2013年10月12日

森と人をつなぎたい、変なおじさんです!?

 今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、萩原・ナバ・裕作さんです。

萩原・ナバ・裕作さん写真

 岐阜県立・森林文化アカデミーは森と木に関わるスペシャリストを育てる専門学校で、その学校の准教授の萩原・ナバ・裕作さんは、主に森の中で森と人をつなぐ体験的なプログラムを行なってらっしゃいます。今回はそんな萩原さんに学校のお話や体験談、そして10月27日に岐阜県郡上市で開かれる「けものフォーラム」のお話などうかがいます。

森林のスペシャリストを育成

●今週のゲストは、岐阜県立・森林文化アカデミーの准教授、萩原・ナバ・裕作さんです。よろしくお願いします。

「よろしくお願いします。」

●ナバさんが准教授を務めている岐阜県立・森林文化アカデミーは、どんな学校ですか?

「一言でいうと、とんでもない学校です(笑)。普通の大学や大学院といった枠を飛び出したような専門学校でいて、県立なんです。」

●どういった学科があるんですか?

「林業科はもちろん、森の木を活用していけるような設計士を育てる木造建築科、木を使って生活用品を作る人を育てる木工科などがあります。それに加えて、山村地域の活性化をしていく人を育てるコースや、森林の空間を活用して人づくりをしていくコースがあります。」

●すごくバラエティに富んだコースばかりで、森と木に関しては全て網羅していますね!

「そして、それが全て繋がっているというのがミソなんですよね。林業科の人も森林の空間を活用した人づくりの方法を知っているし、木工も知っているんですよ。そういうことが学べる学校ですね。」

●そこでナバさんは、森林の空間を活用して人づくりをしていくコースに所属されているんですよね?

「はい。使いまくってます!」

●どんな授業をしているんですか?

「『これ授業?』って思うようなものばかりなんですよね(笑)。僕が初めて学校に行ったときに驚いたのが、学校のすぐ傍に33ヘクタールの演習林があるんですよ。学校の敷地内に森があるというのは、日本で唯一のことなんですが、その森があまり活用されてなかったんですよね。『それはもったいない! じゃあ、この森を使って、“人づくり”をしたいな』と思ったんですね。
 僕が養成したい学生というのは“将来、森の中で生きていける人”だったので、『ここでどんな授業をしようか?』と考えたときに、部屋の中では無理なんですよ。森の中だけでやろうと思ったんですね。そうなると、あと何が足りないかと考えて、学校の森の中に子供を入れたんですね。それが、学生の毎日の実習となっているんですよね。」

●学生は、その子供と触れ合ったりするんですか?

「そうですね。僕は、子供って元々、自分で学んだり成長したり発見したりする力を持っていると思っているんですよ。そういった、元々持っているそういう力を発揮するには、森の空間ってすごくいいんですよね。ただ、森の中に子供を投げ込みさえすればいいかというのはそうじゃなく、子供を受け止めたり、何かやりたいと思ったことを応援してあげたりする大人が必要だと思ったんですね。 でも、子供ってもちろん一人ずつ違いますし、条件もそれぞれ違ってくるので、そういうスキルってレクチャーすれば身につくものじゃないんですよ。身に付けるには現場しかないので、うちの学生はほぼ毎日子供と森の中で向き合って、それぞれで学んでいっています。そういう風に、色々な人が森の中で学べるような授業をしています。」

人生を変えたBE-PAL!?

●ナバさんのプロフィールを拝見させていただいたんですが、“森と人をつなぎたいヘンなおじさん”と書かれていて、すごく興味深いフレーズなんですが、“森と人をつなぎたい”というのは、ナバさんがいつも心がけていることなんですか?

「そうですね。人間って、元々は森から出てきたサルですよね。そうしたら、もうちょっと繋がっていた方がいいんじゃないかと思うんですね。それに今って、環境問題含めて、色々な社会的な問題が起きてますよね。僕はそれを解決する方法って、森にあるんじゃないかと思っているんですよ。」

●ナバさんは、昔から森や環境教育などに興味があったんですか?

「小さいころに遊んだ経験はたくさんあったんですよ。僕は埼玉県の雑木林や田んぼに囲まれたところで育てられたんですけど、昔ってテレビゲームなんてないじゃないですか。だから、遊ぶとなると、友だちと一緒に野球かサッカーをやるか、生き物を捕まえるしかないですよね。そうしていくうちに、どんどん好きになっていって、中学校ぐらいのときに『僕は将来、ムツゴロウさんになる!』って言ってたんですよね(笑)。そのぐらい、生き物は好きでした。当時は、環境教育という言葉はなかったと思いますし、それに関する仕事があるとは知らなかったんですよね。」

萩原・ナバ・裕作さん写真

●確かにそうかもしれないですね。今では、自然の中で遊ぶことが特別なことになっていますけど、昔の子供たちは普通に自然の中で遊んでたんですよね。

「そうですよね。外に出たら自然ですからね。大学生のときも、人と一緒に何か物事をするのが好きだったので、海の家を建てたりして、山から離れて、街中でそういうことをして楽しんでたんですね。ところが、大学3年生ぐらいのときになると、みんな就職のことを考え出すじゃないですか。僕も考えていたんですが、やりたい仕事がなかったんですよ。どれを見ても、一生やりたいと思える仕事がなかったんですよね。そのときに、自分は何が好きだったのかを考えたら、昔、自然の中で遊んだ記憶が甦ってきたんですよ。そこで『こういうことを人に伝える仕事をしたい』と思ったんですね。」

●実際には、どのように動いたんですか?

「人と自然を繋ぐ仕事をしている“インタープリター”って聞いたことありますか?」

●「愛・地球博」のときに話題になりましたよね?

「そうです。今となっては、そういう仕事もポピュラーになってきていますけど、当時はそういう仕事はなかったんですよ。あるとき、大学生協に週刊プレイボーイを読みにいったんですよ。僕はまだまだ女性が好きでしたからね(笑)。その生協にBE-PALがあって、そのときに自然の中でできる仕事を特集していたんですよ。それを見て『僕と同じ悩みを持った人がいるんだ!』と思ったんですね。それを読んでいたら、インタープリターという仕事を初めて知ったんですよ。その特集で、僕のその後の人生を変えた人との出会いに繋がっていくんですね。」

●その人の名前を教えてください。

「今年3月に亡くなってしまったんですが、小林毅さんです。“コバさん”という愛称で親しまれた、“日本のインタープリターの父”といわれた人です。この人が、僕の人生の半分を狂わせましたね(笑)。僕の半分は彼でできてます(笑)。彼は、当時奥多摩にあったビジターセンターを拠点に活動をしていたんですが、新規で採用するメンバーというのが、動物や植物の専門家ではなく、僕のような、何か特技を持っている人を集めたんですね。
 彼は、野生や自然のメッセージを多くの人に伝えたかったんですよ。そのためには、“あまり興味のない人に広めていった方がいい”と考えたんですね。さらに、今までは、“自然をしっかり伝える”ことを徹底していたのが、“自然を面白く・楽しく伝える”ことに変えていったように思いますね。」

タスマニアから日本へ

※萩原さんはインタープリターが盛んなアメリカに行こうとして準備を進めていたんですが、ビザが下りず、本人曰く「不本意ながら」、エコツアーが栄えているオーストラリアへ行くことにしたそうです。実際に行ってみて、どうだったのでしょうか?

「結果的には、それがすごくよかったんですよね。予想外な世界がそこにはあったんですよ。最初はグレートバリアリーフやケアンズ、熱帯雨林などがある本土でガイドの勉強をしたりしていたんですが、最終的にはタスマニアという南の方にある小さな島にいましたね。そこにはすごくステキな自然や野生が残っていて、島の半分以上に自然が残されているんですね。その自然や野生に触れるぐらい感激して、当初はそこでエコツアーのガイドをしたり、野生動物の番組を作ったりしながら、ずっと生活をしていこうと思っていたんですよね。」

●タスマニアには一度でも行ってみたいんですよね!

「キレイですよー! “世界一空気がキレイな島”といわれています。」

●そこでずっと生活をしようと思っていたはずなのに、なぜ日本に帰ってきたんですか?

「そう思いますよね? 実は、僕の子供の学校まで決めていたんですけど、突然電話がかかってきたんですよ。誰からの電話かというと、コバさんからだったんですね。用件は『岐阜にある学校でインタープリターの養成コースがあるんだけど、そこに欠員が出たんだ。チャレンジしてみないか?』というものだったんですね。それで、オーストラリアから採用試験の面接をしに行きましたね。」

萩原・ナバ・裕作さん写真

●それによって、久しぶりに日本で暮らすことになったじゃないですか。久しぶりの日本の環境はどうでしたか?

「良い方と悪い方の二つのショックがありました。まず“良い方”としては、日本で環境教育や自然体験、自然学校などがすごく普及したなと思いましたね。向こうに行く前はそういった仕事が全くない状態で、コバさんのようなフロンティアの人たちは何人かいたとしても、まだまだ限られた職場しかなかったのが、今では色々なところにあったり、若い人が『将来、自然に関わる仕事がしたい』と言ったりしているので、すごく驚きました。」

●では、もう一つの“悪い方”はどういったものなんですか?

「“悪い方”とはいっても、発展した結果から生まれたことなんですが、小学生が“地球温暖化”という言葉を使い出したんですよね。地球温暖化って見えないじゃないですか。子供が見えないことに対して語ったりするのって怖いと思ったんですよね。これは環境教育が普及したことで知識が広がっていったんだなと思ってはいるんですが、僕は特に子供のときは、体験的なものから学ぶことの方が大事なんじゃないかと思うんですね。原体験が少ない子供が増えているような気がしたんですよね。」

●子供もそうですし、大人も同じ状況に陥っているかもしれないですね。

「知ってはいるけど、心から湧き上がってこないとかありますよね。そうなってくると、知識ばかりが増えて、いざとなったときに次の行動に移せないですよね。そこで、原体験の部分をしっかりと作っていかないといけないと思ったんですよね。」

●そういったことを、岐阜県立・森林文化アカデミーで教えているんですね。

「教えているというより、一緒に学んでますね。僕はいつも学生には『教えることは何もない』って言ってます。」

●一緒に楽しみながら、授業をされているんですね。

妄想しちゃってください(笑)

●ナバさんが世話人として関わっているNPO法人・日本エコツーリズムセンターが今月27日に岐阜県の郡上八幡自然園で「けものフォーラムin狩猟サミット」を開催するということですが、このイベントはどういったものですか?

「とんでもないタイトルですよね(笑)。今、日本では野生動物と人との関係に変化が出てきて、野生動物が食害で作物を荒らしてしまったりして、色々な問題が発生してきているんですね。でも、こういった問題って、野生動物が身近にいる人たちだけの問題じゃなく、みんなで一緒に考えるものだと思うんですね。色々な人が繋がって混ざることで、もう一度野生動物と人について考え直す機会を作ろうということで、このイベントを企画しました。実は、東京にもクマやカモシカがいたりするんですが、ご存知ですか?」

●ニュースでは見たことがありますが、やっぱりいるんですね。

「いますね。皆さんが今立っている場所にも野生動物は息づいていて、同じ空気を吸っているんですよ。そこまで感じることは難しいと思いますが、そういう繋がりは、実際にあるんですよね。それだけではなく、都市部で生活している人が普段食べている食べ物や使っている木などがどこから来ているかというと、基本的には野生動物と共に育っている作物だったり。成長している木だったりするんですよね。」

●そういうことに対するイメージを膨らませるのが大事なんですね。

「妄想しちゃってください(笑)。夜、寝る前に『ほんの数十キロ先では今頃、クマやカモシカが寝ているんだろうな。どうやって寝ているのかな?』といったことを考えるだけでもいいんですよ。」

萩原・ナバ・裕作さん写真

●そうですよね。一緒に生きているんですから、考えてもいいですよね。このイベントですが、具体的にはどういったプログラムが予定されていますか?

「今も楽しい企画を検討中なんですが、今ラインナップとして挙がっているのは、僕の原点でもある、ミニ・ビジターセンターを出展しようと思っています。“野生動物”というテーマで、日本中の野生動物の骨や毛皮などを集めて、それを題材に話し合ったりするビジターセンターをオープンさせようと思っています。あとは、有害鳥獣駆除によって撃たれてしまった鹿の皮を無駄なく使うために、それを使ったワークショップを開こうと思っています。また、今僕が企てているのが、“動物のうんちのキーホルダー”を作ろうと思っています(笑)。欲しいと思いますか?」

●持っていると、運がつきそうですよね!(笑)

「本物を使ってしまうと、臭いとかで色々な問題があると思うので、粘土で作ろうと思っています。」

●フンを見ることで、どんな動物がいるのかというヒントになるんですよね?

「よくご存知ですね!」

●そういった意味では、いいツールになるかもしれないですね。すごく面白そうなイベントなので、リスナーの皆さんも是非参加していただければと思います。

YUKI'S MONOLOGUE 〜ゆきちゃんのひと言〜

 環境教育って少し堅いイメージもあったんですが、今回ナバさんにお話をうかがって、頭で考えるのではく、自然の中で実際に触れて感じて体験することが本当に大切なんだと改めて感じました。何より、森林文化アカデミーの森では、86歳のおじいちゃんと子供達が真剣にケンカをしているそうですよ。森の中では人と人も世代を超えて仲良くなれるんですね。そんな微笑ましい光景がいつまでも続くといいなと思います。

INFORMATION

『けものフォーラムin狩猟サミット』

 萩原さんも世話人として関わっている日本エコツーリズムセンターが主催するこのイベントは、野生動物との共生について、一人でも多くの方が集い、情報を共有し考え、そして行動していくために開催されます。当日は「ミニ・ビジターセンター」を開設し、自然や動物のことをわかりやすく説明してくださったり、ニワトリの解体を通して、命の尊さを一緒に考えたり、シカ皮をつかったワークショップを開催したりと、様々なプログラムを通して「人と動物の共生」について、みんなで考えます。

◎開催日時:10月27日(日)の午前9時から午後3時半まで
◎会場:岐阜県・郡上八幡自然園
◎参加費:一人・1,000円
     (ワークショップによって、別途料金がかかるものがあります)
◎詳しい情報:日本エコツーリズムセンターのオフィシャルサイト

岐阜県立・森林文化アカデミー

 萩原さんが所属している岐阜県立・森林文化アカデミーについては、オフィシャルサイトをご覧ください。どういった授業を行なっているのかなど、林業に興味のある方は是非チェックしてみてください。

今週のオンエア・ソング

オープニング・テーマ曲
「GRACIAS / LARRY CARLTON」

M1. NO WOMAN NO CRY / BOB MARLEY & THE WAILERS

M2. YOU'VE GOT A FRIEND IN ME / RANDY NEWMAN & LYLE LOVETT

M3. TWO OF US / AIMEE MANN & MICHAEL PENN

M4. OCTOBER ROAD / JAMES TAYLOR

M5. ONE WAY ROAD / THE JOHN BUTLER TRIO

M6. MERCY MERCY ME / MARVIN GAYE

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」