2009年3月29日

ライターの有川美紀子さんに聞く「“東洋のガラパゴス”小笠原の現状」

今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは、有川美紀子さんです。
有川美紀子さん

 長年、小笠原と関わってきたフリーライターの有川美紀子(ありかわ・みきこ)さんをゲストに、世界自然遺産の登録を目指す小笠原の現状などうかがいます。

 

独特の島、小笠原

●はじめまして、よろしくお願いします。有川さんは本業の傍ら、数年前までNPO小笠原ネイチャーフォーラムの代表としての活動もされていたそうですが、この小笠原ネイチャーフォーラムというのはどういう団体なんですか?

「この団体は一言で言うと、外から島を応援するという人の集まる会でした。で、私が初めて島に行ったのが、1989年くらいだったんですけど、ちょうどその頃、空港を造ろうってことが割と現実化しつつある頃で、私が島で知り合った友人達みんなが、『あの大きさの空港はいらないよね』って言っていたのに、なぜ造ろうとしているのかなっていうのを知りたくて、同じことを思っている人たちが集まって、外から情報を持っていったりとか、そのことについてもう一回考えたりしてみようということで人が集まり始めて、それが結果的に会になったんです。ですから、最初は空港のことや、小笠原の貴重な自然を人に知らせるっていうことが中心だったんですね。だから、シンポジウムを開催したりとか、ゲストを呼んで会をやったりとか、そういうことを中心にしていました。」

●有川さんご自身が小笠原に興味を持ったきっかけは何だったんですか?

「1989年に行ったときっていうのが、当時、ふるさと創生事業っていうのがあって、自治体に1億円を配ったんですね。で、小笠原が観光ビデオを作るっていうので、ある映画会社に制作を依頼して、そこで旅人と女優さんと2人が旅行するっていう設定の観光ビデオを作ることになったんですね。で、その旅人のほうで私に白羽の矢が立ちまして、初めて島に行ったんですね。だから、それが最初の出会いだったんです。ダイビング雑誌のライターをしていたので、今まで50〜60くらいの色々な島に行きましたけど、小笠原はそのときが始めてでした。」

●行くまでに描いていた小笠原のイメージと、実際に行かれてからのイメージの違いってありましたか?

「それがものすごくあって、まず、小笠原って船でしか行けないんですけど、船が港に着き始めて、大きな湾があるんですけど、そこに入っていったときに見える木が、色的には奄美とほとんど同じなんですけど、なんか違う木っていうか、まずその違和感が第一印象で、同じ色で同じ亜熱帯なんですけど、なんか違うぞっていう直感がそのときあったんですね。で、そのときはとても貴重な自然があるとか知らなかったので、『どうしてかなぁ』っていうのを抱えたまま降りていって、あとで島で知り合った方に色々聞いたら、成り立ちが違うと。で、独特の固有種とか、生態系があるんだよっていうのを聞いて、そういうことだったんだぁっていうのを感じました。」

●何の先入観もなくポンと行って、「なんか違うぞ」っていうところの興味から・・・。

「沖縄と大体同じだなと思って、亜熱帯ですからサンゴ礁があって浅瀬があって、ジャングル的な木があってとか思っていたら、木は割とジャングルにあるようなモワモワした密な木ではなくて、あまり表情を知らない木というか、ストーンとした木が多かったんですね。そして、海はサンゴ礁といえるほどのサンゴはないんですね。で、亜熱帯だからと思ったけども、とても海の温度が冷たくて、それは、黒潮の本流から離れていったからなんですね。『沖縄かなぁ』と思って行ったら、『あ、ここは小笠原なんだ!』って突きつけられたって感じです。」

 

小笠原の固有種 vs 移入種

●ここで、魅惑的な小笠原諸島のおさらいをしておきたいと思うんですが、南南東へ一千キロ、昔は船で28時間、今は25時間半。そして、今も昔も東京都ということなんですけど、沖縄にも似ているかと思いきや、独特の自然がある。その理由というのがあるんですよね?

「そうですね。それは、成り立ちと関係していまして、小笠原は海洋島というふうにいわれているんですね。で、海洋島とは何かというと、大洋の中に孤立して存在していて、一度もほかの大陸と繋がったことがない島をいうんですね。通常は、沖縄の島なんかはそうですけど、地殻の変動とかで、島が盛り上がったり下がったりというので、隣の島と陸続きになった時代もあれば、また沈んで海で隔たれて島々になったという歴史を持っている大陸島という島もありますが、小笠原は孤立していますので、ほかと繋がったことがないし、すごく距離が離れているので、そこに棲める生物がとても限られるわけなんですね。大陸島であれば繋がったときに、植物も動物も渡ってこれるんですね。でも、海洋島はポツンとありますから、そこに来る手段というのがとても限られているんです。例えば、自分で羽を持って飛んでくるとか、風に流されて来たくないのに来ちゃったとか、海流に乗ってたどり着いちゃったとか、あとは流木についていったとか、本当に限られた手段でしか入れないので、必然的に生物の種類が少ないですね。で、そこの少ない種類で生態系を作っていきますから、段々年月が経つうちに独自の進化っていうのを遂げていって、それで固有種が非常に多くなったわけなんです。」

●それがゆえに小笠原は東洋のガラパゴスとも言われていますけど、陸続きになったことがないということで、固有種も多いというお話でしたけど、植物とか動物の種類とか特徴ってどんなところなんですか?

「それは、たどり着いた手段とも関係していて、例えば、植物であれば、一番ポピュラーな方法っていうのが、種が海流に乗って運ばれてくるとかですよね。すると当然、浮かないと波に乗れない。だから、海岸際に生えている植物は、種を見ると、みんな浮く形をしていたり、浮く特徴を持っているんですね。で、逆にドングリなどは本州部にたくさんありますよね。シイとかカシの仲間も本州では普通に見ますけど、小笠原には一切なくて、ドングリって割れると沈んでしまうので、ドングリの歌のように池にボッチャンと落ちたら沈んでしまうので、たどり着けなかったからないんですね。その辺が最初に行ったときの違和感とも関係していて、沖縄とかにはシイの仲間とかありますけどね。あと、哺乳類でたった一種類固有種がいるんですけど、それは何かというと、オガサワラオオコウモリなんです。哺乳類でありながら羽があるので、たどり着けたというので、ここに来られたんですね。」

●そのオガサワラオオコウモリも、今ではかなり少なくなっているそうですね。有川さんが小笠原に行かれる中で、移入種の問題っていうのはどうなっているんでしょうか?

「そうですね。移入種は生存競争を勝ち抜いてきているわけですけど、小笠原のほうは温室でおっとりのんびりとやっていたものですから(笑)、天敵に対する防御法、戦略みたいなものが未熟というか、持っていなかったりするんですね。ですから、強い移入種が入ってくると、たちまち自分が棲んでいた場所を取って代わられたりして、今、非常に問題になっている部分なんですね。ですから、例えば裸の土地ができて、最初に誰が芽を出すかっていうのがすごく重要なんですけど、移入種は一番最初に定着してどんどん芽を出して、影を作って在来種が出てくるのを防いだりするんですね。虫とかものん気に暮らしていましたけど、すごく捕獲力が強いトカゲが入ったせいで、どんどん食べられてしまったりというふうに激変しているのが今の小笠原といえると思います。」

 

2010年の世界自然遺産登録に向けて奮闘中!

●今、小笠原は世界自然遺産の登録を目指しているということで、どんなところでも世界遺産への登録の話が出た時点で色々なことが起こると思うんですが、小笠原で起きている一番の影響ってどんなところですか?

有川美紀子さん

「世界自然遺産への登録については、課題を課せられていまして、それは移入主対策を早めにやりなさいっていうことと、あとは一番重要な地区について、自然保護をする制度が十分にできていないので、それをやりなさいっていう2つの課題が課せられているんですね。それをするために今、自然再生事業といいますか、移入種を除去する事業というのがすごく急ピッチで進められています。で、今目指しているのが2010年の登録なんですね。ですから、気がつけば来年なので(笑)、早くやらなくちゃいけないんですよね。もちろん、その登録のことがなくても今、手を講じないと小笠原独自の自然が、壊れる寸前までいっているというのは、間違いないんですけどね。ただ、締め切りがあるがためにやらなきゃいけないことが多すぎる。『だったら早くやらなきゃ!』ってことで、事業が物凄く進みすぎていて、それによって住民がスピードがついていけていないかなって感じは受けています。
 例えば、あるものを排除するために、じゃあ、ここの地区を徹底的に囲って、中にいけないものが入らないようにしようとか、色々な方策が同時に行なわれているわけなんですけど、その一つ一つっていうよりは、そもそも世界自然遺産に登録されるっていうのは、そこに凄い自然があるからですよね。それを実感として持った上で、『じゃあ、どうしよう?』っていうふうに住民が思うのが、一番自然な形だと思うんですね。

 例えば、私が知っている親子がいて、お子さんが子供ですから、『カブトムシが飼いたいよー!』ってお父さんに訴えていて、泣きながらヘラクレスオオカブトムシっていうんですか、南米のすごく大きいカブトムシがいますよね。あれを『通販で買いたい!』っていうふうに言っていたんですね。で、お父さんが小笠原の自然のことをよく分かっている人なので、『ここはよその強いものを持ってきたら、ここにいるものが困ってしまうから、ダメなんだよ』って何度も言い聞かせたんですね。そうしたら、子供が目に涙をいぱい溜めながら『分かった』って言ったらしいんですよ。で、それは1つの素晴らしい話だけど、私はその子供のことを思うと、子供にその理屈はまだ分からないと思うんですね。多分、内心は『ただ悲しい。お父さんが言っているから』って思っていたと思うんですけど、本来ならその子供が『ここの自然って実はすげーんだぜ!』っていうふうに理解して、『なんか世界でも注目されるほど、ここって色々なものがいるし、ここにしかないものがあるって知ってた?』くらいに自慢してしまって、『だから僕、ヘラクレスオオカブトムシ欲しいけど、やめとく』っていうふうになるのが一番正しいんですけど、それは大人でも同じだと思うんですね。『ここの自然って実は世界に自慢できる自然で、そこに俺達は住んでいる。だから守ろうよ』っていうのが本当だと思うんですけど、今は来年のためにこれをやらなきゃ、あれをやらなきゃっていうのが、住民よりも行政が主導でやっていますから、気がつけば色々なものの手段が講じられて、前に行けた道が行けなくなるとか、なんとなく住民と自然が遠ざかるようなことも起こったりもしているので、本来の形の、住民がそこを誇りに思って『守ろうよ!』っていう中から、そういう策が講じられるのが本当は一番かなって思うんですね。」

●この番組でもよくお話に出ることではあるんですけど、自然の豊かなところに住んでいらっしゃる方々っていうのは、それらの自然があって当たり前になってしまって、その素晴らしさだったり、大切さっていうのを、都会に住んでいる私たちが思うほど実感として感じていらっしゃらないケースが多いように思うんですね。で、もしかしたら小笠原もそういうことってあるのかなぁって思ったんですけど、有川さんからご覧になっていかがですか?

「他の場所よりは意識が高い人が暮らしていると思います。返還されてから、もともといた人が戻ったっていうのと同時に、今、8割くらいの人たちていうのは、返還されてから移り住んできた人達なので、他を知った上で来ていますから、選んでそこが好きだから来ているんですね。だから、例えば、本当に小さい他の島だったりすると、旅行者が夕陽に感動していたら、『こんなもの毎日見られて、なにがそんなに珍しいんだ』って言われますけど(笑)、小笠原だと一緒に見るんですね(笑)。で、『すごいだろ、この夕陽』って自慢しちゃうんですよ(笑)。というようなところはあるんですが、ただ、もっと細かい個別の種のこととか、固有種の成り立ちというか、なぜそれが大事なのかとか、それはある意味、勉強みたいなところもありますので、そういうところは今、みんなが知ろうとしている最中で、まだまだ知らないという部分はあるかもしれないですね。」

 

ザ・フリントストーン、小笠原支局長・誕生!?

●有川さんは早ければ5月くらいから小笠原のほうに長期滞在をするご予定があるそうですが、今回はどういった目的で行かれるんですか?

「島と20年付き合ってきて、本業がライターだったりしますから、取材などでも行ったり、あとは先ほど話した小笠原ネイチャーフォーラムの活動で行ったりしたんですけど、50〜60回通っても、1年を通して見ないと、見えないものっていっぱいあるんですよね。やっぱり島のリズムだったり、こっちがしゃかりきに外で『今度までにこれしましょうね』なんて約束しあっても、島ではなかなか進まないっていうのがよくあって、どうしてかなっていうと、島の時間を知らないで、私たちがNPOの活動でも何でもやろうっていうのは、ちょっと違うんじゃないかなぁって。だったら、自分が1回、そこの中に入って、1年という時間を感じてみるかとが必要なんじゃないかなというふうに思ったのがます1つです。あとは今、散々話に出ていた世界自然遺産に向けての色々な変化っていうのを、実際にこの目で見て確かめたいなっていうのがあるので、それで行こうと決心しました。」

●滞在先は父島になるんですか?

「私が滞在するのは母島です。」

●お母さんのほうに?(笑)

「そうです(笑)」

●つい、お父さん島、お母さん島って言いたくなりますよね(笑)。

「そうですね(笑)。家族の名前がついていますからね。」

●そんな母島に長期滞在ということは、最低でも1年ですよね?

「はい。どのくらいになるのかは謎ですけど(笑)、一応、1年と考えています。」

●ザ・フリントストーンとしては、小笠原が世界自然遺産の登録に向けて、どういう状況になっていくのか、すごく興味があるので、有川さんがせっかく現地にいらっしゃるのでしたら、定期的にお電話ででも現地レポーターとなって、レポートをしていただけたりしますでしょうか?(笑)

「是非(笑)。お役に立てるのであれば、お手伝いしたいと思います。」

●これは、みんな注目していると思うので、お約束ということで、是非!

「例えば、オガサワラオオコウモリの声って想像つきます?」

●つかいないです!

「つかないですよね。クジラもクジラのソングっていうのをオスが歌ったりします。そんなのも電話で一緒にレポートできたらいいなと思っています。」

●メチャクチャ楽しみです! 小笠原固有種の様々な声や、森の中の音とか、よろしくお願いします!(笑)

「はい(笑)」

●25時間かかりますけど、私たちの分も頑張っていってきていただきたいと思います。今後、有川さんとはお耳にかかりたいのでよろしくお願いします。

「こちらこそ、よろしくお願いします。」

●今日はどうもありがとうございました。

 

このほかの有川美紀子さんのインタビューもご覧ください。

 

AMY'S MONOLOGUE〜エイミーのひと言〜

 2010年の世界自然遺産の登録に向けて変わりつつある小笠原。確かに世界自然に登録されることはとても素晴らしいことですが、そのためにそこに暮らす人たちの生活が窮屈なものになったり、負担や“やらされている”感が増えてしまうことも多いですよね。この先、小笠原がどんな風に変わっていくのか、またそこに暮らす人たちがどう変わっていくのか、今後は定期的に有川さんに電話でレポートしていただきたいと思っています。

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フリーライター/編集者、有川美紀子さん情報

小笠原自然観察ガイド

小笠原自然観察ガイド
 山と渓谷社/定価900円
 小笠原の基礎知識から動植物の図鑑や観光案内など、とてもわかりやすく紹介。小笠原の行くときにはぜひ持っていきたい一冊。
 

ザ・フリントストーン小笠原支局長!?
 有川さんは取材のため、早ければ5月末頃から小笠原に1〜2年に住む予定。そこでザ・フリントストーンではそんな有川さんに電話をつないで、現地から定期的に小笠原の近況を伝えてもらいたいと思っています。どうぞお楽しみに!

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オープニング・テーマ曲
「ACOUSTIC HIGHWAY / CRAIG CHAQUICO」

M1. LOVELAND, ISLAND / 山下達郎

M2. THE ONLY ONE / CHICAGO

M3. CHANGES / DAVID BOWIE

ザ・フリントストーン・インフォメーション・テーマ曲
「THE CARRIAGE ROAD / JIM CHAPPELL」

M4. IN PARADISE / JANET KAY

M5. THIS ISLAND EARTH / KENNY LOGGINS

M6. ISLAND GIRL / ELTON JOHN

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
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