2012年11月3日

地球の素晴らしさを感じられる“四大花園”

 今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、野村哲也さんです。

野村哲也さん

 “地球の息吹”をテーマに世界の辺境で撮影を続けてらっしゃる写真家の野村哲也さんは新刊「世界の四大花園を行く」を出されました。この新刊は、日本ではまったくといっていいほど知られていない奇跡のような花園や、珍しい花々が満載です。そんな野村さんがすっかり魅せられてしまった世界の花園について熱く語っていただきます。

砂漠が花園に!?

●今回のゲストは、先日、新刊「世界の四大花園を行く―砂漠が生み出す奇跡―」を出版された写真家の野村哲也さんです。ご無沙汰しています。

「ご無沙汰しています。」

●早速ですが、今回の著書のタイトルにもなっている“四大花園”ですが、これはどこにあるんですか?

「“四大花園”はペルー・チリ・オーストラリア・南アフリカにあります。」

●今回、初めて“四大花園”のことを聞いたんですが、これは野村さんが決めたものなんですか?

「そうですね。今まで八十五カ国ほど取材で行っているんですが、色々な花園があるんですね。例えば、日本だと、北岳や白山といったところが有名ですし、世界にも素敵な花園がたくさんあるんですが、その中でも360度見渡す限りの花園に包まれる場所があるんですね。その花園を僕は世界で四つしか知らないので、その四つが今回の本の舞台となった花園です。
 なぜ、360度見渡す限りの花園に包まれるのかというと、この花園は砂漠の中に咲く花なんですね。この砂漠はあまり起伏がないんですけど、そこがある時期に全面花園になるんですよ。なので、四大花園の定義は誰もしていないと思います。『僕が世界中の花園で厳選するならここだ!』ということで、“四大花園”としました。」

●ベスト4ということですね。今回の本を読ませていただいたんですが、写真の花園がすごくキレイで、「え!? ここ砂漠!?」って思ってしまうぐらい、色とりどりの花が辺り一面に広がっているんですよね。砂漠に花がこんなにも咲くんですね。

「普通は咲かないんですが、ペルーの場合はそこに海から霧が発生するので、水分が砂漠に落ちます。他の場所は、冬に少しだけ雨が降るので、その水分によって花が咲きます。」

●砂漠じゃあ地面から水分を得ることができないですからね。ということは、自然の条件として奇跡的なことなんですね。

「本当そうだと思います! なぜ砂漠ができるのかというと、大昔からその現象は続いてきてるんですよね。だから、地中には種があるんですよ。種がなければ、どれだけ雨が降っても芽は出てこないですよね。なので、ペルーでいうと、インカの時代だった500年〜600年ぐらい前は草原だったんじゃないかと思います。スペイン人の書いた日記みたいなものに記載されているんですけど、そこから現代の間でそこが砂漠化していったんですが、海から出てきている霧によって、植物たちが命を繋げてきたんだと思います。」

野村哲也さん

●そうやって砂漠になってしまっても、花は咲くってすごいことですよね!

「すごいです! 僕が大好きな言葉で“シードバンク”というものがあるんです。直訳してしまうと、“種の銀行”となってしまって、ダサく聞こえてしまいますが、土の中の一平方メートルの中の種子の埋土量を表した言葉なんですね。そのシードバンクが多ければ多いほど、その土地は豊かであるということなんです。
 また、その種は、自分が発芽するのにベストな気候になるまで、ひたすら待つんですね。その種は10年〜15年ぐらい待つことができるんですね。なので、その間で自分にとってベストなときに芽を出して花を咲かせるんです。これって、人の人生と被るようなところがあるなと思いますね。
 ただ、咲くと思われる季節は大体決まっています。この四大花園は全て南半球の国なので、春先にあたる8月の下旬から9月の中旬ごろが、花が咲く年であれば咲くという感じですね。」

●それは四つ全て同じぐらいの時期なんですか?

「そうとは限らないんですよね。なぜなら、ペルーは南緯十度なんですけど、他は南緯三十度なんですね。なので、南アフリカでいえばナマクアランド周辺、オーストラリアはパース周辺、南米大陸の方であればアタカマ砂漠といったところが気候などが似ているので、そこに花が咲くんですね。
 そこで、僕がもし宇宙飛行士だったり、神様として宇宙から地球を見ることができたら、その時期の南緯三十度上に “花の輪っか”を見ることができるんじゃないかって思ってるんですよね。厳密に言えば、海があるので、それは不可能なんですが、その“花の輪っか”が地球の冠として被せられてるんじゃないかと思うと、『なんて素敵なことなんだろう』って思うんですよね。特に、僕は今南アフリカに住んでいるんですが、南アフリカの花園は六百キロメートルあるんですよ!」

●六百キロメートルですか!?

「新幹線で言うと、東京-岡山間なんですよ。その間が全て花だと思ってください。現地では車で移動するので、新幹線に窓が開くと考えてもらうと、その間、凝縮された花の香りがたくさん入ってくるんですよ! それぞれの場所で花の種類が変わってくるので、当然花の香りも変わってきます。もし、これ以上の花園があるとしたら、是非教えてほしいですね。その花園を見に行ってみたいですね。多分、南アフリカの花園は世界最長の花園なんじゃないかと思いますね。」

●神様からの贈り物みたいですね。

「現地では“Garden of Gods(神々の庭)”と呼ばれているんです。」

自然が創る“リースフラワー”

●先ほど、砂漠にはたくさんの花が咲くと話していただきましたが、具体的にはどんな花が咲くんですか?

「それぞれの砂漠に咲く花は、ほとんど固有種です。なので、そこでしか見ることができない花ばかりが咲きます。例えば、ペルーだと、ナスやジャガイモ、トウモロコシなどのナス科の植物の原産国なので、花もジャガイモの花などが辺り一帯に咲きますし、南アフリカではオレンジ色をしたデイジーが何百キロメートルと広がります。オーストラリアは“クサトベラ科”という、初めて聞くような種類の花でできたリースフラワーが咲きますし、チリでは“ガラ・デ・レオン”という、アルストロメリア属のブーケみたいな花があるんですが、この花は、幻の花を追い続けてる人たちから“世界で最も美しい花”だと言われています。『エーデルワイスなんて目じゃない!』とまで言い切ってますね(笑)。もちろんエーデルワイスも美しいですが、確かにこの花は不思議な形をした花なので、僕も一目惚れしていましました。」

●どんな色をしているんですか?

「真紅ですね。真紅のボールみたいな形をしていて、中に花が何十個も入っているので、まさにブーケみたいな形をした花が砂漠から芽を出して咲いている感じなんですね。あと、“ヤマモガシ科”という、それぞれの花園で共通して咲いている種類があるんですね。南アフリカではプロテアという花がその種類で、オーストラリアではバンクシアという花が、南アメリカではノトロという花がヤマモガシ科の花になります。

『なぜ、それぞれの花園で同じ科の花があるのか?』ということを調べた人がいて、その結果を知ってる人から聞いたんですが、昔は全ての大陸が一つになっていて、時が経つにつれ分裂していったという“ゴンドワナ大陸説”があるんですが、そのころからあった種類で、大陸が分裂してからも命を繋いできたんじゃないかと考えられるそうなんですね。ということは、このヤマモガシ科は、ゴンドワナ大陸説の生き証人として、そのことを教えてくれていると思います。」

野村哲也さん

●この本の中に出てくる花で一つすごく気になるものがあって、それは、先ほども話に出てきた“リースフラワー”なんですね。クリスマスリースのような形をしていて、真ん中が緑で、ピンクの花が周りに咲いているんですけど、すごくキレイですよね。

「本当キレイですよね! あの花を色々な方に見てもらうと、『野村さんが作ったんですか?』って聞かれるんですけど、そうじゃなくて、自然にああいう形になったんですよね。僕もあの花は好きなので、何度も見にいったんですが、あるとき、リース状ではなく、リースの上が内側に凹んでいたんですね。まさしく、ハート型のリースフラワーなんですね! それを見たとき、僕は思わず絶叫してしまいましたね!『なんて自然ってすごいんだろう!』って思いましたね。誰にも見られることなく、キレイなハート型に咲いていることに衝撃を受けたことを今でもハッキリと覚えています。」

●それって、そこで見るからキレイなんですよね。

「そうなんですよね。今、盗掘問題が深刻で、現地の方たちも頭を悩ませている状態なんですけど、四大花園はもちろんのこと、こういったワイルドフラワーは、行けば必ず見られるというものはないんですね。人の縁のように、その場に行ってみて、自分と縁のあった花と出会えたり、地元の人から花の情報を聞きながら花を探す楽しさ、そして出会ったときの感動など、花の美しさはさることながら、見つけるためのプロセスが、宝探しをしているみたいで、すごく楽しいですね。そして、花もキレイなんですが、その後ろに広がっている自然がすごく美しいんですよね。美しい砂漠の中に美しい花が咲くんですよね。」

酔うほど素晴らしい花園

※今後はどんな写真を撮っていくのでしょうか?

「今、南アフリカに住んでいることもあって、南アフリカ中の見事な花園を、来年も再来年もじっくりと取材していきたいなと思います。花があまりにも蛍光色すぎて、“花酔い”という言葉を南アフリカで聞きました。どういうことかというと、花の光に打たれてしまって、酩酊状態になることなんですね。『これは僕だけがなるのかな?』って思っていたら、友人たちを連れて南アフリカの花園に行ったら、十五人中十五人花酔いしました(笑)。みんな『ふわふわするんだけど』って言うんですよね。それだけ、花の光が強烈すぎるんでしょうね。ある人は『雪目ならぬ“花目”だね』って言ったり、70歳を越えた方が『自分の人生はあと少しだけど、まだ生きているのに極楽浄土を見た気分だよ』と言ってくれたりと、人それぞれのリアクションがあって面白かったですね。」

●野村さんはそこに住んでるんですよね。

「そうですね。南アフリカは本当に素晴らしい国なんですよ! 国土は日本の約3.4倍あるんですけど、アフリカ大陸なのに、最南端にはロンドンがあるイメージなんですよね。僕は今、すごく気に入っていて、もう少し長く住みたいなと思っています。最南端にあるケープタウンは、治安はいいですし、観光地化もされていて、色々な動物も見ることができます。そして、ケープタウンから五〜六百キロメートル先にあるスプリングボックというところまで花道が続いているので、非常にオススメですね。」

野村哲也さん

●この本を読んで、実物を見てみたいなって思いました。

「こういうものって、写真ではなかなか伝えきれないと思っているんですよね。今回の本のコンセプトは“この本を持っていって、簡単に見られるようにすること”なんですね。なので、花の場所の地図などを細かく盛り込んでいるので、もちろんツアーで行ってもいいですし、自分だけで行ってもいいんじゃないかなと思います。この本に掲載している写真は、“僕が出会った花たち”なので、みなさんが行けば、それぞれで素晴らしい花に出会えると思います。 そして、四大花園は、『地球はこんなにも美しいのか!』と思うぐらい、圧巻の風景なんですよね。その美しさに涙を流し続けた人もいたので、地球の美しさを、頭ではなく全身で感じられる場所の一つじゃないかと思いますね。」


(この他の野村哲也さんのインタビューもご覧下さい)

YUKI'S MONOLOGUE 〜ゆきちゃんのひと言〜

 まず、砂漠に花が咲くということに驚きました。しかも、ほぼ360度見渡す限りの花園。そこに立つと、どんな気持ちになるんでしょうね。そして、お話の中にも出てきたリースフラワーですが、本当に誰かが作ったように可愛らしく、美しいです。ぜひ、野村さんの著書でご覧になって下さい。

INFORMATION

世界の四大花園を行く―砂漠が生み出す奇跡―

新刊『世界の四大花園を行く
 ―砂漠が生み出す奇跡―

 中央公論新社/定価1,050円

 写真家・野村哲也さんのこの新刊には、タイトル通り、世界の奇跡のような花園を訪れたときの紀行文が、豊富な写真と共に掲載されています。人が作ったんじゃないのと疑いたくなるリースフラワーや、ブーケのような花の写真といったような写真がたくさん掲載されています。

オフィシャル・ホームページ

 野村さんの近況など、詳しい情報はオフィシャル・ホームページをご覧ください。世界85カ国を訪れたときの旅の記録や写真が満載です。

今週のオンエア・ソング

オープニング・テーマ曲
「GRACIAS / LARRY CARLTON」

M1. LIFE IS A FLOWER / ACE OF BASE

M2. THE SUN THE TREES / RUSSIAN RED

M3. 砂漠の花 / SPITZ

M4. WILDFLOWER / SHERYL CROW

M5. HEAVEN IS A PLACE ON EARTH / BELINDA CARLISLE

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」