2014年10月18日

“「水の皆既月食」ナイトウォーク”体験リポート
〜水面に映る月食を味わう〜

 今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、中野純さんです。

中野純さん

 今回は、先日、千葉県北部にある手賀沼で開催されたツアー“「水の皆既月食」ナイトウォーク”の体験取材の模様をお送りします。このツアーのガイド役は、以前ご出演いただいた文筆家の中野純さん。中野さんは、ナイトハイクの心得などを書いた「闇と暮らす」という本や、「“闇学”入門」という新書も出され、ナイトハイクのスペシャリストとしてもご活躍されています。
 そんな中野さんがガイドするこのナイトウォーク・ツアーに長澤も参加して、手賀沼の夜と素晴らしい“皆既月食”を体験してきました。特別な夜に、スペシャルな楽しみ方で“月を味わう”貴重な体験の模様をお送りします。

初めてのリセット感!?

※長澤たちも含むツアー参加者が集合場所の北柏駅を出発。北柏ふるさと公園に到着しました。

中野「今夜は“手賀沼「水の皆既月食」ナイトウォーク”を行ないます。ここから、手賀沼をぐるっとまわって、22時ぐらいに我孫子駅に戻ってくるような感じで歩きたいと思います。距離にして9キロぐらいですね。今日、懐中電灯を一応お持ちいただいているかと思いますが、基本的には点けないで歩きましょう。
 今日はタイトルの“水の皆既月食”にあるように、水に近いところを歩いていきますので、所々で水面に映る欠けた月と皆既月食の様子を見ていただきます。それと、杯(さかずき)やカップなどに月食を浮かべて飲んでみたりしようと思います。では行きましょう」

※手賀沼の遊歩道に向かいます。

中野「これから橋を渡って、手賀沼の南側のほとりを歩きます。手賀沼といえば、大正時代に“北の鎌倉”と呼ばれ、北側のほとりに志賀直哉や武者小路実篤といった文人が住んでいました。それに対して、これから歩く南側は田んぼしかないようなところですが、今日みたいな夜をじっくり味わうにはピッタリな場所です。それでは行きましょう」

※さらに足を進めます。

ナイトウォーク

●中野さん、ナイトウォークの醍醐味ってなんですか?

「色々ありますが、いちばんは“心身のすみずみからストレスが解消されるようなリセット感”ですね」

●私、今日初めてナイトウォークをするんですが、そういうリセット感を味わえるんですね。

「今日はどうですかね(笑)。闇がやや浅いですからね」

●じゃあ、ややリセットぐらいですね(笑)。今、私の影が月明かりでうっすらと伸びてますね。これが、月食が進んでくると、見えなくなってくるんですね。

「そうですね。これぐらいの暗さでも、月の光は強いので、自分の影がしっかりと出るんですよ。でも、今はもうかなり弱い影しか見えないですね。まだ欠けてる部分よりも光ってる部分の方が大きいですが、明るさは半月(はんげつ)よりも暗くなってますね」

●色も変わってきましたか?

「赤みが出てきましたね」

まもなく皆既月食!

皆既月食

●手賀沼を見る展望台の辺りまで来ました。ずいぶん月が欠けましたね。下の方がオレンジっぽくなってきました。これは赤い光だけが月に届いているということですよね?

「そうですね。夕焼けと同じ原理で赤い波長だけが残って届いているんです。今はまだ上の方が隠れていないんですが、光っている部分が全て消えると、赤い部分が浮き上がってきます」

●真っ暗になる皆既月食ってあるんですか?

「ほとんど見えなくなるということもあるらしいですが、僕はまだ見たことがないです」

※さらに移動します。

●今、手賀沼の周りを歩いていますが、ここは元からこういう地形だったんですか?

「いや、江戸時代初期に干拓をして、水田地帯になりました。水田地帯になる前は霞ヶ浦の方から印旛沼や手賀沼の方まで大きな入り江になっていて、“香取の海”と呼ばれていました。なので、こんなにも平たい景色が広がっているんですね」

●ということは、ここは海だったんですね。そして、こうやって暗いところを歩いていると、普段とは感覚が全然違いますね。

「そうですね。闇の中では、普段気にしていない触覚などもすごくよく感じるようになります。夜霧の中を歩いていると、霧の一粒一粒が当たるのを感じる気がするぐらい敏感になりますね」

●今まで触覚を意識して歩いたことがありませんでした。「風を切ってる感じがするなぁ」と思っていたんですが、そういうことだったんですね。

皆既月食

「さぁ、いよいよですね!」

●黄色い部分がほとんどないですね!

水面に映る皆既月食はまさかの・・・!?

※水面に映る月食を観察する今回のツアーですが、手賀沼に映る月は何色に見えるのでしょうか?

「皆既月食が始まりましたね」

●橋の上に移動してきたんですが、沼の水面に月が映るのが見えるかどうか・・・。おーっ、見えました! あそこにうっすらと映ってますね! ぼんやりとですが、緑がかったオレンジ色の月が見えます。神秘的です!

皆既月食

「皆既月食が始まってから30分ぐらいの間はどんどん暗くなっていきます。今はまだ上の方が下の方に比べて明るい色になっていますが、それがどんどんと暗くなっていきます。それと今、川の水面に皆既月食が映っていますが、『さぞかし赤い月が映るんだろうな』と思いきや、緑色に見えるじゃないですか。さっきまで少し赤みがあったかもしれませんが、今はもう完全に緑色ですよね。不思議なことに、皆既月食の月は水に映ると緑色になるんですよ」

●なんで緑色なんですか?

「恐らくですが、月の光がすごく弱くなってしまったことで、いちばん弱い光は緑っぽく見えるんですよ。水面に見える月はほんとに光が弱いので、光が弱いと緑とか青系の色に人間の眼は敏感になるので、それで緑っぽく見えるんだろうなと思います。
 今、月が雲に隠れてしまいましたが、空にある月も緑っぽく見えませんか? だから光がものすごく弱くなると、緑っぽく見えるようですね」

●青緑色の月が見えます。不思議ですね。

月を飲む!?

皆既月食

※皆既月食が始まるタイミングで雲がかかってしまい、観察が難しかったという方も多かったと思いますが、雲の切れ間から月が見える瞬間がありました。そのときに中野さんから“月遊び”を教えていただきました。

●これは何ですか?

「大きな杯(さかずき)に紅茶を入れました。紅茶じゃなくてお酒でも水でも何でもいいんですが、その飲み物の水面に皆既月食の月を映して飲む“皆既月飲(かいきげついん)”ということをしています」

●私が持っている杯にも先ほど見た緑色の月が紅茶の上にゆらゆらと踊っています! これ飲んでいいんですか?

「どうぞ。飲むと“ツキ”が回ってきますよ」

●それでは、いただきます! “ツキ”が回ってきたような気がします(笑)。“月を飲む”って初めての体験なので、いいですね。

「実は、日本や中国にはそういう風習があったんですよ。例えば、江戸時代の吉原では、十五夜に杯にお酒を入れて、お酒に月を浮かべて飲むということをしていました。月は満ちて欠けて、新月のときになくなりますが、また満ちていくので、当時は“再生と若返りの象徴”と考えられていました。それに、“ツキ”がついて健康になったり、長生きしたり、若返ったりする効果があると考えられていました。ただ、その行為に名前がなかったので、僕はそれを“飲月(いんげつ)”と呼んでいます。
 お酒や紅茶だけじゃなく、豚汁やけんちん汁など、油の玉がある汁物に月を浮かべると、その油の玉1つ1つに小さい月が映って、それら全部を飲むということもしてますね」

●他にも月遊びってあるんですか?

「色々ありますよ。月の光というのは太陽の光を反射したものなので、太陽の光でできることは月の光でも大抵できます。例えば、月に背を向けて霧吹きで霧を出せば銀色の虹がかかるんですね。なんで銀色なのかというと、暗いから銀色に見えるんですけど、そういう幻想的な虹が月の光で見えます。霧吹きはどこにでも持っていけるので、僕は“携帯月虹(けいたいげっこう)”と呼んでいます。
 あとは“自分月食(じぶんげっしょく)”という遊びもあります。双眼鏡や老眼鏡などの凸レンズを使って、自分の手のひらや手の甲などに月を投影させます。そうすれば、小さな月が自分の肌に映ります。月食のときには、欠けたサイズで映るんですよね」

あっという間の闇歩き!?

●今回は北柏駅からスタートして手賀沼をずっと歩いて我孫子まで戻ってきました。4時間と聞いて「長いな」と思っていたんですが、歩いてみると見所満載で、あっという間でしたね。

「そうですね。要所要所で水面に映る月食を色々な表情で見ることができてよかったですね。月はありましたが月食だったので、闇の中を歩くことになりましたが、闇の中を歩くと時間が経つのが早く感じますよね」

●本当そうですね。今回初めてナイトウォークを体験させていただいたんですけど、暗いと怖かったり心配するところがあったんですが、歩いてみると目が慣れてきますし、風や音など、明るいときには気づかなかったことにたくさん気づきました。

「最初はやっぱり怖いと思いますが、そう思うのは最初のうちだけで、あとはどんどん心地よくなっていきますね」

●そして、月明かりを浴びると「月ってこんなにも明るかったんだ」って思って、自然の凄さも感じますね。

「そうですね。今日は里でしたが、これが山だと月明かりの凄さにますます驚くと思いますよ」

●次回は是非、山にも案内してください!

「そうですね。夜の山も一緒に歩きましょう」

※この他の中野純さんのトークもご覧下さい。

YUKI'S MONOLOGUE 〜ゆきちゃんのひと言〜

 私も以前からナイトウォークを体験してみたかったのですが、なかなか女性一人だと不安も大きかったので、今回のツアーに参加できてよかったです。安心して“闇”を楽しむことができました。なにより、月の眩さ、風の気持ちよさ、美しい虫の音、普段明るくてなかなか気づかないことを“闇”にたくさん教わった気がします。

INFORMATION

「闇学」入門

「闇学」入門

集英社新書/本体価格720円

 中野さんが今年出版したこの本は、“闇”を深く追究・分析した本。日本には昔から闇を楽しむ文化があり、いかに闇が日本人の感性を育んできたのか、そんな興味深い話題が満載です。

オフィシャルサイト

 中野さんは2015年1月に千葉県の鋸南町にある「水仙ロード」をフィールドに行なうツアー「月光・水仙・トワイライトハイク」も予定。他にもナイトハイク・ツアーを企画中だそうです。詳しくは中野さんのオフィシャル・サイトをご覧ください。

今週のオンエア・ソング

オープニング・テーマ曲
「GRACIAS / LARRY CARLTON」

M1. MOONLINGHT SHADOW / MIKE OLDFIELD

M2. HARVEST MOON / NEIL YOUNG

M3. MOONLIGHT SERENADE / FRANK SINATRA

M4. MOON RIVER / AUDREY HEPBURN

M5. 14番目の月 / 荒井由実

M6. DANCING IN THE MOONLIGHT / 大橋トリオ

M7. 花鳥風月 / ケツメイシ

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」