2010年4月18日
海・野草・自然。テミヤンさんが“歌”と“海菜”に込めた思い
〜浜辺のフォークシンガー・テミヤンさんをゲストに迎えて〜
今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは、テミヤンさんです。
湘南を拠点に、海辺の生活を大事にしながら音楽活動をされている「テミヤン」こと宮手健雄(みやて・たけお)さんは、海岸に生える野草の研究と、それを使ったお料理もライフ・ワークのひとつとされています。
そんなテミヤンさんから、ライフ・スタイルと音楽、そして野草のお料理のことなどうかがいます。
湘南の自然の現状は?
●今回のゲストは、浜辺のフォークシンガー、そして野草研究家のテミヤンこと宮手健雄(みやて・たけお)さんです。初めまして。よろしくお願いします。
「こんばんは! テミヤンでーす! よろしくお願いします。」
●テミヤンさんは、生まれは神奈川県・平塚市で、現在は茅ヶ崎市にお住まいということなんですよね?
「そうですね。平塚の海の近くで育ちまして、中学のときに茅ヶ崎の海の近くに引っ越して、今も歩いて5分もかからないところに住んでます。」
●やっぱり、海や自然に囲まれて育ったということが、楽曲に影響したりするんですか?
「そうですね。昔からブルースは好きだったりするんだけど、自分にとって1番相手に伝わるのは、海の景色だったりするんですよね。目を瞑ると、子供のころに見た海辺の風景が浮かんでくるんですよ。そういうところを原点にしながら、友達のこととか、家族のこととか、海辺で生活している人たちのことを歌っていることが多いですね。」
●テミヤンさんは、海の近くで育ったということなんですけど、ここはベイエフエムということで、千葉の海のことをお聞きしたいんですけど、神奈川の海と千葉の海って違いますか?
「どうなんでしょう。湘南のサーファーは千葉の人たちと親しいですよね。僕の友人でロング・ボードをやっている人も、千葉の波の方が、湘南よりいいので、房総半島に行ったりしているんですよ。あと、湘南海岸の砂浜がどんどん減少していて、僕のイメージの中にある、豊かな自然があった湘南の海辺というのが少なくなっているんですね。だけど、僕は最近、千葉でよくライブをしているんですけど、千葉に来るとホッとしますね。浜辺も広いし、海浜植物もたっぷり生えているしね。逆に、僕の中にある幻影風景の海というと、千葉の方が身近に感じますね。」
●それはちょっと意外ですね。そうすると、今の神奈川の海というのは、砂浜が少なくなってきているんですか?
「そうですね。特に茅ヶ崎の砂浜は減っていますね。色々な要因は考えられるんですけど、1番の原因は、ダムで川砂が流れてこないことじゃないのかとか、建造物を作って、海辺の砂を止めようと思うと、逆効果で、違う場所が減ったりとかしているんですけど、これらって、人間の力が及ばないところですよね。僕が子供のころだと、柳島というところでハマグリとかしじみとか色々獲れたんですけど、今ではもう獲れなくなりましたね。」
●私が茅ヶ崎に遊びに行ったときには、地引網を手伝うと、それほど大きくはないんですけど、お魚がもらえたんですよね。
「そうなんだよね! ♪朝日浴び 地引網 子供たちと手伝って 新鮮な魚をもらったら 朝飯にしようぜ♪ という曲があるんだよね。」
●そういう歌もあるんですね(笑)。
「本当、歌詞そのままなんだよ。たくさん獲れると『持っていけ』っていって、小魚をくれたんだよね。今でも、茅ヶ崎だけで6軒ぐらい、網元があるので、まだ地引網はやっているんですよね。」
●湘南とか鎌倉って、おしゃれなイメージがあるんですけど、地引網がまだやっていたりとかして、実は住んでいる人しか知らない神奈川の海のいいところってあると思うんですね。
「そうなんですよ! そう言ってくれると嬉しいね。そこを僕が何とか伝えていきたいなって思いますね(笑)。おしゃれの部分も大切だと思うんですけど、それを支えているのは、山があって、海があってという、自然があってのことだと思うのね。千葉も豊かな自然がたくさんあると思うんですけど、湘南にも、丹沢という山があって、そこには生態系の頂点と言われている、ツキノワグマがまだいるんだよね。」
●そうなんですか!? 知らなかったです。
「これってものすごく画期的なことなんですよね。九州でも絶滅してしまったツキノワグマがいて、ツキノワグマって生態系の頂点だから、ギリギリなんだけど、豊かな自然が残っていて、そこから流れてくる川が、湘南の海に行くんだよね。だから、山と海は繋がっているし、そのギリギリな自然を繋げていきたいっていう気持ちがすごくありますね」
●そういう思いを、テミヤンさんは歌にして、伝えたりしているんですか?
「そうなんですよ。例えば、沖縄の音楽とかハワイの音楽とかって、土地の神様とか土地の生活にすごく根付いていて、湘南っていうと、そこまで深い繋がりってあるのかなって思っていて、『自分は、湘南にこだわっていていいのかな?』という思いがあったのね。でも、やっぱり地元で生活をしてきて、その中には地引網もあるし、里山に行けば色々な野草がたくさん生えているし、少なくなったとはいえ、そういうことを思うと、歌で伝えていきたいなって思ったんですね。そういう思いをなるべく歌詞の中に入れるようにしています。」
●せっかくなので、ここで1曲披露していただけますか?
「分かりました! 『Smile』っていう3曲入りのシングルがあるんですけど、その中に『生きてゆくこと』っていう曲が入っているんですね。ちょうど僕らのような年代で、ボブ・ディランに傾倒した人たちの思いで作った曲を、今日はギターを持ってきたので、聴いてください。」
(放送ではここで、テミヤンさんの生演奏による「生きてゆくこと」を聴いていただきました)
“海菜”とは?
●実はテミヤンさんは、野草研究家ということで、山菜に詳しいとお聞きしたんですが、どのぐらい詳しいんですか?
「キャンプとか好きで、キャンプで山に行くと、その土地の人が色々な山菜を採ったりしていたんですね。僕は土筆だとか、セリをよく摘んでいたんだけど、そのときに、それ以外にも色々な野草があるんだなって思ったんですね。その後、アウトドア系の雑誌の編集者と友達になって、アウトドア系のイベントに参加しているうちに、海辺にもそういう草があるということを知ったんです。でも、そのころの本とかには『海辺の山菜』って書いてあったのね。僕はへそまがりだから『海辺に山菜はないだろ』って思ったんだよね。」
●確かに違和感がありますよね(笑)
「でしょ? 色々調べていくと、冬の寒い時期に、置きっぱなしになった船の横に、おかひじきとか浜大根が生えているのね。山菜ほど根付いた文化じゃなくて、歴史に残っていないんだけど、漁師さんが『緑が少ない』と思ったときに、味噌汁に入れたりしていることが日常的に行なわれていたのね。そういうことを、漁師さんと話していると『それはちょっと面白いな』って思って、興味を持ちだして色々勉強していると、採ったり生やせたり、雑誌に載せたり、本を出したりするようになりました。」
●(笑)。その海辺の山菜を、テミヤンさん独特の言葉で呼んでいると聞いたんですけど、教えてくれませんか?
「それはですね、“海菜”っていうんですよ。山の野草を山菜っていうでしょ?“海”で食べられる山“菜”と書いて、海菜と読ませています。海辺に、砂浜に生えているような野草、浜大根とかボウフウとか、そういう野草のことを言います。あと、梅にも果実があるのね。イヌビワとか、エビズルとかヤマモモなどを採ってきて、それでジャムを作ったり、ジュースを作ったりしていて、よく人から『海辺にそんなものあるの!?』って驚かれますね。それから後は、潜らないでも、風の強い日に流れてくるワカメとか、ひじきとか、そういうのも仲間に入れて、それら全て海菜と呼んでいます。」
●それが、以前リリースされた「海菜」というタイトルになっているんですね。
「そうなんです! 実はこんな曲も作っちゃったんだよ。♪ワカメ 岩のり ひじき 青海苔 ハバノリ ノリノリ〜♪」
●ノリノリですねー!(笑)
「多分、千葉の人でハバノリを知っている方って多いと思うんだよね。」
●私、知らないので教えていただけますか?
「知らなかったですか? ハバノリっていって、地域によって違うかもしれないけど、岩場に付くのりで、冬の寒い時期に採れるんですよ。すごく磯臭いんだけど、バリっていう食感があって、これをパッと炙って、ご飯にかけても美味しいし、千葉の方は多分、お雑煮に入れるんじゃないかな。」
●へー! そうなんですかー。
「僕が住んでいる三浦半島辺りでも、冬、葉山辺りに行くと『ハバノリ入荷しました』という文字が出てくるんですよ。だけど、採る人は大変だよね。冬の、小雪が降るような寒い時期に、岩場に入って、手で採って、それを洗って、干して、石がないように取るんだから。これをパッと炙って、綺麗な緑色になったら、もんで、卵かけご飯にかけて食べたら、美味しくて大変なことになるよ。」
●それを聞いていたら、お腹が空いてきました(笑)。
「(笑)。磯の香りが豊かなので、いいですよー。」
●他に、海菜の美味しい食べ方ってあるんですか?
「海辺で食べられる海菜で、ツルナという植物、ニュージーランド・スピナッチっていう別名もあるんだけど、キャプテン・クックがニュージーランドで発見して、それをヨーロッパに持っていったんだよ。実は、ヨーロッパでは野菜として流通しているのね。日本にもたくさんあって、実際、ハワイやロサンゼルスの海でもあったので、環太平洋に分布しているんだと思いましたね。それとか、アシタバとか、おかひじき、浜エンドウ、浜大根などがありますね。数えればまだまだたくさんありますよ。
山の自然と比べると、海の自然って限られているから、残さずに採ってしまうと、よくないよね。先ほども言ったように、茅ヶ崎の海岸の砂がほとんど流出しているから、今まで当たり前のようにあったハマヒルガオの花やハマゴウが減ってきているから、今まで『いいな』って思ってきた風景とか植物が、なくなったら気になるし、名前を覚えると愛おしくなるしね。採りすぎちゃったりする人は絶対にダメなんだけど、海辺の植物をちょっと摘んで、味見をするというのは、そこの自然に目を向けるきっかけにもなるし、子供たちにそれを教えれば、子供たちも、ただ泳ぐ・遊ぶだけじゃなくて、浜辺のことや海の植物に親しんでもらえるかなと思いますね。僕はそういうことを含めて、海菜というものがあると思いますね。」
植物は、大きな自然のデザインの中で生きている
●実は今日、テミヤンさんに、海菜を使った料理を持ってきていただいたんですよね!
「そうなんです! 名づけて“ダブルひじき丼”でございます。ちゃんとお弁当箱に入っていて、いいでしょ?。」
●ちゃんと、パッケージされています(笑)。温かいですね。
「ご飯はちゃんと温めてきましたよ。これを、収録直前に作ったんですよ。」
●え、そうなんですか!? 箱を開けさせていただきます。
「お弁当箱に温かいご飯が入っていますよね。その周りに見える綺麗な緑があるでしょ。」
●鮮やかな緑ですね。
「これが“おかひじき”といいまして、砂浜に自生している植物です。大体、砂浜から波打ち際へ対角線上に向かって、引き潮のときに出てくるような岩場に生えているのが“ひじき”ですよね。ひじきって真っ黒じゃないですか。緑のひじきと対称なんだよね。陸と海とで違うけど、両方とも“ひじき”という名前が付いているから、同じ環境で育ってるんだよね。その2つを合わせて“ダブルひじき丼”。今日は、鶏のひき肉と生姜を使った味付けにしまして、真ん中にうずらの卵を載せています。」
●美味しそうー!
「ちょっと食べてみて。」
●これは、おかひじきとめひじきと、ひき肉と一緒にいただくといいですね。
「そうですね。これが、同じ環境で生えている植物ですよ。」
●それでは、いただきます。
(放送ではここで、ダブルひじき丼を食べました。)
テミヤンさんが作ってきてくださった Wヒジキ丼と、ノビルの味噌付け。 超美味!ごちそうさまでした! 「どう。」
●まず、食感がすごくシャキシャキしていますね。ひじきというと、食感があまり期待していなかったんですけど、シャキシャキしていて美味しいのと、ひじきの磯の香りがするんですけど、おかひじきの方が、サラダのような味があって、いい感じの塩加減で、美味しいです!
「嬉しいな! ひじきの方は、コチュジャンで味をつけているんです。」
●そうなんですか!?
「おかひじきは茹でただけで、味付けをしていないんですね。なので、シャキシャキ感とひじきの味わいがあるんです。ひじきって、太さと味わいがあるから、こういう風な丼にできるし、パスタにも合いますよ。」
●パスタって、イタリアンな食材じゃないとダメなイメージがありました。
「いやいや、僕の友人でひじきパンを作っている人もいるし、ひじきご飯はもちろんだし、パスタにもいけるので、ひじきって応用範囲は広いですよ。」
●意外とユーティリティ・プレイヤーなんですね!
「そうなんだよ!! 実は、このおかひじきは、千葉産なんです。」
●ということは、千葉と神奈川のコラボレーションなんですね!?
「そうなんです! もちろん千葉でもひじきは取れるんだけど、これは三浦のひじきなんです。このおかひじきは、寺島農場という、千葉の旭市にあるところなんだけど、おかひじきは砂地に生えるものなので、そこにとっても広い農場があるんですね。僕はそこにいつもお世話になっているんだけど、おかひじきってカルシウム・カリウムも多くて、とっても健康にいい野菜で、特に寺島さんのおかひじきはとってもシャキシャキしていて、柔らかくて、味わいもよくて、美味しいんですよ。」
●本当に美味しくいただきました。ありがとうございます! こんなに美味しい、浜で育つ“海菜”というのがあることを初めて知ったので、私も是非、海菜を採ってみたいなって思うんですけど、ちょっと教えたくないかもしれないですけど、具体的に「ここに行けば、おいしいものが取れるよ」っていうところを教えていただけませんか?
「千葉だとよく分からないんですが、海辺に行けばどこにでもありますよ。『ここが1番よく採れる』ということではなくて、例えば、海辺に行くと、古い木の船とか、使っていない船が置きっぱなしになっていたりするでしょ? そういうところの風の吹き溜まりみたいになっているところに、ツルナとかおかひじきが生えていますね。浜大根はいたるところに生えているしね。採りたいなら、海に行って、散歩することじゃないですか。」
●これからいい気候になってきますから、いいですよね。
「沖縄に行くと、もっと色々な野草を利用しているのね。それは食べるだけじゃなくて、漢方薬としても使っているので、そういう効力も海菜にはあるんだよ。野生のものをいただくというと、その生命の元気をいただくので、逆に『ありがとう』という気持ちがないといけないのかなって思いますね。」
●特に、浜辺で育っている植物というのは、過酷な環境で生きているじゃないですか。そういうものから、エネルギーって溢れていたりするんですか?
「そういうところも好きなんですよね。例えば、光を反射するように、葉っぱが生えていたりとか、ヤシの木もそうだけど、大体海に浮かぶようになっているんですね。あれ不思議ですよね。」
●確かにそうですね。
「コルク質になっていて、そのまま波任せ・風任せで、どこかに流れ着いて、そこの環境が合えば、そこで発芽して、成長していく。なんか、大きな自然のデザインの中で生きている植物の生き方って、すごく共感するなって思いますね。ちょっといい加減な部分に対しての言い訳になるんですけどね(笑)。なんかそういう生き方っていいなって思っちゃいますね。だから、植物から教わることって、すごく多いですよ。」
自分の半分は海
●テミヤンさんは、1月20日にシングル「Smile」を発売されましたが、これはどんな曲なんですか?
「これは、この曲の前にリリースした『Happy Life Story』というアルバムがあったんですけど、それに収録されている曲をシングル・カットしたんですね。今、派遣切りとか、今年もそうだけど、昨年も色々な悲しい出来事を聞くよね。僕と同い年ぐらいの方が、ニュースの中で、急に会社をクビになってしまったんだけど、そのことを家族に言えないでいるということを見たんだけど、『どんな思いなんだろう』って思ったんだよね。1番辛いときって『頑張れ』とか『笑顔』って言われたって、耳に入ってこないだろうけど、ちょっとふかんで自分を見えるようになって、深呼吸ができるようになったら、1番の幸せって何だろうなって思ったら『笑顔』だって思ったんです。ストレートの曲なんだけど『笑顔になろう』っていうメッセージを込めていて、この曲は僕らの年代の人に聞いてほしい、親子の思いを歌った曲です。」
●その「Smile」と「生きてゆくこと」という曲ですが、この曲はどんな曲なんですか?
「僕も含め、還暦ぐらいの人たちって、フォークソング世代なんですけど、この前、日本に来ていた、ボブ・ディランの『風に吹かれて』という曲が、すごく象徴的で、『風に吹かれて』という思いで生きていたんですね。だけど『人生を全うすることって、大変だな』って思って『お互いに頑張ろうぜ』っていうそんな曲なんです。『遠くから何かが見ていてくれるよ』っていう思いを込めています。もう1曲の『テミヤンの子守唄』は『ゆっくり寝てね』っていう曲です。」
●(笑)。最後はお休みなさいっていう感じなんですね(笑)。それぞれ、バラエティに富んだ曲ばかりですね。
「今回は、海とか海菜っていうこだわりを持つんじゃなくて、僕も50歳を越えたので、人生のことを等身大で、自分の思いをそのまま歌った曲が3曲入っております。」
●今後も様々な野草とか海菜で、楽しんでいくとおもうんですけど、少し大きな質問をさせてください。テミヤンさんにとって「海」とは、どんなものですか?
「『自分はここでしか住めない』って思うのは嫌だから、山でもいいし、住むところはどこでもいいよ』って言っていたんだけど、半分が開けっぴろげの窓じゃないと嫌みたいな感じで、自分の半分は海って感じだね。僕は海の近くで育っているので、海の怖さも知っているし、海で亡くなった人もたくさんいるんだけど、やっぱり半分が海で、すぐ身近にあるものって感じかな。」
●というわけで、今回のゲストは浜辺のフォークシンガー、そして野草研究家のテミヤンこと宮手健雄(みやて・たけお)さんでした。ありがとうございました。
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