2012年5月19日

海の中に広がる魅力的な世界と、復興支援活動“マリンエイド”

 今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、広部俊明さんです。

広部俊明さん

 水中探検家、そして水中カメラマンの「広部俊明(ひろべ・としあき)」さんは、沖縄をメイン・フィールドに活動されています。
 今回は、そんな広部さんに、沖縄で発見した海底鍾乳洞や、復興支援を目的とした「マリンエイド」のお話などうかがいます。

海の中では、三次元に動ける

※まずは、広部さんが水中探検家になったキッカケからお話いただきました。

「沖縄の恩納村で“マリン・ドリーム”というダイビングショップをやっているんですけど、実は、恩納村ってダイビングポイントがあまりなかったんですよ。そこで、その地域にポイントを開発しようと思って、色々なところを潜っていたら、怪しい穴を見つけたんですよね。その後も、久米島で、ヒデさんという方が見つけた“ヒデンチガマ”という大きな海底鍾乳洞があったので、もしかしたらと思って入ってみたら、もっと大きなものを見つけたんですよ。それで、探検をするために、テクニカル・ダイビングをやって、トレーニングもやってきました。そこから、水中探検の魅力に魅せられてしまいましたね。」

●水中探検をするには、普通のダイビングとは違った技術が必要だということに驚いているんですが、その前に、ダイビングを始めたキッカケは何だったんですか?

「僕は元々、夢工場というバンドで活動しているミュージシャンなんですね。今はもう売れなくなってしまったんですが、ファンの方がいらっしゃるので、一泊のファンの集いを、東京と大阪でやることになったんですね。でも、東京のことは知っていたんですが、関西のことは全然知らなかったんですよ。そのときに、大阪にある“ウォーホール”というライブハウスの店長と仲がよかったので、『オススメの場所って、どこかありませんか?』と聞いたら、『いいとこあるで!』といって、紹介してくれたのが、“串本ダイビングパーク”のログハウスだったんです。イベント当日になったら、なぜかその店長も来て、『ここまで来たら、体験ダイビングをせにゃあかんで!』といって、色々とお世話になったこともあったので、僕はお金がなかったんですが、メンバーに半額出してもらって、ダイビングをやりました。楽しかったですね!」

●実は、私もダイビングをするんですけど、初めて潜ったときって、すごく感動しますよね!

「今、人間って三次元の世界で生きているじゃないですか。それが、海の中だとそのまま三次元に動けるんですよね。普通に泳いでいて、前から何かが来たら、上下で避けることができるじゃないですか。『無重力を味わうことができて、こんなにも自由なんだ!』と感じてからは、どんどんハマっていきましたね。一週間後にダイビングCカードを取得して、一年後にはインストラクターになっていました(笑)」

●早いですね(笑)。広部さんの言うとおり、海の中は自由だし、今まで見ていた海面の下には、こんな素晴らしい世界があったということに一番驚きましたね。

「そうですよね。すごいですよね! ほとんどの人って、海の表面しか見ていないじゃないですか。中に入ってみると、もう一つのライフがあるんですよね。なので、ダイビングという一つのスポーツだけじゃなくて、海の中には“スポーツ”もあれば“文化”もあるし、“トレジャー”・“癒し”・“研究”もあるんですよね。だから、海の中には、もう一つの自分の人生があるんですよね。」

●まさに、別世界という感じですよね。

「そうですね。」

海の中は歴史がいっぱい

広部俊明さん

※広部さんが発見した海底鍾乳洞について、もう少し詳しくお話いただきました。

「僕が見つけた海底鍾乳洞は全長680メートルです。名前ですが、久米島にある海底鍾乳洞は、ヒデさんが見つけたから“ヒデンチガマ”と名づけられたように、“ヒロベガマ”と名づけました。」

●場所はどの辺りですか?

「場所ですけど、あそこは危ないので、正確な場所は言えませんが、沖縄県の恩納村です。」

●そのどこかにあるんですね。現在も、ヒロベガマは探検されているんですか?

「そうなんですけど、危ないので、頻繁にはできないんですが、僕は“海からのメッセージ”という番組をやっていて、番組の最後には必ず探検をするんですけど、その中で海底遺跡みたいなものを発見してしまったり、ソロモン諸島やフィリピンといったところでも海底鍾乳洞を発見していますね。」

●それはすごいですね! そんな簡単に発見できるんですか?

「一回見つけると、なんとなく分かるんですよ。大きなものはそんなに見つけていないですが、地形を見て、最初に見つけた海底鍾乳洞と同じようなところがあると『ここ、絶対鍾乳石あるな』と思うんですよ。そうすると、実際にあるんですよね。」

●1998年にヒロベガマを発見してから、今までずっと調査されていますが、これまでどんなことが分かってきているんですか?

「逆に、長澤さんに質問しますが、海底に鍾乳洞があるということはどういうことですか?」

●鍾乳洞って、陸上にあるものだと思っていたんです。

「その通りなんです。だから、水深30メートルのところが、昔は陸だったという証拠なんです。昔の人って、屋根と水がある洞窟に住んでいたんですよね。なので、そういうところを探すと、もしかしたら昔の人類の軌跡が見つかるかもしれないんですよ。僕は見つけていないんですが、現にフランスで、 海底鍾乳洞に入っていったら、壁画が見つかったんですよね。」

●テレビとかで、水中遺跡が発見されるのを見たりするんですけど、日本でも、沖縄県の恩納村には、そういうところがあるかもしれないということですね。

「そうですね。海の中には、人間が残してきたすばらしい歴史の記録が、色々と残っているんですよね。新しいものでいうと、太平洋戦争のときに沈んだ船たちがあちこちにあるんですよ。昔は潜れなかったので、調査するのはすごく大変だったんですが、ミクロネシアのチュークやグアム、サイパン、ラバウルといったところには零戦などが眠っていたりして、その中には兵隊の方が残したものがあったりするんですよね。なので、色々なところにまだまだ眠っていると思います。
 もっと古い話をすると、江戸城を作る際、石垣の石を伊豆の石橋というところにある石を切り取ってきていたんですよ。それを江戸城まで運ぶときに船を使っていたんですけど、途中で船が沈んでしまったりして、石とかが落ちているんですよ。」

●そういった話を聞くと、陸と海って繋がっているんだなって思うんですよね。

「人間って、生活をしていくために文化が発展していって、色々なものを壊してきたじゃないですか。でも、海の中って、人間の手がまだあまり入っていないので、そういうことがないんですよ。なので、保存がしっかりされているんですよね。」

●もう陸では見られなくなった過去を、海の中で見ることができるということですね。

「そうですね。あと、まだ名前が付いていない魚がいっぱいいるんですよ。それと、洞窟の中にも、まだ誰も見たことがない生物がたくさんいますね。深いところに行けば、釣りや網では獲れない小さい生物で、見たことがない生物がたくさんいます。なので、海の中って、まだまだ神秘の世界なんですよ。」

●私たちが知らないことがまだまだたくさんありますね。

「でも、その状態から少しずつ分かっていく方がロマンがあっていいじゃないですか。」

子供たちに“海は素晴らしい”ということを伝えたい

※最後に今年4月に行なった復興支援を目的とした“マリンエイド”について話していただきました。

「昨年発生した東日本大震災で、原発問題とか色々と言われていますが、一番多くの命を奪ったのは津波なんですよ。海なんですよ。でも、僕らのように海を愛している人や、海を生業にしている人は、海がないと生きていけないじゃないですか。昔、“ジョーズ”という映画があって、それを見た当時の子供たちは、大人になってからも、海で泳いでいるときや、深いプールでもジョーズが出てきそうな錯覚に陥るんですね。なので、ちょっとしたトラウマになっちゃってるんですよね。

 今回は、津波の映像がニュースやインターネットなどで何度も流れたじゃないですか。だから、今の子供たちが大人になったら、津波の映像が浮かんできて、海に行きたくなくなってしまうんじゃないかと思うんですね。なので、僕らは色々なイベントを通して、“海は素晴らしい!”ということを伝えていきながら、イベントなどでの売上金を、海によって犠牲になってしまった方々に少しでも支援していきたいなと思って、“マリンエイド”を立ち上げました。」

●具体的には、どういった団体に支援をされているんですか?

「今回は最初なので、『ちゃんと記録として残さないと』ということで、三陸の方で瓦礫の撤去などのボランティア活動をしている“三陸ボランティアダイバーズ”という団体と、宮城県石巻市に小渕浜というところがあるんですけど、そこの壊れた民宿や漁師の支援をしている“小渕浜ふるさとプロジェクト”という団体、それと、南三陸町でダイビングをやっていた、僕らの仲間でもある佐藤長明さんのお店“グラントスカルピン”、そして、様々なところへ支援できるように、日本赤十字社という4つの団体に寄付します。」

●私もマリンエイドに参加させていただいて、佐藤長明さんの写真のスライドショーで、南三陸の海の中の写真を見させていただいたんですけど、地震発生時は変わってしまっていたんですが、その海が着実に元に戻ってきていると感じました。

「そうなんですよ。“グラントスカルピン”というのは、クチバシカジカという珍しくて、佐藤さんを象徴するような魚のことで、彼が一番喜んでいたのが、“クチバシカジカの成魚が見つかった”ことなんですね。幼魚って、色々なところから回ってくるので、見つかることがあるんですけど、成魚がいるということは、津波が発生する前からいた幼魚が生き残っていたということなので、『クチバシカジカ、頑張っていてくれた!』という思いなんですよね。今こうしてこのことを話しているだけで鳥肌が立っちゃってます。」

広部俊明さん

●佐藤さんは被災地の海に行こうにも、規制されていたこともあって、なかなか行けなかったのが、昨年6月にようやく入れたんですが、最初の頃は様子も変わっていたのにも関わらず、生き物たちは生きていて、海も復活しつつあるんですよね。

「さらに、魚たちが繁殖活動を始めていて、小さな卵を必死に守っているんですよね。そういうことを聞くと、嬉しいですよね。海の力ってすごくて、被災した地域の海がどんどんと回復してきているんですよ。もしかしたら、人間の心の方が、まだ復活してきていないかもしれないですね。そういう意味も込めて、“マリンエイド”というイベントを立ち上げたんですよね。」

●海が元気になってくれれば、そこを生業としている漁師さんたちが元気になって、次第に村も元気になるのかなって思いました。

「その通りだと思います。僕は昔から言っていることがあって、“偽善者でいいじゃないか”ということなんですね。何もしないで『偽善者だ!』と言っている人より100倍もいいんですよね。支援をすることで、復興のために頑張っている人たちが喜んでいるのを見たら嬉しいんですよ。その“嬉しい”と思う気持ちが報酬なのかと思いますね。」

YUKI'S MONOLOGUE 〜ゆきちゃんのひと言〜

 私たちの知らない世界が、まだまだたくさん残されている海。しかし、広部さんがおっしゃるように、そのすべてを知ろうとするのではなく、少しずつ分かっていくことで、また新たな夢が生まれたり、さらに海が好きになっていくのだと思いました。
 そして、そんな海をキッカケに、また多くの方が笑顔を取り戻してもらえることを、私も心から願っています。

INFORMATION

広部俊明さん情報

『マリンエイド』

 水中探検家・広部俊明さんが代表を務め、復興支援を行なうことを目的とした「マリンエイド」が、4月14日に赤坂ブリッツで開催されました。
ミュージシャンでもある広部さんのライヴや、水中写真のスライドショー、写真家・中村征夫さんのトークショーなど、盛りだくさんの内容で行なわれました。このときの入場料は全額、復興支援のために寄付されることになっています。
マリンエイドに協力したい、自分も活動したいと思った方はマリンエイドのオフィシャル・サイトをご覧ください。


ブログ

 広部さんはブログをやっています。広部さんの近況はもちろん、沖縄の海で撮った可愛い魚や生き物の写真もたくさん載っています。気になった方は是非ともご覧ください。

今週のオンエア・ソング

オープニング・テーマ曲
「GRACIAS / LARRY CARLTON」

M1. ALOHA / 平井大

M2. 時間旅行 / DREAMS COME TRUE

M3. ナポレオンフィッシュと泳ぐ日 / 佐野元春

M4. SYMPHONY IN BLUE / KATE BUSH

M5. YELLOW SUBMARINE / THE BEATLES

M6. I WON'T GIVE UP / JASON MRAZ

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」