2014年7月26日

国際水ジャーナリストの吉村和就さん登場!
「ハンバーガー1個で1,000リットル!?」

 今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、吉村和就(よしむら・かずなり)さんです。

吉村和就さん

 国際水ジャーナリストの吉村和就さんは「グローバルウォータ・ジャパン」の代表、そして、国連テクニカル・アドバイザーとしても国際的に活躍! 日本を代表する水環境問題の専門家のひとりでいらっしゃいます。今回はそんな吉村さんに、私たちの生活に欠かせない“水”にまつわる興味深いお話をいろいろうかがいます。

水は目に見えるだけが全てじゃない!?

●今週のゲストは、国際水ジャーナリストの吉村和就さんです。よろしくお願いします。

「よろしくお願いします」

●今回は、私たちの身近にありながら意外と知らない“水”のことをいろいろうかがっていきたいと思います。吉村さんが以前出版された文庫本『水に流せない「水」の話』の中に“ヴァーチャルウォーター”という言葉が出てきますが、これはどういったものですか?

「“水問題”というと、皆さんは水道やペットボトルなどの“自分に見える水”のことを考えると思いますが、この“ヴァーチャルウォーター”というのは、日本は食料の約60パーセントを海外から輸入していますけど、その食料を海外で育てるときにかなりの量の水を使っているんですね。それを国内で育てることになったときに必要な水のことをいいます。そして、それを計算すると、大変なことになるんです。日本では今、1年間で約580億トンの水を使っているんですが、食料と一緒に入ってくる水の量が約640億トンなんです。なので、国内で食料を育てることになると、単純計算で今の倍の量が必要になるんですね」

※実は、私たちがよく食べている“ハンバーガー”を1個作るのに、1,000リットルの水が必要なんです。“1,000リットル”といってもすぐにはイメージできないと思いますが、いったいどのぐらいなんでしょうか?

「家庭のお風呂が200リットルなので、お風呂の水5杯分の水が必要なんですね」

●なぜそこまで必要なんですか?

「ハンバーガーの中にあるハンバーグの素となる豚肉や牛肉を作るためには、彼らのエサとなる穀物を作らないといけないですよね? まずそこで水が使われます。その育てた穀物を彼らはお腹いっぱい食べるわけですが、少ししかお肉にならないんですね。では、たくさん作るにはどのぐらいの水が必要か。例えば、豚肉1キロを作るためには5,000リットルの水が必要です。それが牛肉となるとさらに必要で、20,600リットルの水が必要になります」

●それだけじゃなく、ハンバーガーを作る過程でも水は必要になってきますよね?

「もちろん調理の過程でも使いますね」

●飲み水が私たちにとって必要だというのはもちろんわかっていましたが、それ以外にもたくさんの水が必要なんですね。

「あと、皆さん携帯電話を持っていますよね。その携帯電話を1台作るためには912リットルの水が必要なんです」

●携帯電話には水の要素がないですよね?

「全くありませんよね。でも、部品を作ったりするために(水を)使ったりするので、全部合わせると、それだけの水が使われているんですね」

●よく工場のラインで水を勢いよくかけてる映像を見たりしますが、ああやって水を使っているから、合わせるとそれだけの量が使われているんですね。

「1つ1つの部品を作るときに、全て水が使われています。プラスチックは温めて冷やさないといけないので、冷やすときに冷却水が必要になってきます。乗用車を作るとなると、1台で65トンの水が使われています。私は水の専門家なので、あらゆるものを水で換算するんですよね。携帯を見ると『あれは912リットルだ!』と思いますし、道路で車が2台走っていると、『2台だから130トンの水が走ってくる!』って思ってしまうんですね(笑)。そういう風に見ると、地球環境問題が違った面からでもよく分かってくるんですよね」

ここ20年で水事情は大きく変化した!

※蛇口をひねれば安心して飲める水が出てくるので、日本は水が豊かな国のように感じます。では、海外の方はそんな日本の水事情をどう見ているのでしょうか?

吉村和就さん

「世界の人が日本に来て一番驚くことは“川がきれい”ということと、“水が豊富”だということなんです。例えば、富士山のあの積雪を見たら『すごい!』って思うわけですよ。溶岩を通ってきて、バナジウムが一部入って、富士山の頂上に積もった雪が解けて柿田川に流れるまで75年かかってるんですよ。だから、あの水は75年モノのミネラルウォーターになるんですね」

●蛇口をひねれば飲める美味しい水が出てくるにも関わらず、最近では水を買う人が多くなりましたよね。

「私も20年前では、日本でボトルウォーターが売れるとは思ってもみませんでした。当時、ミネラルウォーターというと、ウイスキーの水割り用のものしかなかったんですけど、1980年になると“六甲のおいしい水”というミネラルウォーターが発売されました。それが今のミネラルウォーターの始まりだと思います。そこから、女性にとってダイエットや美容にいいということで、ボルヴィックやエビアンが出てきて、それらがコンビニで買えるようになってから、急激にこのマーケットが成長していきましたね。金額でいうと、ミネラルウォーター全体で2,500億円なんですけど、その中で私が特に驚いているのが、各家庭に配る“宅配水”が1,200億円ぐらいのマーケットということで、ものすごい勢いで増えているんですよね」

●実は水道水もすごく安全なんですよね?

「そうなんです。水道水の検査項目は100個以上あるので安心なんですが、注意しないといけないのは、浄水場を出たばかりの水はいい水だけど、配管が古いと中のサビとかが入って、私たちの家の蛇口に来るまでに水が汚れる可能性が高いんですね。でも、世界的に見ても、蛇口から直接(水を)飲める国って11ヵ国しかないんです。そして、国連に加盟している194ヶ国のうち、水源を持っている国は22ヵ国しかないんです。日本は島国なので水源を持っていますが、持っていない国は国際河川に頼っている状態で、そこには必ず水を巡る争いがあるんですね。
 “ライバル”っていう言葉はご存知ですよね。その語源は、実は“River”なんですよ。人類における最初の大きな争いは川の水を巡る争いだったんです。だから、“ライバルの語源はRiver”。ここにも水が関わってくるんですね」

戦国武将は土木工事の専門家!?

※昔から水を上手に使っていた日本人。歴史上の有名な武将たちを語るにも“水”が欠かせないそうです。

「戦国大名や徳川家康もそうなんですが、一番の関心事は戦いじゃなかったんです。平安時代の後期から税金の代わりにお米が納められていたんですね。なので、自分の国を強くしようと思ったら“いかに稲作で米を作るか”にかかっていて、これを上げれば力がどんどん出てきます。ということで、水田を開墾したり、稲作に必要な用水路を作ったりしたんですね。だから、土木工事が一番優れた人が戦国大名だったんです。ところが、学校の歴史の授業では戦いのことしか言ってないんですよね。
 私は水の専門家なので、水の観点から見ていきますが、そこにいる民衆にお金が回るようにして、自分のところにお金が入ってくるようにするには、稲作をちゃんとする必要があったんです。そのためには土地を作って、用水路を整備します。そして、作った田んぼが洪水で流されないようにするために堤防を作ったりしていました。これが日本の歴史なんですね。
 例えば、熊本の加藤清正は、鉄砲水が出ると大変なことになる阿蘇山の麓に用水路を作って、熊本城を作りました。熊本の人たちはみんな阿蘇山の地下水で暮らしているという世界でも稀なところなんですが、そこの用水路を作って整備したのが加藤清正なんです。次に武田信玄。彼は堤防を作ったりしていたんですが、私たちが堤防を作ると、しっかりしたものを作るんですが、彼は一部弱いところを必ず作っておいて、ある程度の水位になるとそこが壊れるようにして、町に水がいかないようにしていたんですね」

●ただやみくもに堤防を作るのではなくて、少し遊びを入れたりしていたんですね。

「自然科学の中で天然現象には絶対に勝てないので、渡良瀬(わたらせ)の遊水地のように一部堤防が破壊されるように作って、水を遊ばせておくことで町を守るということをしてきました。つまり、皆さんが授業で習ってきた戦国武将や有名な人の裏では、みんな土木屋さんが活躍していたんですね。ところが、それを歴史の授業では誰も教えてくれないんですよね(笑)」

●(笑)。ということは、水を制した者が国を制していたんですね!

水はどこから来て、どこに流れていくのか!?

※実は今、私たちが知っておきたい、水に関するある深刻な問題があるんです。

吉村和就さん

「最近危ないのは“水源地”です。例えば、中国系の方たちがニセコの水源地を買ったり、富士山の湧き水の権利を取ったりしているんですね」

●そういった日本の豊かな水資源が、海外の人のものになっているということなんですね。それって大変なことですよね?

「大変なことなんです。水源地が押さえられると、私たちが水を取ってくることができないので、埼玉県など一部では水源地条例を作って、海外の方たちが水源地を買うことを少しでもブロックしようという動きがありますね。実は、日本の国土における山林の割合って約7割あるんですが、その中で誰がどのぐらい持っているのか(地主が)はっきりしていないところが半分近くあるんですね。
 仮に私が山林を持っているとすれば、その権利は上と下に及ぶということが民法207条で定められているんです。なので、上の木と下の地下水が私のものになるんですね。それを海外の人に売ってしまえば、それら全てが海外の人のものになるということなんです。そして、日本の法律では、海外の人たちが誰でも山林を買うことができるようになっているんです」

●そうなると、場合によっては、日本が日本じゃなくなる可能性もあるということですよね?

「そうなんです。水の場合は上流を押さえられるのが一番怖いんですね。例えば、国際河川のドナウ川やナイル川、メコン川なども、上流にある国が強いんですよね。特にメコン川の上流にはチベットや中国、ラオスやカンボジア、タイがありますが、今では中国がダムをどんどん作っていて、その下にあるラオスは発電のためのダムを作っているんです。なので、メコン川の水位が5メートルぐらい下がっているんですね。そうなると、下にある国が大変なんです」

●もっと水のことに関心を持たないといけないんですね!

※吉村さんはこんな問題点も指摘されています。

「実は、私たちが学生時代に水のことを学んだのって、小学4年の社会科しかないんですよ。このときには浄水場を見に行ったり、社会科見学して終わりだったんです。だから、今家庭で蛇口をひねって水が出てきますが、その水がどこの川から来ていて、使った後にどこの下水処理場で処理されているのか、そして、最終的にどこに行くのかが誰も分からないんですよね」

●恥ずかしながら、私も分からないです。

「なので、まずは“自分が使う水がどこから来て、どこに流れていくのか”を知っていただき、そして全てを水換算で見ていただくと、水のありがたみがよく分かると思います」

●これからどういった方向に向かっていくのが理想だと思いますか?

「今、世界の人口が72億人と言われていて、2050年には90〜100億人に達すると言われています。そうなると、水の量は今の1.5倍必要なんですね。その理由は“経済の発展”と“人口増加”、そして“一人当たりの水の需要増加”にあるんです。これらは、文化導入に応じてのものなんですね。ただ、今でも水は世界中で足りないんです。だから、水をうまく使っていくには、使った水を再生水として使うか、雨水を貯めて使うということをして使っていかないと、これからどんどん足りなくなっていきますね。
 “日本は水に恵まれている”と思われていますけど、実は危ない橋を渡っている状態だったりするんです。なので是非、水に関わることを色々と勉強していただいて、水を大事にしてもらえれば、最終的には世界に貢献するということを、みんなで話してもらえればと思います」

YUKI'S MONOLOGUE 〜ゆきちゃんのひと言〜

 今回吉村さんに“ヴァーチャルウォーター”という概念を教えていただきましたが、目に見えない所で、本当にたくさんの水を使っていたということに驚きました。“水の惑星”と呼ばれる地球ですが、実は私たちが使える水は地球上の水の僅か0.01%。それでも、蛇口をひねれば当たり前のように水が出てくる、日本の現状は本当にありがたいですね。私たちの身近にある大切な“水”のこと、もっと知りたいと思いました。

INFORMATION

グローバルウォータ・ジャパン

 吉村さんが代表を務める「グローバルウォータ・ジャパン」。そのオフィシャル・サイトには“世界の水と環境の問題解決を提言するサイト”と書かれています。そのサイトには、これまでの講演やセミナーなどの記録や本の紹介ページなども載っています。

「水に流せない“水”の話〜常識がひっくり返る60の不思議」

 中でもオススメの本は「水に流せない“水”の話〜常識がひっくり返る60の不思議」(写真右)。今回お話していただいたことも載っていて、すんなり読める本です。詳しくはオフィシャル・サイトをご覧ください。

今週のオンエア・ソング

オープニング・テーマ曲
「GRACIAS / LARRY CARLTON」

M1. DROP / CORNELIUS

M2. OVERJOYED / MARY J. BLIGE

M3. THE RIVER / BRUCE SPRINGSTEEN

M4. RHYTHM OF THE RAIN / THE CASCADES

M5. THE RIVER OF DREAMS / BILLY JOEL

M6. 花 / 石嶺聡子

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」