2013年11月30日

星と月と、夜の山・・・魅力的です。

 今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、菊池哲男さんです。

菊池哲男さん写真

 山岳フォトグラファーの菊池哲男さんは、国内外の山の写真を精力的に撮り続けてらっしゃる写真家で、山の専門誌「山と渓谷」の表紙を担当されたこともあります。また、数々の写真集の出版、写真展の開催はもちろん、長野県白馬村に作品を展示するギャラリーを開設してらっしゃいます。今回はそんな菊池さんに、ホームグラウンドの北アルプスの魅力や夜に行なう山の撮影のお話などうかがいます。

湖に写るオーロラを撮る!

●今回のゲストは、山岳フォトグラファーの菊池哲男さんです。よろしくお願いします。

「よろしくお願いします。」

●菊池さんは国内外の山の写真を精力的に撮り続けてらっしゃいますが、2ヶ月ほど前、カナダのユーコンに行っていたんですよね?

「はい。オーロラとツンドラの紅葉を撮影しに行ってきました。」

●それはツアーみたいな形で行ったんですか?

「一緒に写真を撮るのを僕が企画して、仲間を募って、オーロラの下で撮影をしたり、真っ赤に染まるツンドラ紅葉を撮影しに行ってきました。」

●そういったツアーは今までにも何度かされているんですか?

「オーロラを撮りに行くツアーだけで、今回で8回目ですね。オーロラは一定周期で見えやすくなるといわれているんですが、一番見えない時期から始めたので、1週間行っていても見えるのは2・3日ぐらいで、しかも『これオーロラ?』って思うような、空が薄く緑に染まっているだけで動かない感じだったんですよ。それでも『オーロラが見えた!』って大騒ぎしていたんですけど、ここ数年は“オーロラ爆発”といわれるぐらいダイナミックなオーロラが見えていて、先日行ったときも天を舞っているかのようなオーロラが見れて、撮影してきました。ただ、9月は冬に比べて暖かいのと、湖がまだ凍っていないので、“その湖に写るオーロラを撮る”ことが今回のツアーの一番の目的でした。」

●湖に写るオーロラですか! いいですねー!

「ユーコン川というアラスカの方に流れていく大河があるんですが、その川に緑のオーロラが写るんですね。それを撮影してきました。」

●撮影場所はユーコン川付近なんですね?

「ユーコン準州のホワイトホースというところをベースに、ドーソンシティというアラスカに隣接しているところに飛行機で行きました。オーロラが毎日見えていたという状況なら最初から安心なんですけど、今回は初めのときは天気が悪くてオーロラが見えなかったんですよ。そうすると『ここまで来たのに、本当にオーロラが見れるのか?』という感じで、一緒に行ったみんなの雰囲気も沈んでいくんですね。初めて来た方はオーロラのイメージを持って参加されているんですよ。それなのに、空がどんよりしていたり、『この時期にこんなに雨が降るのは珍しい』と言われるぐらい雨が降ったりして、みんなの空気が重くなっていったんですね。
 3日目ぐらいにすごいオーロラが出たんですね。それでムードが一気に変わって、盛り上がりましたね。夜が明けるまで撮影しました。明るいオーロラって、空が暗くても文字が読めるぐらい明るくなるので、車のライトに照らされてもオーロラが見えるんですよね。」

●他の明かりに負けないんですね。3日目に見えたすごいオーロラは、そんな感じだったんですか?

「そうですね。ずっと見えていました。ドーソンシティの高台にある山で撮影をしていたんですけど、その山から街を見下ろせるんですよ。その街の上にオーロラがある感じなんですよ。普通は街の明かりや月の明かりって邪魔な存在なんですけど、今回はむしろ夜の雰囲気が出ていたんですよね。」

天文少年、星をもっと見たくて!?

●菊池さんは、どうして山岳フォトグラファーになろうと思ったんですか?

「今、金環日食やアイソン彗星などが話題になっていますし、“宙ガール”もブームになっていますけど、僕も同じように天文が好きで、よく望遠鏡で夜空を見たりする天文少年だったんですね。東京の下町に暮らしていたので、それなりに星は見えたんですけど、住宅などが増えていったことで明るくなっていって、夜空が見えなくなっていったので、『山に行けば、もっとよく見えるんじゃないか?』という単純な考えから、小さい望遠鏡などを背負って星の写真を撮りにいったりしていたんですね。それが、徐々に登ることが楽しくなっていって、カメラを持っていかずに登山だけを楽しんでいた時期もあったんですよ。
 そこからヒマラヤといったような高い山にチャレンジしていくのもよかったんですけど、登山を始めたのは写真がキッカケだったので、それを一緒にして、それを職業にできれば幸せだなと思ったから、山岳フォトグラファーになったんですね。正直言うと、儲かる仕事ではないので、生活していくためにどうすればいいのかを考えていかないといけないんですよね。山の写真って、10年ぐらい撮らないとストックできないので、それまで撮り続けないといけないんですけど、その間の収入はほとんどないので、それをするために、二足のわらじとして他の仕事もやっていましたね。」

菊池哲男さん写真

●菊池さんの写真を見て印象的だったのが、星空と一緒に山が写っていますよね? それがすごくステキだなと思っていたのですが、先ほどの話を聞いて納得しました。

「原点がそこにあるんですよ。山岳写真って、威風堂々とか見るものを圧倒したり、人を寄せ付けなかったり、夏になるとアルプスの少女ハイジが走り回っているようなイメージがあると思うんですよね。冬で雪があるような山なのにテントまで張って登る人がいたり、夏にはすごい数の人が列を作ってまで富士山を登る人がいたりしますけど、これって誰かに褒めてもらえるわけじゃなく、もし得られるものがあるとしたら、自分に自信がついたり、達成感を得られることだと思うんですね。でもそれって、今の便利な世の中からすると、反対な行動だと思うんですね。それが今では“山ガール”のブームがあって、電車の中でも座り込んでいた女子高生たちまでも山に登ったりしているじゃないですか。それって、“山に登る”ことに対して特別なものがあるんだろうなと感じているんですね。そういう中で写真を撮ることって、先ほど話したような写真だけじゃなくて、人懐っこいものもあっていいんじゃないかと思うんですね。

『山の魅力って何だろう?』と考えたときに、これまでのような朝焼けから始まって夕焼けに終わるようなものだけじゃなくて、“夜の山”も一つの魅力だと思うんですね。夜って、お酒を飲んだり寝たりする安らぎの場だと思うんですが、山はその時間にも存在していて、月明かりに照らされたり星が動いたりしているのを色々な人に見てもらいたいと思って、撮っています。」

●とはいえ、夜の山を撮影するのって難しいんじゃないですか?

「難しかったですけど、天文少年だったころに色々な本を読んで、色々な失敗をたくさんして勉強していきました。しかも、当時はフィルムで撮っていたので、そこでは確認できないんですよ。なので、失敗の山なんですけど、その中でも満足した写真が撮れたときの記憶が残っていたので、月明かりに照らされた山を撮るのか月そのものを撮るのかといった感じで、風景と山をミックスさせて表現するようにしました。特に月は太陽と違って、毎日大きさが違っていて昇る時間も違っているので、昨日できたことが今日はできないんですよ。自然を単にコピーしているだけじゃない、自分なりの撮るということで、楽しさを感じています。」

感動を大きく撮る!?

※菊池さんがホームグラウンドにしている北アルプスの魅力をうかがいました。

「日本の3,000メートル級の山にはたくさんの雪が降って、夏になるにつれて解けていき、解けたところからたくさんの高山植物が芽を出してお花畑を作り、秋になるとどんどん色づいていって、冬を迎えるんですね。今年も既に立山には雪が降って、1メートルぐらい積もっているので、バックカントリースキーヤーが訪れていましたけど、そんな感じですごく変化があるんですね。
 ヨーロッパアルプスにも実際何度か登りにいったことがありますが、あそこって頂上付近は夏でも雪が降るんですよ。ハイジのような風景はもうちょっと下の方ですね。あとは氷河地形なので、ツンツンしたような木があるんですね。なので、真っ赤な紅葉はないんですけど、それに比べて日本はすごいですよ。雪が残る中、桜が咲いていたり、夏になっても雪がまだ残っているところもありますし、その雪がなくなると、そこに高山植物が咲いてくるんですね。それを最も感じる場所が北アルプスだと思うんですね。

 南アルプスも何度も行ってますけど、あっちの方が森林限界が高いのと、暑いこともあって、残雪があまりないですね。その代わり、北アルプスは森林限界が低いので、あるところまで行くと見晴らしがすごくよくなるんですよ。そういう意味で、北アルプスは非常に魅力的な山だと思いますね。」

●そういった風景をうまく撮影するコツってありますか?

「今のカメラはデジタルカメラで、撮ったその場で確認できるじゃないですか。技術的にはそれほど難しいことはないと思うんですね。逆に、誰でも簡単に撮れるので、自分のメッセージを込められるような写真を撮るようにした方がいいと思います。よく生徒たちには『感動した方にスペースを大きく取りなさい』って言いますね。空に雲がある風景に感動したなら、山の稜線を下げてでも空を大きく入れて撮ればいいし、花畑に感動したら、その花畑を大きく撮ればいいんです。 “自分はこれに感動しているんだ!”っていうものを撮るためには、そのためのスペースを大きく取るということが基本になってくると思うんですね。富士山がシンメトリーに写るというのがその代表例だと思いますが、あれほどの条件だと固定されてしまいますので、夕日に染まる太陽の風景なら、その海を見てほしいのか、空を見てほしいのか、もしくは両方とも大事なのかで、スペースを取る割合が変わってくるんですよね。そういう風に、自分が感動したり思い入れがある方にスペースを取る方が、見る側に一番伝わると思います。

菊池哲男さん写真

 そして、撮るときも人間の目との違いを意識して撮るといいと思います。人間の目って暗いところも明るいところもしっかりと見えるようになっていますけど、カメラは正直なので、そうはならないんですよ。なので、夕焼けの色を出すのか朝焼けの色を出したいのか、はたまたそこに行った記念写真を撮りたいのかによって、撮影するときの明るさを変えないといけないんですね。なので、先ほど話した“スペースをどう取るか”ということと、“写真の明るさをどうするか”という2点を気をつけるだけで、写真が相当よくなると思います。」

●ぜひ、次写真を撮るときには、その2つのポイントに気をつけて撮影したいと思います!

YUKI'S MONOLOGUE 〜ゆきちゃんのひと言〜

 私も趣味で海にいったり街中で写真を撮ったりするのですが、美しい風景に出会ってもそれを写真に収めるのは、なかなか難しいなと思っていたので、菊池さんのお話はまさに目からウロコでした。今度は、菊池さんの2つのアドバイスを守って、写真を撮りに出かけたいと思います。菊池さんのホームグランドである北アルプス辺りもいいかもしれませんね。

INFORMATION

写真展『新・山の星月夜』と4つの合同クラブ展

 菊池さんの大パネルによる作品展と菊池さんが顧問を務める“写団RGB”、“CEフォトクラブ”、“TKフォトクラブ”、“フォト菊池組”という4つのクラブのクラブ展も同時開催。

◎開催:2014年1月15日から28日まで
◎時間:午前10時から午後7時まで(15日は13時から、最終日は15時まで)
◎会場:ヒルトピアアートスクエア

講座情報

 菊池さんはNiconと山と渓谷社が協力している写真教室の講師も務めてらっしゃいます。

『厳冬期の冬山の写真を撮る講座』
◎開催日時:2014年1月15日の19時から
◎会場:アルパインツアーサービス(西新橋)
◎参加費:2,000円

『実践講座』
◎開催期間:2014年2月1日から4日にかけて
◎会場:北アルプスの西穂山荘をベース
◎参加費:84,000円

カレンダー

 現在、“日本の山と高原”と題された2014年カレンダーを販売中。このカレンダーには、白馬岳と五竜岳の素晴らしい写真が使われています。

 これらの情報も含む最新情報や菊池さんが撮影された素晴らしい写真などをチェックしたい方は、菊池さんのオフィシャル・サイトをチェックしてください。

今週のオンエア・ソング

オープニング・テーマ曲
「GRACIAS / LARRY CARLTON」

M1. 天体観測 / BUMP OF CHICKEN

M2. HOPPIPOLLA / SIGUR ROS

M3. ONLY TIME / ENYA

M4. BREATHLESS / THE CORRS

M5. ETERNAL FLAME / BANGLES

M6. STARS / 中島美嘉

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」