2015年4月11日

神秘の森 伊勢神宮

 今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、宮澤正明さんです。

photo by 宮澤正明
photo by 宮澤正明

 写真家の宮澤正明さんは10年以上にわたり伊勢神宮の写真を撮り続け、20年に一度の神事「式年遷宮」を、オフィシャル・カメラマンとして撮影されています。宮澤さんは何度も伊勢神宮に足を運ぶうちに、社殿を包むように広がる神宮の森の神秘さに魅せられてしまったそうです。そして、古来から続く日本人と森の関係に強く興味を抱き、ついには日本全国の森を巡る旅を映像作品としてまとめてらっしゃいます。
 今回はそんな宮澤さんに、伊勢神宮の森やドキュメンタリー映画『うみやまあひだ〜伊勢神宮の森から響くメッセージ〜』のお話などうかがいます。

風が吹く!?

●今回のゲストは、写真家の宮澤正明さんです。ご無沙汰しています。

「ご無沙汰しています」

2年前にご出演いただいたときは伊勢神宮の式年遷宮が始まっていて、もうすぐメイン・イベントを迎えるという話をしていただきましたね。

「そうですね。遷宮とは神様のお引っ越しで、僕も初めての経験だったので楽しみにしていましたが、同時に緊張していました。清められた暗闇の中で神様のお引っ越しをするんですが、それは研ぎ澄まされた厳かな空間なんですよね。ただ、神職さんに前回の61回目のときのことを聞いたら、新月のときで星がキレイだったそうなんですよ。今回の式年遷宮は星よりも風を感じました。僕と同じように風を感じた方が多くて、五十鈴川の上流から清められた風が吹いてきて、風に包まれた神が山から下りてきたような感じがしたんですよ。あんな経験をしたのは初めてでした」

●そのタイミングだけ風が吹いたんですか?

「そうなんです。古いお宮から新しいお宮に引っ越しをする儀式のときに、清らかな風がスッと優しく吹いたんですよ」

●なんだか神秘的ですね。

「何かあるとは聞いていたんですが、神秘的ですよね。少し話が飛びますが、その年の5月に出雲大社も大遷宮があったんですが、御神体が戻った瞬間にものすごい雷と雨が降ってきたんです。会場にいた皆さん、みんな驚きましたね。“そんなことってあるんだな”と思った後の伊勢神宮の風だったので、そういうことはあるんだって思いました。日本人は自然に直結した神に対する畏敬の念といったところがあると思いますが、自然が僕たちに信号を発して知らせてくれたのかなと思いました。そういう意味で、その年の出雲大社と伊勢神宮はすごく印象的でした」

photo by 宮澤正明
photo by 宮澤正明

●そういう瞬間を撮影されたんですよね。撮ってみて改めて発見したことってありますか?

「今回の式年遷宮全体を通して、(個人的に)絵巻のような世界観を持っていたんですね。ただ、どういうことが起きるか分からないし、真っ暗闇な中を小さな光だけで移動するので、写真に残すのは難しいと聞いていたんです。社殿の屋根だけが見えていたんですが、その屋根が炎の反射によってキレイに夜空に浮かんでいて、すごく幻想的でした。同時に『遷御の儀』での神職に守られた神が移動する瞬間が撮れたんですね。それを見て“神話のように昔から変わらない風景なんだろうな”と思って、それを撮れたのが一番嬉しかったですね」

魂は宿る!?

※式年遷宮を目の前で見た宮澤さんは、神秘的なシーンに遭遇したそうです。

「不思議なことに、今まで古くても活き活きとしていたものが、御神体が移ると、移った方の社殿が活き活きとしてきたんですね。古い社殿は、外宮(げくう)の場合は3ヶ月間ぐらい残していて、その古い社殿の中に入らせていただいたんですが、“こんなにも生命感がなくなってしまうのか!”って思うぐらい朽ち果てていたんですよ。よく“人が住まなくなった家は朽ち果てる”って言うじゃないですか。あれと一緒なのか、神様が引っ越したら古い社殿が朽ち果てていったんですよね。それには驚かされました」

●新しい社殿に魂が移ったんですね。

「そうですね。新しい社殿に魂が入った瞬間、その社殿がキラキラしだしたんですよね。それもすごく印象的でした」

●伊勢の森も、新しい社殿に(神様が)移ったことで、雰囲気が変わったりするんですか?

「どうなんでしょうね。その後、森の中に深く入っていないので分からないんですが、森では次の遷宮に向けて木を育てています。ただ、今育っている木は100年後にメインの木として使うことができないんですよ。そういう意味では、非常に長いスパンで物事を考えているんですよね。僕たちってそういうことをよく忘れて、すごく短いスパンで物事を考えがちになるじゃないですか。でも、伊勢神宮の営林部の方は“この木は200年後に使えるんですよ!”って言ってくれるんですよ。でも、僕たちは生きてないんですよね。それでもそれを意識できるというのは、一生懸命未来に繋げようとしているんですよ。
 伝統と技術だけじゃなく、そういう“自然と向き合う”ということを、伊勢神宮は培ってきているんでしょうね。そうやって向き合ってきたからこそ、1000年単位で自然と(一緒に)生きているんだなと感じましたね。もしかしたら、伊勢の森の具体化された形のひとつが、あの社殿なんじゃないかと思うんですよね。普通、美しい森に行って、それそのものの表情を見せてくれたとしても、他の形として見せてくれることなんてないじゃないですか。そういう意味では、あの社殿は自然を違う形で見せてくれているのかなと感じましたね」

“森”を感じる映画『うみやまあひだ』

photo by 宮澤正明
photo by 宮澤正明

※宮澤さんが初監督、そして撮影をされたドキュメンタリー映画『うみやまあひだ〜伊勢神宮の森から響くメッセージ〜』。このタイトルにはどんな想いが込められているのでしょうか?

「豊かな森があってミネラル豊富な美しい水ができて、それが田畑にいって、最後は海に流れていきますが、そんな海と山の間には必ず美しい森があるんですよ。そこと人間はうまく共存してきたというひとつの見本が伊勢神宮にはあるんですが、伊勢神宮以外にも森と共に生きてきた人はたくさんいるんですね。もしかしたら、そのDNAを日本人ひとりひとりが持っていて、そういう森の話ができたらいいなと思って、日本各地を旅した映画です」

※このドキュメンタリー映画には、“森とともに生きる”をテーマにされているシェフの成澤由浩さんや、世界的な建築家の隈研吾さんなど、出演者の方も豪華です。他にはどんな方が出演されているのでしょうか?

「例えば、宮大工の小川三夫棟梁ですが、彼は法隆寺の宮大工なんですね。法隆寺というのは、1300年間建て替えずに修復だけで(建造物を)残してきているんですよ。それに対して伊勢神宮は20年に1回建て替えている。そういった建物に対する真逆の考え方を持った宮大工さんに話を聞きたかったんですね。実際に話を聞いてみると、“木を育てる”という考え方はお互いに持っていて、すごくいいお話が聞けましたね。
 そして、大橋力さんという音楽家の方がいるんですが、大橋さんは“森”というものを全く違う概念で捉えていて、“森にはハイパーソニックサウンドという、人間の耳には聴こえないけど、皮膚で感じるすごく心地いい音がある”ことを発見した方なんですね。大橋さんの話はすごく印象に残っていて、なぜ森林浴は気持ちいいのかが、僕なりに裏づけされた気がしたんです。“そのハイパーソニックサウンドがあるから気持ちがいいんだな”と思いました。それまでは一種のパワースポットみたいな言い方をしていたじゃないですか。でも、その話を聞いて理屈があったんだと納得しました。

宮澤正明さん

 牡蠣の漁師の畠山重篤さんは、海の環境が悪くなって牡蠣が取れなくなったことに対して、なぜなのかと思って川の上流(の山)まで登ってみたら(森が)荒廃していたことに気づき、それではいけないと思って、(海と森の関係を)フランスまで勉強しにいって、帰ってきて植林をし始めるわけですよ。森が成長すると(森の養分が)川を経て海に行き、牡蠣の魚場が蘇るという、素晴らしいことをされていて、今や日本中でそういう活動をされていますよね。
 あの北野武さんにも出ていただきました。なぜ出ていただいたかというと、北野さんは元々伊勢神宮には精通されていて、唯一、伊勢神宮を客観的に語れる方なんですよ。“神と最新科学は意外と近いんじゃないか”という、あの人ならではの神や宇宙、人間などに対するするどい視点を聞いてみたかったので、出ていただきました。その他にもたくさん(出演者は)いらっしゃるんですが、インタビューをしながら全国を回ったという旅のドキュメンタリー映画です」

●今お話をうかがって、出演者の皆さん、自然観が似ているところがあるんですよね。

「そうなんですよね。僕は何も言っていなくて、ただ聞いただけなんですが、皆さんが思っていることは近くて、皆さん心のどこかで森を通じて自然や宇宙などに繋がっているという話をたくさん聞けたので、そういったところを観ていただけたら嬉しいです」

デザインされた伊勢神宮の森!?

●10年以上に渡って伊勢神宮を撮影されて、写真と映画という2つの記録に残されましたが、自分の中で一番変わったところはどんなことですか?

「僕は東京生まれの東京育ちなので、物が完成された中で生きてきたので、自然に生かされていた感覚があまりなかったんですよ。今まで半世紀近く現代社会の中で生きてやってきたことで、自然を破壊してきたことはたくさんあると思うんですね。でも、その中で木を1本植えるだけでもいいと思うし、少しでもムダを減らすことでもいいので、今自分ができることからやり始めることが大切だなと思って、そういう風に“自然と向き合えた”ことがすごくよかったですね」

●自然との向き合い方が変わったキッカケってあったんですか?

「倉田さんという伊勢神宮の営林部の偉い方がいて、その人しか持っていない鍵があって、その方のはからいで伊勢の森の裏だったり、小さい滝などを見せてもらったんです。森の奥に入ってありのままの自然を見せてもらったとき、生命の潮流を感じられたし、霧が出ていて神秘的な姿を見せてくれた日の朝方に見た朝日を見たときは、胸を締め付けられるぐらい感動しましたね」

●長年通って、美しいシーンをたくさんを見てきたかと思いますが、他にもありますか?

「一度ヘリコプターに乗って撮影させていただいたことがあったんです。話では伊勢神宮は東京ドーム50何個分って聞いていたんですが、これほど広くて美しい森をバックに持っているのを俯瞰で見て、伊勢神宮の存在を感じましたね。また、映画の中で北野さんが“あそこに伊勢神宮がいくようにデザインされていたんじゃないか”とおっしゃっていましたが、空から伊勢神宮を見たときにそれを感じましたね。ここに鎮座することがあらかじめ決まっていたんじゃないかと思うぐらい、素晴らしい自然に囲まれていると思いましたね」

宮澤正明さん

※この他の宮澤正明さんのトークもご覧下さい。

YUKI'S MONOLOGUE 〜ゆきちゃんのひと言〜

 私も以前、伊勢神宮を参拝したことがあるのですが、そこに入ると心がふっと軽くなり、何故か清々しい気持ちになりました。それはもしかしたら、私の日本人としてのDNAが呼び覚まされて、伊勢の森に呼応していたのかも!! 今回、宮澤さんにお話をうかがってそんな風に思いました。みなさんもぜひドキュメンタリー映画『うみやまあひだ』を見て、日本人の自然観を感じてみてください。

INFORMATION

うみやまあひだ〜伊勢神宮の森から響くメッセージ〜

映画『うみやまあひだ
〜伊勢神宮の森から響くメッセージ〜』

 宮澤さんが監督・撮影されたこのドキュメンタリー映画が109シネマズ二子玉川での上映が決定しました。

◎上映期間:
4月22日(水)と23日(木)は
特別プレミア上映、
4月24日(金)から30日(木)の
期間限定で一般上映。

◎詳しい情報:

写真集情報

 えい出版社から式年遷宮の貴重な記録をまとめた写真集「遷宮」と、小学館から「浄闇」という記念写真集が出ています。

 その他の情報など、詳しくは宮澤さんのオフィシャルサイトをご覧ください。

今週のオンエア・ソング

オープニング・テーマ曲
「GRACIAS / LARRY CARLTON」

M1. WHEN LOVE TAKES OVER / DAVID GUETTA feat.KELLY ROWLAND

M2. 鎮守の里 / 藤井フミヤ

M3. FIELDS OF GOLD / STING

M4. 晴れたらいいね / DREAMS COME TRUE

M5. STAR / EARTH,WIND & FIRE

M6. 花鳥風月 / ケツメイシ

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」