今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、江口欣照さんです。
自然写真家の「江口欣照(えぐち・よしてる)」さんは、沖縄本島の北部にある「やんばる」とよばれる森にだけ生息している国の天然記念物“ヤンバルクイナ”を10年という歳月をかけて撮影。それを集めた写真絵本「世界中で沖縄にしかいない飛べない鳥〜ヤンバルクイナ〜」という本を先日、小学館から出されました。今回は江口さんに、ヤンバルクイナの生態や撮影のエピソードをたっぷりうかがいます。
●今回のゲストは、自然写真家の江口欣照さんです。よろしくお願いします。
「よろしくお願いします。」
●江口さんは先日、「世界中で沖縄にしかいない飛べない鳥〜ヤンバルクイナ〜」という写真絵本を出されました。ヤンバルクイナは沖縄にしかいない貴重な鳥ですけど、どういった鳥なんですか?
「一番の特徴として、“日本で唯一の飛べない鳥”なんですね。外見は、クチバシと目が赤くて、足が太くて赤いというのが特徴的なハトぐらいの大きさ鳥で、やんばるのジャングルを歩き回っている鳥です。」
●“日本で唯一の飛べない鳥”ですか! ということは、移動手段は歩きだけなんですね?
「そうですね。歩いたり走ったり、登ったり降りたりしますね。飛べない分、足がものすごく発達した鳥です。」
●鳥といえば、優雅に空を舞っているイメージがありますけど、恐竜のイメージですか?
「そうですね。少なくとも私は飛んでいるところは見たことがなくて、逃げるのもものすごいスピードで走って逃げるところしか見たことないですね。」
●早く逃げるということは、写真を撮るのが難しいんじゃないですか?
「人の姿を見ると逃げていってしまうので、車の中からレンズをそっと出して撮ったり、自分をカモフラージュするブラインドに入ってレンズだけを出して、相手に気づかれないようにして写真を撮る感じですね。そうじゃないと走って逃げてしまうので、走っている写真しか撮れないんですよね(笑)。今回の写真集で多く入れているような日中の写真を撮るには、こちらの存在を消して、相手に警戒心を持たせないことが大事ですね。」
●なぜ、飛べなくても生き残れたんでしょうか?
「元々、沖縄にはヤンバルクイナの天敵がいなかったんですね。なので、飛ばなくても襲われる心配がなかったので、羽根がどんどん退化してしまって、飛べない鳥になってしまったのではないかといわれています。」
●飛べなくても大丈夫な環境だったんですね。普段はどんなものを食べているんですか?
「私が見た限りでは、トカゲやカタツムリ、ミミズ、昆虫類ですね。地面をほじくりながらエサを探して、食べて歩きまわってますね。」
●赤くて長いクチバシで捕まえるんですね。
「そうですね。草に止まっているのを捕まえて食べてますね。」
●食べてる姿が想像できました(笑)。鳥はつがいになって子育てをするイメージがありますが、ヤンバルクイナの子育てはどんな感じなんですか?
「ヤンバルクイナも夫婦揃って、仲良くエサを取ってヒナに与えてますね。ただ、他の鳥は巣の中にヒナを入れてますけど、ヤンバルクイナの場合は地面に巣を作ってしまうので、卵からヒナが孵ると、ヒナはすぐに巣から出て、親についていきます。」
●そうなんですね。鳥はつがいで生涯添い遂げる種類とペアを変える種類がいるとうかがったことがあるんですが、ヤンバルクイナはどうですか?
「“つがいで生涯添い遂げる”といわれていますけど、実際はまだヤンバルクイナ自体の生態がはっきりと分かっていないんですよね。“おしどり夫婦”という言葉にも使われているオシドリも、同じつがいで生涯添い遂げると思われていたのが、実際は毎年相手を変えていたということが分かったので、ヤンバルクイナもずっと同じつがいなのかは完全には分かってないんですよね。」
※ここで、放送では、ヤンバルクイナの声を聴いていただきました。この声は、「おきなわカエル商会」というサイトを運営されている小原祐二さんよりご提供いただきました。どのような声かは、おきなわカエル商会のサイトで聴けますので、是非チェックしてみてください。
●ヤンバルクイナがいる“やんばるの森”は、どのあたりにあるんですか?
「沖縄本島の北部に東村・大宜味村・国頭村という3つの村があるんですけど、そこをまたがっている森を“やんばる”といいます。世界で唯一、そのやんばるの森にだけヤンバルクイナは生息しています。」
●どのぐらいの広さがあるんですか?
「面積はおよそ340平方キロメートルあって、沖縄全体の面積の15パーセントを占め、日本全体では0.09パーセントを占めます。そこに珍しい動物や鳥などが生息しています。」
●ヤンバルクイナ以外にどんな珍しい生物がいるんですか?
「鳥でいえば、“ノグチゲラ”という特別天然記念物に指定されているキツツキがいるんですけど、それも世界中でやんばるにしか生息していません。そして、哺乳類だと“ケナガネズミ”、爬虫類だと“リュウキュウヤマガメ”、昆虫だとヤンバルクイナよりも後に発見された“ヤンバルテナガコガネ”といったものがいます。どれも天然記念物に指定されている代表的な固有種ですね。」
●だから“東洋のガラパゴス”といわれたりするんですね。それだけ環境が豊かだということなんですね。
「そうですね。亜熱帯性のジャングルなんですけど、そこに“ヒカゲヘゴ”という10メートルぐらいまで伸びるシダがあるんですけど、そういうのが生い茂っている、恐竜時代のようなジャングルです。」
●そんなところに江口さんが初めて足を踏み入れたとき、どんな気持ちでしたか?
「あまりにも森が深すぎて、『とてもじゃないけど、ヤンバルクイナには出会えない』と思いました。実は、それ以前にもノグチゲラを撮るためにやんばるの森に入ったことがあったんですけど、100羽しかいないといわれているノグチゲラは撮影できたのに、当時1,700羽いるといわれていたヤンバルクイナは姿さえ見えませんでした。だから『いつかはヤンバルクイナに出会いたい』という想いがずっとあって、それからやんばるの森に通うようになりましたね。」
●やんばるに通うようになったのは、ヤンバルクイナに会うためなんですね。何回目ぐらいで会えたんですか?
「当時、ヤンバルクイナに関する情報は“夜、木の枝に登って寝る”という情報以外ない状態だったんですね。なので、やんばるの林道を毎晩車で木の枝1本1本をライトで照らしながら、明け方まで人が歩くスピードで探しましたね。初めて木の枝で寝ているヤンバルクイナを見つけたのが、探し始めてから通算23日目でした。」
●23日目ですか!?
「『いい加減見つかってくれ!』って思ってましたね(笑)。さすがに見つけたときは、手が震えて涙が出ました。」
●ちゃんとシャッターを切れましたか?
「当時フィルムカメラの時代だったんですけど、木に止まっているだけで同じポーズしかしていないのに、36枚撮りのフィルムを10本ぐらい使いましたね(笑)。帰ってきて現像したら、全部同じ写真でした(笑)。」
●それぐらい嬉しかったんですね(笑)。それからは、コンスタントに出会えるようになったんですか?
「見つけたときに自分で学んだというのもあるんですが、ヤンバルクイナは飛んで木に登ることができない鳥なので、まっすぐ生えてる木に登れるはずがないんですよね。初めて見つけたヤンバルクイナも、地面から斜めに生えてる木に登っていたんですね。そのヤンバルクイナを朝まで観察していたら、降りるときも斜めの木を羽ばたきながら、歩いて降りたんですよ。それを見て『斜めに生えてる木にしか登れないんだ!』っていうことに気づいて、それからは昼間に斜めに生えてる木を地図に全部チェックして、夜にチェックしたところを見てみると、2回に1回は見つけられるようになりましたね。」
●写真絵本「世界中で沖縄にしかいない飛べない鳥〜ヤンバルクイナ〜」の中には、貴重なヤンバルクイナの姿が満載なんですが、江口さんが思い入れのある1枚はどんな写真ですか?
「親がヒナにミミズを給仕している写真と、3羽のヒナが日光浴している写真が、この写真絵本の26〜27ページにあるんですが、その写真ですね。これは、ヤンバルクイナ自身が安心しているときじゃないと絶対に行なわない行為なので、これを撮らせてくれたということは、ヤンバルクイナが私を“安全なもの”として見てくれたということなんですよね。そういう意味で、この写真を撮れたことがすごく嬉しかったですね。」
●どうやって、ヤンバルクイナの心を開かせたんですか?
「『こちらの存在を相手に気づいてもらって、害がないことを向こうに覚えてもらうようにするしかない』と思っていたので、同じつがいにヒナが孵る前からずっと張り付きましたね。」
●この写真絵本には、つがいが出会って、卵を産んで、子育てをして、巣立つまでを撮影されているんですが、これは一組の夫婦を追い続けたんですね?
「親子の写真は、全部1つの夫婦のものですね。そうじゃないと、自然の姿を見せてくれないんですよね。どうしてもヒナをすぐ隠してしまうんですが、この写真を見ていただければ分かると思いますが、ヒナも安心して目の前まで出てきてくれたり、日光浴してくれたり、親にエサをねだりに行ってくれたりしてくれましたね。」
●この家族には思い入れが強いんじゃないですか?
「そうですね! 巣立ちは親がヒナを突っついて親離れをうながすようになるんですけど、そこまで付き合いましたね。」
●巣立ったときは泣いちゃったんじゃないですか?
「『これからは1羽なんだから、頑張って生きていけよ!』って思ってましたね。私は、親離れをするところまで見届けられてよかったなと思います。」
●江口さんはこれからもヤンバルクイナを撮影し続けられるんですよね?
「そうですね。ここまで見てきたので、これからも家族が増えていって、絶滅の危機から抜け出せるのかどうかまで見ていきたいと思います。」
●その後のヤンバルクイナのことも、この番組でお話を聞かせてください!
沖縄にしかいない飛べない鳥「ヤンバルクイナ」の知られざる生態のお話、本当に興味深かったです。中でも、エサを食べたり水浴びをしたり、写真集に載っているその姿を見ると『ヤンバルクイナは昼間にこんなに活発に活動するんだ』と驚きました。今後もぜひ江口さんにヤンバルクイナの貴重な姿の写真とお話を届けていただきたいです。
小学館/定価1,365円
江口さん渾身の写真絵本。通い続けた江口さんにしか撮れない貴重な写真ばかり。そして、巻末にはヤンバルクイナの現状なども書かれています。そちらもチェックしてみてください。