2014年9月20日

旅はいつも宝探し

 今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、三井昌志さんです。

三井昌志さん

 写真家の三井昌志さんは、主にアジア、例えばインドやネパール、ミャンマーなどを旅しながら、そこに暮らす人々の写真を撮ってらっしゃいます。特に子供たちの笑顔や、働く人たちの姿をとらえた写真が素敵なんです。今回はアジアの田舎に暮らす普通の人たちに魅了された三井さんに、旅で出会った人たちのお話などうかがいます。

初めての海外旅行が10ヵ月!?

●今回のゲストは、写真家の三井昌志さんです。よろしくお願いいたします。

「よろしくお願いいたします」

●三井さんはアジアを中心に旅をしながら、人々や風景の写真をたくさん撮影されていますが、旅に出ようと思ったキッカケは何だったんですか?

「2000年に『このままサラリーマンをやっていても、人生面白くないな』と思って、一度リセットするために、それまで勤めていた会社を辞めたんです。それまで海外旅行には一度も行ったことがなくて、パスポートも持ってなかったんですね。辞めてから半年ぐらい何もしてなかったんですが、ふと『旅に出てみるのもいいかな』と思って、パスポートを取得して初めて海外に行ったら、それが10ヶ月にも及ぶ長旅になってしまったんです」

●いきなりそんな長旅になったんですね!

「だから、ホップ・ステップを飛ばして、いきなりジャンプをした感じですね。みんなから『そんな奴はいない』って言われますね(笑)」

●(笑)。その長旅の最初に訪れた場所はどこだったんですか?

「最初は香港で、ベトナムに行ってから東南アジアを回ってからヨーロッパまで行ってからシベリア鉄道に乗ってモンゴルに行って、中国に行ってから日本に帰るというルートを考えたんですね。というのも、元々はイタリアやスペイン、ポルトガルなどの南欧に憧れがあって、ヨーロッパに行きたかったんですね。そう思っていたときに世界地図を見たらアジアがあるじゃないですか。『行ってみたいな』と思って、ヨーロッパに行くための途中下車みたいな感じで行ったんですけど、結果的にまだヨーロッパ行ってないですね(笑)」

●まだ寄り道の途中を楽しんでるんですね(笑)。

「それだけアジアが面白かったですよ。アジアの熱気や人々の笑顔などの写真を撮りながら旅をするのが僕には合っていたので、それからもアジアを中心に旅をしています」

●写真を撮るようになったキッカケは何だったんですか?

「旅を始めたときはプロの写真家になろうと思ってなかったんですが、何ヶ月にも及ぶ長旅になることは分かっていたので、とりあえず一眼レフのカメラを買って何かの記念になればと思って撮っていたんですよ。ベトナムやカンボジアに住んでいる人々の写真を撮っていると、どんどん楽しくなって、彼らをメインに撮影するようになりました」

●人を撮ろうと思ったのは?

「僕は何もないところに行くんですよ。例えば、ベトナムにも世界遺産とかありますが、そこには行かずに、世界遺産のある街に行って自転車を借りて、反対の方向に行くんですね。ガイドブックにも載っているところじゃないところに行きたくなるんですよ。観光地の半径3キロぐらいの圏内は“よそいき”の顔なんですね。でも、それより外に出ると、大きな観光地であったとしても農家に人がいたりするので、いかにそういったところに行くのかが、僕の課題だったりします。行けたら、そこに住む人々の本当の暮らしや顔が見えてくるので、今ではずっとそういう旅をしていますね」

“あんたに会いにきた”!?

※三井さんが、アジアのどんなところに惹かれているのか聞いてみました。

「人が面白いし、笑顔がステキだから、僕はよく子供の笑顔とか撮っているんですね。ネパールやミャンマー、カンボジアなどの人たちは初対面の僕みたいな人に対しても素晴らしい笑顔を見せてくれるんですよ。そういう国って、そんなに多くはないので、そういう国は何度も旅してますね」

三井昌志さん

●三井さんの写真を見せていただきましたが、笑顔がステキな写真ばかりなんですよね。こんなステキな笑顔が出るのって、なぜなんでしょう?

「それは僕も色々と考えるんですよ。まず一つに“情報やモノがあまりない”というところだと思うんですね。ネパールもミャンマーも田舎に行ったら、今でも電気がない暮らしをしている人がたくさんいますし、外国人が自分の村にやって来るなんてないことなんですよ。だから『何しに来たんだ?』って好奇心の目で見てくるんですよ。それに対して僕は写真を撮るということでコミュニケーションを取ることができるんですね。今はもうデジカメですから、撮った写真を見せると『私って、こんな顔してるんだ! あなたも撮ってもらいなさいよ!』ってことでどんどんコミュニケーションを取ることができるんです。そうやって、いい関係を築いていってます。
 見慣れない顔の外国人がやってきたら、子供たちが付いてくることもあるし、大人たちも『何してるんだ?』って話しかけてくれたりしますね。『この辺、散歩してるんだ』と返したら『何にもないぞ!?』ってよく言われるんですよね(笑)。そこは観光地じゃないから『お前、あそこにある素晴らしいお寺は見たのか?』って聞かれるんですけど、『いや、見に行ってない』って返すと、『是非見に行ってくれ!』って言ってくるんですよ。『いや、行かずにここにいる』っていうと『じゃあ、何しに来たんだ?』って聞かれるんですよね。そこで僕は『おっちゃんに会いにきたんよ』って答えてます。もちろん、行く前はそのおじさんがそこにいることは知らないですけど、行ったら、そこに笑顔が素晴らしい親切なおじさんがいたんですよ。そういう偶然の出会いを求めて旅をしているので、『何しに来たんだ?』って聞かれたら、『あんたに会いにきた』って答えてます」

●旅はいつも宝探しみたいな感じですね。

「そうですね。どこに宝が埋まっているのか分からないですけど、どこかには“素晴らしい笑顔”という宝物が隠されていると信じているので、それを見つけられるようにしてますね」

※そして、三井さんがもう1つ撮り続けているのが“働く人”。どうしてその写真を撮るようになったのか聞いてみました。

「最初のころはあまり目を向けてなかった“働く人”というのも、最近は子供たちの笑顔ばかりじゃなくて、おっさんの流してる汗やマッチョな感じっていうのにも惹かれるようになって、よく撮るようになりました」

●今まで、どんな働く姿を撮ってきたんですか?

「農業、漁業はもちろん、海岸線に海水を張って、太陽の光で蒸発させて塩を作るところなどを撮影しました」

●写真を見たんですけど、働く姿ってカッコいいですよね!

「カッコいいんですよ! 一番いいのは“本人たちは自分のカッコよさに全く気づいてない”ところなんですよね。僕がカメラ向けると、悪い気はしないんでしょうけど『なんで俺を撮るの?』っていうんですよね。僕は『あなたのその姿がカッコいいんですよ!』って返すんですね。別にポーズを取ってるわけではなく、ただただ重い荷物を背負ってるだけなんですけど、その重い荷物を背負うことで付いた筋肉や汗のテカり方がすごくステキなんですよね。だけど、彼らはそれがカッコいいとか思ってないんですよ。日々の労働をしているだけであって、それによって出来上がった体というだけなんですよね。その自然体にすごく惹かれるんですよ」

早回しの人生

※三井さんがアジアを旅したときに、こんなことがあったそうです。

「インドを旅していたときのことなんですけど、バイクを停めておいて、街中を1〜2時間歩いて写真を撮るっていうことがよくあるんですね。撮影を終えてバイクのところに戻ってエンジンをかけようと思ってポケットをまさぐったら、鍵がないんですよ! 『鍵なくした!』と思って慌ててたら、隣でミシンを動かしてた仕立て屋の若者が飛んできて、『お前、危ないじゃないか!』といって、鍵を持ってるんですよ! どうやら、鍵を付けっぱなしにしてて、鍵を取るのを忘れてたんですね。それを彼はちゃんと見ていてくれて、『誰かに盗まれたらいけないから、俺がちゃんと鍵を取って預かっておいたんだ。以後気をつけるように!』って言ってくれたんですね。彼はすごく親切にしてくれましたね。向こうではそういう人いっぱいいて、『お前、鍵取るの忘れてるぞ!』って言ってくれたの何度もあります(笑)。すごく感動的なものに出会って、写真を取りたいと思ったら、鍵を取るのを忘れちゃうんですよね。それを見てインドの人たちは注意してくれるんですけど、『あんたたちがおるから大丈夫や』っていつも言うんですよ。でも、彼らは『我々のようにいい人ばかりじゃないよ』って言うんですね。確かにそれは事実なんですけどね」

三井昌志さん

●これまで働く姿やステキな笑顔を見せてくれた人たちとの印象的なエピソードってありますか?

「最初の旅のときにネパールで出会った、当時6歳のサリタという少女がいるんですけど、その子の笑顔がすごくステキで、その子の笑顔の写真が僕の最初の写真集の表紙になったんです。それだけ僕にとって思い出深い存在で、『いつかまた訪れたいな』と思って、3年後に彼女に会いにいったんですね。最初に会ったときはステキな笑顔だったサリタだったんですが、9歳になった彼女からその笑顔がなくなりつつあったんですよ。そのときに初めて名前とか色々な事情を聞いたんですけど、彼女の家はネパールの中でも貧しくて、お父さんは飲んだくれでどこかに行ってしまい、お母さん1人で働きながら4人の子供の面倒を見ているという状態だったんです。サリタは4人兄妹の長女で、小学校にも行けずにお母さんと一緒に下の子たちの面倒を見てるんですよ。6歳のときは弾けんばかりのステキな笑顔を見せていたサリタですが、9歳で結構重い人生を背負ってしまってるんですよ。
 それ以降、何度もその村を訪れて彼女に会って、個人的に手助けとかやってたんですね。そうこうしていると、2012年に17歳になったサリタに会いにいったんですよ。そうしたら、彼女は結婚していて、妊娠5ヶ月だったんですよ。これってネパールではよくあることなので、それほど驚くことじゃないんです。実際に、サリタのお母さんもサリタを16歳のときに産んでるんですね。だから、お母さんは33歳で孫ができるんですよ。すごく早回しの人生なのかと思うんですが、ネパールでは20歳になる前に子供を産むのは普通のことで、特に農村だと今でもそうなんです。だから、子供の時代がすごく短いんですよ。日本だったら、子供の時代ってすごく長いじゃないですか。そういう意味では、ネパールなどに住んでいる子供たちはすごく圧縮された人生を送っていて、すぐに大人にならないといけないんですよ。だからこそ、6歳のときにエネルギーが凝縮された笑顔を見せてくれるんだなと思いましたね。やっぱり、日本と置かれている状況が全然違って、それぞれの人生の長さも違う中で生きてるんだなと感じました。その少女のたった11年間しか接していませんでしたが、半生を早回しで見たような気がして、とても印象に残ってます」

コツは“心地いい距離”

●これから行ってみたい国や撮ってみたい場所ってありますか?

「今年の終わりぐらいにはインドに行こうかなと思っています。3年おきぐらいにインド熱が高まってくるんですよね(笑)。インドって、人もうるさいし、12億人もいるので、行くとすごく疲れるんですよ。だから行った後は『もういいかな』って思うんですけど、そこから3年ぐらい経つと『また行きたいな』ってすごく思うようになるんですよ。だから、今はインドが恋しいですね」

●確かに、インドって広いですからね。

「広大なんですよ。その上、多様なんですよ。1つの州に人口が1億人いたりするんですよね。1億って、1つの国と一緒ですからね。それに、言葉も違うんですよ。隣の州に行ったら使ってる言葉が全然違うということがあったので、インドはもはや1つの世界なんですよね。僕もまだ知らないところがたくさんあります」

●そこで、どんな写真を撮りたいですか?

「“働く人”というのが、僕の写真のテーマのベースになっていますが、それだけじゃなく、見たことがないものを見て驚きたいなと思っています。今は情報網がすごく発達していて、インドの情報をたくさん得られると思いますが、まだ分からないこともたくさんあるので、それを見てみたいですね」

●笑顔の写真を撮るコツってありますか?

「コツは“1歩でもいいから人に近づくこと”ですね。最近は望遠が付いているカメラも多くなってきたので、横着する人もいたりしますけど、人との距離は写真に絶対に出るんですよ。僕が心地いいと思う距離は、今こうして話してる1〜1.5メートルぐらいなんですよ。その心地いい距離に入ることが一番大事だと思いますね」

●気持ちの上で心がけていることってありますか?

「“考えずに感じる”ようにしてますね。一番いい写真が撮れたときって、自分の心を解き放っているから、あまり覚えてないんですよ。今回の写真集のタイトルにもしましたが、“写真を撮るというのは、恋すること”だと思うんですね。本当の恋愛じゃないけれど、それに近い感情があって、それに巡り会ったときには『ステキだな』って思ってるんですよ。それは女の子だけじゃなくて、おばあさんのしわだらけの顔とか、おっさんの働く汗に対しても、小さいながら恋をしてるんですよね。その“好き”“これを残したい”という気持ちが前に出ていくので、それを写真にすることで、それが伝わると思うんですよ」

三井昌志さん

YUKI'S MONOLOGUE 〜ゆきちゃんのひと言〜

 三井さんは写真集の最後にこんな言葉を書かれています。「人には笑顔になる力がある。その力は僕にもあなたにも彼にも彼女にも。この世に生きるすべての人に備わっている」。本当に素敵な言葉ですね。そんな「笑顔のちから」も感じられる三井さん最新の写真集「写真を撮るって、誰かに小さく恋することだと思う。 」をぜひチェックしてください。

INFORMATION

書籍情報

「写真を撮るって、誰かに小さく恋することだと思う。 」

写真集
写真を撮るって、誰かに小さく恋することだと思う。

雷鳥社/本体価格1,500円

 三井さんの最新の写真集となるこの本には、アジアの旅で出会った子供たちの笑顔がたくさんつまっています。表紙の無邪気に笑う女の子の写真が素敵ですよね。

「撮り・旅!〜地球を撮り歩く旅人たち〜」

写真集
撮り・旅!〜地球を撮り歩く旅人たち〜

ダイヤモンド社/本体価格1,600円

 オムニバス形式の写真集で、三井さんの素敵な写真が掲載されています。

オフィシャルサイト

 三井さんのオフィシャルサイトには、フォトギャラリーや近況をつづったブログもあります。気になる方は是非ご覧ください。

今週のオンエア・ソング

オープニング・テーマ曲
「GRACIAS / LARRY CARLTON」

M1. さすらい / 奥田民生

M2. HELLO, YOU BEAUTIFUL THING / JASON MRAZ

M3. 旅に出よう / LOVE LOVE LOVE

M4. THE INNER LIGHT / THE BEATLES

M5. HOPE / EMELI SANDE

M6. SMILE / NAT KING COLE

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」