2009年10月4日

初の画集「内藤貞夫の動物」を出版した
ワイルドライフアートの第一人者、内藤貞夫さんをゲストに迎えて

今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは、内藤貞夫さんです。
内藤貞夫さんとAMY

 ワイルドライフアートの第一人者、内藤貞夫さんをお迎えし、絵で表現する野生の命や自然の世界についてうかがいます。

 

ワイルドライフアートとは?

●内藤さんのご出演はなんと10年ぶりになります。

「ご無沙汰していました。」

●そんな内藤さんがフレーベル館から出版された1冊の画集があります。「内藤貞夫の動物」。そのものズバリのタイトルなんですけど、ワイルドライフアートというものなんですけど、この番組をお聞きのリスナーの中でワイルドライフアートという言葉にあまり馴染みのない方のために、どういうものか簡単にご説明いただけますか?

「アメリカ・カナダを中心として、出来上がってきた絵なんですけど、野生動物を描く、野生動物を大好きな作家が増えてきて、それがワイルドライフアートというひとつのジャンルとして、アメリカやカナダでは出来上がっているんですね。もちろん、モチーフは野生動物全般に広がっていて、その中で野生動物や自然の素晴らしさや美しさ、はかなさといったものや、活き活きとした動物の表情を絵にするアートだと思っていただければいいんじゃないかなと思います。それと、生きものをものすごく大好きな描き手が多いんじゃないかなと思うんですね。私もそういった生きものが大好きな人間じゃないかなって思っています。」

●内藤さんの作品を拝見していると、写真と見間違えるくらい、リアルに描かれているじゃないですか。これが、ワイルドライフアートの特徴でもあり、内藤さんご自身の独特のものともいえるのでしょうか?

「初めのころのワイルドライフアートっていうのは、生態系で割とリアリズムに書いた作品が多かったと思うんですけど、最近は作家自体の個性で描いている作品も多くなりましたね。リアルばかりではなくて、少しスタイライズしたりとか、ユニークな表現で描く作家さんもいっぱい出てきていると思うんですけど、それでも今はコンピューターの時代で、コンピューター・アートじゃないですけど、そういうような作品を作る作家さんも増えてきています。ただ、私の場合はリアリズムに描くのが大好きなものですから、そういう表現で作品を作っています。」

●今回、画集としてまとめられた作品が出たわけなんですけど、画集という形にしたのは今回が初めてなんですか?

「そうですね。こういうしっかりとしたハードカバーの画集は初めてです。その前は絵の関係の会社からカタログだとか、もうちょっと薄い画集っぽいのは何冊か出ましたけど、こういうしっかりとした画集を出していただいたのは初めてです。私だけではなくて、5人の作家を選んで5冊の画集を出してくれたんですけど、一番最後が私だったんですね。」

●この画集の中には内藤さんの新旧含めての、集大成ともいえる画集に仕上がっているわけですか?

「集大成というか、1970年ごろから一番新しい作品まで載せていますけど、結構描いた量が多いので、その中から随分選んで出したつもりです。」

●改めて昔書いた作品をご自身でご覧になっていかがでしたか?

「葦原の中にタシギがいるっていうのは、あれは一番最初の、ワイルドライフアートを描くキッカケとなった作品なので、今でも見直してみると、一生懸命描いているなぁと思いますね(笑)」

●(笑)。初心を思い出すようですか?

「時代、時代の絵を見ていると、『この頃はこのくらいすごいエネルギーがあったんだな』とか、『最近はエネルギーが欠けてきたな』とか色々ありますけど(笑)、やっぱりタシギの頃の作品を見ていると、若い頃を思い出しますね。」

 

写真で撮ったものに、作家の想像の世界を混ぜて描く

●内藤さんの作品を拝見していると、自然の中の一場面を切り抜いた写真のような描き方で、それも、全体が1枚の写真の場合もあれば、生き物と共に描かれているものもありますよね。私、この画集の中で「絶対に合成でしょ」って思った作品があって、それはリスがいて、上のほうにカボチャが描かれている絵があるんですけど、そのリスもすごくリアルなんですけど、「あのカボチャはどう見ても写真でしょ!」って思う作品があったんですね。そういう細かいディテールや色使いっていうのも、内藤さんの場合は写真を撮って、そこから絵にするんですか?

内藤貞夫さん

「確かにあのカボチャは積み上げて写真を撮っています。そうじゃないと、そこまでリアルに描けないので。でも、写真と違うところは、その中に作家の想像力が入ってくるってことなんですよね。だから、写真とは違う世界っていうのはそこじゃないかと思うんですね。写真で撮ったものをそのまま絵にするわけではなくて、写真に撮ったものでも、そこに想像力が入ってくると、写真とはまた全然違った世界ができてくるんですね。写真と絵はその辺が違うと思いますね。」

●実は内藤さんは色々なものの収集家でもあって、色々なものを集めていらっしゃるそうなんですけど、例えば、そういうものとあの鳥を組み合わせて、こういう絵にしてみようっていう発想で参考になさっているんですか?

「それはありますね。そこに鳥とガラスの浮き玉の絵がありますけど、それも、そこに鳥がパッといたから描いたわけではなくて、鳥は全然別なんですよね。これは、あえて買ってきた浮き玉を海まで持っていって、海にボチャンと投げて、それを写真に撮って、それから作り上げているんですけど、そこにどんな鳥がいるかってことを色々考えて、『シロチドリがここに合うかもしれない』と思って作品を作るわけで、そのままの世界をそのまま写真に撮っているわけではなくて、やっぱりそこは作家の想像力とか色々混じってひとつの絵が出来上がってくる。リアルに描いているんだけど、その中は作家の想像力の世界ってことで見ていただければと思います。」

●リアリズムに満ちたフィクションの世界って感じですね。

「そうだと思います。」

 

生き物が棲んでいる空気に触れてから描きたい

●ワイルドライフアートは絵ですから、作家の方の色々なイマジネーションを加えた世界ではあるんですけど、そんな中でも自然環境というのを分かっていないと、「ここにこの生き物はないだろう」っていうのが、あまり極端に違いすぎてもいけないですよね。

「そうですね。大体、アメリカのワイルドライフアートの作家っていうのは、多分、開拓時代から始まっているんだろうと思うけど、野生動物をひとつの郷愁として見ているんじゃないかと思うんですね。日本人が田園風景を郷愁として見るように、野生動物や、雄大なスケールの中にいるバッファローが走っているところとか、そういうものを彼らの郷愁兼田舎の情景のように見ているんじゃないかと思うんですね。」

●内藤さんも絵を描く前は取材旅行にあちこち行かれるんですよね?

「そうですね。そこに動物がいなくても、そこの環境がどうしても見たいので、取材はよく行きますね。最近はアラスカの動物をいっぱい描いていますけど、アラスカオオカミを描くのにそのアラスカオオカミの生息している場所を見ていないと描けないものですから、取材へはよく行きますね。オオカミが見られなくても、その情景や風景や、そこにいる生態系みたいなものが見られたらいいかなと思ってよく行きます。」

●その生き物が住んでいる空気感とかも・・・。

「感じたいですね。触れる動物は触りたいし、馬を描くときは馬の体を触らないと、なんとなく分からないので。初めて馬の体を触ったときに『馬の体温ってこんなに暖かかったんだ!』って分かるでしょ。そうすると、どうしてもそれが絵に反映してくると思うので、ライオンでも何でも本当は触りたいんだけど(笑)、なかなか触れませんからね。でも、子虎とかは触れる機会があれば必ず触るようにしています。彼らの体温とか毛の感触がよく分かるので。」

●先ほど、アラスカというお話が出ましたけど、実は内藤さんはこの番組でもお馴染みの写真家、吉野信さんがキッカケでアラスカに行かれるようになったそうですね。

「そうなんです。吉野さんとは随分前に絵の展覧会のときにゲストで何度か来ていただいて、そのときに話をして『アラスカいいんじゃない?』って言われたものですから、それから毎年行くようになりました。」

●吉野さんから薦められて、実際にアラスカに行かれるようになっていかがでしたか?

「大好きな場所になりました。住みたいくらいです(笑)。すごく野生動物が見られるっていうこともあるし、日本ではなかなか見られない大型動物、シロクマやグリズリーが見られたりとか、シカの大きなムースが見えたり、割と野生動物が身近に見られるので、私はアフリカより好きになりましたね。前に、北米大陸の最北端のバローっていう町に行ったんですね。そのときはシロクマを見に行ったんですけど、前の日は見られたらしいんですけど、私たちが行った日は見られなくて、その代わり、1頭のクジラがドカーンと海岸に打ち上げられていて、それを見た瞬間に身震いをしたくらいで、それがワイルドライフアーティストの感覚だと、それが嬉しくて嬉しくて仕方がないというか(笑)。『何でこんなところにクジラがいるんだろう?』って感覚で、その驚きは今でも忘れないですね。」

●海外ではアラスカに魅せられている内藤さんなんですけど、国内でもベースにしている場所があって、それが石神井公園だそうですね。

「石神井公園の先の富士見台ってところに中学くらいから住んでいたので、よく石神井公園に遊びに行ったんですけど、その公園のボート池の横に三宝寺池っていう小さな池があるんですね。そこは随分前は葦原がすごくきれいな池だったので、そこで取材してタシギの絵を作ったのもあるし、あそこから色々なインスピレーションを得て、色々な絵を作っていると思うんですね。身近なところでもイマジネーションを発揮してやれば、どんな世界でもできるんじゃないかなという思いもあるので、アラスカもいいんですけど、そういうところからでもひとつの世界が出来上がってくるってことも分かると思います。」

●そう考えると、身近なところにも目を向ければ、自然ってあるんですよね。

「近いところにいっぱいありますよ。ただ、我々は忙しいからなかなかそういうところに目が向かないから通り過ぎちゃうけど、公園の横でも何でも新しい草は生えてくるし、季節になればそれなりの新芽が生えてくるし、いくらでもそういう自然は見ようと思えば見られますよね。ただ、見ようと思わない人が最近増えてしまったんじゃないかなという気がしますね。」

 

絵を通して社会的なメッセージを発信していきたい

●内藤さんが作品を描かれる上で一番大事にしていることってどういうことですか?

「やっぱり、描くテーマを好きになることなのかなぁ。描くテーマ、鳥だったら鳥、動物だったら動物に自分の愛情がどれだけ入っていって絵になるかっていうことだと思うんですけどね。ちょっと難しいけど、ヒューマニティがどれだけ絵に入っていくかっていうことが大事じゃないかと思いますね。だから私はキツネをひとつ描くにしても、本当に絵の中にいるんだけど、子ギツネを描いたら『成長してお母さんになれよ』とか、何かを語りかけながら自分で描いていると思うんだけど、その辺難しいね。」

●この先、「この生き物は是非描いてみたいなぁ」と、今まで描いたことがなかったり、書いたことはあるけど、再度描いてみたいなぁって対象はありますか?

「温暖化によって絶滅が心配されている動物がいっぱいいるじゃないですか。画集にはシロクマの絵もありますけど、そういう生き物も描いていきたいなぁって思っているし、まだ日本の動物はあまり描いていないので、日本の動物ももっともっと描けたら描きたいなと思っています。日本の動物は大型動物が少ないので、どうしても鳥系が多くなってしまうんですけど、その中でもまだ描いていない野生動物もいっぱいいるので、その辺も描いてみたいなと思っています。」

●長い間ワイルドライフアートで色々な生きものや、それを取り巻く環境をご覧になってきて、環境の変化って感じられますか?

「アラスカなんかに行っていると、氷河が崩れるのが早くなったとか、冬が来るのが遅くなったとか、そういう話は結構耳にします。確かに、何年か前に行ったときに見た氷河より、最近行って見た氷河のほうが崩れる回数が多くなったような気がします。そういう地球の温暖化は、長いことスロー・ライフで自然のままに生きてきた野生動物を、我々がこの短い期間にいじめてしまっているんじゃないかなって思いますね。」

●ワイルドライフアーティストとして、この先、内藤さんが作品を描く中で、温暖化問題を含め、見ている側が感じ取れるようなメッセージっていうのを織り込んでいくんでしょうか?

内藤貞夫さん

「そうですね。それは、動物を描く絵描きとして必要じゃないかなって思いますけど、動物カメラマンが次の世代の子供たちに写真で何かを伝えていくように、絵描きは何で伝えられるかっていったら、絵を描いて伝えていくしかできないと思うので、そういう社会性のあるテーマを選んでやっていきたいなって思っています。
 それと、私たち日本ワイルドライフアート協会という会を作っていますけど、そのときも去年、一昨年くらいにレッド・データ・ブックじゃないけど、絶滅危惧種をテーマにして作品を作って、みんなで発表していますけど、そういうのを見ていただいて、これだけ動物の数が減っているとか、鳥の数がこんなに少なくなっているとか、その辺を考えていただければありがたいなって思っています。そういうテーマをこれからもやっていきたいと思っています。」

●内藤さんの作品はいつ見ていても、心踊らされるものもあれば、ゆったりとするものもあり、いつも楽しませていただいているので、今後もとても素敵な作品がどんどん発表されていくのを楽しみにしています。今日はどうもありがとうございました。

「ありがとうございました。」

AMY'S MONOLOGUE〜エイミーのひと言〜

 私は昔から内藤さんの描く作品が大好きなのです。特に好きな点は、描かれている生きものたちの感情やぬくもりまでもが伝わってくるところ。例えばオオカミの群れが少し頭を下げて水の中を移動している作品や、毛を逆立たせ、鋭い瞳で何かを見つめるチータを描いた作品では、作品の外にそれぞれの獲物がいることが想像でき、その獲物を狙う彼らの集中した様や緊張感が伝わってくる。一方、母親とその子供を描いた作品では母親のぬくもりや愛情、そして子供たちの安心しきった様子が感じとれるのです。ですから画集という形でまとめられた内藤さんの作品集を拝見していると、私自身、色々な感情が湧いてきます。
 そんな画集の中で、皆さんにもぜひ見ていただきたいのは、ニホンザルを描いた「無題」という作品。雪の降る中、一匹のニホンザルが体を丸めている姿を描いた作品なのですが、じっくり見るとそこには鎖が・・・。今私の前には画集はありませんが、あのサルの目が今でも忘れられません。

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ワイルドライフアートの第一人者・内藤貞夫さん情報

画集『内藤貞夫の動物』絶賛発売中!
 フレーベル館/、定価、3,360円
 フレーベル館創立100周年記念企画シリーズの一冊として発売されたもの。 内藤さんがこれまでに描いた作品が8章のジャンルに分けられて掲載。鳥なら羽の、ほ乳類なら毛の質感や感触まで伝わるような繊細さと迫力に満ちあふれており、パッとみた瞬間、写真と見間違うほどリアルに描かれています。また「内藤貞夫の世界」という章はプロフィール的な内容になっているので内藤さんの作家としての横顔を知ることもできる。
 

「ワイルドライフアート展」
 内藤さんが会長を務める「日本ワイルドライフアート協会」は我孫子市で開催される「ジャパン・バード・フェスティバル」で『ワイルドライフアート展』を開催。
◎日程:11月7日(土)、8日(日)
◎会場:我孫子市生涯学習センター「アビスタ」1階ストリート、2階第2学習室
◎詳細:ジャパン・バード・フェスティバルのホームページ参照


内藤貞夫さんの公式サイト
 数々の作品はもちろん、画集の情報ほか、近況報告の中には今年の『バーズ・イン・アート展』に入選したオオタカの作品も掲載。

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オープニング・テーマ曲
「ACOUSTIC HIGHWAY / CRAIG CHAQUICO」

M1. BIRTHDAY / THE BEATLES

M2. THE ANIMAL SONG / SAVAGE GARDEN

M3. JUST MY IMAGINATION / THE CRANBERRIES

ザ・フリントストーン・インフォメーション・テーマ曲
「THE CARRIAGE ROAD / JIM CHAPPELL」

M4. OCTOBER ROAD / JAMES TAYLOR

M5. SATURDAY IN THE PARK / CHICAGO

M6. WALK ON THE WILD SIDE / LOU REED

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
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