2015年10月10日

今こそ“伝統野菜”に注目してほしい!

 今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、木村正典さんです。

 農学博士の木村正典さんは、NHK“趣味の園芸 やさいの時間”でおなじみ! 家庭菜園や市民農園などの研究に深く携わり、野菜やハーブを通して地域の活性化にも貢献されています。今回はそんな木村さんに、日本の伝統野菜のお話や、都会の住宅で行なう家庭菜園のコツなどうかがいます。

伝統野菜は2,000種!?

※“伝統野菜”にはどんな野菜があるのか聞いてみました。

「例えば“大根”には“桜島大根”“聖護院大根”“守口大根”など、それぞれの地域の名前がついた大根が品種になっているんですよ。なぜそういう品種がたくさんできるかというと、作り始めたころは今ほど流通が盛んじゃないので、その地域の人たちに合った野菜が作られていって、独自で発達していったということなんですよね。例えば、参勤交代で殿様が江戸から変わった種を持って帰ってきて、その種がその地域だけに根付いたっていうこともありますし、中には同じ種類だけど地域によっては呼び方が違うっていうこともあるんです。例えば、熊本では“水前寺菜”と呼ばれているものが石川県では“金時草”と呼ばれていますし、沖縄では“ハンダマ”ですし、宮古島では“ぱるだま”と呼ばれているんですよ」

●なぜそんなに名前が変わっていったんですか?

「昔はそんなに流通がなかったことが大きいと思いますね」

●流通がよくなかったから、文化や土地柄、風土などに密着して伝統野菜がたくさんできたんですね。

「典型的な例でいうと“カブ”と“漬け菜”の仲間があちこちにあって、それこそ一山越えると違う種類になってたりするんですよね。京都では“京菜”“水菜”“壬生菜”、東京だと“小松菜”、長野では“野沢菜”といった感じで、それぞれでご当地菜っ葉があるんですよ」

●それは面白いですね(笑)。となると、全国でどのぐらいあるんですか?

「地方野菜をまとめた本には500種類ぐらい載っていますが、絶滅してしまったものとかも結構あるので、それも含めたら2,000種類以上はあると思います」

●そんなに種類があるのは日本だけですか?

「日本独特だと思います」

●それは日本は縦に長くて、北は北海道から南は沖縄まで色々な風土があるということが関係しているんですか?

「そうですね。その地域独特の文化があって、それぞれで行なわれているお祭りがあって、そこで独特な野菜の使い方があることも大きいと思います。あと、日本には“漬け物”があるので、野菜は漬け物にすごく密着していて、伝統野菜のほとんどは漬け物なんですよね。大根・カブ・漬け菜はもちろん、ナスやウリも冬の保存食として多いですし、日持ちのする里芋やカボチャも伝統的なものが多いですね。そういうものが命を繋ぐのにどうしても必要で、それぞれの地域で独特に発展していったと思います」

●四季があるのも影響していますか?

「季節ごとに色々な楽しみ方をするのは日本人が得意とするところで、冬至にはカボチャを食べてゆず湯に入るとか、端午の節句には菖蒲湯に入るなど、植物と関わって暮らしてきたというのは日本独特なものだと思います」

千葉県産“大浦ごぼう”の作り方!?

※木村さんオススメの伝統野菜をうかがいました。

「作るのにものすごく手間がかかるものも結構あるんですよ。例えば“大浦ごぼう”というものがあるんですが、千葉県匝瑳市に大浦地区というところがあって、そこでゴボウを作っているんですね。それには言い伝えがあって、平将門の乱があったときに成敗しにきた人たちが成田山新勝寺に祈願に行ったんですよ。そのときにゴボウの精進料理を食べていって、勝って帰ってきてまたその精進料理を食べたということで縁起がいいものとされるようになって、大浦地区が成田山新勝寺と契約して、提供するようになったんですね。徐々にそのゴボウの作り方が変わっていって、江戸時代ぐらいには『ゴボウをどうやって太らせるか』ということを考えて、一度掘り起こして、ゴボウの直根から出る細根を取って、また埋めるということをやりだしたんですよ。そうすると、細根から栄養分を吸収して長くなろうとしていたところを、自分が太るだけになるようになるんですね。そうやって太っても中は空洞になっているので、その空洞に色々なものを詰めて料理として出すようになりました」

●直径で何センチぐらいまで太くなるんですか?

「10センチぐらいにまでなりますね。それは伝統野菜の中でも他では真似できないもので、今でも作り続けられています。似たようなものに“堀川ごぼう”というものが京都にありまして、これは秀吉が亡くなったあとに聚楽第の堀がゴミで埋め立てられたんですよ。そのときにゴボウも捨てられてたらしく、そこに捨てられていたゴボウが自力で育ったんですね。それを見た人が植え直したら肥大したんですよ」

●今、その堀川ごぼうの写真が手元にあるんですが、大根みたいですね! ゴボウって細くて長いというイメージがあったんですが、伝統野菜のゴボウを見ると、常識が覆されてしまいます。

「本当はそのような形にならないけど、ものすごく手間がかけて作っているんですよ。そんな特殊な栽培方法を伝統的に守ってきているんですよね」

伝統野菜と家庭菜園

※伝統野菜はいつごろからあったのでしょうか?

「中には江戸時代以前から作られていたという人がいますが、大体は戦前からずっと作られてきていたものだと解釈されています。そして、戦後の高度経済成長によって流通が盛んになると、野菜が画一化されていきました。青首大根が売れるとなったら、日本中の大根農家は青首大根しか作らなくなるわけですよ。そうなると、桜島大根や守口大根を作る農家がいなくなっていってしまって、伝統野菜が少なくなっていってしまって、中には絶滅した伝統野菜も結構ありました。それを平成になって見直して復活させようという動きが出てきました。あちこちで“地域振興はどうするか?”“これから農家は何を作っていけばいいのか?”という課題に直面したときに、かつてその地域にあった独自の野菜を再評価して“伝統野菜”として注目されているものが多いということですね」

●一度途絶えてしまったものをもう一度復活させるのって大変なんじゃないですか?

「種がどこにも残っていなくて、そういった種を保存している国の機関にお願いして分けてもらったり、どこかの農家さんがたまたま持っていたものを使ったりと、色々苦労して復活させているみたいですね」

●たまたま見つけたときはすごく嬉しかったでしょうね!

「そうですね。でも、やっぱり絶滅して種も手に入らずにどうにもならないものもたくさんありますね」

●木村さんが“これは復活してほしい!”って思っている種類ってありますか?

「例えば“滝野川ニンジン”という細長いニンジンが昔あったんですが、そういうものが残っていたら、今は多様化の時代なので、それを元に新しい品種が作られたりしたんじゃないかという気がするんですよね。絶滅してしまうと、その遺伝子を繋いでいくこともできなくなってしまうんですよ。それがどこで維持されていくかというと、農家が最も大きいかと思いますが、もう1つ大事なものとして“家庭菜園”があると思うんですね。
 都会ではもう家庭菜園の文化がないので、そういうものが残っていませんが、沖縄のお店が1店舗ぐらいしかなくて野菜が売っていない離島では家庭菜園が行なわれています。沖縄には伝統野菜がたくさんあるんですが、島の農産物は何かと聞かれると、統計上ではサトウキビしか出てこないんです。では、その他の伝統野菜はどこで作られているのかというと、全て家庭菜園で作られているんですね。それは家庭菜園によってずっと繋いできたんですよ。内地ではそういう文化が途絶えてしまっているんですが、昔は家庭菜園で野菜を自給自足をしていたんですね。それが流通が盛んになって冷蔵庫が誕生すると、専門の農家が野菜を作るようになったんですよ。それがスーパーに並ぶようになると、自給自足をする必要がなくなり、家庭菜園が途絶えてしまったんですね。最近、家庭菜園がブームになっていますが、そのときにはもうその伝統野菜が絶滅していて無くなってしまっているんですよね」

●買ってくると早くて便利ですからね。

「買ってくる野菜は全て画一化された野菜ばかりなんですよね」

●今の子供たちは、今の形以外のものがあるなんて知らないかもしれないですね。

「そうですね。そういうものに触れる機会が少なくなってきているので、そういうものを食べ物としてだけ見るのではなくて文化として捉えて“野菜も暮らしの中で重要な関わりを持っている”ということを認識してもらえたらいいなと思っています」

いつタネを蒔いてもOK!

●実は最近、私も自分で野菜を育てているんですが、なかなかマニュアル通りにいかないんですよね。

「私もマニュアルを書かされることが多いんですが、マニュアルは信用しない方がいいですよ。『書いてくれ』って言われるから書いてますが、種まきはいつやってもいいんですよ。家庭菜園のマニュアルの中に『種まきの時期や収穫の時期が書かれたカレンダーを作ってほしい』と言われて考えたんですが、ほとんどの野菜が一年中作れるものなので、カレンダーにならないと怒られたことがあります(笑)。
 結果として“何を求めるか”によって変わってきます。例えば、ベイビーリーフで食べるのであれば、2、3週間ぐらい経ったら食べられるので1年中作れますし、売り物みたいに大きくしようと思わないのであれば、いつでも作れるんですよ。それが大事で、種袋の裏を見て『あ、時期過ぎてる! 残念』って思ってほしくないんですよね。種袋の裏に書かれた時期は、失敗されるとクレームになってしまうので、割と狭い範囲で書かれているんですよ。なので、いつでもチャレンジしてほしいと思っているので、私の場合は広くお伝えするようにしています」

●これからの時期は何がいいのかっていうことをインターネットで調べたりするんですが、いつでもいいんですね?

「ただ、2点ほど注意点があります。1つは“虫”です。虫がいる時期に種を撒いてしまうと、あっという間に虫の餌食になってしまいます。もう1つ気をつけてほしいのは“花がいつ咲くか”ですね。例えば、アブラナ科のものは特にそうですが、冬を感知して花芽を作って春になると花が咲くというサイクルなんですね。それが今では色々な品種が出ていて、寒さに鈍感な品種とかも出ていたりするんですよ。それこそ種袋をよく見て、春撒き用のものか、いつでもいいものなのかをチェックしてもらえれば大丈夫です。その2つだけ気をつければ、いつ種を撒いてもらって結構です」

●自然の流れを理解することが大切なんですね。

「そうですね。虫も花もそうですが、生態系の中で彼らがいつどういう姿でいるのかを想像できれば大丈夫です」

●伝統野菜を家庭菜園で育てるには、どうすればいいんですか?

「まずは“その野菜の種を手に入れる”のが最初の大きな課題なので、種さえ手に入ってしまえば、普通の野菜を作るのとそんなに変わりません。自分でも種取りができますので、種を1度手に入れてしまえば、あとは自分で上手に種取りをしながら繰り返し作っていくことができます。自分が住んでいる地域にはどんな伝統野菜があって、その種がどこに売っているのかという情報がインターネットで調べれば分かりますので、是非種を取り寄せて種まきをしてほしいですね」

YUKI'S MONOLOGUE 〜ゆきちゃんのひと言〜

 自分の住んでいるところが昔はどういった環境でどんな人がどんな風に暮らしているのか、意外と知らないことって多いですよね。それを普段食べている野菜という切り口で知ることができる伝統野菜って素晴らしいですね。皆さんも是非、地元の伝統野菜を調べてみると面白いと思いますよ。

INFORMATION

二十四節気の暮らしを味わう 日本の伝統野菜

新刊『二十四節気の暮らしを味わう 日本の伝統野菜

 株式会社G.B/本体価格1,600円(税別)

 日本の伝統野菜に興味を持った方は、ぜひ木村さんのこの本を読んでください。季節ごとに伝統野菜の説明が写真と共に細かく載っています。伝統野菜がたくさんあることに驚くと思います。

 また、木村さんはNPO法人「ジャパン ハーブ ソサエティー」の専務理事としてもご活躍されています。活動内容などについては、オフィシャルサイトをご覧ください。

今週のオンエア・ソング

オープニング・テーマ曲
「GRACIAS / LARRY CARLTON」

M1. SO MUCH IN LOVE / TIMOTHY B.SCHMIT

M2. SWEET SEASONS / CAROLE KING

M3. BIGGEST PART OF ME / TAKE 6

M4. NOWHERE MAN / THE BEATLES

M5. GIVE YOU ALL THE LOVE / MISHKA

M6. 世界に一つだけの花 / 槇原敬之

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」