2014年2月15日

日本人の暮らしから生まれ、育まれた“食”のことわざ

 今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、村山尚子さんです。

村山尚子さん

 イラストレーター、そしてエッセイストとしても活躍されている村山尚子さんは先日、明治書院から「食べてのほほん」というイラスト・エッセイ集を出されました。この本は四季折々の食べものを、ことわざとともに紹介。イラストも“のほほん”として素敵なんです。今回はそんな村山さんにことわざと日本の食について色々お話をうかがいます。

料理も食べることも大好き!

●今週のゲストは、イラストレーター、そしてエッセイストとしても活躍されている村山尚子さんです。よろしくお願いします。

「よろしくお願いします。」

●村山さんは先日、明治書院から“食べてのほほん”というイラスト・エッセイ集を出されました。実は今、その本が私たちの手元にあるんですけど、表紙のイラストがすごく可愛いんですよね! 髪が短い女性がお団子を食べたりリンゴを食べたりしているイラストが描かれているんですが、もしかして、この女性は村山さんですか?

「はい、私です。」

●そうなんですね! すごく可愛くて、見ているとタイトルの通りにのほほんとする一冊だと思いましたが、そんな想いを込めてこのタイトルにしたんですか?

「この本は日本農業新聞で連載していたものをまとめたものなんですけど、このタイトルは連載していたときの担当の編集者さんが付けてくれたものなんです。私のエッセイがのほほんとしていたので、このタイトルを付けてくれたんじゃないかと思います。」

●内容は、四季折々の食べ物をことわざと共に紹介するスタイルなんですよね?

「そうですね。」

●そもそも、そういった食に関するエッセイを書こうと思ったのはなぜですか?

「私は食いしん坊なぐらい食べることが好きですし、スーパーを巡って食材を探したり、食材を研究して料理をすることも大好きなので、『“食”をテーマにしたエッセイを書いてみたい』とずっと思っていました。」

●食いしん坊なんですね(笑)。どのぐらい食べるんですか?

「とても大食いですね(笑)。1日中色々なものを食べてますね(笑)」

●(笑)。特にどんなものが好きなんですか?

「四季折々のものはスーパーで必ず買いますし、お菓子も好きです。庭には実がなる木が色々ありまして、今の季節だと柚子だったりみかんだったり、金柑などが実になっているんですけど、それらを収穫して、柚子でジャムを作ったり、金柑を蜂蜜漬けにしたりして、四季折々の味覚を楽しんでいます。」

●そういう風に自分で作ると、全然違いますか?

「美味しいですよ!」

●そうなんですね。日本には、食に関することわざって多いんですか?

「そうですね。ことわざというのは、昔の人たちが暮らしていく中で生み出して育んできたものですし、食べ物というのは暮らしの中で切り離せないものなので、食べ物に関することわざはおのずと多くなりますね。」

磯のアワビの片思い!?

村山尚子さん

●村山さんの新刊“食べてのほほん”は、副題に“食のことばで四季めぐり”と書かれています。その副題どおり、食に関することわざを春・夏・秋・冬に分けて紹介しているんですが、食べ物にまつわることわざが多いんだと感じました。その中でも、気になったことわざがありますので、そのことわざについてうかがっていきたいと思います。まずは“サトウキビをかむがごとし”ということわざなんですが、これはどういった意味があるんですか?

「サトウキビって見た目は竹によく似た作物なんですが、茎の皮を剥いてかじると、甘い汁が出てきます。それを煮詰めると砂糖になるんですが、サトウキビの茎は先端から根元にいくにつれて、甘みが増していきます。なので、このことわざは“物事がどんどん面白くなっていくこと”を指します。」

●なるほど。サトウキビは噛めば噛むほど甘さが増していくことから、そういうことわざが生まれたんですね。次にうかがいたいのが“どうりでカボチャが唐ナスだ”ということわざですが、これはどういった意味があるんですか?

「面白い言い回しだと思いますよね。これは江戸時代に流行した言い回しなんですね。カボチャは400年ぐらい前には既に日本で食べられていたんですが、250年ぐらい前の江戸時代には“唐ナス”という小さなカボチャが中国から持ちこまれました。そこで“かぼちゃと唐ナスのどっちがおいしいか”ということが、江戸で大いに話題になったんですね。しかし、食べてみると味は同じだったことから、この言い回しは“呼び名は違っても結局は同じもの”とか“似たりよったり”という意味で使われるようになりました。」

●なるほど。かぼちゃも唐ナスも結局は同じということなんですね。

「そういうことですね。」

●ちなみに、唐ナスって、今もあるんですか?

「今もありますが、カボチャと呼ばれているようですね。」

●確かに、大きめのカボチャと小さめのカボチャがあったりしますね。もしかしたら、小さめのものは唐ナスかもしれないんですね。もしかしたら、このことわざのような体験をしているかもしれないんですね。次にうかがいたいのが“磯のアワビの片思い”というちょっとロマンチックなことわざですが、これはどういったことわざですか?

「可愛らしいことわざですよね。ハマグリやアサリは2枚の貝殻を持っているのに、アワビはもう1枚がなくなってしまったように、お皿のような平たくて楕円形の貝殻を体に1枚かぶせたような形をしています。そこから、両思いになれないようなことを“磯のアワビの片思い”というようになりました。万葉集にも『海女さんが海に潜って獲るアワビのように、私もあなたに片思いのままなのね』という、ちょっと切ない恋心を歌った歌が残っています。とはいえ、アワビは高級食材で庶民がめったに口にできるものではないので、この本では『片思いなのはこっちのほうだよ』ということで載せています。」

●私たちはなかなかお目にかかれないから、“私たちがアワビに片思いをしている”ということなんですね。昔の人たちの和歌などにも、食にまつわることわざが読まれたりするんですね。

「そうですね。和歌や俳句にも、食材がたくさん登場しますね。」

村山尚子さん

●さらにうかがっていきたいと思いますが、次にうかがいたいのが“豆腐も煮ればしまる”ということわざですが、これはどういったことわざですか?

「豆腐は柔らかいので、煮え立つお鍋に入れると崩れてしまわないかと思うと思いますが、実際は、煮ると意外と丈夫なんですよね。たんぱく質は熱を加えると固くなる性質があるので、大豆のたんぱく質をたっぷり含んだ豆腐は、鍋の中では崩れにくくなります。なので、このことわざは“頼りない人も、世間にもまれてたくさん苦労をすれば、しっかりしてくる”ということを表しています。」

●なるほど。鍋の中にいる豆腐はもまれて、強くなっているんですね! ちなみに、村山さんは絹派ですか? 木綿派ですか?

「ちょっとしまってる木綿派ですね!」

●そうなんですね! 私は絹派です!(笑) 豆腐って、昔から庶民の食卓には無くてはならない食材ですから、豆腐にまつわることわざも多いんじゃないですか?

「結構ありますね!」

●最後にもう一つうかがいたいんですが、“ダイコンを正宗で切るよう”ということわざですが、これはどういったことわざですか?

「正宗というのは、切れ味抜群の日本刀のことで、“名刀正宗”と呼ばれたりします。大根は水分が多くて、とても切りやすい食材ですよね。それを正宗で切ることになったら、ちょっと大げさですよね。なので、このことわざは“才能のある人に簡単でつまらない仕事をさせること”を指します。」

●確かに、大根は私でもキレイに切れるので、正宗で切ったらもったいないですね。こうやって、食べ物で例えると、身近にあるものだから、イメージがしやすくて分かりやすいですよね! 今回教えていただいたことわざですが、機会があれば使っていきたいと思います。

日本の文化、再発見!?

●村山さんのホームページを見てみると、イラストやエッセイの他に、作詞・作曲、振り付け、マスコットキャラクターのデザイン、アニメーション、フランス語と英語の翻訳、写真、シナリオといった幅広い活動をされていることがよく分かります!

「そうですね。『村山さんって、こんなことできますか?』って聞かれると、好奇心旺盛なので、『やってみます』と引き受けてしまうので、色々なことをしています。」

●今後の予定はどんなものがありますか?

「エッセイは書き続けていきたいと思っています。ただ、“食”はもちろんのこと、それに限らず、言葉や歌、草花や生き物のことなど、日本の色々な文化のよさを皆さんに改めて気づいていただけるようなエッセイを書いていけたらと思っています。」

●今回の本に載っていることわざもそうですけど、日本人って独特の感性を持っているじゃないですか。

「そうですよね。日本人の繊細さや感性の豊かさといったものは大切にしていくべきだと思いますね。」

●日本の草花を紹介していきたいということですが、どういった草花に興味があるんですか?

「ツユクサやペンペン草など、道端に生えているような草の可愛らしさを皆さんに改めて気づいてほしいなと思っています。」

村山尚子さん

YUKI'S MONOLOGUE 〜ゆきちゃんのひと言〜

 身近な食をモチーフにして季節を感じられる“ことわざ”にする日本人の感性って本当に素敵だなと改めて思いました。そして、そんな“ことわざ”を生活の中で使ってみれば、きっと今よりも味わい深い日常になるかもしれませんね。

INFORMATION

「食べてのほほん〜食のことばで四季めぐり〜」

新刊『食べてのほほん
   〜食のことばで四季めぐり〜

 明治書院/定価1,365円

 村山さんの新刊となるこの本は、食にまつわることわざが春・夏・秋・冬に分けて、ほんわかとしたイラストと共に紹介されています。豆知識としてことわざを知っておくと、自分の知的レベルが少しあがる気がすると思いますし、生活の中で活かせる気もします。

オフィシャル・サイト

 村山さんのオフィシャルサイト「村山尚子の仕事」もぜひ見てください。イラストはもちろん、作詞作曲を手掛けた曲や振り付け、アニメーションなども載っています。また、ブログもまめに更新されています。

今週のオンエア・ソング

オープニング・テーマ曲
「GRACIAS / LARRY CARLTON」

M1. HAVE YOU NEVER BEEN MELLOW / OLIVIA NEWTON-JOHN

M2. CHIQUITITA / ABBA

M3. 花鳥風月 / 森山直太朗

M4. IRRESISTIBLEMENT / SYLVIE VARTAN

M5. 語り継ぐこと / 元ちとせ

M6. 春よ、来い / 松任谷由実

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」