2009年8月9日
今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは、石田ゆうすけさんです。〜チャリダーの石田ゆうすけさんをゲストに迎えて〜 |
旅行エッセイストとして活躍するチャリダーの石田ゆうすけさんをお迎えし、旅を通して見えてきた日本という国のことなどうかがいます。
● ご無沙汰しています。早いもので、最後にご出演いただいてから4年経ちました。
「4年ですか! 愕然としますね。」
●そりゃまぁ、お互いの年齢も年齢ですから(笑)。
「(笑)」
●そんな石田さんはこの度、新しいご本を出されました。幻冬社から出版された「道の先まで行ってやれ! 自転車で、飲んで笑って、涙する旅」という本なんですけど、前回までご出演いただいたときは、約7年半世界中を自転車で回ってきたときの模様を記した本「行かずに死ねるか! 世界9万5000km自転車ひとり旅」について、またその後は「いちばん危険なトイレといちばんの星空 世界9万5000km自転車ひとり旅Ⅱ」についてお話をうかがったんですけど、今回は海外から離れて、日本国内に目を向けた内容になっていますね。そのキッカケはなんだったんですか?
「直接のキッカケは、『CYCLE SPORTS』という自転車の専門雑誌がありまして、そこで『紀行エッセイの連載をしないか?』というオファーをいただきまして、それを始めたのがキッカケですね。それで毎月、日本各地を旅して、大分話がたまってきたので1冊の本にしたいなという思いがあって、今回こういう形になりました。」
●世界中をすごい時間をかけて旅をされた石田さんが、世界を股にかけてしまったあとの日本旅だったので、物足りなく感じたりはしなかったんですか?
「感じは一緒ですね。というのは、世界を旅していても、やっていることは自転車で走っているということに変わりはないんですね。海外に行かれた方はみなさん実感すると思うんですけど、最初は全てが新しくて、何もかも新鮮で、肌から刺激をピリピリ感じられると思うんですけど、2〜3日経てば周りの風景に馴染んでしまっている自分に気付いて、1週間、1ヵ月、1年というスパンになってくると、普通にその場所に自分がいるっていう感覚になるんですね。
で、自分の世界旅行も、場所は海外でしたけど、結局、ずっと自転車で走って、人に出会って、色々なドラマがあって、別れがあってっていうのは国内旅行でも全く同じなんですね。だから、自分としては世界旅行の後だから日本の旅がつまらないっていうのは全くないですね。やはり日本の旅行でも出会いはいっぱいあるし、コミュニケーションはもっと楽ですから、もっと深いドラマも生まれやすいですよね。
これはあとがきにも書いているんですけど、最初、編集長からは3泊4日くらいの旅を毎月やって、旅エッセイを5ページ書いてくれといわれたんですね。で、人に読んでもらうに値する5ページの物語をゲットするためにはどれくらい旅すればいいかなって思って、編集長は3泊4日っていったんですけど、それで足りるかなって不安があったんですよ。ですが、走ってみたら、初日だけで色々な出会いとドラマがあって、『明日、帰ったろかな』って思うくらいたくさん出会いが転がっていて(笑)、これは全然やれるなと思いましたね。で、やってみると、今、連載初めて3年経つんですけど、毎月毎月どの話を削ろうかなって悩むくらい色々なことがあるんですよね。自転車旅行ってそういう出会いやドラマが生まれやすいのかなって改めて思いました。」
●今回も『CYCLE SPORTS』という雑誌の連載ですから自転車での旅っていうことになるんですけど、今回の日本での旅も自転車でよかったなぁって思いましたか?
「そうですね。また感じ方が変わったんですけど、外界に対してすごく触れやすいツールだなって感じましたね。というのは、やっぱり自然。森に入ると森の香りに包まれて、森の中をずーっと走って海に出ると、海の匂いがふわーっとやってきて、あと道端の花とか見ながら走っているし、四季の移り変わりもすごく触れやすいんですね。それと出会い。自力っていうのが共感を呼びやすいんでしょうね。休憩をしていると頻繁に話しかけられて、それで色々なドラマが生まれるっていう。そういう意味でも世界と触れ合いやすいツールだなっていうことを、今回こういう旅をして改めて思いましたね。」
●今回のご本「道の先まで行ってやれ! 自転車で、飲んで笑って、涙する旅」では、第1章がベイエフエムの地元、千葉からスタートしているんですけど、房総が最初の地になったいきさつを教えていただけますか?
「最初、編集長から『つかみなので、ちょっと派手なところを』というリクエストをいただいたんですけど、僕が『房総に行きたいです』と言ったら、こんなこと言ったら怒られちゃいますけど、編集長がちょっと興醒めした顔をされたんですよ。というのも、編集長は千葉の人なので余計に『地元に来るのかよ!?』っていうのもあったでしょうし、出版社自体も東京にあるものですから、『近場へ行くのかぁ』っていう残念感が顔に出ていたんですけど、僕の中で房総っていうのは堅くて、ひとつは今、自分東京の阿佐ヶ谷に住んでいるんですけど、その家から走り始めたかったんですね。やっぱり僕の原点は子供の頃の自転車旅行なので、やはりスタートとゴールはいつも家なんですね。最初、和歌山一周して、その次、近畿一周して、その後、日本一周してって全部そうだったんですよ。だから、それをまずこだわったっていうことと、僕の実家が和歌山県の南紀白浜で、和歌山の南のほうにも白浜という町があって、半島の南東の部分に勝浦という町があって、房総半島にも同じような位置関係で白浜と勝浦があって、それが小学校の頃から気になっていたんですね。『こんな偶然はないだろう。何か関係していたんだ!』と思って。
で、日本一周のときに房総半島を抜かしたんですよ(笑)。というのは、その前に伊豆半島を走ってメチャメチャきつかったんですね。世界一周のどこよりもきつかったんじゃないかって思えるくらい伊豆がきつくて、で、『もう半島は嫌だ』と思って房総半島は抜かしたんですよ(笑)。で、抜かしてしまったから、やはりしこりとして18年間残っていて、それと白浜っていうのが気になっていたのもあって、房総って決めて走りました。」
●今回房総を走ってみて、今でも印象に残っているところとかありますか?
「僕はすごく食い意地が張っていて(笑)、とにかく食べ物を食べることが大好きなんですね。で、九十九里に『宮かわ』という料理屋さんがあって、そこに入ったらご主人が東京の料亭で働いていた方らしくて、すごくこだわりを持って料理を出されていたんですね。ご飯なんかも釜で薪で炊いているというお店で、そこのイワシの刺身が今でも思い出せるくらいおそろしく美味くて、で、そこのご主人の話を聞いて泣けてきたんですよ。介護のために戻ってきたって話をするんですけど、すごく優しい顔で『自分だけ独り者だから戻ってきたんだ』って言って。3ヶ月位前に戻ってきて新しくお店を建てたそうなんですね。で、店員さんが女性2人いたんですけど、妹さんらしくて、ご主人が介護のために戻ってきたら、妹さんが自然と働きに来てくれたって話を聞いているだけで泣けてきたんですね。そういうお店だから雰囲気が暖かくて、勝手に1人でドラマの中に入っていましたね。」
●このご本の中ではおいしい食べ物と、そこにまつわる様々な人間模様とタイトル通りに飲んで笑って、涙するっていうドラマが記されているんですが、旅って色々ありますよね。
「ありますねー。言ってしまえば、僕はその部分にしか興味はなくて、紀行文っていうと情報の細かな話とか、ノウハウとかも書かれていると思うんですけど、僕は人間ドラマが好きだし、出会いっていうのが旅で一番大切だと思っているので、そういう物語ばかりを書きましたね。実際、3泊くらいでも後ろ髪を惹かれるような旅ってたくさん生まれるもんだなって改めて思いましたね。」
●石田さんが先頃出された本「道の先まで行ってやれ! 自転車で、飲んで笑って、涙する旅」には、飲んで、食べて、笑って、涙してって様々なドラマやエピソードが満載なんですが、おいしいものをあちこちで食べ、懐かしい地を訪れたり、新しいところに行ったりして、改めて日本を見て面白かったんじゃないですか?
「両方ですね。失望と言ったら強すぎますけど、『あー、こうなっていたか』っていうガッカリした面と、『やっぱり日本はすごい!』って思った面と両方ありますね。」
●一番ガッカリしたところってどんなところだったんですか?
「とにかく道ですね。どこに行ってもバイパスが走っていて、本にも書いていますけど、日本に帰ってきてまず思ったのが道が多いってことで、日本が出している資料にもあるんですけど、各国の道路比率っていうのを数値で出すと、日本は断トツで多いんですよね。どの先進国よりも道がいっぱいある。その数字を見る前に、自転車で世界中を7年半走って帰ってきて、日本を走り出してからそれを肌で感じて、どこもかしこも道だらけで、山が切り崩されていて、それが必要だと思えるような道だったらいいんですけど、ま、地元の人にすれば道ができれば便利になりますからね。その人たちは『必要だ』って言いますし、どこで線を引くのかっていうのは難しい問題ですけど、ある程度のところで我慢するというか、とにかくどの国よりも異常に道が多いっていうのを感じました。」
●本のタイトルは「道の先まで行ってやれ!」ですけど、道が多いから道の先まで行くのは大変だったんじゃないですか?(笑)
「そうですね(笑)。先がないよっていうかね(笑)」
●(笑)。逆に一番よかったところっていうのはどんな点ですか?
「やっぱり微笑が多い国ですよね。それは世界旅行から帰ってきてすぐに思ったことですけど、道路工事で誘導をしているおじさんとかが、みんなニコッと笑って頭を下げて誘導してくれるんですよね。そんな国は絶対どこにもないですからね。まず、ああいう人たちが僕たちに向かって微笑むことなんかなかったですね。そのことは台湾人のサイクリストからも聞いていて、『日本どう?』ってきいたら、そのことを言っていましたね。道路の人がすごく優しいって(笑)。
日本に疲れて海外へ飛び出して、海外の人に親切にされて『みんな優しいな』って感想を聞くことが多いんですけど、僕は逆でもないですけど、日本も十分優しいなって思いますね。日本の優しさって秘めやかなものがあるっていうか。僕が詐欺に遭ったときにお世話になった人は、出発しようと思って自転車のところに行って荷物を取り付けていると、ちょっと間があってからやってきて、『よかったら朝飯ごちそうするから食べていかない?』って声かけてくださったんですね。その間がすごくホッとするっていうかね。ラテンの方って『いいからうちに泊まれ! 飯食っていけ!』ってストレートに来るんですね。どっちがいいか悪いかじゃなくて、『やっぱり自分は日本人なんだな』って思ったんですね。その間の部分に趣を感じるというか、ホッとするものを感じて『あぁ、日本って繊細で素敵な国だな』って思いましたね。そういう感動はありました。」
●逆に世界のあちこちを回ってこられた石田さんだからこそ見える日本の良さ、日本人の良さっていうのを今回の本を通して私たち読む側も改めて感じさせられました。
「この本のコンセプトっていうかスタンスっていうか、底に流れているものがひとつあって、世界中を見てきた自分から見た日本はどんな国だったかっていうもので、それをなぜ表現したくなったのかというと、よくあちこちで講演をさせてもらっているんですけど、結構みんなそのことを聞くんですよ。『世界を回って日本はどうだったか?』って。そのときは適当に答えるんですけど、何を言っても答えに違和感があるんですよ。というのは、一言では語れないからなんですね。言葉って本質的に陳腐なものだと思うんですよ。例えば、『日本どうでしたか?』って聞かれて、『人が優しかったですねー』って言っても、それは何の力もない言葉で。じゃあ、どう優しかったのかっていう具体例がないと意味がない言葉であって、講演会でそれを質問されても、とりあえずは答えますけど、答えたあとに『違うなぁ』って違和感がいつもあるんですね。それに対する答えが今回の本っていうのはありますね。」
●日本を旅してみて「日本人でよかったなー」とか、「次はあそこに行ってみたい!」とかって出てきましたか?
「海外をどこか走りたいっていうのはなくて、今、旅をしていて一番面白いのが北海道なんですよ。これは月並みになってしまうんですけど、やっぱり北海道っていうのはすごく面白いところで、その面白さっていうのは、世界をまわって、どこと比較しても面白かったんですよ。だから、やっぱり素晴らしいところだなっていうのは本当に実感しましたね。」
●具体的にはどういったところがそんなに素晴らしかったんですか?
「まずひとつ、象徴的なのはライダー・ハウスみたいな宿があって、大部屋に寝袋で寝るわけですけど、無料で泊まれたりするところがあるんですよ。有料でも100円とか200円とか、高くても1000円くらいで、それが北海道内に点々とあって、世界中を振り返っても、そういう宿泊施設はないんですね。寝袋で寝ていいよって場所を提供してくれるところって、唯一言えばインドにはあったんですけど、それはトラックの運転手さんが街道沿いのドライヴインみたいなレストランがあるんですけど、そこに簡易ベッドがあって、そこで休憩していっていいよっていう感じで、それは別に旅人の宿っていうわけじゃないんですね。北海道は旅人のために解放している。だから、旅人を両手を広げて迎えているっていう雰囲気があって、それが人々の中にも浸透しているっていうか。さっきは日本人の秘めやかな優しさがいいって言いましたけど、北海道はまた違って、ガンガンこっちに来るし。でも、それはそんなに強いわけではなくて、自然と自分のそばに立ってくれているっていう連続なんですね。
自然もサロベツ原野っていうところがあって、そこを走っているときに、とてつもなく気持ちよかったんですよ。一直線の道路と、緑の大地と。『何でこんなに気持ちがいいんだろう?』っていうくらいで、『世界をまわっているときでもこんなに気持ちのいい瞬間ってあったかなぁ。どうしてだろう?』って思っているうちにパッと気付いたんですけど、視界が開けているところって世界中にいくらでもあるんですけど、そういう場所って大体、地平線の大地は褐色だったり、灰色だったり、砂漠だったり、荒野だったりするんですね。で、北海道のサロベツ原野は牧場のような草原がずっと海のように広がっていて、地平線が緑色なんですよね。振り返ったら、『そんなのなかったな』と思って。でも、もしかしたらモンゴルはそうかもしれないんですよね。僕、モンゴルは行っていないので正確な比較ではないんですけど(笑)、僕の中では世界の地平線は褐色や灰色で、北海道は緑で輝いていて、しかも夏の新緑で、そこを走っているときはランニング・ハイみたいな気持ちよさがあって、それは世界でも体験したことのないものでしたね。それくらいいいところなので、世界へ行く前にまず北海道を走って欲しいっていうのはありますね。
今回の旅でも改めて思いましたけど、僕は世界一周をやってみて、それよりも6〜7年前にやった日本一周と比較して、面白さが変わらなかったんですよ。7年世界一周と1年日本一周の面白さが変わらなかった。でも、それは思い出が美化されていることもあるだろうし、日本一周をしたときの19歳という年齢が影響している部分があるだろうと思っていたんですけど、今回、本のために色々走ってみて、やっぱり日本は面白いなって思いましたね。」
●「CYCLE SPORTS」の連載がまだまだ続いているということは、もしかしたら「道の先まで行ってやれ!」の第2弾がいずれ出るかもしれませんね。
「それもこれも、この本『道の先まで行ってやれ!』の売れ行き次第ですね(笑)」
●(笑)。書くのに疲れて喋りたい気分になったら、また番組でお話を聞かせていただければと思います。今日はどうもありがとうございました。
AMY'S MONOLOGUE〜エイミーのひと言〜
石田さんとフリント家は『行けずに死ねるか!』を出版されたとき以来のお付き合い。インタビュー後、フリント家のスタッフのオフィスがある新宿 神楽坂で一緒に阿波踊り大会を見たり、今回は一緒に出前ディナーを食べたりと、仲良くさせていただいています。 |
旅行エッセイスト/チャリダー・石田ゆうすけさん情報新刊『道の先まで行ってやれ!』絶賛発売中!
世界の自転車旅を綴った3部作: 「石田ゆうすけのエッセイ蔵」 |
オープニング・テーマ曲
「ACOUSTIC HIGHWAY / CRAIG CHAQUICO」
M1. DON'T STOP / THE ROLLING STONES
M2. TRAVELING BOY / ART GARFUNKEL
M3. (YOU WANT TO) MAKE A MEMORY / BON JOVI
ザ・フリントストーン・インフォメーション・テーマ曲
「THE CARRIAGE ROAD / JIM CHAPPELL」
M4. 旅の途中 / スピッツ
M5. YOU MAKE ME FEEL SO GOOD / AL KOOPER
M6. GO YOUR OWN WAY / FLEETWOOD MAC
エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
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