2016年5月21日

四代目 江戸家猫八さんを偲ぶ
〜猫八・小猫 野鳥や動物を愛する親子の絆〜

四代目・江戸家猫八さん

 今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンは、今年3月21日に亡くなられた動物ものまね芸の第一人者、四代目・江戸家猫八さんを偲び、2年前の2014年8月23日にこの番組に出演してくださったときの模様を、息子さんの江戸家小猫さんのコメントとともに再構成してお送りするスペシャル・エディションです。

鳥になりきる!

※猫八さんの鳥の鳴きまね芸の秘訣とも言えるバード・ウォッチング。2年前の出演当時、これを始めたきっかけをうかがったとき、こんなことをおっしゃっていました。

猫八さん「まさに芸のためです。この“江戸家猫八”という名前ですが、初代は僕のおじいちゃんで、そのお弟子さんが二代目、戦後に僕の親父が三代目を引き継いで、僕が四代目。今は僕の息子が江戸家小猫として頑張っています。こうして、代々引き継いでいるんですね。このものまね芸は動物の鳴きまねをするので、『ここのウグイスはどんな声で、どんな姿で鳴くのか!?』といった感じで、最初は観察というよりも勉強に行ってましたね。
 今ではCDなどの音源で鳥たちのいい声を聴くことができますが、現場で聴くと、その鳥たちの息吹を感じるんですね。その息吹がこもった声を体に吸収してからステージ上で鳴きまねをしてみると、やっぱり違うんですよ。ものまねは音や形のまねをしますが、ものまねをするにあたって一番大事なことは、鳴きまねをする相手の全てを見て、吸収して、生きているということを、自分なりに把握していかないと、本当のものまねができないんじゃないかと思うんですね」

●以前、猫八さんの芸を見せていただいたことがあるんですが、そこに鳥が本当にいるような感覚を味わいました。

猫八さん「それは僕が鳥になっているからだと思います。『自分が鳥の真似をしているんだ!』と誇張するよりも、“鳥になりきること”が一番大事なので、僕がニワトリのまねをするときは『僕はニワトリなんだ』と思ってやっているんですよ。その状態で鳴き声が出てくるから、そこに鳥がいるように感じるんだと思うんですね」

●そのときの猫八さんは鳥になりきっているんですね! そんな大好きな鳥を色々なところに見に行かれた猫八さんですが、どのへんに、何回くらい行ったんですか?

猫八さん「多分数え切れないですね。外国だと20ヶ所ぐらいだと思いますが、国内は5月、6月ぐらいの初夏のころに鳥がさえずるので、一番楽しいんですよ。そうなると、時間さえあれば出かけちゃいますので、100回や200回じゃ足りないと思います。毎年必ず行くところもあります。戸隠だと、シーズン中に3、4回行きますね。実は、同じ場所に何度も行くことって大事だったりするんですよ。 今年行って去年のことを思い出すと、多少の変化を感じることもありますし、同じ場所で同じ鳥が出てきたとしても、その時々で違うんですよ。何回も見てると、顔つきが違いますし、同じ種類の鳥でも鳥によって性格も違います。中には、すごくシャイで姿をあまり見せたがらないやつがいたり、すごくなつっこくて目の前に出てきてくれたりするやつもいるんですね。そうなると見ますよね。そうすると、鳥もこっちを見てくれます。それだけで、こっちに気持ちを許してくれてる感じがするんですよね。そういう鳥に出会ったら、たとえ何度も訪れている場所であろうと、何度も見ている鳥であろうと『今日はよかった!』って思うんですよね。その醍醐味があるんですよ」

●飽きることはないですね。

猫八さん「絶対にないです。さえずりも違いますので、今までで一番いいさえずりを聴けたときは本当嬉しいですね。それをステージ上に持っていけたら、もっと嬉しいですね」

ウグイスの声がいちばん!

※今回、猫八さんの息子・小猫さんにお話をうかがうことができました。小猫さんが芸の道に入るとき、猫八さんとの間にこんなことがあったそうです。

江戸家小猫さん

小猫さん「山ほどあるんですが、その中で小猫を意識した上で舞台デビューのキッカケとなった出来事がありまして、それは僕が高校時代に体調を崩して20代はずっと自宅で療養をしていました。それを見て父も“自分で江戸家の幕を下ろさないといけない”と思っていたと思うんですが、そのときに僕は父に内緒でウグイスの指笛だけはずっと練習していたんです。
 あるとき、父と一緒にバード・ウォッチングに行ったんですね。野山に入っていったとき、鳥のことにすごく詳しい父と行ったのに、有り得ないことに鳥が鳴いてないんですよ。『鳥がいない。どうしたのかな?』と二人で話していたら、遠くの方でウグイスが1匹だけ鳴いたんですよ。このときに僕が密かに練習していたウグイスの指笛をやったんです。もちろん、上手じゃありませんでした。そのとき、父はそこまで大きなリアクションはしませんでしたが、多分喜んでくれていました。
 そこは温泉で有名なところだったので、夜一緒に温泉に入ったんですが、ちょうど父が四代目の襲名を控えていたときだったので、『秋に自分は猫八になるが、その舞台で一緒にやってみるか?』と言ってきたんですね。そのときすごく嬉しくて、僕の中でも小猫として舞台に立つ決意が固まったので、今の自分に繋がる大きな思い出になってます」

※猫八さんに一番好きな鳥の鳴き声は?と聞いてみたら、当時このように答えていました。

猫八さん「なんだかんだでウグイスの声が一番素晴らしいと思いますね」

●そうなんですか! 意外です。

猫八さん「キビタキやオオルリなども素晴らしい鳴き声なんですよ。でも、ウグイスの声のインパクトは素晴らしいですね。私たちがまねするときは指笛で鳴くんです」

※放送ではここで実際にやっていただきました。

猫八さん「この鳴きまねで特徴的なのは、“ホー”というところと“ホケキョ”というところがはっきり分かれているところなんです」

※放送ではここで実際にやっていただきました。

四代目・江戸家猫八さん

猫八さん「こういった鳴き方は、日本だけじゃなく世界を見ても他にいないですね。それに、ウグイスの面白いところは、鳴き声を変えてみたり、“谷渡り”いうケッキョケッキョと鳴く鳴き方は他の鳥はまずしないですね。しかも、谷渡りは色々なパターンを持ってるんですよ。それが場所によって違うので、ウグイスだけを聴きにいっても大満足できるぐらいバリエーションを彼らは持っています。それに、あまりにもインパクトの強い鳴き方をすると、モズやクロツグミとかがまねをすることがあるんですね。それだけウグイスの声にはどこか魅力があるんでしょうね。ただ、クロツグミは“ホーホケキョ”という鳴き方のまねができないんですよ。谷渡りのまねをやりますね。
 鳴きまねがたくさんできる鳥はモテるそうなんです。そういうことをやって『俺はすごいだろ!』って誇示してメスの気をひかせて、メスも反応するんですよね。そうなれば、さえずりが重要なことなんだと自分なりに分かってると思うんですよ。だから、他の鳥の声も聴いたり、自分の声も聴くと思うんですね。これは僕が思っていることなんですけど、“なぜ、鳥は自分の鳴き声を聴くのか”というと、僕たちもステージで鳴きまねをしたら、今日の出来を振り返るために聴くんですね。それで自分で自分の声を評価したり、さらによくするための反省材料にしたりするんです。鳥たちも一緒だと思うんですね。だから、彼らはエンターテイナーなんですよ。僕は鳥たちに対して、仲間のような気がしてますね」

※ここで放送では、猫八さんと小猫さん親子の、ウグイスの鳴きまねセッションをお聴きいただきました。聴き逃してしまった方はコチラ(mp3ファイル)で聴くことができます
まずは猫八さんのウグイス、そして小猫さんのウグイスが聴こえてきますよ。

親子で感動のアフリカ旅行

※小猫さんがお父さんの猫八さんと一緒にアフリカのケニアに行ったときの話をしてくれました。

小猫さん「2013年に父と一緒にケニアの“マサイマラ国立保護区”に行く機会がありまして、そのときは丸4日ぐらいジープに乗りっぱなしで色々な動物を観察したのが一番の思い出です。
 そこには“ヌー”というタンザニアとケニアを移動している動物がいるんです。僕らは6月にそこに行ったんですが、そのときは運がよければヌーに出会えるというタイミングだったんです。僕らも『見られたらいいね』という気持ちで行ったんですが、僕らが滞在している間にタンザニアの川岸の向こう側にヌーの大群が来てくれたんですよ! ドライバーさんも大興奮で『もしかしたら、明日川を渡るかもしれない』っていうんですよ。“ヌーの川渡り”は有名で、それを見られたらいいなという気持ちで行っていたので、その日の夜は二人ともワクワクしていました。
 翌日、ドライバーさんに国境線沿いの川まで連れていってもらって、川の向こう側にヌーの大群が来ているんですよ。でも、来ていても渡るかどうか、渡るとしてもいつ渡るのか分からないんですよ。とりあえず、このドライブの時間を全て使って待ってみることにしました。ドライバーさんも粘ってくれましたが、ダメでした。やむを得ないので帰ろうと車を走らせたんですが、落胆している僕たちを見て『“ツキノワテリムク”というすごくキレイな鳥が集まる木があるから、そこに行こう』ということで案内していただきました。行ってみたら確かにたくさんいて、二人で写真を撮っていました。すると、さっきまでいた川の方から白い煙が上がったんです。それをドライバーさんがすぐに見つけて『渡った! 車に戻れ!』といって、いままでの3倍くらいのスピードでその川に戻ってくれたんですね。戻ってみたら、その年最初のヌーの川渡りが始まったばかりでした。その様子を父と見ていました。あのときの感動は忘れられないですね」


アフリカ・ケニアで撮った親子のツーショット。後ろにヌーの大群が写っています!
(写真協力:江戸家小猫)

この環境を、もうそろそろいじらないでよ!

※お父さんの猫八さんの意思を引き継いだ小猫さんは、今どんな思いを抱いているのでしょうか?

小猫さん「父は60歳で猫八になって、66歳で亡くなったので、たった6年間なんですね。病床にいたときも“せめて70歳までは”と言っていたんですが、本当は80、90歳ぐらいまでやりたかったんだと思うんですね。僕も小猫としてまだキャリアが5年なので、もしキャリアが20年ぐらいになったときに父との共演を果たせたら、どんな芸ができたのかなって思いますね。それに、父と一緒に環境教育をやれたら、もっと色々なことができたんだろうなって思います。そういう点では、無念で仕方ないというところがあるんですが、そこは仕方ないことなんですよね。
 それよりも、僕が父と同じ仕事ができていることをすごくありがたく感じているんです。なぜかというと、舞台でどんな鳴きまねをしていても、父の存在を感じるんですね。そういう中でいい仕事をしていくことで父の供養にもなると思いますし、そうやって江戸家のためになることは、ご先祖もきっと喜んでくれていると思っています。そこを大切にしながら、僕はいずれ五代目を引き継いでいくと思うので、今は悲しみよりもそっちの方に気持ちを切り替えて、『とにかくいい仕事をするしかない』という気持ちで頑張っています」

※最後に2年前にご出演していただいたときに、この番組に残してくださったメッセージをお届けしましょう。猫八さんがバード・ウォッチングを通して感じたこと、伝えたいことです。

猫八さん「一見すると木がたくさんあって青々とした山なんですが、鳥たちにとってエサになる木の実がなるような木がないとか、鳥の観察をすると共に感じてくるようになるんですね。それを鳥から学んでます。人間の環境の中だけで生活してしまうと、自然環境がいかに大切なのかが2番目、3番目になってしまいがちなんですよね。だから僕としては、鳥を見に行くことが目的でもいいと思います。そうすれば、おのずと自然を見てきますし、植物や土、水など全て見てきます。僕は、経済や豊かさ、そして『(人間にとって)夏は涼しくて、冬は暖かい方がいい』ということばかりが、生き物にとって素晴らしい環境ではないと思います。
 そして、これは一番重要なんですが、“鳥や動物たち、自然たちは昔と同じ生き方をしている”んですよ。環境が変化したというのは、人間が環境をいじっているからであって、それを考えると、確かに今はいろいろと考えながら開発をしてくれていますが、まだ足らないところがあると思います。

 例えば、開発をすることでミゾゴイという鳥の棲むところがなくなってしまうということがあるんですよ。そういうときに考えないといけないのは、彼らは僕たちと同じように地球で過ごしているんだけど、人間よりも不器用なんですよ。それを人間が『ここを開発するから、他に移ってくれないか?』といっても、彼らはそれほど器用じゃないし、別のところもないんですよね。ミゾゴイは地味で存在すら知らなかった方が多いと思いますが、彼らは日本だけで繁殖している鳥なので、生息できる場所が減っていくと、もう生きていけないんですよ。人間の豊かさや経済的なことを考えると、開発することによって、いいことがいっぱいあると思います。でも、そのために唯一そこしかもう残ってないような自然環境すらもなくしてしまうのは、やりすぎじゃないかと思いますね。
 少なくとも太陽系の中で“水の星”といわれているぐらいに水と緑がたくさんあって、太陽からの位置もちょうどよくて、そんなこの星が回ってくれて、この環境を作ってくれてるんですよ。いくら素晴らしいものを作って開発しても、僕たちにとって一番大事なこの地球という星がダメになってしまったら意味がないじゃないですか。そういった考え方を優先しないといけないようなときがもう来ていると思います。それは色々な場所に行って、鳥が減っていたり、鳥のさえずりが聴こえなくなったりすると感じるんですよね。もう、鳥のさえずりとかが聴こえなくなってくる“沈黙の春”がもうすぐそこまで来ているんですよ。だから、人間も考えないといけないです。私はそれを鳥から聞いてきました。鳥は『私が棲むことができるこの環境を、もうそろそろいじらないでよ!』と、さえずっています」

YUKI'S MONOLOGUE 〜ゆきちゃんのひと言〜

 鳥を愛し、鳥に学び、鳥そのものになって、鳴きまねをされていた猫八さん。だからこそ、鳥たちの必死の叫びが聞こえていたのかもしれません。「鳥達の目線になって自然を見て」。ウグイスの鳴き声を聞くと、猫八さんが残してくれたメッセージが聞こえてくる気がします。

INFORMATION

「猫の鳥談義」

猫の鳥談義

 文一総合出版/本体価格1,600円

 猫八さんが2年前に出版したこの本は、野鳥観察のために出かけた国内外の旅のエピソードが満載。ご本人撮影の野鳥たちの写真も素晴らしいです! 表紙のイラストを描いたのは息子さんの江戸家小猫さん。キビタキやサンコウチョウといった野鳥の他、ゾウガメやネコ、テナガザルが活き活きと描かれていて、とても可愛くて素敵です。

江戸家小猫さん情報

 江戸家小猫さん、今月は末広亭と鈴本演芸場の昼の席に出演されているほか、23日(月)と31日(火)には池袋演芸場のステージにも立つことになっています。動物園に通って磨いた鳴きまねをぜひご覧ください。詳しくは一般社団法人・落語協会のオフィシャルサイトをご覧ください。

今週のオンエア・ソング

オープニング・テーマ曲
「GRACIAS / LARRY CARLTON」

M1. BLACKBIRD / THE BEATLES

M2. LOVIN' YOU / MINNIE RIPERTON

M3. UNFORGETTABLE / NAT KING COLE & NATALIE COLE

M4. SONGBIRD / ERIC CLAPTON feat.WILLIE NELSON

M5. AFRICA / TOTO

M6. TRY TO REMEMBER / THE BROTHERS FOUR

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」