2011年12月3日

登山ガイド・山田淳さんがオススメする、
日本の山とその魅力

 今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、山田淳さんです。

山田淳さん

 登山ガイドの山田淳さんは、2002年5月に世界七大陸最高峰の登頂に成功し、当時の最年少記録を作りました。現在は「株式会社フィールド&マウンテン」という会社を運営しながら、登山ガイドとしても活躍されています。
 今回はそんな山田さんに、登山ブームのことやオススメの山についてうかがいます。

キリマンジャロは“お買い得”!?

※小学生の頃、喘息だった山田さんは、体を強くしたいと思い、中学校でワンダーフォーゲル部に入部。その合宿で屋久島の自然に感動し、どんどん山にのめり込んでいったそうです。そんな山田さんが、世界七大陸の最高峰を目指すようになったのはどうしてなんでしょうか。

「中学・高校の間は、日本の山をずっと登っていました。合宿や家族旅行で無理矢理登山に行ったりしていたんですけど、その頃、植村直己さんの“青春は山にかけて”や、沢木耕太郎さんの“深夜特急”を読んでいました。あとは、大学に入ってからなんですが、世界七大陸最高峰を世界で初めて達成したディックバスの“7つの最高峰”という本を読んで、海外の厳しい登山への憧れがずっと募ってきて、そこから海外に出始めました。

 ヒマラヤの遠征というのは、大学の山岳部に入ったら、みんな目指しているものだと思って、山岳部に入ったんですが、その山岳部には三人くらいしか部員がいない上に、みんなフリー・クライミングばかりで、登山というのをあまりやっていなかったんですよ。なので、『ヒマラヤを目指そうとすると、自分で何か学んでいかないといけないし、自分でなんとか切り開いていかなければいけない』と思ったんですね。そこで思いついたのが、“7つの最高峰”って、元々登山家じゃない人が世界七大陸最高峰に挑戦していくストーリーだから、これを簡単な方から徐々にやっていくというのは自分のステップアップとしてもいいし、当時、大学に入ったばかりで、エベレストって登るのはどうしたらいいのかとか、何から手をつけたらいいのかとか、全く分からない状態だったので、『じゃあキリマンジャロからスタートして、徐々にステップを上げていこう』という風に決めたのが、七大陸最高を目指したキッカケです。
 七大陸最高峰を全て終わったのが2002年で、当時の世界最年少記録を樹立しました。それが登山の中での記録です。」

●すごくスムーズに話しているので、なんか簡単な事のように思えてしまうんですが、実際は難しいんですよね?(笑)

「そうですね(笑)。3年ぐらいでやった七個の登山の話をグッと縮めたらこんな感じなんですけど、やっぱり一つずつすごく難しいんですよね。ただ、七大陸最高峰って、今、登山をしている人の中で海外を目指そうと思われている方っていらっしゃるんですけど、日本の百名山を目指すような感じで、いい感じにステップアップしていくんですね。一番簡単な山って、多分、アフリカのキリマンジャロだと思うんですが、キリマンジャロって、日本からもツアー登山が出ているくらい、難しくないんですよね。」

●最高峰でも行けるところは行けるんですね。

「でも、これには悲しい裏話もあって、雪があると急に難しくなるんですけれども、地球温暖化のせいで雪が減ってしまっているので、「雪がなくて登れる6,000メートル級」となると、登山をしている人の言葉でいうと“お買い得”な感じなんですね。
 登って、雪を経験しなくても『6,000メートル級の山を登ったんですよ』って言えてしまうんですね。キリマンジャロというのは、日本人の間でも人気があって、年末年始とかキリマンジャロ行くと、半分ぐらい日本人がいたりするんですね。」

●それじゃあ、今では観光地になっているんですね。

「そうですね。ヨーロッパやアメリカの人からも観光の延長線上にある登山として親しまれているんですね。特にヨーロッパの人にとっては、距離的にも近いですし、時差もほとんどないので“日本とオーストラリア”みたいな感じで、南北に移動するだけなんですよね。そういう意味で、観光プラスちょっとした冒険という感じで親しまれている山なんです。
 そこからスタートさせて、エベレストまでのステップを刻んでいく上で七大陸最高峰というのは、偶然なんですが、うまくプログラムされているんですよね。」

●そうなんですね。でも、途中で大変な事とかあったんじゃないんですか?

「例えば、滑落したり雪崩にあったりした事もありましたし、最後は資金的な問題もありましたね。色々な困難がある中で、それを乗り越えていくと、自分自身が成長していけるんですよね。でも、それが難しすぎると“成長”じゃなくて“断念”になってしまうんですけどね。
 七大陸最高峰をやる前にマッキンリーって聞くと、『マッキンリーって、植村直己さんが亡くなった場所だから、どこから手をつけたらいいか分からない』となるんですけど、キリマンジャロ・コンカグアと登っていくと、『マッキンリーって標高的には、コンカグアより低いし、雪はあるけど、日本の雪山でちゃんと訓練すればいいな』って感じで、総合的な力は現場の力として必要なんですけれど、要素分解していくと1つずつ潰せてしまうんですね。そういうような考え方をしていくと、うまくステップアップしていくんですね。スキルをパーツとして組み上げていくと、最後にはエベレストに到達しているんですよね。なんか、ロールプレイングゲームみたいですね(笑)」

●そうですね(笑)。うまく出来ているんですね。

登山ブームの今、登山者が減った!?

※山田さん曰く、2009年から2010年にかけて、登山者数が二倍になっているそうですが、そんな登山ブームをどんな風に見ているのでしょうか?

「環境問題という観点でいうと、僕は、日本の山はまだキャパシティがあると思っています。なぜかというと、日本の休みの取り方が偏っていて、それにつられて今の登山人口の割合がすごく偏っているので、“登山ブームで増えている山”と“そんなに増えていない山や減っているような山”という風に二分されているんですね。平日行ったら人がいないんですよ。ほとんど休日に固まっているんですね。なので、環境としては、登山人口が増えている事自体が環境の負荷になるのではなくて、ピークの瞬間最大値が大きくなる事が問題なんですね。

 例えば、屋久島で手付かずのまま残すという事になると、かなり少ない人数で入山制限しなくてはいけなくなるんですが、それが、ある程度インフラを整えて、環境を守っていくとなると、インフラを整えるときに、一万人分のインフラを整えるのと千人分のインフラを整えるとでは、環境への負荷って違ってくるんですよね。簡単なことを言うと、トイレを用意することになったら、一万人分だったら、ものすごい数のトイレを用意して、環境の不可もある程度仕方ないという風になりますけど、千人分だったら、全部降ろすとかバイオトイレを作るなど、色々な対処法があると思うんですよね。

 日本の登山って、瞬間最大値が多くて、少ない時は少ないという、環境にすごく悪い登山の増え方をしているんですね。でも、今年の夏の富士山を見てみたら、それとは逆行していて、“平日が増えて休日が減った”んです。なぜかというと、地震の影響で計画停電があって、皆さんの休暇が平日になったということが増えたからで、結果的に、お盆に集中せずにまんべんなく人が多かったという形になったんです。そうなると現場の人達からは“登山者が減った”という声が出てくるようになったんですね。」

●それはピークが少なくなったからですか?

「そうです。確かに全体的にも減ったんですけど、実際は、平日がある程度増えて、休日が大きく減ったんです。それでもやっぱり休日のほうが多いんですけれど、まんべんなく増えるという形が取られていけば、日本の自然というのはそんなにヤワじゃないので、もっと人を受け入れられるキャパシティはあると思うんですね。だから、登山人口が増えること自体を問題視するというのは、ちょっとポイントがズレているかなと思っていて、環境を守るんだったら、登山人口全体の総数よりも、瞬間最大値をコントロールするということが重要じゃないかと思っています。」

●やり方が大事ということですね。

「そうですね。瞬間最大値をコントロールする方法も、単純に入山制限をかけるというやり方もありますし、入山制限じゃなくて入山料を取るという間接的なやり方によって、当然、需要と供給の関係でコストが上がればお客様の数は減ってくると思うので、そういうやり方で減らすということもありますよね。

 例えば富士山だったら、小屋のキャパシティがあるので、事前に小屋のキャパシティを決めて、『それ以上は予約がなかったら泊まれませんよ』というやり方もあると思うので、やり方については、色々議論していかないといけない問題だと思うんですね。また、まんべんなく登れるような仕組みも、今議論されているような、日本の夏期休暇を地域ごとに分けるといった方法をとることによって、日本の環境を間接的に守っていくという仕組みになっていくと思っています。」

山田淳さん

●登山者の事故というのはどうですか?

「事故に関して言うと、数字を取ってみたら、確率は減ってもいないし、増えてもいないんです。これは、どうしても登山人口が増えてしまうと、確率論なので、事故も増えます。数としては増えるのは当たり前のことなんですが、特にマスコミの方は『初心者が増えたから登山事故が増えた』という書き方をするんですけども、実は、“登山者数分の事故の数”というのは変わっていないんです。なので、人数が増えると、事故が増えるというのは当たり前のことなんですね。
 確かに、それ以上増えていれば、初心者が増えたからとか、中高年が増えたからだという理由になるんですけど、どうしてもある程度の敷居値みたいなのを超えてしまうと、事故が目立ってくるんですよね。それをパーセンテージじゃなくて、数でやっちゃうので、例えば『一日1件しか事故が起きていなかったのが、一日2件になった』となると、急に目立ってくるというところがあるわけなんです。だけど、実際は、登山者が二倍になっているから、それは当たり前ですよね。もちろん、対策はしなきゃいけないんですが、登山者が増えた事が原因というわけではないと思っています。」

●初心者の方でも気をつければ、山での事故は十分に防げるということですね。

「そうですね。山って特殊なところじゃないんですよ。今、山岳業界側が『こういう雨具がないとダメですよ』とか『こういうズボンがないとダメですよ。こういうものじゃないと危ないですよ!』という風に言ってしまっているんですけど、山ってみんなが住んでいるところの延長線上にある場所でしかないんですよね。確かに、すごく高い所に行くとか、山の中で何泊もするということになると、きちんとした装備で行った方がいいですけど、いわゆる、里山という所で遊んだり歩いたりすることに、ものすごくハードルを感じなくてもいいと思うし、今はそこのハードルをちょっと作りすぎているのかなという風に思います。
 もっと気軽に行ってもいいと思うし、今みたいに、東京や大阪、名古屋に人が集中する前は、生活の中に山ってあったはずなんですね。里山があって、子どもがカブトムシを採りに行って、川で遊んでて、土日になると山をフラっと歩くといったことがあったはずなのに、いつのまにか人間が人工のものに囲まれて生活していて、それが安全という風に間違った感覚になってしまっているんですね。

 今って、山の中にいる・自然の中にいるという事が気負わなきゃいけないことになっていますけれど、そもそも人間って生き物であり、自然の中の一部なので、本来は、山の中にいることに違和感があるんじゃなくて、このビルの中にいるっていうことに違和感があるという風に考えなきゃいけないんですよね。それが今では、人口のものに囲まれた生活が当たり前になっているから、山の中に行くことが逆に不自然になっているんですよね。」

●確かに、改めて言われると、おっしゃるとおりだなと思います。

日本の山は行くたびに表情が違う

※ガイドとしてたくさんの登山客を山に案内している山田さんに、オススメの山を教えていただきました。

「一つはやっぱり富士山ですね。これは、日本人なら一度は登ってもらいたいと思います。でも、富士山に関しては賛否両論あります。『あれは見る山で、登る山じゃない』と言う人がいたり、昔のイメージが残っていて、“汚い山だ”というイメージを持っている人もいたりしますし、僕自身も、日本にはもっと自然が豊かな山がいっぱいあると思っているんですけど、僕は元々、標高を重視してエベレストに登っているので、そういう意味では、富士山は日本で一番高い山なので、皆さんに一回は登ってもらいたいなと思いますね。
 登った上で、『富士山こうした方がいいよね』っていう議論をしてもらいたいなと思っています。登ってない人が『富士山って登る山じゃなくて見る山だから』とか『富士山は汚いから』って言っているのを見るとちょっと悲しくなっちゃいますね。あとは、僕の原点でもある屋久島ですね。」

●この番組が放送されているベイエフエムがある千葉でオススメの山はありますか?

「千葉だとノコギリ山ですね。この前、3歳の息子と一緒に行ってきたんですけど、あの標高であれだけの景色が見られるというのはすごいですよね。上の方にある石切り場も、圧巻な景色なので、ノコギリ山はオススメですね。」

●山田さんは世界七大陸最高峰も制覇されて、日本の山も登られていると思うんですが、日本の山の魅力ってどんな所ですか?

「海外の山って、壮大だったり雄大だったり、大きい物がいっぱいあったりするんですけど、日本の山ってすごく繊細で、例えば、上高地だったり、ノコギリ山だったり、筑波山といったようなところでも、今週行くのと来週行くのとでは、姿が全然違っていたりするんですよね。紅葉のシーズンだったり、軽く霜が立っていたりして、山が姿を変えていくんですね。そういう繊細な変わり方って、海外の山ではしないところが多いので、ドンドン変わっていく面白さっていうのがあると思うんですよね。
 それは、日本が四季を持っているという、日本ならではの特色の中で出てくることなんですけど、例えば、キリマンジャロやキナバルは、雨季は雨季でダーッと雨が降っていて、乾季は乾季でずっと乾いているんです。そうすると、雨季の間は植物が伸びてて、乾季の間は残った雨で植物がなんとか育っているといった感じで、そこの間の変化というのももちろんあるんでしょうけど、季節が二つしかないわけですけど、日本の山って、四季の間の変わり方が、ものすごくゆっくりと繊細に変わっていくんですよね。その変わり方って、雨が降っているかどうかだけじゃなくて、温度も日々変わっているんですね。例えば、11月なのに暑い日があったりとか、急に寒くなったりとかして、それによって自然が色々な顔をドンドン見せてくれるというところが日本の山の魅力かなと思いますね。

 だから、屋久島でも、行くたびに違う屋久島が見られるので、何回行っても面白いし、富士山は140回ぐらい登っているので、見尽くしたところがあるんですけど、それでも、『この季節にシャクナゲが咲いているのか』とか、見ていると面白いなと思いますね。」

山田淳さん

●山田さんは今後、どういった活動をする予定ですか?

「僕は、もっと日本の山のよさ、山の魅力というものを多くの人に知ってもらいたいと思っていて、山の事をほとんど知らない人が山に行くようになるには、三つの要素が重要だと思っているんですね。一つ目が“道具”で、二つ目が“キッカケ”、最後が“情報”だと思っているんですね。例えば、道具があるから、富士山は行くんですけど、富士山を登ったあと、次の山どこに行っていいか分からなかったり、どんな山がオススメなのかといった情報がなかったりすると、結局は行けないまま終わってしまったりするんですね。逆に、情報を持っていても、一人で行くのって結構ハードルが高いですよ。お友達から『今週末行ってみようよ』誘われたら行けるだけど、一人となると、ハードルなってしまう。そういうときは、キッカケというのは作っていかなきゃいけないので、この三つをうまく仕掛けていければいいなと思っています。

 そうすると、山に興味がなかった人たちが山に行くようになると思うので、それによって、登山人口がもっともっと増えればいいなと思っていて、最終的には、登山人口が日本の人口の七割くらいになればいいなと思っています。そもそも、日本の国土って七割が山なんですよね。だから、これは当たり前の事だと思っています。」

●確かに、こんなに山に囲まれているのに、登山しないのは、もったいないですよね。

「そうなんですよ。だから、登山業界も、海の業界やサイクリング、ジョギングといった業界と戦う必要はなくて、もっとアクティブな人が増えて、『今週末は東京マラソンだけど、来週すぐだと筋肉痛だから、一週間空けてから、どこか山に行ってみようかな』といった人たちが増えてくればいいなと思っています。」

YUKI'S MONOLOGUE 〜ゆきちゃんのひと言〜

 山田さんもおっしゃっていましたが、山に囲まれて暮らしている私たち日本人は、いつでも山を楽しめる環境にあるんですよね。ぜひ皆さんも、そういった環境を活かして、気軽に山登りを楽しんでみてはいかがでしょうか?
 私も、季節毎に変わる美しい日本の山に近いうちに行きたいと思います!

INFORMATION

山田淳さん情報

株式会社「フィールド&マウンテン」

 登山ガイドの山田淳さんは、「フィールド&マウンテン」という会社を経営し、山を安全に、そして快適に登るお手伝いしています。
 具体的には、雨具やザック、シューズなど山に登るための道具のレンタルや「山歩みち」という冊子の発行、そしてツアーやイベントを主催しています。

 また、12月17日(土)には東京都の高尾山で「山から日本を見てみよう」というイベントが開催されます。

◎詳しい情報:フィールド&マウンテンのオフィシャルサイト

今週のオンエア・ソング

オープニング・テーマ曲
「GRACIAS / LARRY CARLTON」

M1. ワンダーフォーゲル / くるり

M2. SHOUT TO THE TOP / THE STYLE COUNCIL

M3. I WILL GO ANYWHERE / BEN E. KING

M4. SUPERFANTASTIC / MR.BIG

M5. MOTHER NATURE'S SUN / THE BEATLES

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」