2015年2月7日

厳しい自然環境で感じる“いのちの絆”

 今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、太田達也さんです。

太田達也さん

 自然写真家の太田達也さんは、北海道などに生息する野生動物や自然に魅せられ、“いのちの絆”をテーマに撮影活動を続けてらっしゃいます。また、北米やカナダ北極圏での長期にわたる取材や撮影にも取り組んでらっしゃいます。そんな太田さんは昨年『動物の森』という写真集を出されました。
 今回はそんな太田さんに、北海道の野生動物や撮影テーマの“いのちの絆”についてお話をうかがっていきます。

※動物&風景写真:太田達也

白いオコジョは奇跡的!?

※北海道にこだわって撮影している理由についてうかがいました。

「凛とした空気が流れているような厳しい世界の中でも躍動する命を見られるのが北海道なんですよね。私はあえて南の方も旅をして色々な野生動物を追ってみたんですが、それはそれで素晴らしかったんですけど、北でないと見られない厳しさや命の絆を見られるんですよね。常に命のドラマが繰り広げられているようで、生と死が交差する中で彼らは生きているんですよ」

●北海道のどの辺りで撮影しているんですか?

「ほぼ全土を周りますが、好んで行っているところは道東です。知床半島が世界遺産に登録されましたが、そこを含めて、釧路や根室などで撮影してます。あと、北海道の中で一番標高が高い旭岳近辺の動植物も撮っています」

朝焼けに染まる知床の海
朝焼けに染まる知床の海

●その辺りでは、どんな動植物が見られるんですか?

「青森と北海道の間にブラキストン線(*)というものがあるんですが、北海道でしか見られない動物がいて、それを主に撮っています」
(註*津軽海峡を東西に横切る生物地理上の境界線。日本の動植物の分布を区分する重要な境界線)

●今回の写真集にも、たくさん登場していますよね! 私が心惹かれた、表紙に写っている白いオコジョもそうですよね?

「そうですね。このオコジョも滅多に人前に出てきてくれる動物じゃないんですよ。私もこのオコジョに会いたくて、この写真を撮るのに5年かかりました。その5年で出会えたのは、ほんの数秒でした。このときは秋から初冬にかけての2ヶ月間、大雪山系入っていたんですが、たまたま出てきてくれたんですよ」

●5年間色々調べたりして、一生懸命探したけど、会えたのはたまたまだったんですね!?

「フィールドではかなり歩いて痕跡を探したり、オコジョがいそうなところには何度も通ったりしたんですが、なかなか出会えるチャンスがないんですよね。しかも、この表紙のように白くなっている状態は、冬のわずかなときしかないんですよ! 夏は茶色い毛をした動物なんです」

●この美しい真っ白なオコジョに出会えるのは奇跡的なことなんですね。

「わずか1〜2週間ですね。しかも、根雪になってしまうと、私が森や山に入ることができないので、わずか数週間の間しか見ることができないんです。そこで見ることができました」

●出会えたときは、すごく心が高ぶったんじゃないんですか?

「写真を見ていただいた方に、それが伝わればいいなと思っています(笑)」

●(笑)。確かに「やっと会えたね!」っていう思いが伝わってきます。とはいえ、やっぱりブレてないですね(笑)。興奮して手が震えることとかなかったんですか?

「中にはありましたね(笑)。見た瞬間、“これは夢なのか現実なのか”って放心状態になりました。オコジョに限らず、初めて見る動物はみんなそうなんですが、感動の方が大きいんですよ。カメラマンとしては失格なのかもしれませんが、カメラのシャッターを切る前に“心のシャッター”を切って、心にその感動を留めておきたいという気持ちがどうしても先行しちゃうんですよ。そうすると、同じ仲間として受け入れてくれて、意外と動物も警戒しないんですよね。その2人きりになれる時間は何物にも代えがたい時間なんですよ」

信じるしかない!

太田達也さん

※撮影するときのコツがあるのか聞いてみました。

「ただ単にその森に行って、偶然出会えるチャンスもありますが、何年もかけてそのフィールドを歩いて、痕跡だったり動物の気配を観察するときもあります。やっぱり“待つ時間”も大切なんですよ。そういった経験も踏まえて、ようやく自分がイメージした写真を撮ることができるんです」

●もちろん写真によって違うと思いますが、自分が納得いく1枚が撮れるまで、どのぐらいの期間がかかるんですか?

「一概には言えないんですが、場合によっては何十年かけても撮れないワンシーンっていうのもあるんですよ」

こんにちは(エゾフクロウとエゾリス)
こんにちは(エゾフクロウとエゾリス)

●今回の写真集の中に、何十年もかけて撮ったものってあるんですか?

「もちろんあります。最後のヒグマの写真なんですが、通常クマは秋になると、木の実やシャケを食べて栄養を蓄えて、冬眠に入るんですね。なので、雪景色の中のクマをなかなか見ることがないんですよ。私はその雪景色のクマの写真を撮りたくて、知床に何十年も通い続けました。そうしたら、たまたま根雪になる前に入ったら、川を上ってきた数少ないシャケを狙っていたクマがいたので、それを撮りました」

●手前に川が流れていて、奥には雪が積もっているところにクマが1頭ポツンとシャケを待っているんですね。

「これは秋の初めから冬の終わりまでの2ヶ月弱、これを狙って山に入ってました」

●撮れるまでの間、どういう想いで過ごしていたんですか?

「やっぱりフラストレーションは溜まりますよね(笑)。とはいえ、風の音を聴いたりして癒されながら心を落ち着かせてました。そんな日々が続きましたね。焦りは禁物なんですけど、彼らは自然界に生きているので、そこに必ず来る保証はどこにもないんですよね。だから、来ることを諦めずに信じるしかないんですよ」

●そうすると、叶うんですね。

「叶うときもあれば、宿題のように出会えないで来年に持ち越しになります。8割方撮れないですね」

●そういうものなんですね!

すべては繋がっている

※太田さんが撮影のテーマにしている“いのちの絆”についてうかがいました。

「私が自然写真家を志したときには、“「いのちの絆」をテーマに全国各地を回って撮りたい”という夢があったので、親子のシーンだったり、動物と自然の絡みを撮っていたんです」

●寒い中で動物たちが身を寄せ合っているような写真がありますよね。そういうのを見て、絆を強く感じたりしますか?

「本州の野生動物もそうですが、北海道はより厳しい環境ですので、すべての動物が命を謳歌しているように見えて、こっちも力強さと感動がすごく伝わってくるんですよね。
 それと、繋がるという意味では、親子の繋がりだけじゃなく、もっと大きな繋がりもあるんです。北海道には海があって森があって川があるんですけど、その象徴の1つとしてシャケがあるんですね。シャケは色々な動物たちの糧となる生き物なんです。シャケが海から上がってきて、川を遡上して森に還っていくんですが、そのシャケをヒグマが食べて、食べられたシャケは養分となって森に還っていくんですよ。そういうサイクルを目の当たりにできるのが、北海道なんです」

太田達也さん

●北海道は感じることが多いんですね。そういうところに行ける機会があればいいですね。

「そうですね。たまに子供たちを連れて森を散策することもありますが、リスだったりナキウサギなどに偶然出くわすことがあるんです。そういうときの子供たちの喜んだ表情は本当素晴らしくて、何物にも代えがたいですよね。すごく感動している子供たちの様子を見ていると、こっちまで幸せになります。そのとき子供たちに“人間は動物と対等なんだよ”って言っています。動物の目線になると動物の気持ちが分かるので、一度しゃがませます。そうすると、子供たちも大喜びですね」

●太田さんの写真からそれをすごく感じます! 表紙のオコジョの写真もそうなんですが、動物たちと目が合うんですよね。写真を撮るときも、動物と同じ目線というのは、意識しているんですか?

「そうですね。まず心がけているのは、フィールドに入ったとき、撮ることよりも彼らと遊ぶことを意識しています。“彼らの生息地に入らせていただいている”という謙虚な気持ちで森に入っていくんですね。そうすると、こちらが意識しなくても、彼らから寄ってきます。ときには、手の近くまで来る場合もあります。そういう意味でも繋がっているんですよね。動物・風景・人間という枠を超えて、1つの地球だったり、惑星で繋がっているって感じますね」

キムンカムイ?山の神

●今後ですが、特に撮りたいものとか行きたい場所があったりしますか?

「今年も写真集を何冊か刊行する予定です。私は昔から“アイヌの人たちが崇拝してきた自然に対する畏敬の念”というものがすごく心に響いていて、それをテーマに掲げているんです。アイヌの人たちが継承してきた“カムイ”と呼ぶ動物たちが北海道には生息しているんですね。今ではなかなか見ることができない野生動物なんですが、それをまとめていけたらと思っています。
 アイヌの人たちは昔から自然信仰なんですよ。彼らも自然の中で暮らしてきたので、厳しい自然環境に耐えるため、野生動物たちを神として崇めた歴史があるんです。
 私は昔からアイヌの文化が好きで、北海道に行っては彼らに色々とお話を聞かせていただいた経緯があるんですが、例えば、私たちがヒグマと呼んでいる野生動物も、アイヌの人たちは“キムンカムイ(山の神)”と呼んでいるんですね。タンチョウヅルっているじゃないですか。あれは“サロルンカムイ(葦原にいる神)”と呼ばれています」

山の神、キムンカムイ(エゾヒグマ)
山の神、キムンカムイ(エゾヒグマ)

●それぞれの場所にそれぞれの神がいるんですね。

「そうなんです。その神と呼ばれた野生動物が、近年は自然環境の悪化だったり、温暖化の影響で、徐々に生息数が減ってきているんですね。私たちが北海道に行っても見られなくなりつつある野生動物だったり、その野生動物が暮らす環境も大事なんですよね。今回の写真集には風景を多く取り入れているんですが、野生動物はどんなところで暮らしているのかを伝えていきたいなと思っています」

YUKI'S MONOLOGUE 〜ゆきちゃんのひと言〜

 太田さんの撮影のテーマでもある“いのちの絆”。動物同志はもちろん、海から森への繋がり、そして地球全体の繋がりのお話がとても印象的でした。私たちはそんな“いのちの絆”の中で生かされているですよね。太田さんが撮られた澄んだ動物たちの目も、そのことを訴えているように感じます。

INFORMATION

写真集「動物の森」

写真集『動物の森

 PIE International / 本体価格2,200円

 太田さんの最新の写真集となるこの本は、表紙の真っ白な“エゾオコジョ”に魅せられます。エゾリス、キタキツネ、エゾモモンガ、ヒグマ、オジロワシなど北海道で撮影した写真をメインに、日光や屋久島、西表島などで撮った写真が掲載されていて、どれも素晴らしい作品です!

オフィシャルサイト

 太田さんのオフィシャル・サイト「ライフ・オデッセイ」には、素晴らしい写真が載っているほか、ブログもあります。ぜひご覧ください。

今週のオンエア・ソング

オープニング・テーマ曲
「GRACIAS / LARRY CARLTON」

M1. CARNIVAL / THE CARDIGANS

M2. WAIT TIL YOU SEE MY SMILE / ALICIA KEYS

M3. RIGHT HERE WAITING / RICHARD MARX

M4. THE DAYS / AVICII

M5. HUMAN NATURE / BOYZ II MEN

M6. ONLY TIME / ENYA

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」