2011年8月20日

採取に成功したウナギの卵! 謎だらけの魚ウナギの神秘に迫る!
〜東京大学・大気海洋研究所・特任准教授・
青山潤さんをゲストに迎えて〜

 今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、青山潤さんです。

青山潤さん

 今回のゲストは、広大な海を何千キロも旅する神秘的な魚ウナギの研究者で、東京大学・大気海洋研究所の特任准教授の青山潤さんです。
 3回目の出演となる今回は、先月発表され、大注目された、ニホンウナギの卵を大量に採取したお話や、現在、東京大学・総合研究博物館で開催中の「鰻博覧会」についてのお話をうかがいます。

人類が初めて見たウナギの卵!

※青山さんが所属する、東大のウナギ研究チームは先日、太平洋・マリアナ諸島沖でニホンウナギの卵の大量採取に成功し、世界的に大ニュースになったんですが、そのときの状況からお話いただきました。

「7月10日に陸に戻ってきたときなんですけど、それまで航海をずっとしていまして、『ウナギの卵が取れた!』という連絡を陸側に入れたら、船が入港したと同時に記者会見を開いて公表することになり、大騒ぎになりました。」

●7月10日より前に卵を取って、7月10日に陸に帰ってきて、そのときに記者会見を行なったということなんですね。青山さんは、ウナギの卵を採取したときには、その場にいたんですよね? どんな気持ちでしたか?

「卵は2009年に一度採取されていまして、そのとき私もマリアナにいたんですけど、見ていなかったんですね。水産庁との共同研究で、海に出ていたんですけど、私は水産庁の調査船に乗っていましたので、数百メートル先に見える船から卵が取れたという報告を聞いただけだったので、非常に悔しい思いをしました。なので、今回はその雪辱みたいな形になりました。他の人たちは、卵を取るのは二回目なんですけど、私は初めてだったので、一人で興奮していたと思います(笑)。」

●ウナギの卵って、大きさはイクラぐらいの大きさじゃないですか。

「直径で1.6ミリぐらいですね。」

●それをあの広い海から採取するって、どういった感じで採るんですか?

「ウナギがどこで産卵をするかは、今までのデータから予測ができるんですが、予測といっても、ピンポイントではなくて、広範囲なんですね。その中にプランクトンネットという、卵を採るためのきめ細かい網を入れては上げて、入れては上げての繰り返し作業になります。」

●ということは、確実な方法というより、数打ちゃ当たる方式で採るということですね。

「そうですね。まだ確率論だと思います。」

●卵が取れたときは、その感動もひとしおですね!

「そうですね。『運がよかった!』という気持ちになりますよね。」

●今回はどのぐらいの数を採取したんですか?

「船の上で確認できたものでいうと、147個ですが、卵はものすごく透明なので、揺れる船の上でたくさん採れた色々な動物プランクトンの中から取り出すという作業は難しいんです。なので、これから採れた標本を陸上でもう一度ゆっくり精査をすれば、まだ数は増えると思います。」

●その採れた卵は、今保管をしているんですよね?

「はい。ただ、ウナギの卵は今まで誰も見たことがなかったので、私たちも採れた瞬間はウナギの卵なのかどうか分からないんですよね。それを調べるために、船の上で卵を潰して、遺伝子を採取して、ウナギかどうかを調べるという作業を行なうんですけど、将来的に研究に使用するためということも含めて、ほとんどの卵は潰して保存しています。その中で7粒だけは、人類未だ誰も見たことがなかった非常に貴重なものなので、形を未来永劫残せるように、ホルマリン漬けにして保存しています。」

●今回卵がたくさん採取されたことによって、何が分かったのでしょうか?

「新たに分かったことはないんですね。ですが、ウナギの産卵所がある場所を特定するために、2009年に卵が採取されたところのデータを詳細に解析しました。すると、太平洋の中にフィリピン海プレートの東の端を縁取るように海底山脈があるんですけど、ウナギの産卵場の経度を決めているのが、この海底山脈ということが分かったんですね。熱帯地方の海は、スコールがよく降りますので、海の上に低塩分の水が広がっているんですね。
 ということで、『ウナギの産卵場は、この海底山脈と海の上にある低塩分の水の交点の辺りじゃないか』ということが、2009年の調査の結果から、仮説の一つとして生まれました。そして、今回はそれを確かめるべく、そこへ行って、網を入れてみたら、四回目の網で卵がたくさん採れたので、その仮説が確かめられました。新しく分かったことはないですけど、仮説が正しいようだということが分かったことが、大きな一歩になったと思いますね。」

ウナギの不思議な一生。

※ウナギはまだまだ謎の多い生き物なんですが、ニホンウナギがどんな一生を過ごすのか、分かっている範囲内で話していただきました。

「ウナギは海で産卵をします。その産卵所はグアム島の南西にある、“世界で一番深い”といわれている、マリアナ海溝のすぐ近くだと最近分かったんですけど、その辺りで産卵をしたウナギが孵化をして、海流に流されるようにして、段々移動していきます。
 グアム島の辺りには、北赤道海流というものがあって、西向きに流れているんですけど、その中で卵から孵化します。最初は“レプトセファルス”といわれる、キレイな透明の柳の葉っぱみたいな、ペラペラの生き物になります。」

●ウナギとは全然違う生き物なんですね。

「全然違いますね。その状態で、北赤道海流に乗って、西に流れてきます。西にくると、私たちがよく知っている黒潮に乗り換えて、日本の方にやってきます。ここまで半年近くかかっているんですね。なので、柳の葉っぱみたいなペラペラな状態で半年間海流に乗って、日本にやってきます。
 そして、日本の沿岸まで来ると、シラスウナギという、親と同じような形なんですけど、小さくて透明な子ウナギみたいなものになるんですけど、その状態になって初めて、川などに集まってくるんですね。川に入った後は、場所によってかなり違ってくるんですけど、5〜15年ぐらい川の中でエサを食べて成長します。このときの状態を、私たちがよく知っている、専門的には“黄ウナギ”というステージになるんですけど、この状態で5〜15年川で過ごして、十分な大きさになると、今度は“銀ウナギ”という、皮膚がメタリックシルバーのような、ギラギラ輝くウナギになって川を下って、もう一度自分たちの産卵場に戻って、産卵をして死ぬという、非常にスケールの大きい一生なんですね。」

●誰にも教わっていないのに、マリアナ海溝で生まれて、なぜ長い月日をかけて日本まで来られるのか、すごく不思議に思うんですよね。

「子供が日本に来ることに関しては、海流が繋がっているので、イメージとしては、ベルトコンベアーに乗っていると自動的に日本に運ばれてくるというメカニズムがあると思います。ただ、親ウナギが産卵場に帰ることって、例えば鮭って生まれた川に帰ってきますけど、彼らは川の中でしばらく育って、水の匂いを記憶して戻ってきますけど、ウナギは生まれた瞬間は卵で、細胞は一つだけなので、水の匂いを記憶できるはずがないんです。そこから海流によって流されるので、自分の生まれたところから離れつつ、成長していきますので、生涯を通して、ウナギの産卵場を一度も経験していないんですよね。それにも関わらず、その一点を目指して帰られるというのは、ものすごく不思議ですよね。」

青山潤さん

●他にも、ウナギの不思議なことってたくさんあって、例えば、体って、子供のときは海流に乗りやすい形をしているのかもしれないですけど、大人になると、あの細長い形になりますけど、なんのためにあの形になるんですか?

「今までは、岩の下に隠れたり、川の中で過ごしているから、そういうものに適した形ではないかと言われていたんですけど、例えばニホンウナギの場合、どういう経路で行っているか未だに分からないので、はっきりとしたことは言えないんですけど、産卵場まで約1500〜2000キロぐらいの距離を泳ぐんですね。
 『実際に、回遊中のウナギを再現してみよう』ということで、今回の鰻博覧会で展示しているんですけど、“スタミナトンネル”という、ルームランナーみたいな実験装置の中でウナギが泳いでいるんですが、それを見てみると、ものすごく効率がいい泳ぎ方をしているんですね。一見、泳ぐのに向いていない、ヘビみたいなニョロニョロとした動きをしているんですけど、エネルギー効率の点からすると、ウナギの方がベーリング海を泳いでいるような鮭の5倍ぐらい遊泳の効率がいいということが分かってきています。そして、彼らは日本を出てから産卵場まで、およそ半年かけて泳いでいくんですけど、その間エサを全く食べないんですね。日本の川を出ると、エサを食べることを止めて、一心に産卵場を目指して泳いでいくんですけど、何も食べない状態で半年間泳ぎ続けるということを考えると、ものすごいエネルギー効率なんですね。

 そういうことをしながら、産卵場にたどり着くまでに自分の体重の半分ぐらいを卵にするんですね。なので、卵を発達させるエネルギーは必要だし、泳ぐエネルギーも必要なのに、一切食べないので、あの形って、見た目からは想像できないですけど、非常に省エネルギーで、長距離を泳ぐことができる形じゃないかという風に最近言われてきています。
 私たちのイメージでは、岩の下から出てきて、すぐ岩の下に入るといった感じだと思いますけど、実際にあの実験装置で泳いでいるウナギを見ていただくと分かるかと思いますが、上半身は一切動かさず、尾ビレだけを左右に力強く振って、ものすごく優雅な泳ぎをしているんですね。ああいうものを見ていると『ウナギってやっぱり泳ぐ魚なんだな』と痛感しますよね。」

●そうですね。ウナギって背ビレがないので、あまり魚っぽくないですけど、すごく泳ぐ魚だったんですね。

「彼らは非常に優秀なスイマーだといえるかもしれませんね。」

ウナギの産卵はロマンチックなストーリー!?

※ニホンウナギは新月のときに産卵するということなんですが、なぜ新月のときなのか、教えていただきました。

「理由はまだ分からないんですけど、海の生き物には、月に合わせて産卵などの生態スケジュールが組まれているという種類がたくさんいるんですね。特にサンゴなど、沿岸の生物の場合は、新月や満月のときは干潮と満潮の差が大きくなって、流れが激しくなるので、卵を散らすのに都合がいいと言われていますけど、ウナギは先ほどいった概要な上に、北赤道海流の中に産卵場があるので、沿岸が月のリズムに合わせて産卵をするのと同じかどうか、まだハッキリとは分からないんです。
 ただ一つ、間違いなく言えると思うのは、日本を離れて2000キロという距離を、イワシみたいに群れを作って泳ぐ魚ではない彼らが単独で移動していると思うんですけど、産卵のときにはお互いがいないといけないので、2000キロ先で、オスとメスが出会って、時間と場所をしっかりと決めておかないといけないですよね。なので、その時間を決めているのが、新月じゃないのかなと考えられるんですよね。」

●それはロマンチックですね!

「すごいですよね。一生に一度、命をかけて2000キロ咲きの産卵所まで泳いでいって、月のない真っ暗闇の夜に産卵をして死ぬというのは、小説家でも思いつかないようなロマンチックなストーリーですよね。」

●でも、なぜウナギが新月に産卵していることが分かったんですか?

「魚には、内耳の中に“耳石”という組織があるんですけど、そこに一日一本ずつ、木の年輪みたいなリングが形成されるんですね。そこで、日本の河川に来ているウナギの子供を色々なところから採って、耳石からリングの数を数えて、採れた日から逆算すると、彼らの誕生日が分かるんですね。そこから、日本中にいるシラスウナギの誕生日を調べると、全て新月に一致しているということが分かったんです。」

●分かったときはビックリしたんじゃないですか? 全部新月なんですよね?

「そうですね。本当に不思議なことですよね。」

青山潤さん

●青山さんが今後行なっていきたいウナギの研究のテーマは何ですか?

「色々ありますけど、今回、ウナギの卵が見つかったことが、ウナギ研究としては大きなエポック・メイキングで、『一つの時代が終わった』という気がするんですけど、やっぱり研究者って欲がありますので、『今度は世界中で誰も見ていない“ウナギの産卵シーン”を見たい!』って思うんですよね。ウナギが実際にどのように産卵しているのか分からないんですよね。オスとメスが一匹ずつ絡み合って産卵をしているのか、大きなウナギ玉みたいなものを作って産卵をしているのか、全く分からないんですね。なので、今度はそういったものを見てみたいですね。
 それを見ることができれば、ものすごい精度で予測しないと見ることができないので、ウナギの産卵が起きる場所が事前に予測できることになるんですね。それが予測できれば、将来的に『今年は○○匹のウナギが卵を産みました』ということが分かるようになるんですね。それが、半年ぐらいには日本にたどり着くので、『来年のシラスウナギは多そうだ、少なそうだ』っていう予測が正確にできるようになってきます。なので、単純な好奇心だけじゃなくて、社会的にも意義がある研究になると思いますので、そういったことをやっていきたいと思っています。」

●実際にウナギの産卵シーンを見るためには、どういった条件が必要になってくるんですか?

「まず、ウナギが産卵する時間と場所をピンポイントで予測しないと見ることはできません。時間に関しては、今まで採れた卵の解析結果から、ウナギは新月のときに産卵すると先ほど話しましたけど、新月の2〜4日前から毎晩産んでいるんじゃないかと分かってきています。
 場所に関しては、フィリピン海プレートの東端に、伊豆や小笠原、グアム島の海の中へ続いている、ものすごく長い海底山脈があるんですね。その南の端にウナギの産卵場があるんですけど、その海底山脈上のどこかにあるというところまでは分かっているんですけど、今現在私たちが持っている情報で『間違いなく、ここだ!』っていうのはまだ言えないんです。極端な話、水中カメラを下ろしたら、すぐウナギの産卵シーンが映るという状態にしないといけないんですけど、今のところ、そこまでの精度はまだないので、今後もしばらくは卵を採ったりして、外堀を埋めるような情報を集めて、最終的には、先ほど言ったような『○時○分、この場所の水深○メートルで産卵が起こる』というようなところまで絞り込んでいきたいと思っています。」

(この他の青山潤さんのインタビューもご覧下さい)

 

YUKI'S MONOLOGUE 〜ゆきちゃんのひと言〜

 今回青山さんにお話を伺って、改めて、ウナギの生態は謎に満ちていて、本当に面白いと思いました。特に、なぜ新月の夜に一斉に産卵するのか? とても不思議ですよね。青山さんの所属するチームが、その謎を解明した時には、ぜひまたお話伺いたいです!

INFORMATION

青山潤さん情報

「鰻博覧会」

 東京大学・大気海洋研究所・特任准教授の青山潤さんが現在、東京大学・総合研究博物館で開催している「鰻博覧会」では、今年採取され、7月に世界で初めて公開されたニホンウナギの卵はもちろん、シラスウナギになる前の、透明で扁平のレプトセファルスなどが展示。中には、生きている状態で展示しているものもあるので、来る度に成長しているものもありますので、その点も見所のひとつです。
 また、ウナギ研究の変遷や、青山さんたちが世界で採取してきた19種のウナギも展示されています。

◎開催期間:10月16日(日)まで(会場の休館日は毎週月曜日)
◎入場:無料
◎最寄り駅:都営地下鉄・大江戸線・本郷三丁目駅
◎お問い合わせ:東京大学総合研究博物館

東京大学総合研究博物館東京大学総合研究博物館
鰻博覧会が開催されている東京大学総合研究博物館。
ニホンウナギの卵は必見!

今週のオンエア・ソング

オープニング・テーマ曲
「GRACIAS / LARRY CARLTON」

M1. SUMMER PARADISE / SIMPLE PLAN feat. K'NAAN

M2. CLUB TROPICANA / WHAM!

M3. LUCKY / JASON MRAZ feat. COLBIE CAILLAT

M4. SEA OF LOVE / THE HONEY DRIPPERS

M5. TALKING TO THE MOON / BRUNO MARS

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」