2012年5月12日

世界10大トレイルと、庭に建てた“プレゼント”!?

 今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、シェルパ斉藤さんと、その奥様・京子さんです。

シェルパ斉藤さんと京子さん

 今回は、“アウトドア界のおしどり夫婦”のバックパッカー、そして紀行家のシェルパ斉藤さんとその奥様・京子さんが住んでいらっしゃる、八ヶ岳・南山麓の、手作りのログハウスを訪ね、色々とお話をうかがってきました。シェルパさんには世界のトレイルのお話を、一級建築士の京子さんには庭に建設していた、聞いてビックリのあるものについてうかがってきました。あるものとは、一体なんでしょうか?

10年以上かかった世界10大トレイルの旅

※今回の取材は、4月の中旬に行ないました。

●今回のNEC presents ザ・フリントストーンは、八ヶ岳・南山麓にあるシェルパ斉藤さんのご自宅にお邪魔しています。

「ようこそ、こんな遠くまで来てくださって、ありがとうございます。」

●今日はすごく天気がよくて、気持ちがいいですね!

「そうですね。今年は桜の開花がいつもより遅れているので、今、花見に最高の時期になっていますね。」

ログハウス
17年前に自分たちで建てたログハウス。時とともに味わいが・・・。
斉藤さんのインタビューは2階のデッキで。

●今、私たちは、シェルパさんのご自宅の2階にあるデッキのようなところで、お話をうかがっているんですが、目線の先に桜が咲いています。

「この桜って、家を作った17年前に、最初に植えた木がこの桜の木なんですよ。最初は僕の腰ぐらいまでの高さしかなかったのに、今では、2メートルぐらいの高さがあるデッキぐらいまであるんで、『自分も歳を取ったなぁ』って、あの木を見て感じますね(笑)」

●(笑)。この家は、シェルパさんご自身で作られたということにビックリしました。

「当時は『そんなに大したことないですよ』って周りに言ってましたけど、最近になって『よく建てたな』って思うようになりましたね。」

●先ほど、中を見せていただいたんですが、プロの方が作ったんじゃないかと思うぐらい、すごく丁寧に作られていますよね。

「それはしっかり見ていないからだと思います(笑)。しっかり見ると、結構ボロがあるんですよ。でも、プロってお金をもらって建てるから、ちゃんとした家を建てないといけないですが、自分が建てた家って、テントと一緒で、『寝られればいいか』とか『自分の家だから、こんなもんでいいや』って思えるんですよね。だから、こだわるところはすごくこだわるし、手を抜いているところは手を抜いてたりするんですね。」

●さて、シェルパさんは先日、“シェルパ斉藤の世界10大トレイル紀行〜THE WORLD'S BEST 10 TRAILS〜”を出版されました。この本はどういった内容なんですか?

「すごく分かりやすいタイトルじゃないかと思うかもしれませんが、実は、この本のタイトルを“THE WORLD'S BEST 10 TRAILS”にしようと思ってたんですね。でも、今ではサブタイトルのようになっちゃってますけど、内容はタイトルそのもので、世界中で旅してきたトレイルの中でいいトレイルを10本紹介しています。実は、この本って、僕がこれまで出してきた本の中で、最も取材期間が長かった本なんです。」

●どのぐらいの期間がかかったんですか?

「10年以上ですね。僕が出してきた本って、雑誌などで連載してきたものをまとめたものとか、この家を作ったときに書いたものをまとめた本だったりしたんですけど、この本は10年ぐらい前に、『僕は歩く旅が好きなバックパッカー』という原点に戻って、シンプルに“歩く旅をしてみよう”と思ったんです。初めて行く世界に胸をときめかせていた20代の頃の旅をもう一度してみたいという思いから、『世界各地のトレイルを歩いてみよう』と思ったんですね。なぜ10年もかかったのかというと、この旅を仕事にしたくなかったんですよね。」

●元々は、本を出す予定ではなかったんですね。

「いずれ本になるだろうとは思っていたんですけど、それを前提として行きたくなかったんですよ。これを雑誌の連載にしてしまうと、この日までに行かないといけなかったりするんですけど、そうではなくて、自分が『行きたい!』という思いが高まってきて、『よし、行くぞ!』と心から思うようになってから行きたかったし、行っている間は全力になれるんですよね。帰ってきたら、すぐ行くんじゃなくて、また思いを募らせていって、思いが沸点までいったら行くということを繰り返していたので、年に一回ぐらいのペースで行ったんです。それが10大トレイルなので、単純計算で10年以上かかってます。」

●なぜ、トレイルだったんですか?

「僕は歩く旅が好きなんですよね。歩く旅って、一番シンプルなんですよ。なぜなら、寝泊りする道具を背負って、自分の足で歩いて移動するっていうスタイルほどシンプルなものはないと思うんですね。『あまり遠くまで行けないじゃないか』とか『大変じゃないか』って思われるんですが、歩く旅って、最も自由な旅だと思うんですね。
 例えば、車や自転車などで旅をしたら、入っていけないところがでてくるし、車や自転車などが壊れたら動けなくなってしまいますよね。でも、歩きだったら、どこでも行けるんですよね。それに、『これだけしか持っていけない』という、荷物が限られるというのが逆に楽しいんですよね。その状態で色々なところで旅ができる上に、寝泊りも食事も全てできてしまうんですよ。言ってしまえば、人間って、それだけの荷物でどこでも生きていけるんですよね。何万年も前の人間がそういう旅をしてきたんだと思うと、『そのスタイルで世界を見てみたい』と思ったんですよね。世界各地には、歩く旅に適したトレイルがたくさんあるので、『それなら、各大陸のトレイルを歩いてみたい』と思って、アジア・アフリカ・ヨーロッパ・アメリカと、それぞれ行ってきました。」

旅は“出会い”

※先日「シェルパ斉藤の世界10大トレイル紀行〜THE WORLD'S BEST 10 TRAILS〜」という本を出された斉藤さんに、実際に歩いた世界のトレイルにどんな違いがあるのか、お聞きしました。

●たくさんのトレイルを歩いて、色々なトレイルがあったと思いますが、自然環境とかって、トレイル毎に違ったりするんですか?

「そうですね。国もそれぞれで違うように、トレイルも考え方から違うんですよね。大雑把に言えば、ヨーロッパやアメリカのトレイルは“歩く旅を楽しむための道”なんです。自然を楽しむためや、歩く旅を楽しむために作られた道で、それが楽しめたんですけど、ネパールやエチオピアといったところでは“トレイルが全て”なんですね。日本だったら車道と歩道は分かれているけれど、そこでは道路がないところを歩くんです。なので、車が通れないんですよ。仕事の人も、学校に通う人も、僕みたいに遊びの人も、みんなその道を歩くんです。いわゆる“生活の道”なんですね。そこに入り込んでいく感覚もすごく楽しいんですよ。
 それって、恐らくですけど、日本の江戸時代にあった街道ではそうだったんじゃないかなと思うんですよね。飛脚の人がいたり、仕事で移動している人やデート中の人がいたかもしれないじゃないですか。そう考えると、ところどころに旅籠みたいな泊まれるところがあったり、茶屋みたいな休憩できるところがあったりしたと思うんですね。そういう風に、みんなが平等に歩いているっていうのは面白かったですね。なので、自然を楽しむためのトレイルがあれば、生活のためのトレイルがあるんです。なので、旅をたくさん感じられましたね。」

●“旅をたくさん感じられた”ですか。もう少し具体的に教えていただけますか?

「僕にとっての旅って“出会い”なんですね。例えば、日本の道路を歩いていても、車に乗っていたり、都会で歩いている人に声をかけたりしないので、なかなか出会えていないじゃないですか。でも、ヨーロッパやアメリカのトレイルだと、自分と同じように、その道を歩きたくて来ている人がいるので、その人たちと出会うと、『どこから来たの?』とか『どこまで歩くんだ?』といったコミュニケーションが取れるし、ネパールやエチオピアの生活のための道を歩くときは、そこの人たちの生活の中に入っていくので、色々なものが見られるんですね。
 歩く旅のいいところは、すぐに止まることができるんですよ。車や自転車で旅をしていると通りすぎてしまうようなところも、歩いて移動しているとスピードが遅いので、気軽に立ち止まれるし、必ずしもどこまで行かないといけないというものがないんですよね。自分で適当に決めて、そこまで行ったら、泊まれるところやテントが張れるところがあるんですよね。そういう意味で、たくさんの旅があったということですね。」

●自然景観が美しかった場所はどこでしたか?

「これはそれぞれだと思うんですけど、美しいというより、荒々しいという意味ではパタゴニアが一番強烈でしたね。なぜなら、風がすごく強くて、後ろから吹くと、誰か押してるんじゃないかと思うぐらいで、前から吹けば、スキージャンプをしているかのような感じになるぐらい強いんですよ。滝も、風で水が煽られて、下まで行かないんですよ。そういう豪快は自然の中を歩いたときは面白かったですね。
 あと、エチオピアも意外と面白かったですよ。僕が乾季のときに行ったということもあったせいか、非常に乾燥していて、サルも普通にトレイルを歩いているんですよ。向こうのサルって、人間を恐れてないんですよね。縄張り意識もあまりないので、フレンドリーなサルでしたね。
 あと、イギリスのフットパスも面白かったですね。僕はスコットランドに行ったんですけど、歩く旅に対する権利を、国民のために国が保護しているので、人の家でもフットパスが作られているんですね。そこを、自分でゲートを開けて、勝手に入っていくんですよ。」

●「お邪魔しまーす!」って言いながら、入っていっちゃっていいんですか!?

「はい。人の家が道になっているので、自己責任と自己判断で入っていっていいんですよ。それはそれで面白かったですね。」

●ところで、さっきから、庭にカヤぶき屋根の家があるのが見えるんですけど、あれは何ですか?

「ここから見ると、黄色いかまくらに見えると思いますが(笑)、あれは“竪穴式住居”です。縄文時代の遺跡を見ると、『昔の人は、こういう風に生活をしていましたよ』といった感じの見本があったりするんですけど、あれを庭に作ることになって、もう少しでできあがります。中ではたき火とかができますよ。」

●あれを作ったのはシェルパさんなんですか?

「いや、僕はほとんど家にいないですし、いても原稿を書いているので、作ってないですね。そもそも、僕も『あれは何!?』って聞きたいぐらいなんです(笑)」

●(笑)。ということは、奥さんが作っているんですね?

「そうなんですよ。」

ログハウス
2階のデッキから見た景色。
右側の桜の奥に竪穴式住居が見えます。
トッポ
サンポの娘、トッポです。めんこいな〜。

家の庭に竪穴式住居を建てる!?

※ここで、竪穴式住居の中に入っていきます。

竪穴式住居

●屈まないといけないぐらい、入り口は狭いんですけど、中は広いですね!

京子さん「そうでしょ? 中は意外と広いんですよ。でも、ここは外側が車が停まるロータリーになっているので、本来復元されているものより、一回り小さくできているんです。土地の広さから考えて、仕方なく、このぐらいの大きさになったんですけど、座ってみてると、その高さから感じるものってあるじゃないですか。それがすごく落ち着かせてくれるんですね。立っていると、感じにくいんですが、座ると、たき火に近くなって、視線も低くなって、中の広がりを感じることができるんですね。」

●そうですね。真ん中だけ、たき火をするために、一段低くなっているんですが、すごく落ち着きますね。

※近所の遺跡で竪穴式住居にすっかり魅せられてしまった京子さん。材料はすべて近隣で調達。近所を歩き回って、ヒノキの丸太、竹、カヤのある場所を見つけたら、そこの地主さんを探し、許可をとって切り出したそうです。そこにはこんな楽しみもありました。

京子さん「普段だったら絶対に会わないような人に会って『私、竪穴式住居作ってるんですよ! いいですよー!』っていうやりとりがすごく楽しかったです(笑)」

●(笑)。その方々のリアクションはどうでしたか?

京子さん「ビックリしてましたね(笑)。カヤを取るとき、まず、業者じゃないかと聞かれるんですけど、『趣味で作ってるんです』っていえば、快くいただけるんですよね。」

シェルパさん「でも、あまり聞かない趣味だと思いますけどね(笑)」

京子さん「そうかなぁ?」

●これから流行るかもしれないですよね?

シェルパさん「流行るかなぁ?(笑)」

京子さん「流行ると思うけどなぁ(笑)」

●(笑)。今、竪穴式住居の中にいますけど、すごく癒されてます。

シェルパさん「僕、この竪穴式住居がいいなと思ったのは、いつでもたき火ができるんですよね。普通、たき火って、雨が降ったらできないじゃないですか。でも、この中なら、雨の日もたき火ができるんですよね。しかも、風の影響も受けずにたき火ができるんですよ。逆に、たき火で燻されることによって、カヤがよりよくなっていくので、たき火をしないといけないんですよね。
 しかも、この竪穴式住居は縄文式というもので、縄文人もこの家で生活をしていたと思うんですね。今、コンピューターやテレビといった便利なものがある中で、僕たちが今やっていることって、たき火を見ながら話しているじゃないですか。それを、縄文人も同じようなことをしていたんじゃないかと思うと、『人間って、一万年前とそれほど変わんないんだな』って思って、痛快だなって思いますね。」

●シェルパさん、すごく喜んでいますけど、この竪穴式住居には、秘密があるんですよね?

京子さん「そうなんですよ! 思い立ったときには思っていなかったんですけど、途中から、斉藤に『手を一切出さないでください』と言ったんです。なぜなら、夫・斉藤への51歳の誕生日プレゼントとして、この竪穴式住居を作ったつもりなんです。喜んでくれて、すごく嬉しいです。あ、そういえば、この竪穴式住居の名前を紹介していなかったですよね?」

●そうですね。教えてください。

京子さん「庵の“イオ”と、私が大好きな木星の衛星の“イオ”とかけて、“イオ”と名づけたんです。」

シェルパさん「でも、みんな竪穴式住居だから“竪住”って呼んじゃうんですよね(笑)」

京子さん「でも、ここにいて、たき火を囲んでいると、宇宙を感じる気がしませんか? 上の方のどこかに通じている気持ちになるので、宇宙を感じる名前にしようと思って、“イオ”と名づけたんですけど、どうですか? 気に入っていますか?」

シェルパさん「なかなか定着しないかもしれないけど、頑張って定着させるようにします(笑)」

京子さん「みなさんに、イオの中で、たき火をたくさんしていただいて、色々な会話や繋がりが生まれることを期待していますね。」

シェルパ斉藤さん

(この他のシェルパ斉藤さんのインタビューもご覧下さい)

YUKI'S MONOLOGUE 〜ゆきちゃんのひと言〜

 今回、初めてシェルパさんと京子さんのご自宅兼カフェ&ギャラリーにお邪魔をさせていただいたんですが、思わず「ただいま!」と言ってしまいたくなるような、どこか懐かしい雰囲気のある、とっても素敵なところでした。きっとあの場所のあの雰囲気は、シェルパさんと京子さんが、美味しいコーヒーとお料理、そして何より明るい笑顔で、旅人を17年に渡って迎え入れてきたからこそ、作り出せるものなんだと思います。そして、シェルパさんご自身も、安心して帰る場所があるからこそ、充実した旅を送れるのだと感じました。
 ぜひ、みなさんも旅の途中で南山麓に行かれた際には、立ち寄られてみては如何でしょう。ちなみに私のオススメは、特製コーヒーを竪穴式住居(イオ)の中で飲む。これは最高ですよ!!

INFORMATION

シェルパ斉藤さん情報

「シェルパ斉藤の世界10大トレイル紀行 The World's Best 10 Trails」

新刊『シェルパ斉藤の世界10大トレイル紀行
〜The World's Best 10 Trails〜』

 山と渓谷社/定価1,680円
バックパッカー、そして紀行家のシェルパ斉藤さんの新刊となるこの本には、15年かけて歩いてきた世界のトレッキング・コースの中から、ベスト10を選び、旅の体験談ほか、実用情報として具体的なアドバイスも載っています。
斉藤さんがセルフタイマーで撮った、ほんとうに信じられないような素晴らしい写真も多く掲載されています。
シェルパさんのニコッとした笑顔とともに、素敵で雄大な自然景観も楽しんでください。

チーム・シェルパ

カフェ&ギャラリー
カフェ&ギャラリー

 シェルパ斉藤さんの奥様・京子さんは、八ヶ岳・南山麓のご自宅でカフェ&ギャラリー「チーム・シェルパ」を切り盛りされています。特製ベジタブル・カレーとオリジナル・プリンは絶品です!
また、ギャラリーには、シェルパさんが使っていたバーナーやランタンなども置いてあるので、ずーっといても飽きませんよ!

◎営業日:原則、金・土・日・月と祝祭日。

カフェ&ギャラリー
カフェ&ギャラリー

今週のオンエア・ソング

オープニング・テーマ曲
「GRACIAS / LARRY CARLTON」

M1. 緑の町に舞い降りて / 松任谷由実

M2. ONE MORE CUP OF COFFEE / BOB DYLAN

M3. COUNTRY HOUSE / BLUR

M4. TELL ME THERE'S A HEAVEN / CHRIS REA

M5. EYE IN THE SKY / THE ALAN PARSONS PROJECT

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」