2014年11月29日

「日本に健全な森をつくり直す委員会」主催の林業支援イベント
〜林業再生ムーブメントにフォーカス!

 今回のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンは近年注目が集まる“林業”にフォーカス!
 この番組が始まった20数年前は、日本の林業は安い輸入材に押されて、国産材は高くて売れない、山で働く人も減る一方・・・。だから、植林された森の手入れがされないので荒れ放題というマイナス面ばかりが先行していました。ところが最近そのイメージが変わってきたと思いませんか?
 この番組でもご紹介した、林業をテーマにした「WOOD JOB!〜神去なあなあ日常〜」という映画が公開され、話題になりました。また、山仕事にチャレンジする“林業女子”にも注目が集まっています。
 そんな中、先日、品川のモンベル高輪ビルでNPO法人「日本に健全な森をつくり直す委員会」主催の林業支援イベントが開催されました。この団体は2008年に設立、委員長は東京大学名誉教授の養老孟司さん、副委員長はこの番組でもおなじみのC.W.ニコルさんで、日本の森に関するレクチャーや講演会ほか、森に仕事があることを伝える活動も行なっています。先日開催されたイベントはまさに、森仕事がたくさんあることをIターンやUターンの人たちに知らせるためのイベントでした。
 今回はそんな林業支援イベントの取材リポートをお送りします。

木を使う時代になった!?

※日本は森林に囲まれている国なのに、国産の木は高いというイメージがありますよね。でも、私たち日本人は戦後、木がない時代から、今まで木を育てる作業をしてきました。
 では、どんな取り組みをしてきたのでしょうか? そして、日本の森を作り直すためには、どうしたらいいのか? NPO法人「日本に健全な森をつくり直す委員会」の事務局長・天野礼子さんの開会の挨拶から、その説明を聴いてみましょう。

天野礼子さん
「日本に健全な森をつくり直す委員会」事務局長の天野礼子さん

天野さん「日本は戦後、戦地から帰ってきた人たちのために、家を作り始めました。しかし、そのときは木の値段が高く、山の木がなくなってしまったので、大規模な造林をしました。その木が育っている途中に、中曽根康弘さんとロナルド・レーガンさんによって、木材を自由化されました。それによって、アメリカやヨーロッパの材木が日本に安くたくさん入ってくるようになって、『日本の木は高くて使えない』という時代になってしまいました。

 2003年に林野庁の木材課長だった人が『木を使う時代になったから、林野庁はもっと仕事をしよう!』ということで、財務省に掛け合って、新しい事業を2つ始めました。1つは外国の木を使っていた会社に、日本の杉を製材できる工場を作るようにお願いしました。2つ目は、山に作業道を作って、日本の山から木材が出てくるようにしようとしました。それが2003年と2005年のことでした。
 私たちは2008年にそういった林野庁を応援するためにも、“石油に頼らず、森に生かされる日本になるために”という提言書を政府に提出しました。それが採用され、“森林・林業再生プラン”というのが農林水産省・林野庁の手によって作られました。

 こういったことで少しずつ知られるようになりましたが、日本の森を作り直すには、たくさんの人が森に入らないといけないので、私たち“日本に健全な森をつくり直す委員会”は、今年から2つの事業を始めました。1つ目は、小・中・高校生やサラリーマンの皆さんに対して、山に仕事があることを伝えるプロジェクトです。それがこのイベントです。2つ目は、日本の神社やお寺を作り直す際、その木材があり、それを出す人がいるということを知ってもらうプロジェクトです。その2つを始めました」

日本の山の状態は今がベスト!?

※林業の現場を活性化させるためには、働く人を募って、森仕事の技術を学ぶ機会が必要ですよね。その支援を行なっている林野庁・林業労働対策室の元室長で、現在は関東森林管理局の部長でいらっしゃる井出光俊さんが、こんな話をしてくださいました。若者離れのイメージがあった林業の状況が変わってきているようです。

井出光俊さん
林野庁の井出光俊さん

井出さん「10年前から風向きが変わりました。色々な要素が絡んできて、ようやく日本の材木を使っていこうという方向に切り替わってきているんですが、それはどういうことかというと、田舎に再び仕事が増え、活性化していくという状況になりつつあるんです。そういう風に仕事が地方に派生し始めているので、是非地方に住んでいただいて、趣味と実益を兼ねるような生活をしていただけないかと思っています。

 なぜ日本を含めた先進国が林業を再度活性化させることを目指すようになったかというと、地球温暖化対策が大きなキッカケになっています。京都議定書が1997年に出来上がりましたが、あのときに色々と議論されました。
 森林は植物だから、大気中の二酸化炭素を減らしてくれますが、地球温暖化は石炭や石油、セメントなど、何億年も眠っていたエネルギーを一気に使って、大気中の二酸化炭素の濃度を上げたことが原因なんですね。その影響を出来る限り小さくするためにはどうすればいいのかを色々な学者が考えた結果、『農林水産物を使えばいいんじゃないか』という結論が導かれたんです。なぜなら、農林水産物は循環資源だからなんです。

 空気中の二酸化炭素を吸収して体を作るのが植物で、それを使って燃やしたとしても、元の量の二酸化炭素が空気中に戻るだけなんですね。地下に眠っているものをたたき起こして放出するのとは大違いなんです。ということは、こういう生物資源を環境が許してくれる範囲内で上手に使っていけば、石油や石炭を使う量を減らせるから、あくまで許される範囲内ですが、木材を使うべきだと、京都議定書を立ち上げるときに議論されたんですよね。

 ただ、吸収してどこかに蓄えておくという計りやすいものとは少し違って、それらの数値化が難しいんです。だから、生物資源を使うことの素晴らしさを数値化することに対しては結論が出てないんですね。なので、二酸化炭素を吸うことに対する数値が先走ってしまうんですが、やはり、材木を使うことが、地球温暖化対策に効果があるんです。そのこともかなり解析されるようになりましたので、これも大きな原動力になりました。

 実は今、戦後に植えた木々がものすごく育ってきて、日本の山の状態はここ数百年の中ではベストだと言われています。マスコミとかはそういう捉え方をなかなかしてくれないんですが、材木を少々切り出したとしてもへこたれない状態にまで森林が回復しているんです。環境対策という点で材木を使うことを我々先進国が再び目覚めたわけですが、自分の国を振り返ってみると、先輩たちが植えてくれた木が育ってきていて、使える状態になったのが10年ぐらい前からなんですね。今も材木をどんどん出さないと、もったいない時代になっています!
 今後、材木は日本では自給に近い状態になるぐらいの量がありますので、田舎で林業が復活し、木材産業が復活すれば、田舎での仕事が生まれます。それだけの下地が出来上がっているんです」

自然と自分は繋がっている

※原宿にある“明治神宮の森”。最近では、パワースポットとしても有名ですが、実はあの森は、約100年前に造られた人工の森です。日本全国のみならず、北は樺太から、南は台湾まで、奉納したいという植樹用の木が集まり、その数は約10万本、種類は360種以上あったそうです。あれから約100年。東京ドーム15個分の広さの森は、一体どうなっているんでしょうか?
「日本に健全な森をつくり直す委員会」の委員長・養老孟司さんが、こんな話をして下さいました。

養老孟司さん
東京大学名誉教授で「日本に健全な森をつくり直す委員会」の委員長・養老孟司さん

養老さん「神宮の森は、明治天皇が亡くなられたのをキッカケに、民間の有志がお金を出して、樺太から台湾まで寄進された木を植えて、本多静六先生が計画をして作った森です。なので、典型的な人工林なんですが、その人工林を約100年、ほぼ放っておいたんですね。どうなったかというと、今の状態になっているんですよね。

 日本に健全な森をつくり直す委員会によく『健全な森ってどういう森なのか?』という質問が来るんですが、この後にお話される竹内先生は“その中を歩きたくなる森”だと言っていまして、私は“散歩したくなる森”だと表現しているんですが、東京都内にああいう森があるっていうのは面白いなと思っているんですね。

 どこが面白いかというと、アメリカの自然保護のことをご存知な方もいらっしゃるかと思いますが、国立公園で徹底的に保護しようとすると、“人の手が一切入らない”ことを理想とするんですね。なので、(公園に)入ったら食べた弁当のくずはもちろんのこと、排泄物もビニール袋の中に入れて持ち帰るように言われるんです。でも、人間の手が完全に入らないということは、人間と関係ないので、そもそもないと同じじゃないのかと前から思っていたんですね。だから、私たちはどうしたって自然と関わりを持たないといけないんです。

 そういう極端な環境運動が起こる裏には、“環境は自分とは別のもの”という考えが根本にあると思います。それはどういうことかというと、環境って自分を取り巻くものじゃないですか。実は“環境”というのは、自分を立てる文化の中から発生した言葉なんですね。自分を立てると、自分以外の世界が出来てきます。
 じゃあ、日本に元から“環境”という言葉があったかというと、明治神宮の森を作った本多静六先生の頭にはなかったんじゃないかと思うんですね。じゃあ、何があったのかというと、“自然と自分は繋がっている”という考えだと思います。
 田んぼがあって、稲が育って、米が穫れて、その米を食べたら自分の栄養になる。魚が泳いでいるのを捕って食べたら、海や川が自分の体に変わるので、脳が切らない限り、自然と自分が繋がっていることは感覚的に明らかなことだと思います。

 明治神宮の森が面白いと思うのは、人工の森なのに100年放っておいたので、もはや人工といっていいのか自然のものといっていいのか分からないところだと思います。あそこには、日本の色々な文化の流れがあるように思うんですね。テレビで『本多静六という人は、一体何を考えてああいう森を作ったんでしょうか?』ってよく質問されるんですが、答えは深いところにあると思うんです。本人は考えて作ってるつもりでいると思うんですが、実際はそこには色々な無意識なことが絡んでいるはずなんですよ。それを後世の人が、東京の真ん中にあれだけの森を作って、どうなるか観察していたと思うんですね。相当大きな実験だと思います。まだ行ったことがない方は、是非行ってみてください」

“健全な森づくり”は日本人の生き様!?

※日本には、他の国にはない、森の、ある特徴があります。
 最後に、京都大学名誉教授で森林資源管理の研究者・竹内典之さんの講演から、日本の森にどんな特徴があるのか、そして“日本らしい健全な森づくり”とは何か? そんなお話をお届けしましょう。

竹内典之さん
京都大学名誉教授・竹内典之さん

竹内さん「私にとっての“健全な森づくり”というのは、“地域の風土に合った、地域の資源を生かした美しい里・美しい川・美しい海が一体となった美しい森づくり”だと思っています。そういう森づくりなので、見方を変えれば、地域づくりになると思うんですね。その森づくりがどのような状態になっているかというのは、その地域の住民の生き様が問われているということだと思います。それを拡大していけば、美しい日本づくりに繋がりますし、日本人がどういう風に生きていくのかという生き様を問われているんだと思っています。

 日本は面白い国です。国土面積はわずか3,700万ヘクタールで、真四角にすれば、600キロ×600キロぐらいしかないんですが、南北に長い形になっています。南北に3,000キロぐらいあります。そのぐらいあるので、南から北に向かって温度差があります。南にはサンゴ礁が美しい浜辺があって、北に行けばクリオネを連れてくる流氷が着岸する浜辺があります。そういう風に、色々な気候があります。
 森でいえば、南には常緑広葉樹林があって、その北には暖温帯の常緑広葉樹林があって、中間温帯の常緑広葉樹林、針広混交林があって、さらに北には冷温帯の落葉広葉樹林があって、北方系の針広混交林、そして亜寒帯の針葉樹林があるんですね。
 わずか3,700万ヘクタールしかないのに、典型的な林だけ見ても、これだけたくさんの種類があるんですよ。こんな国は恐らく日本以外ないと思います。私たちの先人たちは、これらの風土に応じた森林再生法をやってきたと思っています。そして、今でもいくつかは残っています。

 そういった知恵を生かしながら森林再生をもう一度考えていく時期が来ているんじゃないかと思っています。異常気象はこれからも続くと思います。だからこそ、今、真剣に“美しい森づくり”“美しい日本づくり”をみんなでやっていきたいということを提案して、私の話は終わりにします」

YUKI'S MONOLOGUE 〜ゆきちゃんのひと言〜

 日本の国土の約7割が森林。その森林率は世界第3位を誇ります。林業に明るい兆しが見えてきたとはいえ、木材の自給率は平成25年のデータで28.6%。残りは輸入材に頼っているのが現状なんです。「今、日本の森がとてもいい状態」というお話がありましたが、そんな中で国産の木を充分に使わないのはもったいないですよね。先人が植えた木を上手に使い、子孫のために新たな木を植える。地球の未来のためにも、とても大切なことだと思います。

INFORMATION

NPO法人「日本に健全な森をつくり直す委員会」情報

 NPO法人「日本に健全な森をつくり直す委員会」では、今回紹介したイベント以外にも、様々な活動を行なっています。ぜひオフィシャルサイトをご覧ください。

林野庁情報

 林野庁では “緑の雇用事業”も積極的に行なっていて、森で働きたい人たちに向けたガイダンスも全国で開催しています。詳しくは「RINGYOU.NET」というサイトをご覧ください。また、「林業就業支援ナビ」というサイトもありますので、併せてご覧ください。

今週のオンエア・ソング

オープニング・テーマ曲
「GRACIAS / LARRY CARLTON」

M1. ROCKIN' AROUND THE CHRISTMAS TREE / AMY GRANT

M2. HUMAN NATURE / BOYZ II MEN

M3. HAPPIEST FOOL / MAIA HIRASAWA

M4. SO MUCH IN LOVE / TIMOTHY B.SCHMIT

M5. 深い森 / DO AS INFINITY

M6. THE ROSE / BETTE MIDLER

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」