2015年5月16日

日本の伝統色
〜粋でオシャレな色彩感覚

 今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、長澤陽子さんです。

長澤陽子さん

 萌木色や山吹色、菫色など、日本人の色の表現って多彩ですよね。そんな伝統的な色の数はなんと数百種から千種類ほどもあるそうですよ。そこで、そんな日本の伝統色や日本人の色彩感覚について、カラー教室を主宰されていて、公益社団法人・色彩検定協会認定の講師でもいらっしゃる色の専門家・長澤陽子さんにうかがいます。

伝統色は曖昧!?

●今回のゲストは、色の専門家・長澤陽子さんです。よろしくお願いします。

「よろしくお願いします!」

●長澤さんですか! 私もです!(笑)

「初めまして、なんですが、そんな気がしないです!(笑)」

●長澤さんは、昨年出された『日本の伝統色を愉しむ〜季節の彩りを暮らしに〜』という本の監修をされています。この “伝統色”って、どんな色のことなんですか?

「古くは平安時代にできた色が今に伝えられている、古来からある色のことです」

●どんな色があるんですか?

「皆さんがよく知っている色でいうと“桜色”とか、今の季節でいうと“若葉色”“藍色”といった色です」

●なぜ平安時代にそういった色が生まれてきたんですか?

「元々は着物などを植物染料で染めるところから色が始まっていて、古来の人たちは自然の色を身につけることがオシャレのひとつだったんです。そして季節を感じて、季節ごとの動植物から色を取っていたんですね。それが今に繋がっているのが伝統色になります」

●“自然の色を身につけるのがオシャレ”というのは、日本人独特の感性じゃないですか?

「多分そうだと思います。日本は四季がはっきりしている国で、春になれば花が咲いて、夏になれば日差しが強くなって緑が萌えてきますし、秋になれは紅葉が増してきて、冬になると枯れて少し寂しいですが、白やグレーの美しさを感じることができますよね。そういう色を身につけたいというのが、当時の貴族の楽しみのひとつだったんですね。そこからたくさんの色が生まれてきています」

●今も伝統色は残っていますが、当時とは色が変わっていたりするんじゃないですか?

「確かにあったりすると思います。今皆さんがご覧になる日本の伝統色って、印刷された紙で見ることが多いかと思いますが、当時は糸や染料を染めるので、染料の割合で出来上がった色が違っていたと思うんですね。その染料が今では数字で設定すれば正確に色を出せます。当時は描き写されたものだったり、見本みたいなものを見て作られていたと思いますが、それは時と共に少しずつ変わってきたと思います。ただ、その曖昧さが伝統色の深くて楽しいところだと思いますね。もしかすると、当時の人たちもその曖昧さを楽しんでいたと思いますし、曖昧なことで、別の色が生まれていたりするので、今も昔もそれを楽しんでいたんじゃないかと思います」

裏葉色に朽葉色・・・

※長澤さんが監修された本『日本の伝統色を愉しむ〜季節の彩りを暮らしに〜』でも紹介されている“裏葉色”ですが、これは一体どんな色なんでしょうか?

「それは葉っぱの裏側を模した色です。自然の風景を思い浮かべていただけたら分かると思いますが、太陽が出て光が当たると、葉っぱの表面はキラキラと輝きますよね。でも、その裏側はどうかというと、影になっていてうっすらとした色だったり青緑色みたいになっていたりしていますが、昔の人たちはそういう色をただの葉っぱとして、ひとつの色として名前を残していたんですね。こういうところを見ると、すごく繊細な文化だと思います。
 海外にも“リーフ・グリーン”や“グラス・グリーン”など、葉っぱに関する色名がたくさんありますが、葉っぱの裏側の色を残している文化って世界的に見てもないと思います。目の付け所がすごいですよね!」

●そこに日本人らしい自然観が出ているんですね。同じ葉っぱでいうと“朽葉色(くちばいろ)”があるかと思いますが、色々な朽葉色がありますよね。

「ありますね。今だと“落ち葉”というひとつの言葉で片付けてしまいますが、当時の人たちは葉っぱが朽ちるから“朽葉”という名前を付けていたんですね。その“朽葉”にも“赤朽葉”“黄朽葉”“青朽葉”の3種類があるんですね。“赤朽葉”というのは、ご想像通り紅葉が赤く色づいていく様のことを、“黄朽葉”はイチョウのように黄色く色づいていくことをいいます。“青朽葉”はまだ緑の葉っぱを少し残しつつ、朽ちて落ちていく葉っぱのことをいいます。そういう風に呼び変えていたのは、まさに詩人のようで繊細ですよね!」

●落ちてしまった葉っぱに名前を付けるというのは、愛情を持って見ていたということですよね。

「そうだと思います。その色が出来た当時は平安時代なので、(色の表現は)貴族の方から生まれていますが、いわゆる“お姫様”ですから、暇なんですね(笑)。現代の私たちのようにせわしくはなく、普段から空の色や景色、植物の色をよく観察して、そのひとつひとつに名前を付けて楽しんでいたんですね。もしかしたら、心の余裕もあったのかもしれないですね」

●ということは、私たちが心の余裕を持てば、色がもっと見えてきたりするかもしれないですね!

「見えてくるんじゃないかと思いますね。今は新緑の季節で、緑がたくさん出てきていますが、“緑”と一括りにしても、黄色に近い黄緑色から青に近い青緑まで、色の幅がすごく広いんですよね。季節ごとに太陽の光が当たることによって、緑がどんどん色濃くなっていきます。そういうことを普段の生活から感じる機会ってあまりないですよね。でも、少しでも余裕があれば感じられると思いますので、是非その色の違いを感じていただけたらと思います」

“様”を色で表現する

長澤陽子さん

※花の色や葉っぱの色、自然にあるものに色の名前を付けた伝統色ですが、他にも自然現象を参考に名前をつけたものもあります。例えば“東雲色(しののめいろ)”。一体どんな色なんでしょうか?

「“東雲色”は別名“曙色(あけぼのいろ)”といわれていて、これは“春の朝焼けの色”なんですね。枕草子に“春は曙”とありますが、その“曙”というのが曙色のような色を差していて、東の雲から段々と空の色が変わっていく様のことをいいます」

●そういう“様”を色で表現するのも日本人独特の感性ですよね。

「そうですね。海外の色だと植物や動物、食べ物や飲み物など、物体の色の名前が多いんですが、日本は植物の色が一番多いんですね。それに加えて自然の様を取り入れるような名前であったり、自然の風景を色に置き換えて名前を付けていたりするので、これは日本独特のものかもしれないですね」

●日本独特といえば、“新橋色”といった、文化を取り入れている色もありますよね。

「“新橋色”は珍しく地名が入った名前なんですね。新橋といえば“サラリーマンの聖地”みたいな感じになっていますが、(新橋色は)少し鮮やかな青緑系の色をしているんです。これは比較的新しい色名で、明治時代ぐらいに付けられました。昔の新橋は芸者さんがいる花街だったんですが、明治時代になると、合成染料が日本にたくさん入ってきて、そのときに入ってきた鮮やかな色(の着物など)をそのときの新橋の芸者さんが好んで身に付けていたところから、名付けられたといわれています」

●ちなみに、現代のものだと、どんな色が新橋色なんですか?

「現代のものでいえばラムネ瓶みたいな緑がかった青が新橋色になります。実際に新橋色を見たい方は、ゆりかもめの新橋駅に行ってみてください。ホームにホームドアが設置されているんですが、そこに新橋色と日本の伝統模様が使われているんですね。なので、どんな色なのか見てみたい方は、ゆりかもめの新橋駅で見てみてください」

伝統色で恋文!?

●色々な伝統色をご紹介いただきましたが、この現代でその伝統色を生活に上手に取り入れるとしたら、どんな方法があるんですか?

「その季節に合うようなものを身につけてみることもひとつとしてありますね。平安時代には“かさねの色目”といって、十二単の襟の部分や袖の部分、裾の部分のところを“かさね”といって、そこの色を季節ごとに定めていたんです。春だと、“桜がさね”とか“梅がさね”といった素敵な名前の付いたルールがあるんですが、そういったものを現代の洋服の中にも使ってみるのもいいかと思います!」

●これからの季節だと、どんなかさねがオススメですか?

「夏に向けてだと、緑系がキレイだと思いますし、夏なのでアジサイのような淡いブルーと淡い紫もスッキリした感じがしていいですよね」

●色を決めるときのヒントとして、そのときに咲いている花や緑を見て、自分の洋服などに取り入れてみるのもアリですか?

「アリだと思います! 昔の人たちも、そこからヒントを得て、競い合っていたと思いますので、是非使ってほしいと思います」

長澤陽子さん

●他にも、昔の人たちは色そのものを粋に使っていたんですか?

「そうですね。平安時代といえば、男女の駆け引きでは“恋文”を必ずしたためていたんですね。いかに詩が上手かでモテるかどうかがあったということはご存知だと思いますが、ただの白い和紙に書くのではオシャレじゃないんですよね。そこにもかさねが使われていて、和紙を季節ごとに染め上げて、そこに恋文をしたためて相手に送るということもあったらしいです」

●それをもらったら、すごく嬉しいですよね!

「素敵だったと思いますし、“なんて粋な人なんだろう!”と心を打たれたと思いますね」

●ということは、昔の人は自然の色をうまく取り入れることがオシャレだったんですね。長澤さんが伝統色を勉強して、一番感じたことって何ですか?

「勉強を始めたときは“桜色”や“藍色”の名前だけは知っていたんですが、こんなにも奥深いものだとは思ってなかったです。まず“色数の多さ”に驚きました。そして、その“色の美しさ”、“日本語名の美しさ”ですね。先ほどもご紹介した“朽葉色”がそうですが、現代で“朽葉”という言葉を使うことがないじゃないですか。その日本語名の美しさに感銘を受けましたね」

YUKI'S MONOLOGUE 〜ゆきちゃんのひと言〜

 美しいグラデーションの花の色、太陽の光を浴びた葉っぱの色、刻々と変わる空の色。本当に自然の世界って普段使っている色では表現出来ない、美しい色で溢れていますよね。そして、それを表現できる日本の伝統色って素晴らしいなと思いました。今後、伝統色でみなさんに自然の美しさをお伝え出来るように、長澤さんが監修された本を活用させていただきたいと思います。

INFORMATION

「日本の伝統色を愉しむ 〜季節の彩りを暮らしに」

長澤さん監修の本『日本の伝統色を愉しむ
〜季節の彩りを暮らしに〜

 東邦出版/本体価格1,500円

 伝統色のことをもっと知りたいという方は、是非、長澤さんが監修されたこの本を読んでください。春・夏・秋・冬と季節ごとに伝統色の説明が並んでいて、とても分かりやすいです。また、ほのぼのとした水彩画の挿絵が可愛くて、見ているだけでも楽しくなります。

カラー教室『Harmonia(ハルモニア)』

 長澤さんが主宰しているこのカラー教室は北千住駅から徒歩8分のところにあります。きっと楽しくて奥深い色の世界を学べると思います。

今週のオンエア・ソング

オープニング・テーマ曲
「GRACIAS / LARRY CARLTON」

M1. COLORS / 宇多田ヒカル

M2. TRUE COLORS / CYNDI LAUPER

M3. イロトリドリノセカイ / BANK BAND

M4. THE FLOWER THAT SHATTERED THE STONE(一輪の花) / JOHN DENVER

M5. SHE'S A RAINBOW / THE ROLLING STONES

M6. 花咲く旅路 / 原由子

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」