2015年3月28日

シリーズ“異常気象”第2弾
〜地球温暖化とヒートアイランド現象〜

 今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、三上岳彦さんです。

三上岳彦さん

 今回は、シリーズ“異常気象”の第2弾です。ゲストは、気候学の専門家、帝京大学・教授の三上岳彦さんです。三上先生は、気候学の中でも“都市気候”や“気候変動”がご専門です。今回は世界的な異常気象のメカニズムや温暖化の影響、そしてヒートアイランド現象に迫りたいと思います。

アメリカのブリザードが日本でも起きていた!?

●今回はシリーズ“異常気象”の第2弾ということで、気候学の専門家、帝京大学・教授の三上岳彦さんをお迎えしています。よろしくお願いします。

「よろしくお願いします」

●ここ最近、世界的に異常気象が増えているといわれていますが、間違いなさそうですか?

「増えていると言い切ってしまうと問題があるんですが、増える傾向にあります」

●後ほど、そのことをより詳しくうかがっていきたいと思いますが、まず今年1月にニューヨークを含む、アメリカ東部の5つの州で史上最大級の暴風雪“ブリザード”が接近し、非常事態宣言が出されました。この“ブリザード”が発生した原因って何なんですか?

「簡単に言うと、低気圧がアメリカの東海岸沖で急速に発達して、そこに北東方向から湿った空気が流れ込んできたからなんですね。アメリカの東海岸を思い浮かべていただくと分かると思いますが、南にフロリダ半島があって、その下にはメキシコ湾があります。“メキシコ湾流”といわれている、湿った暖かい空気が北の方に流れ込んでいくんですね。
 その一方で、カナダの方から冷たい寒気がやってきます。その冷たい空気と湿った暖かい空気がアメリカ東部の辺りでぶつかって、低気圧が急激に発達して、大雪が降ったんです。
 実は、そのブリザードは、今年2月始めに北海道の羅臼町で降った、ものすごい大雪のメカニズムと非常に似ているんです。どういうことかというと、南岸に低気圧がやってくると、東京や千葉でも雪が降ったりするじゃないですか。その低気圧がさらに発達しながら北海道の東部に行くことがよくあるんですね。この発達って急激なスピードなんです。
 少し専門的な話になりますが、24時間で24ヘクトパスカル下がるんですね。これは、例えば1日で、1000ヘクトパスカルあった低気圧が976ヘクトパスカルになってしまうんです。これって台風並ですよ。こういうのを“爆弾低気圧”だという風に表現されますが、これが夏なら大雨になるんです。でも冬なので、雨じゃなく雪になるんですね。そして、台風もそうですが、低気圧が発達すると風がすごく強くなります。なので、まさに台風が冬にやってきたといった感じですね」

●今までも冬に爆弾低気圧が発達することってあったんですか?

「ありましたよ。でも今回のような急激な低気圧の発達は数十年に1度ぐらいしかないでしょうね。そういう意味では異常気象だったということになりますね」

“0.57度”の気温上昇って、大変なこと!?

●地球温暖化のことをうかがっていきたいんですが、世界気象機関によると「2014年の世界の平均気温が基準となる14度を0.57度上回った」ということですが、この“0.57度”という数字がいまいちピンとこないんですね。これって、どのぐらい大変なことなんですか?

「これは、地球全体の気温を平均して、前回算出した30年前と比較して0.57度高くなっているということなんですね。これが年によって上がったり下がったりするのは、色々なことでよくあることなんです。ただ、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告によると、過去100年間の地球全体の平均気温は0.8度近く高くなっているそうです。とはいえ、0.57度って大したことないと思うじゃないですか。でも、これが1000年続いたとしたら5.7度になって、1万年になったら57度高くなるんですよ。そういう風に考えていくと、とんでもないことになるんです。

三上岳彦さん

 また、気候変動はもっと長いスパンで考えないといけないんですね。いきなりとんでもない話をしますが、今の人類に直結するような人類は3万年前ぐらいに誕生したんですが、そのころの地球の気候は氷河期真っ只中でした。なので、3万年前の地球は陸続きだったんです。その氷河期が1万年前に突然終わったんですね。ある研究によると、100年ぐらいで7度ぐらい高くなったといわれていたりするんですが、それまで寒かったのが急に暖かくなって、今のような状態になりました。
 そうなった今を“間氷期”というんですが、それが1万年前から今まで続いているんですね。その1万年間の温度の変化は1度ぐらいしかないんです。なのに、今の温暖化は過去100年で0.8度近く高くなっているんですよ。そのペースが続けば、1000年で8度、1万年で80度高くなります。そうなると大変なことになりますよね。そのぐらい、今の温暖化は急激なんです」

●急激だから問題なんですね。

「そうなんです。今はまだいいですが、100年後は2〜3度ぐらい上がるといわれていて、もし本当にそうなったら、今では想像つかないような異常気象が起こる可能性があります」

冬が短くなっている!?

※現在の平均気温から2〜3度上がると想像できないことが起こるとおっしゃっていましたが、日本ではどのような影響があるのでしょうか?

「日本でいちばん影響を受けるのは農業だと思います。中には稲作はCO2が増えることで生育がよくなって、生産量が増えると言っている人がいますが、品質は悪くなるといわれています。いわゆる“ブランド米”みたいなものは穫れなくなって、質の悪いお米が大量に穫れるようになります。そして、果物もそうで、例えばみかんは比較的暖かいところで作られるんですが、北日本が暖かくなると採れるようになるんですね。でも、果物も適した気温や湿度が必要なんですよ。これも異常なことになると、品質が悪くなります。だから、美味しくないみかんが採れてしまうんですよね」

※最近、日本の四季もおかしくなっている気がしますが、実際はどうなのでしょうか?

「おっしゃる通りです。例えば、春になると桜が満開になりますよね。昔だと、学校の入学式の時期に満開になっていたと思いますが、最近は3月の卒業式ぐらいに満開になってますよね。つまり、桜の開花時期が早まっているんですよね。ということは、冬が短くなっているんですよ。
 同じように、秋の紅葉の時期が遅くなっていますよね。昔だと、東京では11月ぐらいに紅葉が見られていましたが、今では12月になってようやく見られるという状態になっているんです。ということは、冬の始まりが遅くなっているんですね。だから、春・夏・秋という比較的暖かい時期が長くなって、冬が短くなっているんです。なので、1年の気温を平均すると高くなっているんですよ。こういう状態が長く続いていて、温暖化が進行しているんです」

なぜ練馬にゲリラ豪雨が起きやすいのか?

※都市部に生活する人にとって気になるのが“ヒートアイランド現象”。これはどういうものなのか簡潔に説明すると、都市部の気温が夜や明け方に周辺の郊外よりも高くなってしまう現象なんです。そのヒートアイランドの研究で珍しい例を教えてくださいました。

「1937年の3月の真夜中に東京の教育大学の先生が、学生を使って温度を測った研究があるんですね。すると、キレイなヒートアイランドが出ていたんですよ。都心部は5度ぐらいで、郊外に行くと0度ぐらいで、5度も違ったんですよね。なので、ヒートアイランドは元々、寒い時期の明け方の都市部の気温が高くなることを言うんです」

※ヒートアイランド現象の原因は地球温暖化ではなく、エアコンや車などの人工排熱、道路のコンクリート化やアスファルト化などだそうです。ところで都心部で発生するゲリラ豪雨はヒートアイランドが原因なんでしょうか?

「ヒートアイランドは、ゲリラ豪雨を起こす原因の1つです。温暖化がゲリラ豪雨が起きるバックグラウンドにあるんですが、そこに別の原因が色々と加わっていくんですね。実はゲリラ豪雨って、梅雨明け直後ぐらいがいちばん起きやすいんです。なぜなら、梅雨前線が関東地方から北上して東北地方辺りに引っかかるんですね。前線の北側には冷たい空気があって、南側には暖かくて湿った空気があるんです。その2つの空気がぶつかって、大気が不安定になります。
 それだけでも大雨が降りやすいんですが、それに加えてヒートアイランドで地面も熱せられています。そこで上昇気流が起きると、積乱雲が発達しやすくなります。そういった色々な原因が重なったときにゲリラ豪雨が起こるんです。だから予測が難しいんです」

三上岳彦さん

●練馬でよく集中的に降るじゃないですか。あれは練馬の地形が関係しているんですか?

「練馬や杉並辺りは東京23区の中では、ゲリラ豪雨がいちばん起こりやすい場所ですね。また、練馬辺りが23区内の夏の昼間の気温がいちばん高いです。だから、気温がいちばん高いところがそこの空気がいちばん熱せられていて、上昇気流が起きやすいんですね」

●なぜ練馬なんですか?

「不思議ですよね。練馬というと、畑が結構あったり、緑も多いところなんですよ。いちばん熱の塊を作っているのは都心部なんです。ところが、夏の昼間は海からの風が入ってくるんですね。そうやって南からの風が入ってくると、風下の方に流されて、湿って暖かい空気が練馬の方に流されていきやすいというのがあります。それだけじゃなく、都心部には高層ビルがたくさんあって、高層ビルによって風が弱まります。なので、練馬付近の地上の風って非常に弱いんですね。そういうこともあって、暑くなりやすい場所とゲリラ豪雨が起こりやすい場所と一致しているんです」

私たちにできること

※ゲリラ豪雨の原因にもなっているヒートアイランド現象を緩和するために、私たちができることってあるのでしょうか?

「どうやったら緩和できるかというと、ベストは“緑を増やすこと”です。都市部に緑が減ってきているのが、都市部を暑くしている最大の原因です。緑のカーテンも含めて、緑を増やしていくことが気温を下げることになります。緑の効果って、日陰が涼しいというのもありますが、“蒸散効果”といって、木の葉っぱから水分が蒸発するときに熱を奪うという効果があるんですね。だから、緑を増やすことがいちばん重要だと思います」

●あとは、排熱を減らすことも大事ですよね?

「もちろん人口排熱を減らすことがいちばんいいです。だから、エネルギーの使用量を減らすことが大事ですね。数年前に行なった私たちの研究があるんですが、それは東日本大震災があった年に計画停電等々で都心部の電力使用量が30パーセントぐらい減ったんですね。そのあと、都内の気象観測データを詳しく調べたところ、それによるヒートアイランド緩和効果が、最大で0.6度ぐらい下がったという結果が出ているので、人工的な熱を減らすのが重要なことだと思います。
 あと、平日と土日を比べると、土日の方がヒートアイランドが弱まるというデータがあるので、やはり、人工的な熱を減らすのが大事です。いちばん大きいのはオフィスや工場といった大規模で大量に使うところなんですね。もちろん、家庭の努力も重要ですが、そういうところの人たちが減らしていくことが結果として地球温暖化対策にも繋がるんですね」

●ヒートアイランドと地球温暖化の原因は違うけれど、私たちがやるべきことは1つなんですね。

「そうですね。省エネを心がけることが重要ですね。最近では、エアコンや冷蔵庫の電力使用量が昔に比べると少なくなってきていますよね。そういうテクノロジーをこれからもっと活用するのも大事だと思います。もちろん、エネルギーの使用量を減らすのが重要ですが、こういう近代生活に慣れている人にとって、使わないということは難しいことなので、少しでも努力をして減らしていくのが重要だと思います」

●最後にリスナーの方へメッセージをお願いします。

「地球温暖化やヒートアイランドのいちばんの原因になっているエネルギーの使用量を減らそうっていうこともありますが、ゲリラ豪雨の原因はヒートアイランドだという直結したものではないので、正しい知識を身につけるのが重要なことだと思います。例えば、暑さにしても“暑いからどうする?”というのではなく、“暑くなるのはなぜか?”“暑くなったらどういう影響が出て、それを緩和するにはどうすればいいのか?”といったことも、1人1人が考えていくことが重要だと思います」

●正しい知識って、どこで身につければいいんですか?

「これは難しいんですよね。本屋さんに行けば色々な本が売っていて、中には正反対のことを書いてあるものがあったりするので。ニュース番組を見たり、アメリカのブリザードのことも“日本とは関係ないことだ”と思わずに、そのことも自分で調べて、共通性があるのかなどを知っておくのは大切なことだと思います」

YUKI'S MONOLOGUE 〜ゆきちゃんのひと言〜

 “地球温暖化”や“ヒートアイランド現象”が起こる原因は様々なんですね。でも三上先生は「私たちに出来ることは1つ」とおっしゃっていたので、まずは正しい知識を身に着けて、さらにグリーンカーテンなど緑を増やすことを少しずつでもやっていきたいと思います。

INFORMATION

異常気象の大研究

著書『異常気象の大研究

 PHP研究所/本体価格2,800円

 三上先生は気象に関する本を何冊も出してらっしゃいますが、オススメしたいのが、先生が監修された「異常気象の大研究」という本です。この本は小学生にも読めるように図鑑のような作りになっていて、写真や絵を使い、気象に関する難しい内容がとてもわかりやすく書かれています。大人にもぜひ参考にしてほしい本です。

今週のオンエア・ソング

オープニング・テーマ曲
「GRACIAS / LARRY CARLTON」

M1. SNOW(HEY OH)/ RED HOT CHILI PEPPERS

M2. I DON'T WANT TO MISS A THING / AEROSMITH

M3. SAKURA / いきものがかり

M4. I FEEL THE EARTH MOVE / CAROLE KING

M5. I DON'T KNOW WHAT THE WEATHER WILL BE / LAURA MVULA

M6. ALL AROUND THE WORLD / OASIS

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」