2013年3月9日

東北海岸トレイル700キロを歩いて思うこと

 今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、後藤駿介さんです。

後藤駿介さん

 環境省が検討中の、東日本大震災で被災した6つの自然公園を再編し、新たに“三陸復興国立公園”を作る計画の目玉“東北海岸トレイル”。これは、青森県八戸市の蕪島から福島県相馬市の松川浦までを結ぶ、約700キロのロングトレイル。ちなみに東北海岸トレイルは仮の名前で、今月中旬には一般公募した中から正式な愛称が決まることになっています。今回のゲスト、早稲田大学3年生の後藤駿介さんは、そんなロングトレイルの、たった一人の現地調査スタッフに採用され、現在、授業や試験の合間にトレイルを歩き、地元の方たちと交流を持ちながら調査されています。今回はそんな後藤さんにお話をうかがいます。

これ、俺にしかできねぇな

●今週のゲストは、東北海岸トレイルの現地調査スタッフとして、一人で700キロを歩いて調査している、早稲田大学3年生の後藤駿介さんです。よろしくお願いします。

「よろしくお願いします!」

●東北海岸トレイルは、この番組でもゲストの方にお話をうかがったことがあるのですが、このトレイルをたった一人で調査をされているということですが、まず、その調査の目的を教えていただけますか?

「俺が一人で歩いて、東北に残っている街の魅力や津波の被害の後でも頑張っている方々の様子、今も残っている津波被害の後の問題などを日記に上げて、色々な人に見てもらうということを目的にやっています。」

●東北に行きたくてもなかなか行くことができない人がいたりして、現状がどうなっているのか、報道はされていたとしても、生の声はなかなか届かないですよね。

「そうなんですよね。歩くことによって、色々な人に出会うじゃないですか。そういった人たちの生の声を聞くと、ニュースだけじゃ分からないことがたくさんあるんですよ。そういうところを俺が届けないといけないなと、歩く度に思いますね。」

●後藤さんが調査に参加しようと思ったキッカケは何だったんですか?

「震災があった2011年の6月に、瓦礫撤去のボランティアで宮城県の気仙沼に行ったんですけど、それから東北に行けてなくて、『東北大丈夫かな?』って思っていたときに、今回の話を聞いて、『これ、俺にしかできねぇな』って思ったんですよね。」

●なんでそう思ったんですか?

「ひたすら歩くことになるんで、持久力の面でもそうですし、お年寄りの方が好きなので、どんどん話しかけていくんですよ。そういった面を生かせる俺しかいないなと思って、やろうと思ったんですよね。」

●確かに、今日初めてお会いしたんですが、すごくフレンドリーで、私もすごく話しやすいです(笑)。後藤さんは、前からアウトドアをやったり、歩くことに対して自信があったんですか?

「いや、アウトドアは一度もやったことなく、テントの建て方すら知らなかったんですけど、『できるだろ』って、自信だけはありましたね(笑)」

●それも若さからくる自信なんでしょうね(笑)。そういうパワーがあるから、今回の目的に向かっているんですね。

「“今やんなきゃ、いつやるんだよ”っていう想いで、申し込みましたね。」

●多数の応募の中から選ばれたわけですが、何か選考みたいなものはあったんですか?

「あったんでしょうかね? よく分からないんですが、多分、募集をかける前から『やりたいです!』って言い続けたから、選ばれたんじゃないでしょうか。あと、11月の中旬に面接があったんですけど、そのときに半ズボンで行ったんですよ。それを見て『こいつ、寒さに強いな』と思われたのもあるんじゃないでしょうかね(笑)。そこが俺のアピールポイントになったんじゃないかと思ってます(笑)」

●いや、多分、環境省の方は、後藤さんのみなぎるやる気と自信を買ったんだと思いますよ(笑)。実際に選ばれて、自分が調査に行くと決まったときは、どういう気持ちでしたか?

「俺って、ただの大学生じゃないですか。その大学生に何ができるんだろうって思っても、そんなに大したことはできないと思うんですが、今できることをどんどんやっていって、歩いている途中で自分自身が成長できればいいなと思っています。」

温かい東北の人たち

●実際の調査なんですが、どこからスタートして、どこがゴールなんですか?

「青森県八戸市にある蕪島神社からスタートして、福島県の相馬市がゴールとなっています。」

●県としては、どこを通るんですか?

「上から青森、岩手、宮城、福島となりますね。」

●4県700キロをたった一人で歩いて調査しているんですね。

「そうですね。現時点で、まだ3県しか歩いてないですけど、それぞれの県で、雰囲気とかが違う感じがするんですよね。だから、調査しててすごく面白いですね。」

●どんな違いがあるんですか?

「人の雰囲気や感じがちょっと違うんですよね。言葉では表現しづらいんですが、宮城にいても『この人岩手っぽい』って思ったりして、微妙な差を感じるようになりましたね(笑)。方言も、それぞれの県で違うじゃないですか。それにどんどんと感化されてきているんですよね。岩手なら語尾に“○○っけ”って言って、宮城なら“○○っちゃ”って言うんですけど、俺もメールを送るときとかに気づいたら使ってるんですよね(笑)」

●(笑)。それだけ、それぞれの土地に溶け込んでいるんですね。一人で歩いて調査しているということですが、自分の荷物はバックパックに入れて背負っているんですよね。寝るときはテントを張ったりしているんですか?

「3分の1ぐらいがテントで、残りは民宿や、現地で知り合った人に泊めてもらったりしてますね。」

●泊めてもらったりしていると、現地の方との交流があると思いますが、どうですか?

「親近感がすごく沸きますね。まだ終わってませんが、調査が終わっても、もう一度会いたいと思える人たちばかりなんで、今から改めてこのトレイルを歩くと決めてます!」

●まだ終わってないけど、もう一回行きたいぐらいなんですね!

「もう一回行きたいし、その人たちのためにも、もっと頑張らないといけないなって思いますね。昨日の話なんですけど、一昨日、歩いていてたまたま知り合った方に『俺がこの街を紹介してやる』っていって、その街の色々な人に俺を紹介してくれたんですけど、そのときに知り合った漁師の方から『明日、ホタテの水揚げをやるけど、来るか?』って誘ってくれて、昨日、朝4時に起きて、ホタテの水揚げをしてきました(笑)」

後藤駿介さん

●(笑)。どこでやったんですか?

「宮城県の石巻市の雄勝町ですね。そこで朝4時からホタテを揚げて、付いたクラゲなどをひたすら取るという作業をやってたんですけど、そのお手伝いの給料としてホタテを40個ぐらいいただきました(笑)」

●現物支給ですか! いいですね(笑)。食べましたか?

「はい! あっちのホタテはすごく美味しいですよ! こっちで見るホタテより大きいんですよ。」

●大きさにすると直径10センチぐらいですか?

「そのぐらいですね。すごくプリップリしてるんですよ!」

●そういった東北の豊かな自然の恵みもたくさんいただいたんですね。

「いただきましたね。あと、岩手県の久慈市の漁村を歩いていたら、漁師の方に出会って、『今からタコ漁に行くけど、付いてくるか?』って誘ってくれて、タコ漁に付いていきました。『手伝ってくれたお礼に、うちに泊まっていけ』って、その漁師さんの家に泊めさせていただきました。そういった色々な出会いがありますね。」

いつか必ず復活する!

※後藤さんは、明るいキャラクターもあって、地元の漁師さんに声をかけられ、一緒に漁に行ったり、お宅に泊めてもらったりすることもあるそうですが、やはり震災当日の生々しい話をお聞きすることもあるといいます。

「当時、石巻市に津波がきたとき、どれだけ辛かったかとか、どういう風にして逃げたかといったような話を聞くと、『こんなにも津波の被害って酷かったんだ』って思うし、歩いていても、場所によっては、街全体が津波に流されて、瓦礫も撤去されてしまって、更地みたいになっている場所を見たりするんですよ。そういうところを歩いていると、2年経ったとはいえ、まだ復興までには時間がかかるだろうなと思いましたね。」

●石巻市以外で、そういったことを感じた場所やお話ってありますか?

「岩手県の大船渡市など、復興商店街で飯を食べにいったりするんですけど、そこで防潮堤を作るかどうかの問題や嵩上げの問題といった話を色々な人がしてくれますし、岩手県の山田町にある仮設住宅に住んでいる方とご飯を食べる機会があって、そのときに『津波がくる前は、正月になると、30人ぐらい泊めたのになぁ』とか、『昔、北海道を一人で旅したんだけど、そのときの写真が津波で流されたな』っていう話を聞いて、『なんで、こんなにもいい人たちが、辛い思いをしないといけないんだろうな。俺をよくしてくれたからこそ、何かしてあげたいな』って思うし、このトレイルを歩いていると、“東北のために何かしたい”って思うようになりましたね。」

●東北海岸トレイルを歩いていて、自然の美しさを感じることはありましたか?

「俺は海岸線沿いをずっと歩いているんですが、東北の海岸には、人が作ったんじゃないかと思うような、昔に隆起してできた珍しい岩がいっぱいあるんですけど、そういう風景が残っていたり、海が沖縄よりもエメラルドグリーンで透き通ってるんじゃないかと思うぐらいキレイですし、山の中を歩いていると気持ちいいぐらい、空気がキレイなんですよね。」

●その場所はどのあたりなんですか?

「どこもそうなんですけど、特に岩手県の宮古市の浄土ヶ浜付近は、そういう岩がたくさん残ってましたね。」

●ニュースなどで、津波の影響で海岸の様子が変わってしまった映像を見たんですが、実際に歩いてみて、どう感じていますか?

「地震のあとに地盤沈下してしまったから、昔は海水浴場で使われていた場所も、砂浜がすごく縮んだせいで海水浴ができなくなっていたり、岩手県の陸前高田市の海水浴場の後ろには防潮林として、松林があるところがいっぱいあったんですけど、それも津波によって流れたりしたんですね。その美しい姿を取り戻すには、まだ時間がかかるんだろうなと思いますが、あの海のキレイさを見ると、『いつか必ず復活するでしょ!』って思いますね。」

復興は日本全体の問題

●もうすぐゴールなんですよね? 今の心境はどうですか?

「もうすぐ終わるのかという寂しい気持ちと、『まだ何かできるんじゃないか。まだ頑張らないといけない』という張り切った気持ちがありますね。」

●残り何キロぐらい残っているんですか?

「200キロは残っていないと思います。180キロぐらいじゃないでしょうか。」

●残された時間で、“これだけはしておきたい”っていうことはありますか?

「北から南に行くにつれて、津波の被害の度合いが大きくなってきているんですけど、それを感じるところを今歩いているんですね。それによって、“これは東北だけじゃなく、日本全体の問題じゃないか”って、最近思ってるんですよね。なぜなら、気仙沼や石巻市の市街地といった、人がたくさん住んでいたり、会社がたくさんあるところは復興しそうなんですが、津波で街全体が流されたようなところや、地元の漁師さんはいるけど、お店があまりないところは、復興にかなり時間がかかりそうなんですね。そういうところって、日本全体の問題だと思うんですね。
 山や海などがたくさんあるっていうのが日本のよさだと思うんですね。そのよさを見過ごすと、今以上の危機的状況になるんじゃないかと思うので、そういう状況を目の当たりにしている今だからこそ、何か考えて、発信していきたいと思います。」

後藤駿介さん

YUKI'S MONOLOGUE 〜ゆきちゃんのひと言〜

 インタビューにもありましたがトレイルを歩くうちに“東北の人のために何かしたい”という気持ちがどんどん強くなっていると話してくださった後藤さん。実は「いつか東北に住みたい!」という気持ちが芽生えたということもお話して下さいました。震災から2年が経ち、私自身、もちろん被災地のことを忘れてしまったわけではありませんが、震災直後に比べると、被災地の方のことを考える時間は少なくなっていたように感じます。そんな中で、後藤さんの熱い気持ちをうかがって、私もまた新たに復興支援について考え、出来ることをしなければいけないと思いました。

INFORMATION

「トレイルウォーク日記」

 後藤さんは、「東北海岸トレイル」の公式サイトで「トレイルウォーク日記」として、現地情報や体験談を発信しています。調査の様子や現地の状況などがよく分かる内容となっています。是非一度ご覧ください。

今週のオンエア・ソング

オープニング・テーマ曲
「GRACIAS / LARRY CARLTON」

M1. アゲイン2 / ゆず

M2. 歩きつづけるかぎり / 怒髪天

M3. このまちと / かりゆし58

M4. BECAUSE WE CAN / BON JOVI

M5. EVERYTHING'S GONNA BE ALRIGHT / SWEETBOX

M6. かぞえうた / Mr. Children

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」