2012年2月18日
今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、田中幹也さんです。
冒険家の田中幹也さん、は国内外の登山、それも冬の困難な壁やルートを選んで登る、究極のアルパイン・クライミングを経て、現在は主に厳しい冬のカナダに通い、徒歩や自転車など、人力の旅を続けてらっしゃいます。
今回はそんな田中さんに、カナダの“冒険的な旅”のお話をうかがいます。
※田中さんは国内外での究極のアルパイン・クライミングを経て、現在は厳しい冬のカナダに通い、 徒歩や自転車などでの旅を続けてらっしゃいますが、どうしてカナダを選んだのでしょうか。
「スケールが大きいというのが一番大きい理由ですね。あと、アクセスの面でも、許可とか申請しなくてもいいので、すごく簡単なんですよ。それが主な理由です。」
●今までクライミングや登山をしてきた中で、何か思うところがあって、カナダの旅に変わっていったということってあるんですか?
「クライミングに関しては、20歳台前半のときに、才能の無さを悟ってしまいましたね。」
●それがあって、カナダの旅に移っていったんですね。カナダの旅は15年間行なっているそうですが、カナダでどういった冒険をされているんですか?
「冬のロッキー山脈をひたすら歩いて山を越えたり、山脈をずっと歩いたりしています。あと、ここ数年やっているのが、凍結した大きな湖を、ソリを引きながら、スキーで歩くことですね。途中で、先住民の村に寄ったりして、歩くということをしています。」
●ということは、移動は全て人力なんですね。例えば、自転車を使ったりするんですか?
「自転車でも何回か行っていますね。」
●旅によって、違ってくるとは思いますが、どのぐらいの日数かけて、どのぐらいの距離を移動するんですか?
「毎回違うんですけど、初めてカナダに行ったときは、三ヶ月で7000キロを自転車で移動しましたね。」
●それだけ長い期間の旅の間で、大変だったことや失敗したことってありますか?
「冬のロッキー山脈なんですけど、途中で骨折してしまったんですね。そのときはスキーで移動してたんですけど、実はスキーをやったのはそのときが初めてで、ぶっつけ本番だったんですね。そして、一ヶ月分の食料を担いでたんで、荷物の重さが60キロ近くあったんですね。スタートして二週間目ぐらいに、転倒ではなく過労で骨が折れてしまったんです。」
●その後、どうしたんですか?
「とりあえず食料を捨てて、なんとかハイウェイまで降りて、ヒッチハイクで街まで行きました。でも、その旅が途中で終わってしまったのが悔しかったので、一ヶ月ぐらい街の病院に通院してから、また戻って、残りの区間を歩いていきました(笑)」
●戻ったんですね(笑)。カナダには、一番寒い厳冬期に行くそうですが、それは15年間変わらずなんですか?
「そうですね。」
●何か理由があるんですか?
「自然条件が一番厳しい時期の方がやりがいがあるんですよね。」
●体感温度はどのぐらいなんですか?
「マイナス70〜80度ぐらいですね。」
●よくテレビなどで、バナナが凍って釘が打てるようになるっていうシーンを見るんですけど、あれは何度ぐらいなんですか?
「あれが大体マイナス40度ぐらいですね。」
●ということは、それよりももっと寒いんですね! そのぐらい寒いと、人間の体はどうなってしまうんですか?
「そんなに変化はしないんですが、凍傷になりやすいんですね。でも、凍傷って、最初だけ少し痛いだけで、段々と細胞が死んでしまって感覚がなくなっていくので、凍傷になっていることが分からないんですよね。」
●気がついたら凍傷になっていたということがあるということですね。そのぐらい寒いと、気持ちが弱くなってしまったりしないんですか?
「いや、行く前から弱気になってますね(笑)」
●行ってからじゃないんですね(笑)
「行く前が一番弱気になりますね。余計なことを考えすぎてしまうんですよね。むしろ、スタートしてからの方が精神的に楽ですね。」
●そういうものなんですね。スタートしてからは、マイナス80度の世界でも心は穏やかなんですね。
「そうですね。スタートしてしまうと、気持ちの葛藤がなくなるんですよね。」
●気持ちの葛藤がなくなると、どんな気持ちで旅をするんですか?
「目標が一つだけになるので、頭の中がクリアになりますね。」
●その目標というのは、ゴールに向かうことですね。
「そうですね。」
※厳冬期のカナダを旅する田中さんは、旅をしている間、どんなことを感じてらっしゃるのでしょうか。
「カナダって、雄大な自然が残されている、数少ない場所なんですよね。スケールが本当にすごいんですよ。一ヶ月以上誰とも会わないですし、唯一生き物らしいのが、ごくたまに見る動物の足あとだけだったりするんですよね。」
●他にも、印象的だった自然の風景ってありますか?
「あとは大雪原ですね。日の出と日没のときが印象的で、地平線の彼方から日が昇ってくるように太陽が出てくるんですよね。昼間って辺り一面は真っ白なんですけど、時間が経つにつれて大雪原の色が変わっていくんですよ。紫みたいな色からオレンジ色に変わっていくんですけど、何もないところだから、色の変化がすごくよく分かるんですよね。」
●その大雪原の色が変わっていくのって、お話を聞いただけでも鳥肌が立つぐらい、ステキな風景だなと思ったんですけど、それを実際に見て、どういう風に感じましたか?
「怪我したりとか、毎回アクシデントに見舞われるんですよね。でも、そういった風景を見ると『続けてきてよかったな』っていつも思います。」
●厳冬期の大雪原を旅するというのはどういうものなのか、すごく興味があるんですけど、例えば、トイレや食事はどのようにされているんですか?
「トイレは適当にその辺で済ませますね。」
●寒くないんですか?
「むしろ、東京の朝の通勤時間帯の駅のトイレの方が、待ったりしないといけないので、そっちの方が寒いですね(笑)」
●食事はどうしているんですか?
「食事は全て乾燥食品ですね。」
●それをバックパックに背負って、移動されているんですね。当然、それ以外も旅の期間に必要なものは全部背負っているんですよね。旅の途中で、現地の方との触れ合いってあるんですか?
「結構ありますね。例えば、大雪原を一人で歩いていると、先住民が銃を持ってスノーモービルに乗って狩りをしているんですね。何もないところなので、お互いすごく目立つんですよ。」
●お互い様子をうかがいながら、声をかけたりするんですね。そういう現地の方との触れ合いって、どんな感じなんですか?
「彼らは、話が伝えるのがすごく早いので、村に着くと、僕のことを村の人は既に知っているんですよ。」
●ということは、村に行ったら、現地の人たちがおもてなしをしてくれたりするんですね。そういった感じで、旅先でおもてなしを受けると『お礼とかいいから、旅を楽しんで!』って言われるってことをよくうかがうんですけど、田中さんの場合はどうでしたか?
「そういう感じでしたね。」
●ということは、楽しいこととかも体験されたんですね。
※田中さんは、普段はどんなお仕事をしてらっしゃるのか、お聞きしました。
「都内で、高層ビルの窓拭きの仕事をしています。」
●それは、クライミングなどの経験を生かして、仕事をされているんですか?
「実は、この仕事で使う道具は、クライミングで使う道具と全く同じなんですよ。なので、そっくりそのまま使っています。」
●それは意外でした! 都会での仕事と自然でのアウトドアスポーツって、フィールドが全然違うのに、やっていることは同じというのは、すごく面白いなと思ったんですけど、仕事をやっていて、どうですか?
「都会といっても、ビルの上ってすごく景色がいいんですよ! 今の時期だと、雪をまとった富士山が毎日のように見えますし、仕事が長引いたりすると、夕陽が沈むのがよく見えたりするんですよね。」
●そういった都会の中でも自然を感じることができるんですね。旅となると、資金が必要になってくると思うんですが、この仕事で旅の資金を集めているんですね。
「そうですね。今の会社って、今時珍しくて、休みが取り放題なんですよね(笑)」
●それだと、旅に出やすいですね(笑)。田中さんが次に旅してみたいところはどこですか?
「冬のカナダにはまた行きたいですね。」
●それは、どの辺りで、どういった旅がしたいですか?
「カナダのちょうど真ん中辺りですね。そこは旅行者が一番行かない辺りで、先住民の村が点々とあるようなところです。」
●どんなスタイルで行こうと思っていますか?
「スキーを履いて、ソリに荷物を積んで、それを引っ張っていくという感じですね。」
●これまでの旅を通して、伝えたいことってありますか?
「旅に限らず、何かをやりたいと思ったら、あまり深く考えずに、すぐ行動に移した方がいいなと思います。じっくり考えてると、結局『やっぱり止めた』っていうことになりがちなんですよね。あと、誰かから『止めた方がいい』と言われたら、GOサインだと思っています。」
●“「止めた方がいい」と言われたらGOサイン”ですか。それはなぜですか?
「言葉の裏を返せば、それだけやりがいのあるテーマだということなんですよね。」
●不可能だと思われるからこそ、挑戦することに意味があるんですね。田中さんは、なぜ旅に行くんですか?
「今までは、何をやっても中途半端でパッとしなかったから、『今年こそは!』というような感じですね。」
●周りから「止めた方がいい」と言われても旅に行くのは、何か理由があるんですか?
「これは冒険に限ったことじゃないんですけど、新しいテーマって、最初は大抵反対されるんですよね。それができてしまったことが、“新しいテーマ”だと言われると思うんです。独創性を発揮するのがすごく面白いなと思うんですよね。」
●田中さんは、旅で自分を表現しているということですか?
「それはなんともいえないんですけど、冒険って行動して初めて意味のある世界なんですよね。なので、ある意味では、行為そのもので全てが完結していると思います。発表や表現というのは、オマケみたいなものだと思っています。自分の中で納得するかしないかが全てだと思います。」
インタビューで印象的だったのは、なぜ厳冬期のカナダを冒険のフィールドに選ばれたのかをうかがった時に、田中さんがおっしゃっていた“自然条件が厳しい方がやりがいがある”という言葉です。普通は楽だったり、安全な道を選んでしまいがちですが、厳しさの中にこそやりがいはあるんだと改めて思いました。
田中さんのように厳冬期のカナダを旅するのは、もちろん今の私には無理ですが、これからは楽な道ばかりでなく、少しだけでも厳しい自分にとってやりがいのある道を、時には選んでみたいと思います。
冒険家・田中幹也さんはご自身のホームページに、これまでの旅の記録やエッセイ、写真を掲載されています。どんな旅のスタイルなのか、どんな思いで旅をされているのかが綴られていますので、ぜひご覧ください。
田中幹也さんのお仕事“高層ビルの窓ガラス清掃”などを行なっている(株)スカイブルーサービスでは、外壁の清掃や塗装なども行なっています。
スタッフの多くが、登山などを経験されています。気になる方は、オフィシャルサイトをご覧ください。