 石黒さんのデビュー作(第26回メフィスト賞を受賞)。九州の霧島火山の北西側にある古いカルデラが巨大火砕流噴火を起こし、日本全体が大混乱に陥るという近未来小説。
 

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オープニング・テーマ曲
「ACOUSTIC HIGHWAY / CRAIG CHAQUICO」

M1. SAVE IT FOR A RAINY DAY / STEPHEN BISHOP feat. ERIC CLAPTON

M2. I FEEL THE EARTH MOVE / CAROLE KING

M3. WE DIDN'T START THE FIRE / BILLY JOEL

ザ・フリントストーン・インフォメーション・テーマ曲
「THE CARRIAGE ROAD / JIM CHAPPELL」

油井昌由樹ライフスタイル・コラム・テーマ曲
「FLASHES / RY COODER」

M4. I WILL / THE BEATLES

M5. DON'T PANIC / COLDPLAY

M6. ヘロン / 山下達郎

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
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