2016年9月17日

ドキュメンタリー映画『あたらしい野生の地〜リワイルディング』
〜再野生化したオランダの自然保護区

 今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、赤阪友昭さんです。

 今回は、世界的に注目されているドキュメンタリー映画『あたらしい野生の地〜リワイルディング』にフォーカスします。副題になっている“リワイルディング”とは“野生が再生する”という意味で、実際に野生が再生したオランダの、海沿いの自然保護区で撮影されています。番組としては是非多くの方に見ていただきたい映画なんですが、実はまだ日本では上映されていません。
 そこで今回は日本での上映を応援するチームのメンバーであり、写真家の赤阪友昭さんに、その映画の魅力や、赤阪さんご自身の大自然に向き合う撮影活動のお話などうかがいます。

再野生化〜生き物たちの力

※今回の映画の舞台となっている場所は、オランダの首都アムステルダムから約50キロ離れたところにあります。一体どのようなところなんですか?

「今回の舞台となった場所は、本来人間が使うために干拓事業で作られた土地だったんですが、そこが経済的破綻をしたと聞いています。工場を誘致したり新興住宅地にしようとしてもできなかったんですね。その場所を放置していたら、そこに自然が還ってきて、素晴らしい野生の宝庫になっていきました。それをドキュメンタリーとして追った作品となります」

●放置すると、あれだけ豊かな自然になるものなんですね。

「僕は最初、予告編を、ある人の紹介で見たんですが、そこには豊かな自然が映っていて、“アムステルダムのかたわらにこんな場所があるの!?”とビックリしました。ただ、ときには映像は嘘をつくので、“ひょっとしたら、誇張されているんじゃないか?”と思っていたんですが、実際に行ってみたら、やっぱり凄かったですね」

●アムステルダムから50キロということですが、東京からだと船橋辺りの距離になるんです。そう考えると、都会と目と鼻の先じゃないですか。そんなところにアフリカの大草原のような自然が広がっているんですね。どのぐらいの広さがあるんですか?

「約50万平方キロメートルで、大田区ぐらいの広さですね」

●その限られた土地の中で、多様な生き物たちが共存することができるんですね。

「最初に水草が茂って、徐々に植物がやってきたんですが、そこに水鳥たちが水草や水生昆虫を求めてやってきます。その水鳥を追ってキツネがやってきます。そこまでは人の手が入ってないんですね。それを自然学者が見たときに“ここは人の手が入らない場所にするために、自然保護区にしたらどうだろうか?”と提案してできあがったのが、この映画の舞台なんです。そこに人間が“コニック”という家畜馬だったものが野生化したものと、“アカシカ”を十数頭入れました。それが20年ぐらい経つと千頭以上の群れになっているというが現状です」

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●なぜ、馬と鹿を入れたんですか?

「実験的に入れてみたんだと思います。その考え方が“リワイルディング”という考え方に基づいていると思います。人の世界が広がったことで、絶滅してしまった種がたくさんありますよね。その絶滅してしまったり家畜化してしまった種を、ある一定の環境条件が備わったところに離すことで自然が回帰していくんじゃないかという想定の下、そのプログラムが行なわれてきたんですね。実際にヨーロッパではバイソンが導入されて、オランダやポーランドで成功した例があったので、オランダでももう一度やってみようということで導入されたんだと思います」

●今レッドリストに載ってしまっていたり、絶滅危惧種に指定されているような種を野生に戻すことで、復活する可能性があるということなんですね。それってすごいことですよね!

「本当そうですよね。そして、この映画が教えてくれる素晴らしいことって、こういった“自然回帰”は僕たちの中には100年ぐらい以上かかるんじゃないかと思っているんですが、たった20年ぐらいで還るということをこの映画で見せてくれているので、“生き物たちの力”というのは、僕たちの想像を超えたところで動いているということを強く感じています」

絶対に誰かのせいにしない

※赤阪さんはどうして写真家になったのでしょうか?

「1995年の阪神淡路大震災を経験して、“自分が今生きている意味”を考えたら、“与えられた時間の中で、自分がするべきことをやっていきたい”ということを強く思ったんですね。それで写真の世界に入っていきました」

●影響を受けた写真家はいますか?

「星野道夫さんですね。僕はシャチやクマといった野生動物を撮っていて、その時間を楽しんでいたんですが、彼らと過ごしている時間の中で、それによって自分が何を伝えたいのかといったときに、僕たちはこの生き物たちとの関係性を、これからどういう風に紡いでいくのかが気になり始めたんですね。
 そこでどういう人たちのところに行けばいいのかと考えたときに、自分の中でまず最初に浮かんだのが“狩猟採取民族”だったんです。そんな彼らの世界に入っていって、彼らは動物たちを狩ることでどういう風に生きているのか、野生動物とどういう関係性で生きているのかを知りたかったんですね。それで彼らの世界に入っていくようになりました。
 彼らが狩りをするときに大事にしていることがあって、それは“絶対に誰かのせいにしない”ということです。アラスカの原野の中にある小さな村で、例えば彼らが“ヘラジカを獲りたい”と思ったら、ヘラジカがいるところまで行かないといけないわけですよ。その村にヘラジカがいればいいんですが、いなかったら、文明社会で生きている人からしたら“それはオオカミのせいだ。だから、オオカミの数を制限しよう!”という人が出てくるんですよね。でも、先住民の人たちはそういう考え方は受け入れられないみたいで、“ヘラジカの好物のヤナギの新芽がこの辺りにないじゃないか。だったら、それがあるところに我々が行けばいい”というんですね。そういう考え方が僕たちにも必要なんじゃないかと思っています」

アラスカで運命の出会い〜予告編

※赤阪さんがこの映画に出会ったキッカケをうかがいました。

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「この映画はアラスカで出会ったんです。アラスカに行く前に東北を撮ろうと思っていて、“来年撮ろう!”と思っていた矢先の、2011年に東日本大震災が発生して、自分が撮ろうと思っていたフィールドが全て奪われたような感覚があったんですが、その土地の現状を何かしらで伝えることをしないといけないと思って、2013年に博物館のある人から“福島でミズアオイという植物が繁茂しているから、それを撮りに来てくれないか?”というお誘いを受けたんですね。
 実はこのミズアオイは、福島で絶滅危惧種に近い状態に認定されていた植物で、60年ぐらい見ることができなかった植物なんですが、津波で沿岸沿いの田んぼが全て失なわれたことで、元々あった環境がそこに戻ったんですね。恐らく田んぼの土の中で眠っていた種が津波によって土が全てひっくり返されたこともあってか、種が発芽して芽吹いて繁茂するようになりました。そこから徐々に増えていって花を咲かせるようになったんです。“その光景が印象的ですし、とても大事な風景だと思うので、これを記録として残してほしい”ということで、撮影に入りました。
 それがキッカケで福島での撮影をしばらくすることになったんです。“福島の中で人が手を離した場所に還ってきている自然を撮影する”というテーマで撮影をしていました。2013年〜2014年にかけて撮影をしようとしていたんですが、“自分の原点であるアラスカの原野に一度戻って、本当の自然の豊かさをもう一度感じてからでないと続けられない”と思って、夏の間アラスカを旅しました。その時に“リン・スクーラー”という自然ガイド、写真家、作家の男を訪ねたんですが、彼は星野道夫さんのクジラのガイドをずっとやっていた人で、星野さんのザトウクジラの映像や南東アラスカのクマの映像はほとんど彼と一緒に撮っているんです。その彼のところで一緒に過ごしながら福島の話をしたり、アラスカの自然の話をしていたら、自然の再生力の話になったんです。彼は“今アラスカには原生林があるように見えるかもしれないが、数千年前はここは氷河だったし、その後一度海になって、隆起して森になって、そこに人が入ってきて、木を切って自分たちの町を作り、動物が棲めなくなってしまったものの、その人たちがいなくなったことで、そこが再び森になったんだけど、戦争が始まったことで再び木が切られてしまったが、戦争が終わったことで木が戻ってきて、今の森があるんだ。そういう「自然の力」で人が来ようが何をされようがいつも戻ってくる。そういう風景がこのアラスカにはある”と教えてくれたんですね。

 そして“少し前に面白い男が来たんだ。アラスカに2週間ぐらいいて、彼が撮った映像があるんだが見るか?”といわれて、見せてもらったんですが、それはアラスカの自然の循環がどのように行なわれているのかを表現している映像だったんです。サケが川を遡上し、それを獲りにクマが来たり、サケが産卵を終えたところにワシやカラスが食べにきたりして、サケの死骸が分解されて森の栄養源に戻っていき、巨木の森を育てているというところを映像化しているものだったんです。その風景が素晴らしく、その映像作家の自然をとらえる感覚に僕は圧倒されて驚きました。“この人、すごいね!”って言ったら、“こいつはオランダから来ているんだ”と教えてくれたんですよ。“オランダには自然がなくて、自然を撮りたくてアラスカに来て、この映像が撮れてすごく喜んで帰ったんだけど、そいつが作った映画があって、その予告編があるんだけど、見るか?”っていってきたんですね。それで見た映画が、この映画の予告編でした」

●そういうことだったんですね! 全部繋がっているんですね!

「この予告編の映像で見た風景が、僕がずっと見続けてきた福島の人が手を離した後に水草が戻ってきて、白鳥が戻ってきた風景と全く同じだったんです。やっぱり、人間が“自分たちのためにこういう風にしたい”と思うんじゃなく、自分たちの暮らしを自然の理(ことわり)のプログラムの中にいかに合わせていくかという姿勢の方が自然に対して優しいし、未来の子供たちに対していい世界を残せるんじゃないかと思っています。“森と海が繋がっている”というのはその通りで、サケが川を遡上する理由を考えたとき、サケには“森の一番奥まで行く必要がある”と、彼らの本能にプログラムされているわけですよね。僕たちは“卵を産むだけなら、河口でもいいんじゃないか?”と思うかもしれませんが、彼らは自分たちの暮らしのためではなく、“森を育てる”ためにそういう風にプログラムされているんですよね。
 巨木の森が育つ栄養源の中に“N15”という窒素の安定同位体があるんですが、それがたくさん発見されるという論文があって、海でしか構成されないようなものが森にあることによって、森が豊かになっていくんですね。だとしたら、アユやウナギもそういうプログラムを背負って日本の川を遡上しているんですよね。魚がそうやって川を行き来するのにはちゃんとした理由があるのだから、豊かな森や海を残そうとするなら、その部分を遮ってはいけないし、僕らが次の世代に渡すためにも、そこを通してあげないといけないと思うんですね。自分たちの暮らしを守るためには、自分たちの中にプログラムされていることをもう一度認識しなおすことが大事だと思います」

●野生の生き物たちは自然や森を守るためのプログラムがされているんだから、人間にもそうプログラムされているはずですよね! それをこの映画を観ることで、もう一度思い出すときが来ているのかもしれないですね。

「そうかもしれないですね」

●今回の映画ですが、私たちが協力することができるんですよね!

「僕たちは資金がない中で応援して、“日本で上映してほしい”ということで、制作会社にも多大な協力をいただいて、実現に向かっていますが、どうしても映画の上映となると、資金面で難しいところがあるので、現在クラウドファンディングで資金を募っています。ドキュメンタリー映画『あたらしい野生の地〜リワイルディング』は、これからの未来に残していく自然を考えるためにすごく大事なメッセージを含んでいる内容だと思いますので、是非協力していただけたらと思います」

YUKI'S MONOLOGUE 〜ゆきちゃんのひと言〜

 “失われた自然は二度と元に戻らない”。少し前までは私もそう思っていました。でもこの番組を通して色々な方にお話をうかがい、信濃町にあるC.W.ニコルさんの森にもお邪魔して、“やり方さえ間違えなければ自然は十分に再生する”と確信しました。そして、今回映画を観て、改めてそのことを感じました。自然のポテンシャルは想像していたよりも、もっともっと力強くたくましい。この映画を観て45年後の未来を想像すると、なんだか明るい未来が見えてくる気がします。

INFORMATION

ドキュメンタリー映画『あたらしい野生の地〜リワイルディング』

ドキュメンタリー映画『あたらしい野生の地〜リワイルディング』応援プロジェクト

 今回ご紹介したこの映画の日本全国で上映するための応援プロジェクトでは、現在グラウドファンディングで支援してくださる方を募集中。締め切りは今月末です。最小金額は500円から。金額によって様々なリターンが用意されています。

 なお、10月29日から渋谷アップリンクで上映予定となっています。

赤阪さんのオフィシャル・サイト

 赤阪さんは来週9月20日(火)と21日(水)に、亡くなって20年の節目を迎えた写真家・星野道夫さんに関する、都内で行なわれるトークイベントに出演されることになっています。その他の情報は、赤阪さんのオフィシャル・サイトをご覧ください。

今週のオンエア・ソング

オープニング・テーマ曲
「GRACIAS / LARRY CARLTON」

M1. TEN FEEL TALL / AFROJACK feat. WRABEL

M2. CLOCKS / COLDPLAY

M3. WILD WORLD / MR.BIG

M4. MINORITY / GREEN DAY

M5. I STILL HAVEN'T FOUND WHAT I'M LOOKING FOR / U2

M6. EVERYTHING'S GONNA BE ALRIGHT / SWEETBOX

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」