2009年3月22日
「きらくなたてものや」の代表・日高保さんにきく
「気持ちのいい家作り」
今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは、日高保さんです。
「きらくなたてものや」代表の日高保さんをゲストに、日本の気候風土に合った伝統的な家屋の魅力や、心地よい住まいの作り方などうかがいます。
「きらくなたてものや」の由来は?
●はじめまして、よろしくお願いします。「きらくなたてものや」というネーミングはどなたが考えたんですか?
「私です(笑)。一生懸命考えてつけた名前です。」
●どこから発想が生まれたんですか?
「まず、読んで字のごとく、木で楽しく家を作ろうと。それを並べたら『きらくなたてものや』ということになります。」
●なるほど! ひらがななので、「気楽」の「きらく」なのかなって思ってしまったんですけど、「木」と「楽しむ」で「きらく」なんですね。
「そうです。で、次に私たちの建築設計という世界は、どちらかというと敷居の高いイメージがあると思うんですけど、そうじゃなくて、私は今、鎌倉で設計事務所をやっているんですが、その町の中で家作りだったり、建物だったり、そういったことについて気楽に相談して欲しいなと。そういった意味で『きらくなたてものや』というのが2つ目の理由ですね。」
●両方の意味がかかっての「きらく」なんですね。
「はい。3つ目が、私は建築設計ということで1つ1つ建物作りに関わっているんですけど、1つ1つの家作りの中で、私の考え方とか、社会との関わりの中でのメッセージとか、そういったものを意識しながら当然、作っていっているんですけど、そうじゃなくて、もう1つ、例えば誰かが家を建てようとするときに、家作りについて、その方が今まで生きている間の中で、家作りについて学ぶ機会があったかというと、学校教育も含めて、多分なかったと思うんですね。で、そういう中で私自身は家作りについて学ぶ機会を作っていきたいと思っていまして、特に、子供たち向けにそういう機会を作れたらいいなと思っていたんですね。で、そういう意味では子供たちも気軽に接してくれる、あるいは読める、そういう意味で全部ひらがなで『きらくなたてものや』にしたんですね。」
●なるほどね! 「きらくなたてものや」さんの文字を見て、パッと見「何だろう!?」と思ってしまったんですけど、お話を聞いて、すごく深い意味が込められている、ピッタリのネーミングだなって思いました。
「ありがとうございます。印象付けるという意味でもなかなかないといいますか、領収書をもらうときとか、あるいは自分の屋号を伝えるときとか、結構ビックリされることが多いんですけど(笑)、そうやってビックリされるということは、相手に対して印象を残しているということなので、それはそれでいいのかなと。」
●「きらくなたてものや」さんの一番の特徴を教えていただけますか?
「技術的なことを言いますと、昔ながらの工法、いわゆる伝統工法と呼ばれている工法で、そうなると木造になるんですけど、そういった技術を使って設計をしています。で、その中でどういうふうに建てていくかっていう体制的なところなんですが、そのあたりも職人さんたち、あるいは素材、木だったり色々な素材が家作りでは使われるんですけど、そういう素材、職人さんたちといい関係を作りながら、家作りをしていきたいなと思っています。そのあたりが特徴といいますか、私自身の考え方としてやっています。」
●あと、ホームページを拝見すると、自分参加型の家作りということも書かれていますけど、これはどういったものなんですか?
「積極的に建て主さんが家作りに参加することで、文字通り自分が建て主として、家作りに携わっていって欲しいなぁと思っているんですけど、家作りっていうのは、更地の状態から家が完成するまでが、世間一般で言うところの家作りなんですけど、やっぱり、作る当初から積極的に関わって欲しいなぁと思います。」
●愛着も余計に湧きますよね。
「そうですね。よく長持ちする家作りっていう言葉が最近、クローズアップされていますけど、確かに物理的にしっかり作るということは、とても大切なことだし、私自身もそれを心がけているわけなんですけど、どんなに家をしっかり作ったとしても、家を持たれている方、住まわれている方が、その家を残したい、あるいは住み続けたいと思わない限り、残らないじゃないですか。もう持っている方、あるいは住んでいる方が、その家がまだ使えるのに『もういらない』と言えば、その時点で壊される運命にあるわけだし、そういう意味では家作りの耐久性、長持ちする家作りってことを考えたときに、その辺の家に対する愛情とか、そういった要素って言うのは実は大きいんじゃないかなと思っていまして、それを家作りの段階から私自身は仕掛けていきたいなと思っています。」
日本の気候風土に合った伝統的な家の建て方
●伝統的な家の建て方というところで、日本で家を建てるためには本来、気候風土に合った伝統的な手法を使うのが一番適しているのかなぁって思うんですけど、実際にはどうなんですか?
「実際、今、私がそうやって作った家に住んでいますけど、住んでいる実感とすれば、気候風土に合っているなぁという感じはします。ただ、気候風土に合っているという部分をどういう風に捉えるかなんですけど、自分がその器の中に住んでいる感覚として、日本は暑い夏があって、寒い冬があるわけなんですけど、それに対する対処、捉え方なんですけど、例えば今、技術的には空調設備が発達していて、春夏秋冬24時間同じ気温を保つっていうことは可能だと思うんですね。で、もしかしたら、それ自身が人間にとっては一番快適なのかもしれないですけど、実際、伝統的な建物だったり、木の家の中っていうのは緩やかに温度変化をしていくわけなんですね。そうすることによって、大体、冬は20度前後、夏は30度前後、大体10度前後の気温差の中で1年間を過ごすわけなんですけど、そういう意味ではずっと同じ気温というのは有り得ないわけで、季節ごとになんとなく暖かかったり、なんとなく涼しかったり、そういう部分を受け入れることができたするならば、非常に快適と感じられると思います。あるいはそういう空間にいて、パッと外に出たときに、例えば、夏場すごく冷房が効いた部屋、そのときは気持ちいいかもしれないですけど、外に出たとき物凄く暑く感じますよね。だけど、少なくともそういうことはなく、なんとなく緩やかに外と繋がっている感覚がありまして、それ自身を『気持ちいい』と捉えることができれば、そういう意味では気候風土に合った家作りなんじゃないかなというふうに思っています。」
●「きらくなたてものや」さんとしては、伝統的な建築手法を用いて作っていらっしゃる中で、時代は21世紀で、気候風土も若干変わり始めていて、新しい技術だったりとか、新しい手法みたいなものも取り入れてアレンジするっていうこともやっていらっしゃるんですか?
「技術といいますか、デザインする空間ということについては、伝統工法で建てる家っていうと、それに伴ってできる空間も伝統的といいますか、そういうイメージがどうしてもあるかと思うんですけど、もちろん、そういう要素を取り入れたりすることもあるんですが、自分自身の嗜好する方向性としましては、技術は伝統的でも、空間そのものは、現代の私たちがいいと思えるデザインをしていきたいなぁと思っています。その中で技術的なこと、主に設備的な話だったり、そういった部分については現代に合う設備だったり、技術だったり、そういった部分は取り入れていっています。ただ、そういった技術を選択したりする際にも、やはり、家作りに対する考え方、それは気持ちがいい家を作っていくということに対して、考えが外れなければそういったものは取り入れていきたいなぁって思っています。」
時間にとらわれず安全・安心の家作り
●最近の傾向として、どういうお家を求めるお客さんが多いんですか?
「家の空間は安全でありたいという趣向が数年前からあると思うんですけど、そういった中で最近、自然素材とか健康的に暮らすとか、そういった言葉がキーワードとして建築業界にもあるわけなんですね。そういった要素を住まい手が求めているというところもありますけど、そういった話を突き詰めると、『昔からやっていたじゃない』ということで、伝統的な家の造り方に行き着くっていう方が、ちらほらいらっしゃるという印象がリます。ですから、食べ物の世界もそうですけど、そういう意味で健康だったり、安全を求めたり、その流れの中でこういうやり方が再び見直されてきているんだなって印象はありますね。」
●本当に自分にとって納得ができて、体にも心にも安全で安心できる家に住みたいですもんね。家って帰ってきてホッとできる場所なわけですから、特に家に関しては安心できる空間、安心できる場所という意味では、食べ物でいう生産者の顔が見えていると安心っていうのと同じように、家作りも作った方の顔が見ているほうが安心ですもんね。
「そうですね。今の建築業界、今の家作りの世界の中で、2〜3年前に建築業界を震撼させるような事件が起きましたけど、その根底に流れるものとしては、住まい手と作り手の距離が非常にかけ離れているところで、色々な問題が起きているんじゃないかなと思うんですね。で、そういう状況の中で私自身は住まい手と職人、あるいは素材がより密になればなるほど、いい家作りになる可能性は高くなると思っているんですね。それこそ、顔の見える関係を作っていくことで、家作りというものを考えていきたいと思っています。」
●あと、家を建てるっていうのに、これだけスピーディーな世の中になってくると、全てがあっという間にできて当たり前っていう風潮が出てきて、急かしてしまうことも事故の元だったりすると思うんですね。「きらくなたてものや」さんに「お家を作ってください」ってお願いをすると、期間的にどれくらいで完成するんですか?
「大雑把に言って、設計、準備期間に1年前後。で、設計の内容が固まって、工事が始まって約1年。現実的には8ヶ月だったり、10ヶ月だったりするんですけど、大雑把に言って、1年+1年の合計2年くらいの時間を見ていただいています。あとは、家を作っていただく職人さんの都合だったり、作って下さる方の状況によって、その辺は多少前後はしますけど、そういう意味では今の一般的な家作りに比べれば、多分、時間がかかると思われるんじゃないですか(笑)」
●そうですね(笑)。一生のうちのたかだか2年だよっていう感覚で見ないと・・・。
「そうですね。ただ実際、家作りの物語の流れに乗ると、2年という年月は割とあっという間で、家作りが終わろうとするときに、私自身もそうだし、住まれる方ももしかしたらとっても寂しい気持ちになるんですね。できればもっと職人さんと現場で色々対話しながら住みたいと思うんですけど、これから先何十年と住むことを考えれば、じっくりと納得のいくものを作っていったほうがいいんじゃないかなぁと思います。2年、あるいはそれ以上の期間の中で家作りのことについて学んだり、あるいは職人さんと関係を作る時間を作ったり、そういう中で是非、家作りを行なって欲しいなぁと思っています。」
家自体が息づいていると感じる
●建築に限らずだと思うんですけど、伝統技術というのが、どんどん失われつつあって、そういう技術が使える職人さんっていうのもお年を召していって、「次の世代を育てるのはもしかしたら最後かもしれないよ」とよく耳にするようになったんですが、日高さんのところの家作りの技術っていうのは継承されていっているんですか?
「幸いにして、私が今年で39歳になるんですけど、私の周りで今やってくださっている職人さんの平均年齢が多分、私と同じくらいじゃないかなと思うんですね。そういう意味では割と若い世代がこういう分野に関心を持っているなと非常に感じています。」
●では、この先も安心ですね。
「そうですね。これからの家作りの世界を考えていったときに、技術のことだったり、あるいは家作りに対する考え方だったり、そういったことを考えると、こういう考え方が広がっていって欲しいなぁと思うんですね。で、今日本では100万戸近い家が作られているんですけど、全部が全部いきなりそういう考え方で作るというのは難しいにせよ、関わる人がその人なりのできる範囲だったり、考え方で昔の技術から学ぶとか、あるいはいい関係を作って家を作っていくとか、そういったことを少しでも取り入れて、家作りがなされるといいなというふうに思います。」
●木のお家に使う木って、切り倒したあと、木材として家具だったりに形を変えても、生き続けているっていうじゃないですか。で、伝統的な日本のお家ってそこにいるだけで、家が生きているなっていうのを非常に感じる空間だと思うんですね。で、それによってホッとできるっていうのは土も同じだと思うんですけど、そういう意味では日本伝統の家屋の魅力の1つっていうのは、家自体が息づいているっていうところもあるんじゃないでしょうか?
「そうですね。で、1年の中でも湿気の多い夏と、割と乾燥している冬と、ま、それは太平洋側ですけど、そういう湿気の中で木が微妙に動いたりするっていうのは感じますし、そういう意味では本当に『生きているなぁ』って感じます。」
●木を楽しみたい方、そして花粉症の方は(笑)、その経験もある日高さんに気楽にご相談いただくと、そこで新しく見えてくるものもあると思うので、お家を建てることを考えていらっしゃる方は「きらくなたてものや」さんに気楽にご連絡いただければと思います。
「新たに家を建てるという場合もそうなんですけど、例えば、『自分の部屋を気持ちよくしたいんだけど・・・』とか、そういうお話でもいいと思いますので、心地よい空間作りについてご相談があれば、ご連絡いただければと思います。」
●今日はどうもありがとうございました。
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