2016年4月30日

森と人の健康
〜日本人と森とアロマ〜

 今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、稲本正さんです。

 飛騨高山で国産の木を材料に家具造りや家造りの会社を営むオークヴィレッジの会長、稲本正さんは、植林活動や自然保護、環境教育にも力を入れ、ここ数年は、日本の森から採れたアロマを広める仕事を行なってらっしゃいます。そんな稲本さんが今年2月に“森と人の健康ネットワーク”というプロジェクトを立ち上げました。今回はそのお話や、アロマを活かした被災者支援についてもうかがいます。

森と人を元気に


2月に原宿のブルックス・グリーン・カフェで開催された
「森と人の健康ネットワーク」発足の記者発表。
右からC.W.ニコルさん、畠山重篤さん、成澤由浩さん、稲本正さん。

※今年2月に発足した“森と人の健康ネットワーク”。発起人は稲本さんの他、C.W.ニコル・アファンの森財団の理事長で作家のC.W.ニコルさん、“森は海の恋人運動”で知られる気仙沼の漁師、畠山重篤さん、そして世界的に有名なシェフ、成澤由浩さんの3人です。まずは発起人の中心にいらっしゃる稲本さんに、どんな想いでこのプロジェクトを立ち上げたのかうかがいました。

「“森を元気にしよう”と思っているんだけど、森を元気にすることが人の健康にも関係があることが分かってきたんですね。ある意味で一番分からせてくれたのは畠山さんかもしれないです。僕は物理学者なので色々調べたんですが、人間が食べるものって植物か動物なんですが、宇宙の中で一番多いのは水素なんですよね。2番目に多いのはヘリウムで、3番目に多いのが酸素なんです。水素と酸素がくっついて水になるわけじゃないですか。ところで、NASAのロケットって、何を使って飛んでいると思いますか?」

●燃料じゃないんですか?

「石油が燃えていると思っている人が多いんだけど、あれは水素が燃えてるの。あの白いのは水蒸気が吹き出しているのよ。意外に知られてないんだけど、水素と酸素がくっ付いた瞬間にエネルギーが出るんですよ。3番目に多いのは炭素なんです。その次に多いのが鉄なんですよ。その4つが混ざると血液ができるんです。植物でいうと葉緑素ができるんです。僕らは鉄分を含んだ食べ物を食べることによって、血液の循環がよくなるんですね。そういったことをある意味で発見したのが、畠山さんのグループだったんです。
 海の魚って赤い血を流すじゃないですか。でも、鉄が海に流れたとしても酸化鉄となって沈んでしまって動物が食べることができないんですよ。それが腐葉土とくっ付くと食べやすくなるんですよね。だから、魚にも血液があるわけですよ。それを漁師の畠山さんが気づいて、森と海を繋げようとしているんですよね。
 ニコルさんはスギだけだった森に広葉樹を植えることによって、腐葉土ができるから、それが魚や動物の栄養となるので、そういう活動をしているんですよね。
 成澤さんは本当に変わっていて、僕が書いた“森の惑星”という本を見たときに『僕、森を食べたくて仕方なかったんですよ! 是非行ってみたい!』っていうわけですよ(笑)。それで飛騨の山に連れていったら、食べられるものと食べられないものが動物的勘で分かるんですよね。

 ニオイコブシというすごく香りのいい植物があって、それは春先にオレンジ色の葉っぱを出すんですよ。それを見て『これは美味しそうだ』っていって食べたんです! 僕も食べてみたんですが、美味しかったんですよ! うちでは木工をやっているので、木の屑があるじゃないですか。それを見て『これでパンが焼けそうだ!』っていうわけですよ。実際に木の屑でパンを焼いてみたら、ほとんどがマズかったんですが、栗の木の粉だけは美味しかったんですよ。
 そんなことがあって、4人は繋がって“森と人の健康は繋がっている”ということをアピールする場所として始めました」

圧倒的に豊かな森

※日本の森から採れたアロマに着目している稲本さんに、モクレン科の木“ニオイコブシ”についてうかがいました。

「ニオイコブシというのは、香水のゲランが見つけて、ゲラニオールとかゲラニアールが含まれている、それの香りだから、香りがいいのは決まってますよ。ニオイコブシは別名“タムシバ”といって、お菓子がなかった江戸時代に甘くて美味しいニオイコブシを噛んでたんですよ。そのときは“カムシバ”と呼ばれていたんですが、それが訛っていって“タムシバ”になったんです」

●元々は食べるものだったんですね。そう考えると、日本人は昔から森と親しんできたんですね。

「それはそうですよ。日本って国土の67パーセントも森林があるじゃないですか。温帯の中で最も生態系が豊かなんですね。日本人はみんな誤解していて、フィンランドは森林面積率が1位なんだけど、マツ科の木しかないので、生態系は意外と豊かじゃないんですよ。スウェーデンもそうです。日本は3番目なんだけど、多種多様なんですよ。ニコルさんは『英国はすごいんだ』っていうけど、森林面積率でいうと20パーセントいくかいかないかぐらいしかなくて、ドングリのなる木が2種類しかないんですよ。日本は16種類もあるんですよ! なので、日本は圧倒的に生態系が豊かなんですよ。だから、いい香りも取れるし、森からのものをいっぱい食べられるんです」

●私たちはすごく恵まれた環境の中にいるんですね!

「恵まれた環境の中にいる人は、ときどきそのことが分かんないときがあるんですよね。雨は多いし、温度は適度、四季の移り変わりがある、そして意外なことに“標高差がある”というのも、下の方は暖かくて上は寒いので、いいことだったりします。なので、すごく多種多様なんですよ」

●“森にいくと健康になれる”といいますが、日本人はそういう環境の中に昔からいたんですね!

「そうなんですが、慣れてくると段々ちゃんとケアしなくなるし、森に行かなくなるんですよ。“世界一の編集者”と呼ばれている“タイラー・ブリュレ”のロンドンのオフィスは“ミドリ・ハウス”という名前なんですよ。なぜ“ミドリ”という名前を付けたかというと、彼が“世界一緑がキレイなのは日本だ”と思っているからなんですよ。日本の緑をよく見てみると、黄色っぽいのや濃いのとか色々あるじゃないですか。その幅は世界一広いんですよね」

●そうなんですね。海外はそこまで幅広くないんですね。

「以前ロシアを旅したことがあるんだけど、針葉樹の森があるわけだよ。(列車に乗って)夜寝て、翌朝起きたら全く同じ風景があるんだよ(笑)。フィンランド行ってもそうですよ。そういう意味では、日本はすごいんです。紅葉もカナダは真っ赤か緑なんです。そういう風に、海外の生態系が意外と単純なんですが、日本は複雑なので、香りもたくさん採れるし、それを上手く使えば人は健康になることができるんですよね」

千利休もわかっていた!?

※新緑の森を歩くだけで気持ちがリフレッシュしますが、そんな森の香りが健康にいいというのは、科学的に立証されているんでしょうか?

「はい。本間先生というニコルさんの主治医がいるんだけど、その人との共同研究で、森に落ち込んだタイプの人と元気なタイプの人の2種類の人を連れていったんですね。すると、元気な人は落ち着いて、落ち込んだ人は元気になるということが証明されたんですよ。さらによく調べていくと、ニオイコブシの中にある“ゲラニオール”という成分は、元気の素だということが分かってきたんですよ。昔の人はよく分かって子供に食べさせたんですよね。そしてクロモジにはリナロールという成分が含まれているだけど、マリリン・モンローが使っていたシャネルの5番にもリナロールが入っていて、それは人を落ち着かせる効果があるんですよ。お茶はもっと前から考えられていて、千利休とか分かっていたんじゃないでしょうか」

●お茶にはどういう効果があるんですか?

「お茶を飲む前に爪楊枝でお菓子を食べたりすると思いますが、昔は爪楊枝のことをクロモジといったぐらい、爪楊枝がクロモジの代名詞なんですよ。なぜクロモジだったのかというと、千利休がいた時代に庭にクロモジを植えていて、そこから削ったものをすぐ持っていったら、いい匂いがして落ち着いたんですよ。それで甘いお菓子は気持ちを高める効果があるので、頭は冴えているけど、気持ちは落ち着いているんですよね。あとから科学的に調べたら分かったことなんですが、昔の人は本能でそれが分かってたんだと思います。お茶に含まれているカテキンは肌をキレイにしたり、人間のバランスを取る効果があるんですよ。だから、お菓子を食べながらお茶を飲むって、まさにアロマセラピーなんですよ」

●アロマって海外から入ってきたというイメージがありますが、日本にも昔からあったんですね!

「僕は今、日本製のアロマや世界中のアロマのことを調べているんですが、アマゾンの祈祷師もアロマを焚くんですよね。アロマを勉強した日本人は20世紀前半の西洋のものを勉強しましたが、本当はその前からあったんですよ。日本は今、エレクトロニクスがすごく進化しているので、色々なものを測ることができるんですね。ある人にクロモジの匂いを嗅がせたり、お風呂にクロモジの入浴剤を入れたり、クロモジのシャンプーを使ったりする実験をしたら、明らかによく眠れるというのが証明されたんですよ」

●全部自然からきたものじゃないですか。科学的なものを使わなくても、自然のもので私たちの体は十分再生する力があるんですね!

「むしろ、自然のものの方がいいということも分かってきています。なぜかというと、科学的なものもピンポイントでいいんです。お医者さんに行って薬を出されると『運転しちゃいけませんよ』といったような注意を受けるかと思いますが、鎮静剤や精神安定剤って判断能力を落とすんですよ。そういう副作用があることを知っててお医者さんは出すんですが、クロモジで実験してみたら、判断能力が落ちないことが分かったんですよ!  “森と人の健康ネットワーク”で、そういうことが色々な人に広がっていければと思っています」

日本産アロマで熊本を応援します!

※稲本さんは、そんなアロマを使って、東日本大震災のときに避難生活を送ってらした方々の、心と体のリフレッシュに取り組んだそうです。

「東日本大震災のとき“元気を出すアロマ隊”というものを作ったんですよ。避難所とか狭いところにいると、段々と疲れてくるじゃないですか。そこでうちのアロマを提供して、セラピストが色々なところでアロマを使ったら、変わるということが分かったんですよ。ミズメザクラという木は、肩こりに効果があるんですよ。元気がない人にはニオイコブシが効果的だし、眠れない人にはクロモジを混ぜたものを使ったりしたら大好評でしたね。実は、そのときに外国産のアロマも使ったんですよ。でも、東北のおじいちゃんたちは外国の木の名前なんて分からないんですよね。それを使ってもあまり効果的じゃないっていうのが分かって、やはり日本産のアロマがすごくいいというのが分かったんですね。
 甘夏から“ネロリ”という香りが採れることが分かったんです。熊本にネローラ花香房があって、僕らが手伝っているんだけど、そこの森田さんが『もっとひどいところがあるから』ということで、ネロリも含めたスプレーを作ったり、マッサージに使う液を作ったりして、その香りで少しでも熊本の人たちの気分をよくするためのツアーを5月3日と4日にしてこようと思っています。
 なぜそのときにするのかというと、ネロリの花って、そのときに摘まないといけないんですよ。花からアロマを採るのは、ある特殊なときしかダメなんです。その花が一番香るときって決まっているんですよ。甘夏って、一つの房みたいにたくさん花が咲くんですね。1個だけ残してあとは全部摘みます。そのときに捨ててたものからアロマが採れることが分かったんですよ」

●利用法としてはすごくいいですね!

「僕は去年も行ったんですが、海を見ながら花を摘んでいると気持ちいいんだよ! いつまでもやっていたいという気持ちになりましたね! だから、今度はなるべくたくさん集めて、余裕があれば物を売って、売ったお金を寄付するということもやろうと思っています。水俣に新しい産業が生まれるかもしれないので、それを少しでもバックアップできればと思っています」

●今後はその甘夏ネロリがうまくいけばいいですね。

「間違いなく世界に行けます!」

●ネロリは高価な精油の1つですよね。

「僕も(アロマを)やり始めたとき、ゲラニオールやリナロール、ネロリなどが日本にあると思わなかったです。これもよくあることですが、日本人よりも海外の人の方が評価しているんですよ」

●日本の森やアロマに対して、もっと誇りをもった方がいいですね!

「ニコルさんがクロモジなどを英国王室に持っていったんですよ。するとチャールズ皇太子とカミラ夫人がすごく喜んで、日本皇室に『あなたのところにこんな素晴らしいものがあるんですか!』というメッセージが届いたらしいんですね。そのぐらいのものなんですよ」

※この他の稲本正さんのトークもご覧下さい

YUKI'S MONOLOGUE 〜ゆきちゃんのひと言〜

 森の中に行くと、自然と気持ちがリフレッシュして、なんだか元気が出てきますが、これって科学的にもちゃんと証明されていたんですね。“森が健康であれば、私たちも健康になれる”。森と人の健康ネットワークで、そのことがこれからどんどん発信されていくのが楽しみです。

INFORMATION

甘夏ネロリ花摘みツアー

支援活動に通じる熊本県の水俣で行なうこのツアー。日程は5月3日と4日、4日は稲本さんと森を歩くツアーがあります。詳しくは、ネローラ花香房のサイトをご覧ください。

森と人の健康ネットワーク

 稲本さんやニコルさん他が発起人となって発足した“森と人の健康ネットワーク”では、個人や法人のサポーターを募集しています。サポーターになると、色々な特典もあります。
 また、5月20日と21日には飛騨高山でクロモジ採集ツアーが行なわれます。
 さらに、原宿のブルックス・グリーン・カフェでは定期的にイベントを行なっています。
 6月7日(土)の夕方には、建築家の隈研吾さんを迎えたトークショーが予定されています。
 詳しくは、森と人の健康ネットワークのfacebookページをご覧ください。

今週のオンエア・ソング

オープニング・テーマ曲
「GRACIAS / LARRY CARLTON」

M1. SATURDAY IN THE PARK / CHICAGO

M2. 秘密の森 / KEISHI TANAKA

M3. FEARLESS / TAYLOR SWIFT

M4. WONDER / D.W.ニコルズ

M5. LOVIN' YOU / JANET KAY

M6. 花咲く旅路 / 原由子

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」