2013年12月28日

歩く旅・熊野古道・美しい国“日本”!

 今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、福元ひろこさんです。

福元ひろこさん写真

 文筆家の福元ひろこさんは、3年前にスペインのサンティアゴ巡礼路(約1,000キロ)を歩いた経験から、すっかり歩く旅にハマってしまい、その後、伊勢神宮から熊野大社までの約220キロを歩き通されました。今回はそんな福元さんに、歩く旅のお話をいろいろうかがいます。

自分の感覚だけに従う旅

●今回のゲストは、文筆家の福元ひろこさんです。よろしくお願いします。

「よろしくお願いします。」

●福元さんは先日、東洋出版から“歩く旅の本〜伊勢から熊野まで〜”を出版されました。そんな福元さんが歩く旅を始めたキッカケは何だったんですか?

「キッカケは、“ヨーロッパのサンティアゴ巡礼路”というキリスト教の巡礼路を歩いたことなんですね。その体験がすばらしかったので、そこから歩く旅にハマってしまいました。」

●なぜサンティアゴ巡礼路を歩こうと思ったんですか?

「私は当時30代前半で、人生の岐路に立たされていたんですね。周りから『まだ結婚しないのか?』とか『子供を産むならそろそろだよ』とか言われたりして、プレッシャーが強くなったんですよ。そうやって、周りの声がよく聞こえてしまう場所にいると、自分の気持ちなのか人の意見なのかが分からなくなってしまったんですよね。それで、『日常からすごく離れた場所で自分を一度見つめ直したい』と思って、都会とは真逆の自然の中を歩こうと思って、そこを歩きました。」

●どんな体験でしたか?

「フランスにルルドという、飲んだりかけたりすると病気とかが治るとされている“奇跡の泉”があるところとして有名な聖地があるんですけど、そこへどうしても行きたかったので、そこからスタートして、スペインのサンティアゴまで約1000キロの道のりを歩きました。特にヨーロッパを歩いたときは、いつまでにどこに着くといった目標を設定せず、自分の感覚だけに従って、自由に歩く旅でしたね。」

福元ひろこさん写真

●“自分の感覚だけに従う”ってすごいですね!

「それがすごく心地いいんですよ! 都会で生活していると、『アポイントがあるから』とか『仕事が乗ってきたけど、そろそろ出ないといけない時間』といった感じで、自分の感覚じゃないところで決めないといけないじゃないですか。それが向こうでは『お腹がすいたから食べる』とか『疲れたから休憩する』とか『この村、気に入ったから今日はここに泊まろう』といった感じで、動物的な生活をしていましたね。」

●それはいいですね! 旅に行く前に、事前にトレーニングを積んだりしたんですか?

「全然しませんでした。行こうと思ってから1ヶ月後には出発してたので、トレーニングしている暇もなかったですし、そもそも『なんでみんな結局下りるのに、山に登るんだろう?』と思うぐらい好きじゃなかったので、体力がなかったんですよ。なので、最初の5日間は自然と涙が流れるような状態で歩いてましたね。」

道は“生きている”

※どうして伊勢から熊野まで歩こうと思ったのでしょうか?

「ヨーロッパを歩いていると、世界中からの巡礼者をたくさん見るんですね。その方たちと出会ったときに私が日本人だと分かると、『日本にもいい道があるんだろ?』っていうんですね。彼らがいう“道”って“お遍路さん”のことを指します。実は、お遍路さんってヨーロッパでは有名で『“お遍路”ってどうなんだ?』って聞かれるんですよ。それなのに、ちゃんと答えられなかったときは日本人として恥ずかしいと思ったし、伊勢神宮から熊野まで歩ける道があることを知らなかったので、『これはすごい! 本当に歩くことができるのか?』と思って、試してみたくなりましたし、どうなっているのか知りたいと思って、歩こうと思いました。」

●今回の本を読んで驚いたことがあるんですが、熊野古道って1つじゃないんですね!

「そうなんですよ! 私も調べるまで知らなくて驚きました。一番有名なのは“中辺路(なかへち)”と呼ばれる紀伊半島の下の方を左右に横断するルートで、その他には私が歩いた“伊勢路”と呼ばれる伊勢神宮から続いているルートなど、全部で5本ぐらいあるルートがあるんですね。巡礼路って世界を見渡しても大体そうなんですけど、目的地に向かって色々なところから歩くので、ルートが複数あるのが普通らしいんですよ。なので、スペインの巡礼路も、実はヨーロッパ中からすごい数のルートがあるんですよね。」

福元ひろこさん写真

●色々な地域からそこに集まってくるから、それだけルートがあるんですね。

「だから、熊野古道では大阪から来るルートは、平安時代に貴族たちが熊野詣をするために京都から船で淀川を渡って、大阪に上陸してそこから歩くのに、そのルートが便利だったから通ったんですね。なので、その道は“貴族の道”と呼ばれているんですけど、そこから江戸時代にお伊勢参りがブームになったときは江戸から東海道を使って伊勢に行き、『せっかくここまで来たから、熊野まで行こう』ということで、熊野に行く人が多かったんですね。だから伊勢神宮からのルートがあって、それは“庶民の道”と言われていたりしたんですよね。そういった感じで、昔の人はどのルートを使うかは、家から近かったりして、自分が使いやすいものを使っていた感じですね。」

●出発地点によって色々な道があるというのは、歩く旅ならではですね。

「道って、その時代の人々の生活と密着している感じがして、まさしく“生きてます”よね。」

●昔の人たちに想いを馳せられるのも、歩く旅の魅力なんですね。

「そうですね。私は、それを那智の滝に到着したときにすごく感じたんですよね。到着したときは夕方で雨が降っていたんですけど、那智の滝を見たときに、写真などで見るのとは全然違う感覚がして、『昔の人たちもこういう感覚で見えていたんだろうな』って感じましたね。昔の人たちが那智の滝を見に行くときは歩くしか方法がなかったと思うんですよ。『疲れたな』と思いながら歩いて、最後にトドメの階段を登ると、景色が広がって、那智の滝が見えるんですけど、それを見たときの感覚って、車で見に行ったときの感覚とは違うと思うので、昔の人がどんな風に見えていたのか、追体験できるというのは、歩く旅ならではだと思いますね。」

日本はなんて美しいんだろう!

※福元さんの新刊「歩く旅の本〜伊勢から熊野まで〜」には“歩く旅は、自分にとって本当に大切なものを教えてくれる”と書かれていますが、歩くからこそ見えてくるものって何なのでしょうか?

「歩いてゆっくり移動するので、小さな変化には敏感に感じてましたね。特に印象的だったのは、本にも書いていますが、ツヅラト峠というところを通ると、なぜか知らないんですが、空気が変わるんですよね。『どうも空気が変わるなぁ』と思っていたら、そこにある案内板にも『昔、ここは伊勢の国と紀伊の国との境目で、世俗と神域との境目だと言われていた』と書かれていたんですね。そういった空気感の変化を感じられたのは、そこを歩いたからこそだと思いますね。」

●旅をしていて、そこにある植物だったり生き物たちが変わる境目を感じたりしましたか?

「ありますね。植物の変化や街の変化とかもありますね。伊勢路も山の中をずっと歩いているわけではなくて、街中を歩くところもあるんですけど、同じ街だとしてもその街が持ってる雰囲気が微妙に違うんですよ。後で調べたり人に聞いたりして分かったことなんですけど、昔は峠を越えるのが大変だったから、峠と峠の間で言葉すら微妙に違うぐらい変化があったみたいなんですね。漁師さんが宿をやっていたエリアは今でも“魚町”と呼ばれているだけに、人々がオープンな感じがしますし、歩き始めた伊勢はどこか洗練された都市みたいな雰囲気だったりして、地域の持つ微妙な変化も感じましたね。」

福元ひろこさん写真

●変化を感じられるっていうのはいいですね。旅行って普通、目的地に行くだけの“点と点”じゃないですか。なので、継続性がない感じがするんですが、歩く旅だと点と点が結んで“線”になる感じがしますね。

「その通りだと思います。特にこの辺りは神話の舞台になった場所がたくさんあるので、日本の歴史や奥深さ、神話の始まりなどをすごく身近に感じられるのも、歩いたからだと思います。」

●ゴールの瞬間のことを今回の本に書かれていましたが、本当に素敵な風景だったんだろうなと感じました。

「今回のゴールは熊野本宮大社になっていたんですが、私にとっては“大斎原(おおゆのはら)”がすごくよかったんですね。そこは、220年前の大洪水で流されるまで本宮があった場所で、そこに着いたときが夕暮れ時で茜空だったんですけど、黄金色に輝く稲穂が揺れていて、青からピンク、オレンジへと移り変わっていく空の色の中で、『この国はなんて美しいんだろう!』と心底感じたんですよね。こういうことって、言葉にしてしまうとありきたりになってしまうんですよね。実は私、それまで日本よりも海外が好きだったんですけど、ゴールしてあの景色を見たときに、改めて『日本って美しくて素敵な国なんだな』と思って、この国のことが好きになりましたね。」

YUKI'S MONOLOGUE 〜ゆきちゃんのひと言〜

 福元さんに歩く旅の魅力たくさんうかがいましたが、著書の中では「歩く旅をする事で幸せセンサーの感度が上がり、さらに歩くペースは人間にも自然にも優しいので、歩く旅をする人は増えれば社会が今よりも少し人にも自然にも優しい世界に近づくのではないか」と書いていらっしゃいます。ますます歩く旅に行きたくなりました。来年はみなさんも一緒に福本さんの本を読んで歩く旅に出かけてみませんか?

INFORMATION

「歩く旅の本〜伊勢から熊野まで〜」

新刊『歩く旅の本〜伊勢から熊野まで〜

 東洋出版/定価1,890円

 福元さんの新刊となるこの本は、伊勢神宮から熊野大社までの約220キロを12日間かけて歩いたときの旅の本です。そのときの心理状態や出来事が軽快なタッチで綴られていて、とても楽しく読めます。また、熊野古道を歩くための持ちものリストや計画の立て方など、経験を元にしたアドバイス的なコラムも、実際に歩くときに役立ちますよ。

オフィシャルサイト

 福元さんのオフィシャル・サイトには近況などを綴っているブログもあります。また、そのサイトから「歩く旅の本」を購入することもできますので、是非チェックしてみてください。

今週のオンエア・ソング

オープニング・テーマ曲
「GRACIAS / LARRY CARLTON」

M1. A THOUSAND MILES / VANESSA CARLTON

M2. 道 / GReeeeN

M3. ROAD TRIPPIN! / RED HOT CHILI PEPPERS

M4. EVERYDAY IS A WINDING ROAD / SHERYL CROW

M5. HEAL THE WORLD / MICHAEL JACKSON

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」