2010年2月7日
香りの教育“香育”を通じて、感じて欲しいこと
〜日本アロマ環境協会・宮崎薫さんをゲストに迎えて〜今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは、宮崎薫さんです。
社団法人・日本アロマ環境協会・事業推進課の宮崎薫さんは、子供の頃から、香りに興味を持ち、現在では、アロマテラピー・インストラクターの資格を取得しています。そんな宮崎さんから、主に香りの教育「香育」についてお話をうかがいました。
香りで街を活性化させる
●今週のゲストは、社団法人・日本アロマ環境協会・事業推進課の宮崎薫さんです。よろしくお願いします。
「よろしくお願いします。」
●日本アロマ環境協会がどういう目的で、いつごろ設立されたのか、また、活動内容などを教えていただけますか?
「2005年に環境省所管の法人認可を受け、設立された団体です。母体は、1996年に設立した日本アロマテラピー協会です。なので、“香り”をキーワードに、『美と健康』、『環境』を柱に活動しています。」
●アロマテラピー協会だと、私たちがよく知っているアロマテラピーのイメージがすごく強いんですが、そこに“環境”という言葉が入ることによって、「どう違うんだろう?」と思ったんですが、どう違うんですか?
「私たちは、自然との共生を大切にしながら、自然の香りある、心豊かで心地よい環境を提案していこうという思いがありまして、その1つとして、アロマテラピーも含まれるということで、アロマ環境作りを推進しています。また、これまで取り組んできたアロマテラピーに関する正しい知識の普及・調査・研究、各種資格の認定も行なっています。」
●香りって、私たちも番組の取材で森に行ったり、海に行ったりするんですが、その度に、その地域の自然に触れたりして、例えば海だったら潮の香りがしてきたり、森に入ったら、木々の匂いだったり、腐葉土の匂いも含めて、土の匂いがしてくると、「あー、来たなぁ」っていう意識がすごく強いんですけど、そういうものを大切にしようということですか?
「そうですね。まず感じるということ。そして、感じた記憶を大切にしていく。そういう『いい香りがした。気持ちいいな』という感覚があると、その香りが漂う自然や空気を守っていこうという気持ちが芽生えてくるのではないかということで、私たちは活動をしています。」
●日本アロマ環境協会では、今まで通り、アロマテラピストとしての資格を取得できるんですか?
「そうですね。みなさんが1番ご存知なのは、アロマテラピー検定という資格だと思います。1999年に、ご自身やご家族の方が、楽しむためにアロマテラピーの知識を知ってもらいましょうということで、スタートした資格なんですが、これまで10年が経過しまして、19万人の方が受験されました。」
●日本アロマ環境協会では、環境省主催の「みどり香るまちづくり」へのお手伝いもやっているということですが、この「みどり香るまちづくり」というのは、どういうものなんですか?
「これは、街作りに香りの要素を取り込むことで、良好な香り環境を送出しようとする、地域の取り組みを支援することを目指して、香りの樹木や草花を用いた街作りの企画を募集しています。『我が街に、こんな香りの漂う街路樹があったらいいな』とか、『こんな場所があったらいいな』という企画を自由に考えていただいて、応募していただくというものです。」
●それは素敵ですね! その街の香りが、それぞれで変えられるということですよね?
「そうですね。キンモクセイの香りだったり、サクラの香りだったり、そういう香りに変えられますね。」
●そういうコンテストみたいなのを、イベント形式でみんなから応募を募るんですか?
「全国から応募を募っています。」
●実際に実現した例ってあるんですか?
「これまでの受賞企画が16企画あります。その中から、実際に樹木・草花を植えている箇所が全国で12箇所あって、北は稚内から、南は鹿児島の南種子町(みなみたねちょう)まで街ができています。」
●稚内あたりだと、海の香りが、十分その街の香りになると思うんですが、それでも稚内に住んでいる方にとっては、もっと独自の香りというのが欲しかったっていうことなのでしょうか?
「非常に古い建物がありまして、その建物の前に香りの樹木を植えて、そこを活性化させようというプロジェクトですね。そういう風に、そもそも街にある香りや、樹木や、建造物や、歴史や文化を大切にしながら、そこに『こんな緑があったら、より豊かになる』っていうような応募が多いと思います。」
今の子供たちにとって「香育」は大切なこと
●日本アロマ環境協会では、香る教育「香育」も行なっているということですが、これはどういうものなんですか?
「香る教育と書いて『香育』という造語を、協会が作って、世の中に展開しています。元々は2001年からスタートしまして、2005年から『香育』という名前に変更して、活動しています。自然環境や植物との接触が減少している子供たちへ、自然の香りを楽しむという感覚的な経験を提供していって、その経験を通じて、子供たちに、人と自然の繋がりや、人への優しさや、癒し・癒されることへの大切さを伝えていきたいということで、小学校・中学校などに行って、香りの体験プログラムというものを実施しております。」
●よくこの番組を通して、「東京のような大都会の中にも、色々な音があって、自然もたくさんあって、鳥のさえずりひとつにしても、その鳥がスズメだけじゃない、カラスだけじゃない」っていうことをゲストの方からお話をうかがって以来、街を歩いていても、聞こえていたはずなのに、今まで聞き流していたから耳に残っていない音というのが、段々分かるようになってきたんですね。それと同じように、香りも匂い流しているということが多々あるのかなと思うんですが、今の子供たちってやっぱり匂いに対してあまり敏感ではないと言えるんでしょうか?
「今の子供たちを見ていて、体験の乏しさを感じますね。実際に、植物と出会う前に、商品と出会っているんですね。例えば『ヒノキの香りって嗅いだことがある?』って聴いたら、『はい』って答えてきて、『どんな香り?』って聴いてみると、『入浴剤のヒノキの香り』って答えるんですね。また『ヒノキって見たことがある?』って聴くと、『はい。テレビで見たことがあります』って答えるんですね。こういう風に、まずテレビやパッケージされたモノと出会っていくんですね。それがどういうところから成分が取られているかという、大本とは出会っていないんですね。」
●香りは知っているけれど、それがもし、森を歩いているときに『この木から香っていたのがヒノキなの? これがヒノキなの?』っていうことが分からないんですね。
「分からないんですねー。だから、例えが例えにならないんです。例えとして『5月になったら菖蒲湯に入り、冬至にはゆず湯に入るよね?』って言っても、これはもう例えにならないんですね。『ゆずって何?』とか『菖蒲って何?』っていう状態だから、『これはもう例にならないんだ』っていうことを香育をやり始めた頃に、驚きとともに発見しました。ただ、1回香りの授業を通じて、香りというものを意識してみようと思うと、『学校の帰り道にこんなに香りがあったんだ』って気付くんですね。それは植物の香りだけではなく、例えば、町工場があって、それが印刷工場だったらインクの匂いがしたりして、色々な匂いがあるんだなっていうことを意識するようになるんですね。そうすることによって、見える世界が広がってくるという感想を、子供たちからもらいますね。」
●私たちも森に行って、草木の香りだったり、畑に行って、収穫のときに大根を土から抜いた瞬間に香る土の香りで「懐かしい」っていう気持ちになるんですね。私たちの場合、「懐かしい」という感覚があるんですけど、子供たちは、特に大都会に住んでいる子供たちは、土に手を突っ込んで大根を抜く経験がないわけですから、土の香りがあまり知らないじゃないですか。そういうことを気づかせることで、五感もすごく敏感に発達するメリットもありますよね。
「あと、目覚めていく。そもそも子供の方が、そういう感覚が豊かで、感じるという感覚が分かると、どんどん目覚めていくのかなと思います。」
●それが香育の大切さということですね。
「そうですね。まず、感じる。どんな反応があるかというと、例えば、オレンジの香りを嗅いでみても、『いい匂い』っていう子もいれば、『嫌い』という子が同じ教室にいて、同じ香りを嗅いでも、色々な声が飛び交うんですね。それを一緒に体験することで『自分が心地いいっていうことが、他の人とは反応が違うんだ』という風に、自分と他者の違いを感じ取ったりするんですね。」
●それによって、みんなが一緒じゃないっていう、人間としての基本的なところも気が付くということですね。ということは、低学年のような、小さい子の方が、香育ってすごく大事じゃないかなって思いますね。
「ただ、香りって非常に多面的なんですね。なので、小学校、中学校、高校と色々行くんですが、教える学年に合わせて、内容を変えています。例えば、小学校の低学年であれば、まず“感じる”。自分が感じて、どう思ったのかっていうのを大切にしているし、高学年になったり、中学校や高校になったら、香りの効用を大切にしています。ストレス・マネージメントや、セルフ・ケアに役立てようという、意識をして活用しようというところまで、プログラムが広がるので、対象に合わせて、内容は工夫しています。」
意外と男子生徒は、甘い香りが好き!?
●小さい子供たちに、なにか興味を持たせる方法って、例えばクイズ形式とか、色々な方法があると思うんですが、香育で、みんなに香りを気づかせる、興味を持たせるために、低学年の子供たちには、どういうことをしているんですか?
「みんなが1番興味を持つのは、香り当てクイズですね。『この香りって何だろう?』ってクイズ形式にすると、みんな真剣に香りを嗅いで、自分の記憶と結びつけて、当てようとするんですね。そのクイズ形式が、小学生だけじゃなくて、中学生・高校生も1番盛り上がりますね。」
●香育を取り入れている学校の、父兄の反応ってどうなんですか?
「子供たちの感想文などで『“自分が学校でこんな体験をしました”ということを家に帰って、お母さんに話している』というのをよく見ます。場合によっては、おばあちゃんにも『こんなことを勉強したんだよ』という話をしているんですね。そうすると、お母さんやおばあちゃんが『自分は○○の香りが好き』とか『こんな思い出があった』というような話をして盛り上がるんですね。それで、親子や世代を超えたコミュニケーションが生まれているという話をよく聞きますね。」
●香育の授業を受けた子供たちが、例えば遠足だったり、家族旅行で自然のあるところに入ったときに「この香りは○○だ!」というのが、前以上に敏感に感じられるようになっているんでしょうね。
「よく学校の先生から『香りの授業を行なった後に、生徒から『校庭でこんな香りがした』とか『学校に来る間、こんな香りがした』というようなコメントをもらうことがあって、香育を受けた後の生徒の様子が違う』という話を聞きますね。」
●意識が1度でも香りの方に行くと、子供であれば子供であるほど、インプットされるのが早いですからね。
「そうですね。それで、自分が感じたことを誰かに伝えたくなって、学校だったら先生だったり、家ならお母さんだったりお父さんだったりするんですね。」
●でも、特に女性は、香水をよく使うわけですから、既に香りというものに関しては、女子生徒は好きなはずですよね。それに対して、男子生徒はどうなんですか?
「男子生徒は、スッキリした香りが好きだったり、意外に甘い香りも求めていたりするんですね。」
●では、共学の学校でこのプログラムを実施しても、男子生徒たちも「えー、アロマー?」っていう、嫌そうな感じではなく、素直に香育を受けるという感じなのでしょうか?(笑)
「それも学年によると思います(笑)。今日たまたま、高校3年生の男子生徒が多い学校に行ったんですね。すると『香りに詳しいとモテるかな?』とか、あと、今日の高校生は、大学の進学も決まっていて、主に体育学部に進学が決まっているということなので、『自分が今後、スポーツと関わっていくときに、リラックスしたり、リフレッシュしたり、集中したりするのに、香りを役立てていきたい』という思いもあるようで、熱心に聴いてくれましたね。」
●(笑)。意外と、真面目に匂いに対して、取り組んでいますね(笑)
「そうですね(笑)。また『今日は五感をできるだけ使うような授業にしよう』ということで、ハーブティーの香りを嗅いで、味わうために、休憩時間にハーブティーを配ったんですね。ミント系とカモミールに少しハチミツが入っているような甘い系と2種類用意したら、8割の男子生徒は『甘い方がいい』ということで、カモミールに行列ができていました。」
●男子生徒はカモミール好き!(笑) やっぱりリラックスしたいということなんですね。
「そうですね。ほんのりリンゴの香りがするようなものがいいんでしょうね。」
●そうかぁ。私はミント派なんだけどなぁ(笑)。でもやっぱり、これも好みがありますからね。お茶に関しては、そのときの気分で香りを変えたりするという楽しみ方もありますよね。
「ありますね。」
地球は緑あふれる大地の匂いでいてほしい
●ここでクイズです。地球って、色でイメージすると、青じゃないですか。宮崎さんにとって、地球を香りで表現するとしたら、どんな香りですか?
「やっぱり緑に包まれているイメージが、地球の香りですね。ただ、大地の香りも、緑と合わさっている気がします。たしか、宇宙飛行士の若田光一さんが、地球に降り立って、シャトルのドアが開いた瞬間『草の香りがして、地球に優しく迎えられた』っていうことを話していたと思うんですが、私は宇宙には行ったことはないけれど、もし私が宇宙から地球に戻ってきたら、同じ思いをしたいなって思うし、多分、同じことを口にしたんじゃないかなって思いますね。」
●草の香り漂う地球であってほしいと思うんですが、残念ながら、現在の地球環境は、温暖化も含め、色々変化していて、なんとなく香りとしては、ちょっと焼け焦げかけた匂いに変わってきてしまっている気がするんですね。香りに敏感になって、香りに思いをはせることによって、地球自体の香りも「こうあってほしい。そっちに近づけたい」という気持ちになって、そういう形で、嗅覚を通して、地球環境を考えるのも、これからの香育の一部として、もっともっと浸透してほしいなって思います。
「香りが漂っているのは、空気ですから、香りを感じるということは、空気を感じることでもあると思うんですね。そして、私たちが毎日必ず呼吸をしているのであれば、その空気はみずみずしいものであってほしいなと思いますね。」
●日本アロマ環境協会として、また、宮崎さん個人として、今後、香育をどのように広げていこうと思っていますか?
「これまで、大体125校、200回以上実施してきたんですけど、まだまだこの活動を知らない人が多いので、できるだけ知らせていきたいなって思います。この活動を通じて、香りを感じて『いいな』って思った体験を、感じるだけじゃなくて、行動につなげていくような子供たちが増えていき、大人と子供が一緒になって地球のことを考えて、行動を起こせたらいいなって思います。」
●今後も香育を、ザ・フリントストーンとしてもチェックしながら、知らせていきたいと思いますので、またなにかありましたら、是非、番組でもご紹介したいと思います。
「はい。」
●というわけで、今週は、日本アロマ環境協会・事業推進課の宮崎薫さんにお話を伺いました。ありがとうございました。
※香育に関しては、日本アロマ環境協会がアロマテラピー・インストラクターの派遣などサポートしてくれるので、地元の学校でも「香育」をやって欲しいと興味を持たれた教育関係者の方は、ぜひ一度、協会に相談されてみてはいかがでしょうか。
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