2008年2月10日

ハワイの伝統文化を今に伝えるアーティスト、
ケアリイ・レイシェルから、生き方のヒントを学ぶ

今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストはケアリイ・レイシェルさんです。

 今週のゲストは、昨年12月にライヴDVD『クカヒ〜ライヴ・イン・コンサート』を発表したハワイの国民的シンガー、ケアリイ・レイシェルさんです。ケアリイには以前にも何度かこの番組に出演していただいているんですが、今回はフラのマスター「クム・フラ」の称号を持つケアリイに、ハワイの伝統を若い世代に伝える活動のことなどうかがいます。

フラは肉体で表現する言葉、
クム・フラは、過去を現代に導き、現代を未来へ導く役目がある

『カマヒヴァ〜ベスト・コレクション・ワン』
『クカヒ〜ライヴ・イン・コンサート』

●モダン・ハワイアンの巨匠としてハワイの音楽界をリードするスーパースターであり、ハワイの伝統文化を今に伝える活動でも知られるケアリイ・レイシェルは、一昨年になりますが、究極のベスト・アルバム、『カマヒヴァ〜ベスト・コレクション・ワン』を発表。このアルバムは、「オリ」と呼ばれるチャントと、いわゆる通常の歌、ハワイ語でいうところのメレを、一枚ずつのCDにわけて収録したベスト盤で、日本でも大きなセールスを記録しました。そして更に、昨年の暮れには、総合芸術としてのコンサートをDVD化した『クカヒ〜ライヴ・イン・コンサート』と題された映像作品を発表しています。
 音楽を通して、ハワイの伝統文化を見つめ直すことで、ハワイの人々がどうあるべきかということを問いつづけるケアリイ。今週はそんなケアリイのお話を通して、私たちの2008年の生き方のガイドにしようという試みです。お話の中心は、もちろんハワイの伝統にまつわることですが、その言葉の裏には私たち日本に住む者にも、ヒントになることがたくさん隠れていますので、じっくりと読んでみてくださいね。
 まず最初に、ハワイアン音楽の基礎知識として、チャント、メレ、そして、フラの関係性を聞いておきましょう。

「チャントというのは、おもしろい言葉なんだよね。これはハワイ語ではなく英語なんだ。そんなチャントという英語の言葉の意味を考えてみると、それはモノトーンのものを指すんだ。つまり歌のように色んな音階があるのではなく、1つ2つの単調な音階のものを指すんだよ。
 また、チャントには『儀式と関連したもの』という意味合いもあり、儀式と関連しているということは、宗教とも関連しているということになる。チャントに関してはそういった色々な意味合いがあるんだ。
 一方、フラは、チャント/メレから生じたもの。メレは、歌やチャント、または詩など、様々な作品のことを意味した言葉なんだ。だから時には『メレ・フラ』といった“歌と踊り”、または“踊る作品”もあれば、『メレ・オリ』という、踊るのではなく、朗読するように語り聞かせる(詠唱する)詩もある。このように色々なカテゴリーがあるんだ。
 僕にとってチャントとメレは、とても繋がりが深く、強くリンクしているものなんだ。メレは言葉で、チャントは言葉を発する方法。そしてその手法には、ある種のスタイルが必要とされるんだ。今、こうやって話しているのはチャントではないんだよ。でもスタイルを用いて、(チャント風にしゃべってみせる)例えばこんな風に、話をしたら、一種のチャントになる。つまりチャントとは普通の発声ではなく、スタイリッシュなものなんだよ」

●実は、DVD作品『クカヒ〜ライヴ・イン・コンサート』の冒頭のナレーションで、フラの意味合いについてケアリイ自らが語るというシーンがあるんですが、ここでもう一度“フラとはなんぞや”ということを教えてもらいましょう。

「フラとは肉体で表現する言葉なんだ。言葉や詩がなければフラはない。つまり言葉は独立して存在できるが、フラだけでは存在しえない。両者は共存しなければならないんだよ。我々はフラを踊っているとき、ある瞬間を体験し直しているんだ。つまり、ある王様やチーフについて歌い、フラを踊るときは、その人物や物語を表現しているということなんだ。あのナレーションはそういうことを意味しているんだよ。すでに起こってしまった事柄を生き直すことができる。言葉としてだけではなく、動きを通してそれを可能にする。だから、とても素晴らしい掛け橋といえるね。フラとは何か、または、何者かの人生をハワイ流に記録する手段なんだよ。
 僕たちは今でも昔のチーフについての歌を創っているんだよ。というのも、彼らの人生の一部が、これまでチャントという形で残されていないことがあるからなんだ。
 簡単な例を挙げると、プリンセス・リケリケ。ちょっと前に僕たちは彼女を称えるためのものを担当していたんだけど、実は、彼女に関する記述があまり残っていなかったんだよ。というのも、彼女は兄のカラカウア王や、姉のリリウオカラニ王女と違って有名ではなかったからね。それでかわいそうに、彼女の歌もとても少なかったんだ。だから、僕たちはプリンセス・リケリケを称えるための歌を、モダンな形で創ったのさ。
 クム・フラ、つまり、フラのマスターとしての僕の役割は、古代の知識が受け継がれるようにすることだと思っている。我々はそれらの知識を運ぶ器なんだよ。だから僕が年老いたら、新たな器へと知識を継承していかなければならないんだ。しかし同時に、クム・フラはクリエイティヴでなければならない。そして自分の時代と100年後への掛け橋となる作品を創らなければならないんだ。つまりクム・フラはとてもおもしろい立場にいるんだよね。過去を現代に導き、同時に現代を未来へと導く役目もあるのさ」

ハワイでは植物や動物が、神様の体の一部だと信じられてきた

●フラの先生でもあるケアリイですが、実はDVDには彼のお母さんもフラダンサーとして登場しています。
 ハワイには、若者のクラスや年配の方々のクラス、そして、ケアリイのお母さんが参加する「ヒナヒナ」という、いわゆる中間に位置するグレイ・ゾーンのクラスがあるそうなんですが、そもそもこのクラス分けはどのようにしているのか聞いてみました。

「年齢で分けている場合もあるけど、たいがい能力的な部分で分けているよ。というのも、歳を取ると出来なくなってしまう動きもあるからね。ちなみに、僕の母が参加している中間クラスは、比較的最近できたものなんだよ。昔はある一定の年齢、例えば40代になると、フラのキャリアはもう終わり。もう踊らなくなったんだよ。というのも膝はダメになるし、若くてかわいいといった、ルックスも無くなってしまうから若いダンサーたちに替えられてしまったんだ。だから母くらいの歳のダンサーたちは15年から20年くらいのブランクがあるんだよね。それで、誰が始めたのかは忘れたけど、ここ25年くらいの間に、あの年代のためのクラスがハワイ中にできたんだ。そして、その上にはクプナという年配世代のクラスもある。このクラスには70代から80代の人たちが参加しているんだよ」

●ちなみに、ケアリイは、「クプナ」つまり、年配の方々のクラスはまだ教えていないということなんですが、若者のクラスで教えているフラの中には、年をとると体力的に無理という、かなり激しいものもあるので、こういうクラス分けが行なわれているんですね。
 そして、その体力の衰えはケアリイ自身にもやってきます。ケアリイ自身、年齢的に今踊っているフラがキツくなったら、そのフラは変わっていくのでしょうか? それとも、そのフラを踊らなくなるんでしょうか?

「僕自身が踊れなくなっても、言葉で説明でき、目が見えてさえいれば、教えることはできる。教えられるということが、何よりも大切なんだよ。
 DVDの中に、僕が竿を持ってしゃがんでいるフラがあるんだけど、あれはすごく難しくて、今、この場でやれって言われてもきっとできないだろうな。あれはアンクル・ジョージ・ホロカイが口頭で教えてくれたものなんだ。つまり、教えるためには必ずしも踊れなければならないというわけじゃないんだよ」

●いってみれば、口伝えの昔話のような意味合いもあるハワイのフラ文化は合理的な継承方法でもありますよね。そんなフラの、それぞれの所作に意味があるように、使われる楽器にも意味があるようです。ハワイの典型的な打楽器で、ひょうたんのようなかっこうをしている「イプ」という楽器を使うことにも、深い意味が隠されているそうです。

「イプはハワイで発明されたハワイ独自の楽器で、ハワイアン・カルチャーにおいて重要な要素が秘められているんだ。
 ハワイではすべての植物、そして多くの動物は、様々な神様の身体の一部だと信じられてきたんだ。例えば、生命の神様『カネ』は、色んな動植物をその身体の一部としている。『カネ』の身体は雨雲、サトウキビ、タロイモといった、我々に命を与えてくれる、様々なものによってかたどられているんだよ。
 同じように、ひょうたんは、農業の神様『ロノ』の身体の一部だと信じられているんだ。そして伝統的に『ロノ』は、フラの女神の夫とされている。そこに繋がりがあるんだよ。
 フラは女性のものというわけではないけど、ソフトで女性的なエネルギーとされている。そこに『ロノ』という男性的なエネルギーを加えることで、全体のバランスが取れるんだ。つまり男性的なひょうたんを、女性的なフラに用いることで、男女のバランスを取っているというわけなのさ」

言語がなければ文化は存在しえない

●ケアリイは、失われたハワイの伝統文化を取り戻そうと、デビュー以来活動を続けてきたわけですが、その活動の結果、どんな点が変わってきたのでしょうか、聞いてみました。

「多分、25年から30年前に始めたことが今、実を結んでいるといえるんじゃないかな。今のティーンエイジャーたちは、僕と違ってハワイ語を話しながら育ち、僕らの時代とは違ったトラディショナルな生き方をしているんだ。僕や多くの人々は、それを現実のものとするために、これまで活動してきた。ただ新しい世代の若者たちが、あまりにもハワイアンとしての生き方が上手くなってしまい、ある意味、基礎を築いてきた僕らは、闇の中に置き去りになってしまった感じもあるんだよ。正直言って、この状況は想像もしていなかった。でも、これが現実なんだよね。
 もちろん、これは嬉しいことだよ。僕らは次の世代が自分たちより良くなるために、これまで頑張ってきたわけだから、望みが叶ったといえる。ただ、これほど速く変化があるとは思ってもみなかったんだ。
 僕の周りにはハワイ語がペラペラで、いとも簡単に作曲している子供たちがいる。でも、英語で教育を受けて育った僕は、今でも考えたり迷ったりしながら物事を進めているんだ。そこにいくと、今の子供たちは何も考えずにできちゃうんだよね」

●予想より速く変化がもたらされたことは良いことかもしれませんが、時として、急速な変化はあまりいい結果を生まないこともありますよね。特にこのスピード時代においては、急速な変化は過去を置き去りにして、前進することだけに集中してしまいがちだという意見もあります。

「バランスを取ることが大事だよね。己のバランス、そして暮らしているコミュニティーのバランスも大切なんだ。そして、そのためには文化的なツールが必要で、そのツールとは、言語なんだよ。言語が無ければ、文化は存在しえない。だって言語がなければ、ただ動作を真似し合っているだけだからね。でも、そこに言語が加わると、全てが理解できるようになる。だから、ある種のツールが必要だと思うんだ。同時に、前進しなければならないわけだけど、何をもって前進するのか、前進するためには何を切り捨てるのかも大事だよ。
 この新世代に関して、僕らがあまり好きじゃない点は、彼らが一つのことに集中できないということ。例えば、ラジオを聞きながらコンピューターを操作したり、ゲームをしたりと、色んなことを一度にやる能力はあるのに、ある一定の時間、一つのことに集中するのがとても苦手なんだ。僕たちはそこが問題だと思っているんだよね。ジャグリングはうまいけど、ボールを一つだけ与えると何もできない。今、その辺を直そうとしているんだ。
 多分、世界中で同じことが起こっているんじゃないかな。一つの文化に限ったことではないと思うよ。特にインターネットのある所はね。デジタル回線で繋がっている場所では、すべてがスピーディーだから、欲しい情報を得るために努力する必要がないんだよ。昔は調べものをするためには、図書館に行って本を開かなければならなかった。でも、今はインターネットやYouTubeでササッと情報を得ることができる。つまりいい部分と悪い部分があると思うんだ。だから、我々は子供たちがあまり怠けないように注意しなければならない。彼らが欲しいもののために戦えるように育てなければならないんだ。今の子供たちはあまりにも簡単に諦めてしまう。僕ら世代が若かったころと違って、壁にぶち当たるとすぐに止めてしまうんだ。これを直すのは、かなりのチャレンジだろうね」

お互いを人間として認め合う精神は、どの文化も共通

●今、現代社会は、進みすぎた機械文明と経済活動、あるいは、物質欲や消費型社会の真っただ中にあって、ライフスタイルを見直そうという動きが活発ですよね。
 富や名声を得ることが“豊かである”という考え方ではなくて、精神的な満足を求め、物質的なものではなく“心の豊かさ”を求めるライフスタイルを、という考え方から“LOHAS的な生き方”に注目が集まるわけですが、実はその中心には、ハワイの伝統的な思想信条、「アロハ・スピリット」があるという意見が多く見られます。
 いわゆる“愛”と“感謝”で人間同士をつなぐ精神的な充足感を元にする「アロハ・スピリット」。その考えをケアリイに聞いてみました。

「正直言って、アロハ・スピリットという言葉を乱用するのはあまり好きじゃないんだ。もちろん、重要な要素ではあるけど、ハワイ文化にはそれ以外にもたくさんの要素があるからなんだよ。それに最近の“アロハ・スピリット”という言葉の使われ方はあまりにも安易で、ハワイ人であれば当然、アロハ・スピリットを持っていると思われがちだけど、実際にはそうともいえないんだよね(笑)。我々もみんなと同じ人間なわけで、怒ることもあれば、嫉妬することもあるし、あらゆる感情を持っているんだ。ただ、アロハ・スピリットは、我々がこうありたいという理想として描いているもので、どの古代文化にも同じような理想はあったと思うよ。どの文化にも、仲間に対する言動や助け合いの精神など、人間としてこうありたいと描く理想の形ってあったはずなんだ。もし無かったらその文化は現代まで存在しえないと思うんだよね。互いが人間として互いを認め合う精神。それはアロハ・スピリットと呼ばれ、ユダヤ文化ではシャロームと言われている。呼び方はなんであれ、人と人とが互いにビー・ナイス、親切にするっていうことなのさ」

■このほかのケアリイ・レイシェルさんのインタビューもご覧ください。
AMY'S MONOLOGUE〜エイミーのひと言〜

 私たち日本人はアロハ・スピリットという言葉にとても魅かれているように思います。でもそれはなぜなのでしょうか。もしかしたらこの言葉を口にし、その精神に触れることで私たち日本人が忘れかけている心を思い出すからなのかもしれませんね。休みにはハワイを訪れ、日本にいながらフラダンスを習い、ハワイアン・ミュージックを聴く。これってとてもステキなことだと思うのですが、同時に、私たち日本人は世界中の人たちを魅了するような“ジャパニーズ・スピリット”をもっと養うべきなのではないかとも思います。

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■ハワイの国民的シンガー、ケアリイ・レイシェルさん情報

『クカヒ〜ライヴ・イン・コンサート』
『カマヒヴァ〜ベスト・コレクション・ワン』

最新DVD『クカヒ〜ライヴ・イン・コンサート
ビクター・エンタテインメント/VIBP-64/定価5,800円
 2006年にハワイで行なわれた恒例の「クカヒ・ツアー」のライヴ映像を収録したDVD。チャントやフラ、そしてケアリイさんの新旧のヒット曲が26曲も収められている他、今は亡き偉大なクム・フラ「アンクル・ジョージ・ホロカイ」との共演シーンやケアリイさんのインタビューなど、特典映像も収録された永久保存版。
 

2枚組ベスト・アルバム
カマヒヴァ〜ベスト・コレクション・ワン

ビクター・エンタテインメント/VICP-63470〜1/定価2,900円
 2年前に発売され日本でも大きなセールスを記録した2枚組ベスト・アルバム。「オリ」と呼ばれるチャントと、いわゆる通常の歌、ハワイ語でいうところの「メレ」を、1枚ずつのCDにわけて収録した究極のベスト盤。
 

ケアリイさんのインタビュー記事掲載中
 「えい出版社」から出ている月刊誌『ライトニング』3月号(現在、発売中)にはケアリイ・レイシェルさんのインタビュー記事が掲載されています。ぜひチェックして下さい。

・ケアリイ・レイシェルさんのHPhttp://www.kealiireichel.com/
(注:英語のサイトです)
・ビクター・エンタテインメント内、ケアリイさんのサイトhttp://www.jvcmusic.co.jp/-/Profile/A011133.html

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オープニング・テーマ曲
「ACOUSTIC HIGHWAY / CRAIG CHAQUICO」

M1. IN MY LIFE / KEALI'I REICHEL

M2. KAWAIPUNAHELE / KEALI'I REICHEL

M3. HE LEI NO KAMAILE / KEALI'I REICHEL

ザ・フリントストーン・インフォメーション・テーマ曲
「THE CARRIAGE ROAD / JIM CHAPPELL」

M4. TALK TO ME / KERI NOBLE

油井昌由樹ライフスタイル・コラム・テーマ曲
「FLASHES / RY COODER」

M5. NO MORE CLOUDY DAYS / EAGLES

M6. THE ROAD THAT NEVER ENDS / KEALI'I REICHEL

M7. KA NOHONA PILI KAI / KEALI'I REICHEL

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
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